第六話 初めての古代遺跡探索
前回のあらすじ:
アラバーナの末端兵の腐敗にちょっとげんなりしつつ、三つ子の冒険者を助けた。
俺が助けた三つ子の冒険者は、感謝しながら順番に名乗った。
「僕の名前はテッド。職業は〈遺跡漁り〉です」
「俺の名前はラッド。職業は〈遺跡漁り〉だぜ」
「あっしの名前はマッド。職業は〈遺跡漁り〉でさあ」
ちなみに〈遺跡漁り〉というのはアラバーナ独特の職業で、能力的には〈盗賊〉に似ている。古代遺跡の探索や発掘技術に秀で、また〈盗賊〉と違って法に触れることはしない(無論、中にはアウトローもいるだろうが、それはどの職業でも同じだ)。
「今まではずっと〈四級許可証〉で、コツコツ探索していたんです」
「でも、そろそろ一攫千金を狙う時だろって、思いきって〈二級〉を買ったんだ」
「故郷に女を残してきてんでさあ。あっちも三つ子で、あっしたちのことを憎からず思ってくれてるんでさあ」
「大金を手に入れて戻って、プロポーズしたい。それが僕たちの夢なんです」
三つ子は照れ臭そうにしつつも、赤裸々に事情を語った。
俺とクリムも名乗り返しつつ、
「俺たちは恐らくこの遺跡の中にいる、ラムゼイ殿という男を追ってきた」
「ラムゼイさんと仰ると、もしやあの伝説の冒険者の?」
「人捜しなら、俺たち得意中の得意だぜ!」
「世話になったお礼です、おつき合いしまさあ」
「いや、申し出はありがたいがな……」
「足手纏いになるンじゃないよ、ガキども」
俺が言葉を濁したことを、クリムがストレートに言い放った。
「もちろん、自分たちのことは、自分で面倒をみられますとも」
「こう見えて俺たち、ベテランの冒険者なんだぜ!」
「決して迷惑はかけませんぜ」
と、テッドたちは自信満々だったが、どう見てもレベル10に達しているとは思えない。
俺は思わず、クリムと視線を交わす。
気をつけてやらねばな、と互いの目に書いてあった。
ともあれ、俺たちは五人と一体の即席パーティーとなった。
テッドたちはお調子者っぽいが、決して悪い者たちではなさそうだった。むしろ人が良さそうというか、このまま本当に別れてしまったら、次に会う時、彼らは死体になってそうだった。
それではあまりに後味が悪い。
クリムも嘆息しつつも反対はせず、皆で遺跡の探索を開始した。
中には本当に街並みが広がっていた。
空がなくて魔法の光沢を湛える天井があるのと、家々の建築様式が初めて目にするものなのを別にすれば、土の地面もあるし街路樹や庭木もある。
俺も魔法使いだから、ハリコンの学院にまだいたころ、高度な魔法文明の名残が見られるというアラバーナの古代遺跡群には、並々ならぬ関心を抱いていた。一度は訪れてみたいと憧れていた。でも、あまりに長旅になることを思えば、そうそう踏み出せなかった。
その長年募った想いが今、ついに実りを得たのだと思うと、やはり感慨深い。
惜しむらくは、今の俺には魔王を斃すという目的があり、ゆっくり端から端まで調査する暇はないということだ。
さあ、ラムゼイを捜しに行こう。
古代遺跡の内部は、約十層からなる階層分けをされており、それぞれに街並みが広がる。
八面体の形をしている以上は、一番真ん中の階層が一番広いフロアということになるな。
また各階層は、天井まで届く塔の中に作られた、螺旋階段を使って行き来する。
塔の数はフロアごとに四本から八本。
また二階層以上を直通する塔がないのは、都市反乱が起きた時の、防衛の観点からそうなっていると、ものの本で読んだことがある。
実際、古代アラバーナ人の価値観では、より下層フロアに住むのが、富裕階級のステータスだったらしい。現代人とはまるで逆だな。
なんでも、下のフロアほど地下深くに位置するわけで、それだけ星の中心部に近くに住んでいるというのが、優越感をくすぐられたのだと、文献で読んだことがある。うん、理解しがたい。
ゆえにピラミッド内は、下層に下りれば下りるほど、より優れた〈マジックアイテム〉を入手できる可能性が高まるし、それらを護る魔法生物やトラップの脅威度も激化する。五百年経って住人が死に絶えた後でも、意思なき彼らは主人に与えられたままの命を、忠実に守り続けているわけだ。
「ラムゼイ殿が、あまり下に行っていなければよいのだがな」
俺はそう言って地図を広げた。無論、〈攻略本〉から俺が転写しておいたものだ。
「マグナスさん、それどこの宿でもらった地図ですか?」
「俺たちの持ってる〈栄光は君のすぐ目の前だ〉亭の地図は、一番正確だって評判なんだぜ」
「不確かな地図を平気で売りにする、不届きな宿も多いんで、注意しなきゃならないんでさあ」
三つ子たちはそう言って、地図を突き合わせてみましょうとばかりに、横へ並べる。
「あ、ほら。マグナスさんの持っているやつ、滅茶苦茶いい加減ですよ」
「こんな浅い階層に隠し部屋があるって書いてあるじゃねえか!」
「とっくに発見されて、隠し部屋とはもう扱われてなさそうなもんですが。あっしたちの地図には全く記載されてやせん。デタラメにもほどがありまさあ」
「なるほど、おまえたちはそう思うか」
俺は怪訝そうにする三つ子たちを連れて、試しに俺の地図だけに記された、隠し部屋を探しに行ってみた。
「ホントにありました……」
「す、すげえ! 手つかずの〈マジックアイテム〉がこんなに! まだ!」
「これぞ一攫千金でさあ!」
三つ子たちは最初絶句し、じわじわと歓喜の波が押し寄せたように震え、最後は感情を爆発させて跳びはね、互いに抱き合っていた。
「後で公平に人数割りするか」
「いいんですか!? マグナスさんの地図のおかげなのに!?」
「しかも俺たち三人だから実質取り分多くなっちまうぜ!?」
「マグナスさんとクリムさんで五、あるいは六や七持っていってくれても、あっしら感謝しかありませんぜ?」
テッドらは申し訳なさそうにするが、彼らと違って俺は金が欲しいわけじゃない。魔王討伐に役立ちそうなレアアイテム以外は、ほとんど興味がないのだ。
「ありがとうございます! では、お言葉に甘えさせてもらいます」
「つーか旦那の地図なら、他にも隠し部屋が載ってるんじゃねえのか!?」
「ふむ。四階層にもあるように書いてあるな」
「そいつぁ行くしかありやせんぜ、マグナスの旦那!」
「しかし、大掛かりな罠もあるようだが……」
「大丈夫ですよ、僕たち〈遺跡漁り〉ですから!」
「さあ、行こうぜ行こうぜ!」
「一攫千金が待ってまさあ!」
俺は大丈夫か? と思ったが、テッドらのはしゃぎようを見ていると、水を差すのも可哀想になる。
クリムの方をチラリと見ると、「若いのには好きにさせてやンな」とばかりの苦笑顔。
まあ、地図によれば隠し部屋には、〈ハイマナポーション〉もあるようだし、これは俺も欲しい。
そういうわけで俺たちは早速四階層まで下りて、件の隠し部屋を探しにいった。
なお六階層までは、過去に冒険者によって漁り尽くされたフロアなので、道中の危険はほとんどない。
目的の家は、この四階層辺りでは一般的なサイズの家屋だった。それでも中は冒険者たちに漁り尽くされ、目ぼしいものなど何も残っていない。
だが、過去に訪れた誰もが、その隠し部屋は見つけられなかったらしい。地下室の奥、書棚の背後、実は壁に見せかけた幻影で偽装された、通路の入り口を。
テッドたちが書棚をどかし、俺たちは隠し通路の奥へと進んだ。
そして、〈攻略本〉情報通りに、罠が作動した。
一番奥の広い部屋についた途端、天井に穴が開いて、ガーゴイルと呼ばれる魔法生物が大量に出現し、襲いかかってきたのだ。
「で、出たな!」
「つつつつつーか、何体いやがるんだよ!? 十や二十って話じゃねえぞ!?」
「さすがに数が多すぎでさあ!」
罠の存在は知っていたにもかかわらず、いざ実物を目の当たりにすると、すっかりパニック状態になる三つ子。
俺の隣ではクリムが、やれやれとばかりにかぶりを振っていた。
それから俺に、「行くよ、ぼうや」とアイコンタクトしてくる。
俺はグラディウスを前面に出して、自らも〈大魔道の杖〉を構えた。
「シ・ティルト・オン・ヌー・エル!」
俺は〈ストーンⅣ〉の呪文を唱え、出現した巨大な石礫の一斉射で、ガーゴイルどもを蹂躙する。
ガーゴイルは後から後から天井から現れるが、一旦、通路まで退避した俺たちのところまでは襲ってこられない。出入り口に立ち塞がる、グラディウスが尽く阻む。
さらにクリムが当意即妙、〈僧侶〉のバフ魔法でグラディウスを強化支援する。
そのハイレベルな戦いぶりに、三つ子たちは抱き合った姿のまま、呆気にとられていた。
それでいい。おまえたちが無理をする必要はない。
ここは――俺たち二人と一体に、任せてもらおうか!
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