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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第二章  朕に〈命令させよ〉とのたまう愚帝編

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第五話  タブラの遺跡とベースキャンプ街

前回のあらすじ:


女僧侶クリム(60歳超)が仲間になった。

 クリムが言うには、ラムゼイが向かったのは、「タブラの遺跡」である可能性が高いらしい。

 遺跡としては大規模な方で、まだまだ未発掘領域も広いという話の、古代遺跡だ。

 入るためには〈二級許可証〉以上が要るが、俺は〈一級〉を持っているので問題ない。


「タブラの遺跡」に行くため、俺たちはまず最寄りの町を目指した。

 この町の名もタブラという。

 大規模な古代遺跡が砂の下から発見されると、すぐに冒険者たちのベースキャンプができあがり、やがて町へと発展する。

 町の名前もなりゆきで、その古代遺跡と同じ名で呼ばれるという成り立ちだ。


 タブラの町までは街道が敷かれておらず、オアシス村落から村落へと旅をした。

 移動そのものは楽なものだ。なにせ俺には「ナルサイ号」がある。


「こりゃ楽チンだねえ! それに風がバンバン当たって心地良いよ!」


 と、クリムも年甲斐なく大はしゃぎ。


「とはいえ屋根もないし、日射病には気をつけないとな」


 先を急ぎたい気持ちはやまやまだが、何度も岩陰等で休憩をとった。

 またオアシスに立ち寄った時にも休憩がてら、ラムゼイの足跡を訊ねてみた。


〈攻略本〉には、精密に描写されたラムゼイの似顔絵が載っている。

 それを使えば、「こんな老人が旅の途中で立ち寄らなかったか?」と聞き込みできる。

 ただし、〈攻略本〉自体を見せびらかすのは、防犯上で問題があるため、俺が紙へさらに描き写したものを使った。


 俺は絵心がある方ではないが、観察力なら自信がある。特徴を捉え、シンプルに描けば、どうにか似顔絵には寄せられた。

 クリムも「まあ上手いもンだねえ」と素直に感心していた。

 その後で、「ハテ……面識ないはずのあんたが、なんでラムゼイの似顔絵を描けるンだい?」と追及されてしまったので、「これが魔法だ!」と俺は誤魔化しておいた。

 

 そして、この似顔絵聞きとり作戦が功を奏し、行く先々でラムゼイらしき目撃情報を耳にすることができた。


「やっぱあいつア、『タブラの遺跡』に向かってるようだねえ」

「全力で追いかけよう」


    ◇◆◇◆◇


 しかし結局、俺たちはラムゼイに追いつくことなく、タブラの町に到着してしまった。

 休み休みの砂漠旅では、ナルサイ号の速度を活かしきれないのもあるが、ラムゼイが恐ろしく旅慣れているのも原因だろう。

 老人とは思えぬ健脚も含め、やはり一目置くべき人物だと、俺は感じ入らされる。


 タブラの町は、さすが冒険者たちをサポートする、施設やサービスが充実していた。

 酒場を兼ねた宿などどこも、冒険者歓迎の立札と、他とは違う特典を売りにしていた。

 例えば「当店に宿泊したお客様には、『タブラの遺跡』六階層までの完全マップをお付けします!」だとか、「五階層の隠し部屋の在処教えます!」だとかだ。

 もはや周知の隠し部屋の在処を聞いたところで、旨味はゼロだと思うがな……。

 

 そんな中、俺たちが向かったのは、「掌から零れ落ちる金貨」亭。

 クリム曰く、ラムゼイの常泊の宿らしい。

 誰かに紹介されるか、〈攻略本〉がなかったらまず見つからないだろう、裏も裏の通りにある、寂れた店だった。

 俺とクリムが入っても、店主のオヤジは挨拶はおろか見向きもしない。


 ただ、床は丁寧に磨き上げられているし、ゴミの類も放置されていない。

 愛想はないが、泊まり心地は悪くないということか。

 つまりは何を重視するか、プロ意識の方向性の問題であり――バゼルフもそうだったが――俺はこういう偏屈な人間がきらいではない。

 一方で、ちょっと驚かせてやろうというイタズラ心も湧く。


「主人。部屋は空いているか?」

「……何人だ?」

「二人と――一体だ」

「……一体だぁ?」


 店主のオヤジが初めて、俺たちのいる入り口の方へ目を向けた。

 その両目が、愕然となって見開かれた。


 ズシン……ズシン……ズシン……ズシン……。


 俺の後をやってきたミスリルゴーレム、グラディウスMk-Ⅱの偉容を目の当たりにして、目玉が飛び出るほど驚いていたのだ。


「二人と一体だ。部屋は空いているか?」


 俺は澄まし顔でもう一度訊ね、


「ゴーレム用の……部屋なんざ……ねえよ……。床が抜けちまう……」


 オヤジはぶったまげながらも、店主の仕事を全うした。

 うん、さすが見上げたプロ根性だな!



 その後、俺たちは個人部屋二つとラクダ小屋のスペースを一つ、取ることにした。ラクダ小屋はもちろん、グラディウスのためだ。

 金は差し当たって三日分、前払い。イタズラの詫びも込めて色をつけようと思ったが、オヤジは不機嫌そうに受け取らなかった。プロだ。


「俺たちはラムゼイを追ってきたんだ。ここに泊まっているはずだな?」

「知らんな、そんな男は」

「今、部屋にはいないということか?」

「ああ、いやしねえよ。そんな奴」

「つまりは今、遺跡に行っているということか」

「どう思うかはあんたの勝手だ、ゴーレム使いの旦那」


 オヤジはずっと仏頂面だった。

 安易に客の情報は渡さないが、推測する分には勝手という、気の利いたやりとりだ。

 俺はクリムを振り返る。


「一晩待ってみて、帰ってこなかったら、俺たちも遺跡に行こう」

「ああ、それがいいね」


 クリムも同意し、とりあえず一泊すること。

 晩飯はすこぶる美味かった。店主のオヤジ、面は悪いが料理の腕は悪くない。

 ペーストにしたヒヨコ豆をパンに塗ると、無限に食えた。


    ◇◆◇◆◇


 結局、ラムゼイは帰ってこなかった。

 俺たちは早朝から、「タブラの遺跡」へ向かうことにした。

 行きがけ、店主のオヤジが「宿泊料(だいきん)のうちだ」と、ぶっきらぼうに弁当(バスケット)を渡してくれた。


「タブラの遺跡」は、街から砂漠を一キロほど進んだところにある。

 高い建造物が見えるので、砂嵐でも吹かない限りは、迷うことはない。

 本日快晴。ナルサイ号を使えば、あっという間の距離だった。

 俺、クリム、グラディウスを乗せて、砂の海を快調に走っていく。


 今日(こんにち)、この国で「古代遺跡」と呼ばれるものの大半は、五百年前の旧魔法帝国時代に、ごく一般的な町だったものだ。

 とはいえ、さすが現代よりも進んだ魔法文明を有していただけあって、「一般的」の感覚・基準がぶっ飛んでいる。

 当時の町は全て、「ピラミッド」と彼らが呼んだ、金属製の巨大建造物の中に納まっていたのである。

 ピラミッドは底辺の長さ1キロメートル、高さ三百メートルほどの、正四角錐の外見をした建物である。しかし、正しくは八面体の形をしており、下半分部分が当時でも地中に埋まっていたため、外からは正四角錐に映ったという構造だった。

 俺たちはまさにその、正四角錐型の建造物を目指しているわけだ。


「当時の連中が何を考えて、あんな巨大な鉄の箱の中に住んでたのか、アタシゃ理解に苦しむねえ」

「外敵からの守りは完璧だったと思われるが?」

「ハン、散文的な男だこと! これだから魔法使いって奴は!」

「しかし数々の〈マジックアイテム〉のおかげで、内部は照明にも困らなかったし、常に新鮮な空気が満ちていたと言われている。住環境もよさそうだが」

「だからってアタシゃ、空もなければ太陽も月も見えない、ヘンテコリンな鉄の箱の中にずーっと住むなんざゴメンさね。息が詰まっちまうよ」

「とはいえ、あんたが言うヘンテコリンな箱のおかげで、古代遺跡として丸々現存されていたのも確かだよ」


 これが、俺たちが常識的に思い浮かべる町の形だったら、砂の下深くに埋もれた魔法帝国時代の町々は、二度とその姿を地上に現すことはなかっただろう。

 しかし巨大建造物だったおかげで、その頂上部分がひょっこりと、砂の上に顔を覗かせているという具合なのだ。


 冒険者たちは、広い広い砂漠を彷徨って、砂の上に頭を出した未発見遺跡を探し当てようと躍起になる。

 そして、最初の発見者として国に認定され、遺跡に自分の名前が付くのを夢見る。

 以前は天辺まで埋もれたままだった未発見遺跡が、嵐で堆積していた砂が吹き払われ、頂上部分が新たに顔を覗かせる――なんてことも、しばしばあるらしい。

 あるいは莫大な金を使って土木工事をし、当たりをつけた場所を掘り返して、未発見遺跡そのものを発掘しようという豪商や貴族もいるらしい。現帝国の国策でも行われている。


「古代遺跡にまつわる悲喜交々は、枚挙にいとまがないという話だな」

「そいつア今度、酒でも飲みながら聞かせてもらおうか。着いたよ」


 俺たちは大過なく「タブラの遺跡」入り口に到着した。

 頂上部分に、昔は見張り窓として使われていたと思しき場所があって、今では玄関代わりに遺跡内部へと侵入できるのだ。

 入り口付近は、五十人くらいのアラバーナ兵たちで警護されていた。

 そして、何やらトラブっている現場に出くわした。


「ほら、見てください! ちゃんと〈二級許可証〉でしょう?」

「こっちはこれを入手するのに、どれだけ大金はたいたと思ってんだ!?」

「その目をかっぽじって、しっかり調べてくだせえや」


 三人の若い冒険者が、衛兵たちに向かって懸命に訴えていた。

 なんと三つ子らしき、顔が一緒の青年たちだ。

 対して、衛兵たちは通せんぼしたまま、一様に下卑た笑みを浮かべて答えた。


「ひっひっひ、残念だったな。タブラの遺跡を調査するには、〈一級許可証〉が必要になったんだよ。そう、()()()()なあ」

「へっへっへ。どうしても通りてえって言うなら、それ相応の誠意を見せなあ? 高くて美味ェ酒でもありゃあ、俺たちも酔っ払って、警備が疎かになるかもしれないだるぉん?」

「ヒャハハ、五十人全員分よろしくなあ!」

「ゲハハ、その金がなきゃあ〈一級許可証〉を持ってくるんだなあ!」

「イヒヒ、持ってこれるもんならなあ!」


 と、三人の冒険者を取り囲んで、散々に嘲笑を浴びせる。

 俺はそんな光景を目の当たりにし、嘆息を禁じ得なかった。


「来るのは久々だが、この国もいよいよ落ちてきたもんだねえ」


 と、クリムもまた不愉快そうに鼻を鳴らしている。


 皇帝(うえ)皇帝(うえ)なら、兵士(した)兵士(した)だな。

 無論、こんな光景はごく一部のことで、どこでもこんな有様が罷り通っているとは、俺も思っていない。ただ、かつての栄光の帝国が、こんな末端の部分からもジワジワ衰退しゆくのだろうと思うと、卵が先か鶏が先かと、皮肉に感じてしまうだけで。


 一方、三つ子も困惑しきっていた。


「こ、これ以上、金なんて……もう……」

「〈一級許可証〉なんて、冒険者の手に負える代物じゃないだろ……」

「兄貴、こいつらわかってて無理難題吹っかけてんでさあ……」


 三人ともいい歳をして、もう泣き出しそうだった。

 その様子を、衛兵たちがますます愉快げに見ていた。


「土下座して俺たちの靴を舐めれば、通してやる気に変わるかもしれないぜえ?」


 などと、確実に心にもないことを言って、囃し立てた。


 俺はクリムに目配せして待たせると、そんな衛兵(クズ)どもの巷に割って入った。


「そこをどけ。通してもらうぞ」


 いきなり三つ子の隣に立ち、衛兵どもの視線を一身に集める。


「なんだあテメエ、いきなり!?」

「遺跡を探索しにきた。通ってもいいか?」

「いいわけねえだろうが!」

「順番を待てよ、順番を!」

「〈許可証〉は持ってんのか!?」

「〈二級〉じゃねえ! 〈一級〉だぞ!」

「出せるもんなら出してみろやあ、若僧!」

()()()()


 俺は懐から〈一級許可証〉を取り出し、見せた。


「げ、げえっ……」

「しかも皇太子殿下と姫殿下の、直筆署名入り……っ」

「ほ、本物だ……っ」

「見るのは何年ぶりだあ……?」


 衛兵たちはたちまち目を剥き、狼狽しきった。

 かと思えば、卑屈な顔つきと揉み手になって、


「どうぞどうぞ。お通りください、冒険者サマ」

「皇太子殿下とはお知り合いなので?」

「どうか、先ほどの無礼はお許しください……」

「ほんの軽~い、じゃれ合いみたいなもので……」

「あるぇ~? 昨日の酒が抜けてないのかな~? 俺まだ酔っ払ってんのかなあ~?」


 などと口々に、俺に向かって許しを乞う。


「勘違いするな。許すも許さないも、俺にそんな権限はない」

「「「そ、それじゃあっ……」」」

「貴様らが許しを乞うべきは、軍上層部や両殿下であろう?」

「「「えっ」」」

「改心を認められるとよいな。しかし姫殿下は、だいぶん苛烈なご気性に見えたがな」

「「「デスヨネー」」」


 衛兵たちは一斉にショボくれた。

 皆が己の蛮行を悔い、また自分の明るくない先行きを想像して、うなだれていた。

 まあ、いい薬になっただろう。


 ちなみに俺は本当に、こんなしょうもないことを誰かに密告するつもりはない。

 あの愚帝はともかくとして、ヘイダルやファラが本当にまともな為政者なら、この手の組織の弛み、歪みは、遅かれ早かれ綱紀粛正されるだろう。

 されなかったとしても、それは自業自得というもので、俺の知ったことではない。

 まあ、もし賭けるなら、是正される方に賭けるがね。

 宮殿の牢屋で見た、ファラ姫の義憤に燃える瞳は、印象的だったからな。


 ともあれ俺たちは改めて、タブラの遺跡の入り口を目指した。

 ふと、俺は三つ子の冒険者を振り返って言う。


「何をしている? 早く来い」


 三つ子はびっくり顔で、しばし互いのその顔を見つめ合っていたが、すぐに喜び勇んで駆け寄ってきた。

 それはもう、尻尾を振りたくる子犬もかくやの風情だった。

次回、いよいよ古代遺跡探索!


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

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