第三話 〈大魔道の杖〉
前回のあらすじ:
〈攻略本〉知識を早速活用し、勇者たちが3人がかりで倒したデストレントを、マグナスはソロで圧勝。
結局、俺は八体のデストレントを倒すことになった。
ステータス上昇の果実が目的だったのだが、副産物として大量の〈経験値〉が入り、俺の〈レベル〉はなんと28に達していた。
おかげで〈ウィンドⅢ〉や〈ストーンⅢ〉、〈マナボルトⅢ〉、〈ポイズンⅡ〉、〈パラライズⅡ〉などの強力な魔法をいくつも習得できた。
ただ……こうなると欲が出るというか、〈レベル〉に見合った装備が欲しい。
俺が所有している〈古樫の杖〉も、なかなかの高級品だし、値段に見合う性能を持っている。
とはいえ、どこでだって買える店売り品だ。〈攻略本〉での分類もランクD装備。
もう少しなんか、こう……。
俺も文献でしかお目にかかったことのない、ランクS装備の〈大魔道の杖〉やランクA装備の〈賢者の杖〉とまで、贅沢は言わない。
せめて、ランクC装備の〈魔法の杖〉くらいは入手できないものか?
だがあれとて、滅多に売りに出されないレア装備だしな……。
仮に運よく出品されたとしても、オークションで金貨千枚は下るまい。
金貨百枚もあれば一年間、かなり裕福に遊んで暮らせると言えば、どれだけ高価な品かわかるだろう?
当然、今の俺にはとうてい手が出ない金額だ。
王都ラクスティアの宿で、俺は悶々としながら〈攻略本〉をパラ見した。
そして、とんでもない情報に目が留まった。
いや、釘付けとなった。
◇◆◇◆◇
「だ、大丈夫ですか、マグナス様……?」
「ああ、いい眺めだ。これなら調べ物も捗りそうだ」
俺は今、とある民家の屋根の上にいた。
この辺りは比較的富裕層の住む区画だが、ベランダから屋根上に登るためのハシゴまで設置されているのは、付近ではこの家だけだった。
区画内に何百戸とある民家の中から、俺がこの家に目を付けることができたのは、やはり〈攻略本〉のおかげだった。
ラクスティア全域の詳細地図や、様々な施設に名スポットの他、珍しい家屋についても注釈が添えられていたのだ。
「だ、大丈夫ならいいんですが……。勇者様のお仲間にもし万が一があったらと思うと、気が気じゃなくて……」
「そう気に病むな。それより、それを貸してくれ」
「は、はいっ」
家主がベランダから、長くて丈夫な板を伸ばして、手渡してくれる。
「ありがとう。もういいぞ」
「わ、わかりました。ともかく、落っこちたりしないでくださいね?」
家主はまだ不安そうにしていたが、従順に家の中に引っ込んだ。
〈勇者〉ユージンとその一行のことを知らない者は、今やこの王都にはいない。
また、俺がパーティーから戦力外通告されたことも、まだ知れ渡っていない。
だから、俺が〈魔法使い〉マグナスだと名乗ると、家主は最初から協力的だった。疑うことなく家に上げてくれたし、屋根上に登ることを許可してくれた。
それに俺だって、人の好い家主をだましたわけじゃ決してない。
「魔王を倒すため、とある調査をしたいんだが、協力してくれるか?」
と正直に話したら、
「わ、私にできることならなんでも喜んで!」
と家主が請け負ってくれただけだ。
もう俺が勇者サマご一行じゃないことを黙っていただけで、嘘はついていない。
さて、俺は家主から受けとった長い板を使い、隣の家の屋根上に伝う橋代わりにした。
隣の家の屋根上に移動すると、また隣の屋根上に板を渡した。
それを次々と繰り返し、屋根から屋根へと移動していく。
目指すはこの区画でも、最も豪勢なお屋敷だ。
ただし、まるで幽霊屋敷の如く古黴び、苔むしている。
ツタなんて生え放題だ。
俺は首尾よくお屋敷の屋根上にたどり着くと、煙突の前に立つ。
中は大きな空洞になっていた。大の大人が余裕で通ることができるくらい。
ただ、とっかかりになるものは何もなく、不用意に侵入すれば一階まで墜落必至、待ってるのは情けない死に様のみだ。
そこで俺は、レベル3で習得可能な〈レビテーション〉の呪文を唱える。自由落下の速度をコントロールできる魔法だ。
レベル16で習得できる〈レビテーションⅡ〉と違い、上昇はできないのだが、今はこちらで充分。無駄な〈マナポイント〉を浪費するのは趣味じゃない。
ちなみに〈攻略本〉によれば、レベル29になれば〈フライト〉を習得できるようになるらしい。生身で大空を翔けることができるようになるのかと思うと、さすがの俺も童心に返ってワクワクする。
〈レビテーション〉のおかげで俺はゆっくりと、危なげなく煙突の底に到着した。
もう長年使われた形跡のない、大きな暖炉となっていた。
その暖炉の中から、俺は体に着いた灰を払いつつ、抜け出る。
誰に見つかることもなく、玄関扉を破壊するなりなんなり目立つ狼藉を働くこともなく、お屋敷の中に侵入成功だ。
入ってさえしまえば、家人は誰もいないことは〈攻略本〉で確認済み。
俺は堂々と屋敷内を探索した。
この屋敷は、先々代の“王の杖”の住居らしい。
俺は階段を使って三階に上がると、彼の書斎にお邪魔する。
中には立派な執務机と、その周囲に散乱する人骨があった。
先々代の“王の杖”の成れの果てである。
看取ってくれる家族や友人さえおらず、孤独死したまま、ここで十年以上放置されていたらしい。
その死を誰かに知られることさえなく、十年以上だ。
腐乱した肉すらもう残ってはおらず、骨は乾ききっている。
俺は持ってきた包みを広げると、哀れな老人の骨を一つ一つ、丁重にひろい集めた。
簡単ながら、後で埋葬してやるつもりだった。
俺は決して熱心な神の信徒ではないが、社会常識くらいはある。死者を悼み、冥福を祈るくらいのことはする。
老人の骨を全て包みにまとめると――いよいよ、この屋敷に来た本題にとりかかった。
執務机に立てかけられていた、一本の杖を両手にとって検める。
それはまさに荘厳なる杖であった。
ただし華麗というよりも、瀟洒。
柄の部分は木製ではなくて、金属製となっている。それも銀の数十倍は価値があるミスリル製。おかげでとても軽量だ。
またその柄に目を凝らせば、精緻なレリーフ意匠が品よく、さりげなく彫られていた。〈魔法の神霊〉ルナシティの眷属たちと言われる、様々な月の天使たちが活き活きと踊っている。目に鮮やかなだけでなく、持った時の感触も面白い。
先端部分には三日月をモチーフにした金属飾り。
さらにはまるで槍の穂先の如く、巨大な虹晶石があしらわれている。
ただでさえ貴重な虹晶石が、これだけのサイズともなると、オークション価格は金貨一万枚を下るまい。
いや――そもそもこの杖をオークションに出せば、金貨十万枚でも買い手がつくだろう。
信じられるか? 貴族のような贅沢暮らしを、五百年できる計算だ。実感がなさすぎて、もはや笑えてくる。
まさに国宝級のアイテムということだ。
これこそが〈大魔道の杖〉。
俺も文献でしかその存在を知らない、ランクS装備。
能力のほども凄まじい。
魔法の媒体として用いることで、攻撃魔法の威力を73%増加。
強化魔法の効果も186%高めてくれる。
逆に状態異常魔法や弱体魔法への、相手のレジスト確率を51%も低下させる。
魔法を使った時の消費MPだって25%減だ。
本来は単体にしか対象にできない魔法でも、対象範囲を広げることができる、反則的な特殊効果も秘めている。
素晴らしい!
もう誰に使われることもなく、老人の死とともに過去に葬られた〈大魔道の杖〉を、俺はありがたく拝借した。
「魔王モルルファイを倒し、世界を救った暁には、必ず返しに来て、一緒に埋葬しよう」
王都郊外に作った簡素な老人の墓前で、俺はそう誓ったのだった。
読んでくださってありがとうございます!
これから毎晩更新がんばります!!