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第二話  完全〈攻略本〉

前回のあらすじ:

魔法使いマグナスは、愚かな勇者にパーティーを追放された。

しかし〈攻略本〉を入手、解読して、逆転人生が始まった。

〈攻略本〉を商人から買い取ったあの晩、俺は宿の個室で早速、熟読した。


『全ての魔物は、世界中に満ちている魔王モルルファイの魔力から生まれ落ちる。魔王が生きている限り、一度倒されたボスモンスターでさえ、一定条件がそろえば再び生まれ落ちる』


 書かれていたその話は、非常に腑に落ちるものであった。

 例えば、デストレント。

 今回のユージンたちに限らず、過去何度も討伐報告はあるのだが、数年もしたら何事もなかったかのように復活するのだ。

 その現象に、今まで誰も説明をつけられなかった。しかし――


『ノココ村の北にある丘の、不浄の土の上に、たまたま種子が風に乗ったり、鳥のフンと一緒に落ちたり等で蒔かれた時、三日後にデストレントが生まれ落ちる』


 俺がデストレントについて〈攻略本〉で調べると、そういう記述が見つかった。

 おあつらえ向きに、不浄の土の場所まで、精巧な模写で描かれている。

 俺はデストレントについてさらによくよく調べた後、ノココ村へと向かった。

 丘の頂上付近にぽつんと存在する、ドス黒い不浄の土に種を蒔いた。


 そして、三日後。

 観察していた俺の前で、本当にデストレントが復活した。

 俺は喜んでいる暇もなく、腹を括って戦いを挑んだ。

 なにしろ〈攻略本〉の情報によれば、デストレントはレベル27。

 一方、俺はレベル23の〈魔法使い〉らしい。


 らしいというのは本来、〈レベル〉や〈ステータス〉は一部の王族が持つ〈人物鑑定〉スキルがなければ判別できない、自分でもはっきりと数値はわからないものなのだが、これも〈攻略本〉のおかげで類推できた。

〈サンダーⅢ〉の習得可能レベルが23になっていて、ちょうど先日、使えるようになっていたからだ。

 俺のこのレベル23というのは、人類の中では相当に高い。

 前から実感もあったが、〈攻略本〉の情報で確定した。例えば、“王の杖”の異名を持つラクスタ王国最高の〈魔法使い〉でさえ、レベルは17止まりだったのだ。


 話を戻そう。デストレントはレベルなんと27。

 どれだけ強力な魔物かということだ。さすがはボスモンスター!

 それほどの化物に、俺はソロで挑戦するのだから、一工夫を凝らさなければならない。


 俺は奴がこちらを敵と認識する前に、離れた場所から先制の魔法を放った。

 長く深い眠りに陥らせる、〈スリープⅡ〉だ。

 普通、ボスモンスターには、状態異常魔法や弱体魔法は効かない。

 否、俺はそう思い込んでいた。

 現実には、確かにボスモンスターはほとんどの状態異常や〈ステータス〉変化に耐性を持ってはいるが、各個体がそれぞれ一種くらいは、耐性のないものが存在する。

 このデストレントなら、〈毒〉も〈麻痺〉も〈石化〉も効かないが、〈眠り〉は効くという具合にだ。


 俺はその情報を〈攻略本〉から得て、いま実際に効果を確認できた。

 デストレントはぐっすりとおねむだった。

 これで長い呪文を唱える余裕ができる。

 通常の〈サンダーⅢ〉ではなくカスタマイズを施し、〈威力五倍化〉と〈単体攻撃化〉、〈会心率UP〉などの効果を付与していく。

〈攻略本〉にはデストレントの項目に、こうも書かれていたのだ。


『ボスモンスターであるデストレントは、樹木系の魔物でありながら〈炎属性〉の魔法に完全耐性を持っている。弱点は〈雷属性〉。サルみたいに〈炎属性〉を連発しても、一切無意味なので注意』


 やはりユージンの命令は間違っていたのだ!

 俺の提案通りに、攻撃魔法の属性を変えながら戦うべきだったのだ!

 いや、ユージンだけを責めはすまい。俺にも非はあった。

〈命令させろ〉とイキがり続けるあの小僧に、毅然と突っぱねてやるべきだったのだ。

 自分の頭で考え、行動すべきだったのだ。

 俺はユージンのパーティーを追放された。しかし、これは僥倖であった。もう俺は何ものにも縛られない。

 俺の意志で、俺の責任で、俺の独力で、魔王モルルファイを倒すと決めた!

 世界中の人々は、〈勇者〉なんぞより〈魔法使い〉の方が、偉大な存在だったと知ることになるだろう。俺たちに向けられる、どこか冷たい世間の目が変わることだろう。肩身の狭い想いをしている、先生や同輩たちだって胸を張って生きられるだろう。

 手元の〈攻略本〉の一ページ目には、こう綴られている。


『偉大なる神は、その下僕である〈運命の神霊〉タイゴンの如き、つまらぬお節介はしない。

 神は、自らの足で立ち、自らの智慧で前途を切り開く者のみを寿(ことほ)ぐ。

 ゆえに神の御言葉を記したこの〈攻略本〉には、ただ情報しか羅列されてはいない。

 その情報を活かすも、殺すも、全ては君次第である! 健闘を祈る!!』


 その冒頭に目を通しただけで、俺は一発でこの本を気に入った。

 そして俺はヘヴィカスタマイズ〈サンダーⅢ〉を唱え、天空から招来した稲妻の一撃で、デストレントを葬り去ったのである。


    ◇◆◇◆◇


 ノココ村に一軒だけ存在する安宿の部屋で、俺は戦利品(ドロップアイテム)を確認していた。

 〈ステータス〉上昇効果のある果実が、机の上に山と積まれている。

 俺は念願の〈魔力の果実〉に手を伸ばし、一口かじった。

 味は林檎に似ている。だが、もっともっとゴージャスな甘みがある。王侯貴族だとて、こんな美味にはそう簡単にありつけないのではなかろうか? その上、キレのある酸味が舌に残り、甘くどさを打ち消す。なんとも後を引く味だ。これならいくらでも食べられる。

 ユージンたちはこんな美味を独り占めして、悪びれなかったのか……。


 俺は〈魔力の果実〉を全て平らげた後も、〈精神の果実〉や〈力の果実〉などにも手を伸ばし、次々と頬張った。

 上手く言えないが、体の底から力が漲ってくるようだった。

 何日かにわけて食べるつもりだったが、結局、完食してしまった。

 俺は十八歳。成長期はとうに終わったが、これでまだまだ健啖ということか。

 部屋の窓から、ふと北の丘を眺める。


 新たな種を、しっかりと蒔いてきた。


 三日後、デストレントは再び生まれ落ちるだろう。

 俺はそれを倒し、再びドロップアイテムの果実を大量にゲットする。

〈攻略本〉によれば、一人の人間が同種の果実を五十一個以上食べても、もう〈ステータス〉は上昇しなくなるのだという。

 逆に言えば、各種五十個までは、食べれば食べるほど俺の〈ステータス〉は上がるということ。

 さて――いったい何体のデストレントに、俺の糧になってもらおうかな?



読んでいただいてありがとうございます!


今夜は第三話までUPする予定です。

そちらもぜひぜひよろしくお願いいたします。

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