表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/182

第十九話  デルベンブロの魔城

前回のあらすじ


ユージンが名声欲しさの虚栄心で魔拳将軍討伐に出立。

マグナスはそんなバカでもさすがに見殺しはできず、やむなく出陣を決意した。

 俺はユージンと違い、誰に喧伝するでもなく王都を発ち、「死の山」へと向かった。

 街道を外れ、緑碧き平原から荒野へと景色も移りゆく、〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉での旅だ。

 グラディウスの、直立時には三メートルを超す鋼の巨体が、〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉の上に載るのかどうか、いささか不安だったが、まるで杞憂だった。

 ラクスタでも5枚しか存在しないというランクAマジックアイテムは、大重量物を積載していることを感じさせない軽快な動きで、どんな悪路もスイスイと進んでいく。

 いざ「死の山」に辿り着き、急勾配が立ちはだかっても、なんのそのだ。

 ユージンたちは三日先行しているが、これなら確かに追いつけるかもしれない。

 貸し出してくれた、ナルサイの男意気に感謝しなくてはな!


 ――ともあれかくして。

 俺は日が沈まないうちに、デルベンブロの居城へ到着することができた。

 剣の如く切り立った険しい山々に囲まれた、なお一層危険なムードを漂わせる城だ。

 中に踏む込むだけでも、よほどの勇気が必要だろう。


 俺は恐れ気もなく、エントランスから押し入った。

 ただし、あくまで慎重にだ。

 〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉から降り、グラディウスの背にも跨らず、臨戦態勢で傍を護衛させる。

〈攻略本〉情報によれば、城の中には雑魚モンスターでさえ、レベル10から13の奴らが跋扈しているという。

 さしもの俺も、メゴラウスの大坑道の時のような、気楽に蹂躙しつつ快進撃をする、というような真似はできない。

 ただし、奥に進むのが困難だと言っているわけではない。

 グラディウスに警護させながら、雑魚モンスターがたむろっている区画を一つずつ、足を止めてⅢ系攻撃魔法で着実に掃討し、安全を確保しつつ堅実に進んでいくべきだと言っているわけだ。


 俺はそうやって、デルベンブロの魔城を確実に侵攻していった。

 この城の中はやはり複雑な迷路状になっており、罠の類もウジャウジャと、見本市のように用意されている。

 が、それらは〈攻略本〉を持つ俺にとっては、障害にならない。

 あくまで衛兵代わりのモンスターたちに、数の暴力で包囲されないようにだけ、気をつけていけばよい。

 どころか、俺はこの城の、複雑な仕掛けだらけの構造を逆手に取ることさえできた。


「む。ここだな」


 とある廊下の石壁を、〈大魔道の杖〉で叩きながら進んでいた俺は、壁の一部が、叩いた時の音が違っているのを発見した。


「デルベンブロ様に栄光あれ」


 なんとも虚栄心に満ちた合言葉を、苦笑交じりに唱える。

 すると壁の一部が横にスライドして開き、隠し通路が姿を見せた。

〈攻略本〉の情報通りだ。これで大幅にショートカットできる。

 ユージンたちに追いつけるかもしれないし、追い越してしまうかもしれない。まあ、どちらでも同じことだ。


 緩やかに弧を描く一本道を、俺とグラディウスは悠然と進んでいく。

 この中に雑魚モンスターは配置されていない。

 そう、雑魚モンスターは、だ。


 ガチャン……ガチャン……ガチャン……ガチャン……


 奥の方から、足音が近づいてくる。

 金属を打ち鳴らすような、重低音だ。

 俺とグラディウスは足を止めて、待ち構えた。

 ほどなく、そいつはやってきた。

 身長五メートルほどの、銀色の肉体を持つ巨人。

 この隠し通路を護る、中ボスモンスター。


 ミスリルゴーレム。

 レベルは26。


 俺より遥かに格下だが、侮ることはできない。

 なぜなら全身がミスリルできたこいつは、極めて高い〈魔法耐性〉を有しているからだ。

 俺たち〈魔法使い〉の天敵だからだ。

 ゆえに俺は命じる。


「行け、グラディウス!」


 ヒグマの姿をしたスティールゴーレムが、雄叫びもなく吶喊する。

 相手が格上のミスリルだからと恐れ気ない、主の命令を忠実に守る、そこにはやはりある種のプロフェッショナリズムを感じさせる。

 ミスリルゴーレムもまた、無言でグラディウスに応じた。

 がっぷり四つ、金属の巨人たちが組み合う。

 が、やはりグラディウスの方が劣勢。


 俺は矢継ぎ早に呪文を詠唱した。

〈エンチャントウェポン〉〈マジックアーマー〉〈マジックシールド〉〈ストレングス〉〈タフネス〉〈クイックネス〉〈アジリティ〉……etc、etc。

 あらゆる強化魔法でグラディウスをサポートしてやる。

 しかももちろん、〈大魔道の杖〉の特殊効果で増幅される。


 グラディウスが殴りつけ、ミスリルゴーレムが殴り返す。

 はっきり、グラディウスの方が優勢だった。

 よし、いいぞ……!


「フラン・レン・エス・ズィー・エル!」


 俺もまた攻撃魔法を唱えて、ミスリルゴーレムを直撃する。

 通常より少し呪文を長くして〈耐性貫通〉を付与した、レベル32で習得したばかりの〈フリーズⅣ〉だ。

 ミスリルゴーレムがいくら〈魔法耐性〉が高いといっても、全くダメージが通らないわけではない。〈耐性貫通〉も付与したしな。

 加えて〈氷属性〉の魔法は、しばらく動きを鈍らせるという付加効果がある。グラディウスの肉弾戦を、さらに助けてやれる。


 俺の〈フリーズⅣ〉連発により、ミスリルゴーレムの表面がびっしりと霜で覆われていき、フロストゴーレムという風情となる。

 動きがどんどん鈍くなっていったそこへ、グラディウスが左右のツメでラッシュをかける。

 少々時間はかかってしまったが――ミスリルゴーレム、撃破。


 ドロップアイテムは、大量の〈高純度ミスリル鉱〉だった。

 普通ならば持ち運び不可能な量だが、今の俺には〈魔法の道具袋Ⅲ〉がある。見た目は小さいが、中に相当量の物体を詰め込むことができる、ランクAの〈マジックアイテム〉だ。

〈サブクエスト〉をやりまくっていた時に、『豪商マルムの依頼 その8 封鎖された街道を突破せよ』のクリア報酬でゲットしていた。

 やはり〈サブクエスト〉をこなしまくったのは、正解だったというわけだな。


 漏らさず回収した後、俺は隠し通路を前進した。

 もはや邪魔するモンスターは存在せず、悠々とその奥にある螺旋階段に到達する。

 ここから五階まで一気に上ることができるのだ。ちなみに〈攻略本〉情報によれば、デルベンブロの魔城は全六階。


 螺旋階段を上りきり、その先の隠し扉を使って外へ。魔城五階の迷宮に出る。

 また〈攻略本〉の地図を照らし合わせながら進んでいき、床に描かれた髑髏の文様を見つける。


「ふむ……」


 その髑髏を踏んで、しげしげと見下ろす俺。

 と――そこへ、複数人の足音が聞こえてきた。

 どうやらわずかに追い越していたようだ。

 俺は彼らを振り返って言った。


「やあ。()()()()()()じゃないか、ユージン」

「て、てめえ……マグナス! どうしてここへ!?」

次回、マグナスの姿を見たユージンの反応は――


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
こちらピッコマさんのページのリンクです
ぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ