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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第六章  これは〈命令ではないよ〉とおためごかしばかり言う賢者編
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第十二話  初めてじゃないデート

前回のあらすじ:


エリスのパワープレイにより、叡智の塔三十九階まで攻略!

 あたし――エリス・バーラック・メヘスレスは、朝から鏡の前で鼻歌を歌っていた。

 叡智の塔の攻略にちょっと飽きて、マグナスたちと王都に帰ってから、一週間が経っている。

 あたしは閑静な住宅街に、古民家を買い取って暮らしていた。

 マグナスとカジウ諸島から駆け落ちしてきて、家を手に入れた――という設定だからね。

 お金ならいくらでもある。

 なんせゼール商会を出奔する時に、宝石やら〈マジックアイテム〉やら山ほど持ち出したから。

 家具も大体、前の住民が使っていたやつが残っていて、化粧台も古いけれどなかなかシャレたのがあった。

 まあ、あたしは昔から化粧が必要ないくらい美人だけど(事実なんだし謙遜してもしょうがないでしょ?)

 それでも今日の顔色をチェックしたり、髪を整えたりくらいはするわけ。


 なにせこれからマグナスとデートだしね!


 塔の攻略を大いに手伝ってあげた代わりに、今度はマグナスに婚約者らしいことをしてもらう約束を果たしてもらわないと♪

 マグナスは「そんな約束はしていない」って強情だったけれどね。

 あたしが「そんなひどい……」って悲愴な顔をして、ヒイロたちの方をチラチラ見てたら、


「こんな美人とデートができて何が不満なんだよ、ナナシ!」

「婚約者を悲しませる男とかサイテーよっ」

「ナナシ君は記憶をなくしてしまって実感がないんでしょうけど、でもその記憶だってエリスさんと接していたら戻るかもしれないじゃないですか」


 と、三人が思いきりフォローしてくれたのよ。


 まあ、もちろん狙い通りなんだけど、でもあの三人には感謝よね。

 ヒイロと。モモと。リンゴ。ちゃんと名前も憶えたわ。

 あたしとしては、人間ってどいつもこいつも似たり寄ったりで、小賢しいばっかで面白くないんだけど……図抜けてお人好しな奴だったら、話は別。嫌いじゃないの。

〈光の戦士〉のレイがそうだったでしょ?

 ヒイロたちも一緒にいて気持ちいい奴らだし、そんな珍しい人間が三人もそろってるのが本当にユニークよね。

 実際、マグナスもあの手の底抜けに邪気のない人種には、弱いんじゃないんかしら?

 だからヒイロたちに散々に説得されて、渋々あたしとデートするって了承しちゃったのよね。

 ほんとオモシロ。


「さ、どこに連れて行ってくれるのかしら♪」


 デートプランは全てマグナスに任せる約束になっている。

 ウン、天気もサイコー! デート日和じゃない。

 あたしは鼻歌混じりに家を出て、待ち合わせ場所に向かった。

 小さな町くらいの敷地を持つ賢者の学苑の、端っこの方にあるお屋敷。

 カーマイナー教室。

 その玄関前に、マグナスが不愛想に突っ立っていた。


「意外と時間は守るんだな?」


 なーんて皮肉を、開口一番言ってきた。

 ご挨拶にもほどがあるじゃないの!


 でも、まあね。

 実際、あたしは気分屋だから、待ち合わせ時間をぶっちするなんてザラだけど。

 今日は不思議と寝坊もせず目が覚めたのよ。


 ほんと不思議。

 別にあたしにとって、これが初めてのデートってわけじゃないのに。

 そ、男と付き合ったことだって何度もあるわよ? もう二十歳ですしね?

 でもつまんなくって、すぐ別れたけど。

 それを四回くらい繰り返して以来、もう懲り懲りだけど。

 そもそも恋愛的な意味で、誰かを好きになったことってないのよね。


 その点、目の前にいる不愛想な男は、例外かもしれないけどねー。

 断言できないのは照れ隠しとかじゃなくって、あたし自身が「恋愛」ってよくわかんないのよ。マジで。

 マグナスが「今まで見てきた中でダントツ、一番面白い男」なのは間違いなくて、「目が離せない」のはわかるんだけどね。


「そういうマグナスはあたしとのデートが楽しみで、ずっと前からソワソワ待ち続けてくれたりしちゃったり?」

「いや。無益な時間は使わない主義だ」


 ほら、こういうトコ。

 あたしみたいな美女を相手に、これだけツレナイ態度をとる若い男なんて、そうはいないワケ。


「まあいいわ。じゃ、今日はどこに連れて行ってくれるの?」

「学苑の図書館だ」

「ええ……。もっと面白いところに連れてってよ」

「俺にとっては一番面白いところだが?」

「デートなんだから少しは相手のことを考えて、プランを練ってくれてもいいんじゃない?」

「嫌なら帰ってくれても構わないが」


 ……ちょっとツレナすぎません?


 あたしは機嫌を斜めにしつつも、さっさと図書館へ向かうマグナスに、仕方なくついていった。


    ◇◆◇◆◇


 そして図書館に来ても、マグナスはツレナさを極めていた。

 自分の読みたい本をとってきては、読書用のテーブルで読み耽るだけ。

 対面に腰かけたあたしのことなんて目もくれない!


「ねえ、いつまでそんな他人行儀なの? あたしもマグナスじゃなくて、ナナシって呼んだ方がいい?」

「好きに呼べばいい。そんなことで俺の態度は変わらない」


 読書の邪魔をするなと言わんばかりの態度で、マグナスは素っ気なく答えた。

 こんなつまらないデートある?


 仕方なくあたしも本で退屈を紛らわせようかと思ったけれど……十冊くらいパラパラと目を通して、すぐに飽きちゃった。

 こう見えてあたし、ご幼少のみぎりはかなりの読書家だったのよ?

 好奇心が満たされたし、実家の財力のおかげでいろんな本が手に入ったしね。

 でも散々読んだからこそ、もう飽きちゃったの。


 確かにここの図書館の蔵書はものすごかったけど、でもね?

 例えばあたしが知らない政治経済の本を一冊、試しにとってみるでしょ?

 でも定番の名著を昔、読んだことのある身からしたら、単純に劣った本でしかなかったのよ。得られた知見ゼロ。

 図鑑でも随想でも見聞録でも歴史書でも風土記でも、なんでもそうだった。

 やっぱり優れているからこそ定番になるわけね。

 もちろん、中には知られざる名著も埋もれているでしょうけど、その一冊をこの本の山の中から探し当てる気力はもうない!

 

 ハァ、退屈……。

 あたしは頬杖をついて、対面に座るマグナスの顔を見つめる。

 そんなに面白いのか、一心不乱に本を読み続けるマグナス。

 表題からするに、魔法関連の書物みたい。

 いい本なのかもしれないけれど、さすがにあたしはその辺はパス。絶対理解できないし。


「ねー。ちょっとはあたしのことも構ってよー」

「…………」


 もはや完全無視ですよ。

 く・や・し・す・ぎ。

 あたしは不貞腐れながら、マグナスの顔を穴が開くほど凝視してやる。

 決して「美男子!」ってわけじゃないのにね。

 しかも多分、あたしより年下なのにね。

 魔物や試練と立ち向かう時同様の、真剣な目つき。

 記憶を失っても失われない、精悍な顔つき。

 その全てが好ましくて堪らない。

 ――なんて想いながら見ていたら、


「……いつまで俺の顔を眺めているつもりだ?」


 呆れ顔でマグナスが言い出した。

 やっと構ってくれた。


「別にいいじゃない、ちょっとくらい。見られて減るものではないでしょ?」

「……ちょっと? 二時間以上もじっと凝視されていたら、さすがに気になるのだが……」

「え」


 にじかんいじょう……?

 いつの間に?????

 あたし、そんなに長いことマグナスに顔を見つめてたわけ?

 見惚れてたわけ?

 恥っっっっっっっっっっっっず!

 恋する乙女かっ(さすがにそんな歳じゃないっ)


 もうあたしはマグナスと目を合わせられなくて、そっぽを向くしかなかった。

 ちぇ。

 このあたしともいうものが、「照れ臭い」なんて感情を味わわされたのなんて、いったいいつぶりか思い出せない。

 男をからかって手玉に取るのは、いつもあたしの方だったのに!

 ああああ胸がくすぐったくて堪らないっっっ。


 …………でも、つまらなくはない。


    ◇◆◇◆◇


 とはいえそんな甘酸っぱい気持ちが、長続きするわけもないでしょ?

 乙女って歳じゃないしね。どっちかといえばドライな女だしね。

 なので読む本もなく、マグナスと目も合わせられなくなったあたしは、退屈のあまり寝こけてしまった。

 なまじ天気が良くて、窓から差し込む陽気に誘われたのもある。


「起きろ。そろそろ閉館時間だ」


 マグナスに優しく――とは程遠い手つきで、揺り起こされた。

 気づけば館内が、夕日で赤く染まっている。

 ロウソク代も馬鹿にならないから――教師から許可をもらえない限り――学苑生でも日没後は利用できないシステムらしい。


「ふぁぁぁ、お昼ご飯食べ損ねちゃったわね」

「ずいぶんと気持ちよさそうに寝ていたな」


 椅子に座ったまま伸びをするあたしに、傍に立つマグナスが毒気を抜かれたように苦笑した。

 素っ気ないのは素っ気ないけど、今日一番人間味のある態度。


「ディナーくらいは期待していいのかしら?」

「どういう意味だ?」

「きっとステキなレストランを予約してくれているのよね? これデートだものね?」

「学食ならこの時間もまだ開いているぞ」

「言うと思ったわ」


 これデート?

 まだ若い学生サンならそういうものかもしれないけど、あたしたちもうオトナでしょ?


「もういい、マグナスみたいな朴念仁に期待したのが間違いだった。ここからはあたしが仕切らせてもらうわよ」

「具体的には?」

「まずはあたしが行きつけにしたレストランに行きましょ。面白くはないけど味は約束されてるし、所詮は栄養補給と割り切るわ」

「補給? なんのための?」

「いい、マグナス? オトナのデートは夜からが本番なの」


 あたしは席に着いたまま、マグナスの襟元を片手でつかんで引き寄せる。

 力づくでもよかったけど(ホラあたし、“八魔将”の怪力(ちから)があるから)、マグナスは抵抗しなかった。

 マグナスの顔があたしの顔の至近距離までやってきて、あたしはマグナスの目を真っ直ぐに見つめて、ささやく。


「ふふっ。今夜は寝かさないからね?」


 口調は冗談めかせて、口元は笑って。

 でも本気を込めて。


 それが伝わったのだろう――マグナスもにわかに真剣な顔つきになった。

 それで私の手を振り払った。


「悪いが、そんなことにはつき合えない」

「昼はあんたの退屈なデートプランにつき合ってあげたんだから、夜はあたしのデートプランにつき合ってくれるのが公平でしょ? これ以上、女に恥をかかせないで」

「なんと理屈をつけられようと断る」


 マグナスはぴしゃりと言った。

 そのまま冷たい顔で続けた。


「正直な話をしようか。俺は別に異性に免疫はないし、美人に言い寄られたら普通にのぼせ上ってしまうだろう。それこそデートともなれば、相手を喜ばせようと必死になってプランを考えるだろう。()()()()

「……あたしは例外ってこと?」

「そうだ、エリス。おまえは全く信用ならない」

「ひどい! 婚約者に向かってそんな台詞っ」


 あたしは芝居がかったしぐさで悲劇ぶってみる。

 でもマグナスがあたしを見下ろす目は冷たいまま。


「おまえはゼール商会のお嬢様で、俺は番頭候補の一人だと言っていたな?」

「そうよ? あたしの従兄がパウリっていって、性格は陰険だけど優秀で、若くして番頭を務めていた。マグナスはそいつに能力を認められて、すぐ下で働いていたの。将来の後継者として、パウリが直接鍛えるためにね」

「だが俺はその将来を捨てて、おまえと駆け落ちをした」

「ええ、そうよ? 再会できたときに懇切丁寧、説明してあげたでしょう?」


 まあ嘘八百なんだけど、咄嗟にまくし立てたにしては精巧だったでしょ?

 褒めてくれていいのよ? ふふっ。


「でも俺はこの国にたどり着いた後、職を得られず、生計を立てられなかった。それで責任を感じ、焦り、おまえに一言も残さず姿を消した」

「ええ、それもそう言ったわよね。ねえ……この話、いつまで続けるつもり?」



「矛盾がある」



 マグナスが冷たい顔のまま断言した。

 あたしは息を呑み込んだ。「どこに?」と聞き返そうとして、できなかった。

 ただ彼の言葉を待った。

 胸が高鳴り始めた。


「ゼールというのがどれほどの大商会か、少し調べただけでわかった。しかも『海賊商会』の異名は伊達ではない、苛烈且つ実力主義な企業体質だそうだ。その番頭ともなれば、どれほど優秀な者でなければ務まらないか、想像に難くない。同様に番頭候補だとて、よほど才気走ってなくては候補にすら挙がらないだろう。違うか?」

「…………」

「そんな番頭候補だったという俺が? 新天地に渡ったからという程度の障害で? 夫婦二人を養う程度の職も得られないと? なんともおかしな話だとは思わないか?」

「……そ。あたしの話が嘘だって、最初から見抜いてたわけだ」

「その一点、不自然に思った。だから後で確認をとってみれば、案の定だ。あれだけの長広舌で、咄嗟に作り話をでっち上げたのは感心するがな」


 感心できる分、警戒もすると。


 あはっ。

 あははははははははは!

 

 あーあ!

 やっぱりマグナスは、記憶をなくしててもマグナスかあ!

 ちょっと甘く見てたかなあ。反省だわ。


「何が目的で俺に近づく?」

「別に大した理由じゃないのよ。本当に大した理由じゃないの」


 あたし、マグナスにはメチャクチャ嫌われていたからね。

 その関係性がせっかくリセットされたっていうんだから、やり直したくなるのが人情でしょ?

 まして記憶をなくしたマグナスなら、篭絡できるかなって思っちゃったのよ。

 まあそんなに甘い奴じゃなかったし、初手でもうミスってたんですけどー。

 ダサすぎるから言わないけどね!


「ハイハイ、今日は大人しく退散するわよ」

「今日は?」


 もちろん、しばらくつきまとわせてもらうわよ。

 記憶があってもなくしても、やっぱりマグナスからは目を離せない。本当に面白い男。

 多分、あたしが初めて恋した男。


    ◇◆◇◆◇


「今日はいいデートだったなあ……」


 あたしは深夜の酒場で、クダを巻いていた。

 逃げ帰ってヤケ酒のつもりで店に入ったのに、気づけばカウンター席で一人、にやけていた。

 最初は本当に退屈なデートだったけれど、最後はとびきりの刺激をマグナスにもらった。

 思い返しちゃうのも仕方ないでしょ?


 ま、我ながら変な女よね。

 イチャイチャするよりも、手の込んだ嘘をあっさり見抜かれた方が快感だっていうんだから。

 案外、男に尽くされるより振り回される方が好きな性分なのかもね!


「――と、そんな貴女に提案があるんだけど、よいかな?」


 ――と、いきなり声をかけられ、あたしは胡乱な目を向けた。

 雇われだろう吟遊詩人が、傍に立っていた。

 さっきまで酒場の隅で何か吟ってたけど、あたしはまともに聞いていない。


「ナンパなら他を当たってくれない?」


 気づけばあたし以外の客がいない。

 それにかこつけてってこと? 安く見られたものね。


「いやいや、貴女のことはそんな安い女だと思っていない。ボクもそんじょそこらの男じゃない。だから声をかけた」


 まるであたしの心を読んだように、そいつは言った。

 ちょっと興味が出てきた。


「ボクのことは『世界一の吟遊詩人』とでも呼んでくれたまへ」


 ぬけぬけとそいつは言った。

 へえ?


「自称世界一さんが、あたしになんの用かしら?」

「同好の士として、一つ苦言を許してもらいたくてね」

「あたしとあんたに、どんな共通の趣味があるっていうの?」


 興味を持って訊くと、自称世界一さんはぬけぬけと答えた。



「それはもちろん、“魔王を討つ者”の観賞だよ」



 へえ?

 自称世界一はともかく、確かに「そんじょそこらの男」ではないかも。こいつ。


「いいわ? 面白いから苦言を聞いてあげる」

「マグナスという人物は、はたで見ているから面白いんだよ。協力するのは、同好の士としてマナー違反じゃないかねえ」

「ああ、なるほど」


 あたしが叡智の塔の攻略に、手を貸したのが面白くないと。


「いいわよ? 塔の試練とやらもすぐ飽きちゃったし、もうマグナスには手を貸さない」

「賢明だね! 力と記憶を失った“魔王を討つ者”が、どうやって“魔霊将軍”を攻略するのか、ともに楽しみにしようじゃないか」

「はいはい、わかったからさっさと消えて。まだデートの余韻に浸っていたいの」


 あたしが抗議をした時には、自称世界一さんは忽然といなくなっていた。

 いつの間にか傍に立ってた時と同じ。“八魔将”二体分の力を持つあたしに、全く気配を悟らせない。

 いったい何者かしらねえ?

 マグナスもまーた妙な奴に目をつけられたことね。

 ま、あたしもその一人なんだけども!

次回もお楽しみに!

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