第八話 三十五階の試練
前回のあらすじ:
大教室のスカウト合戦が始まっても、決して靡かないヒイロ。
しかし初恋の相手であるジェリド教室のオリーヴィアから誘われ、カーマイナー教室は塔攻略の同盟を組むことに。
俺、ヒイロ、モモ、リンゴの四人は翌朝、学苑の正門前に集合した。
そこでオリーヴィアらジェリド教室の七人が、馬車を用意して待っていたのだ。
両教室の面々が和やかに朝のあいさつを交わす一方、オリーヴィアの俺を見る目だけは険しかった。
「まさかこの彼も連れていくつもり?」
「ああ! こいつはナナシっていって最近、カーマイナー教室に入ったんだ」
「とても聡明だし、頼れる仲間なの」
「まあ、アタシらの奥の手ってワケ!」
ヒイロとリンゴ、モモたちが俺のことを紹介してくれる。
過剰に持ち上げてくれたので、プレッシャーの方が大きいがな。
一方、オリーヴィアは俺のことを全く信用しない様子で、ますます目つきを険しくして、
「言っておいたわよね? 三十五階の試練は人数制限があって、十人までしか挑戦できないって」
破竹の勢いで登塔していた三大教室が、ついに足止めを食らっていた理由がこれだった。
人海戦術では突破できない高難易度の試練の前に、手も足も出なかったのだ。
叡智の塔は高層階になればなるほど、挑戦人数を絞られるという話はやはり本当のようだな。
「ヒイロは当然として、リンゴとモモが同行するのはわかるわよ? 二人がその気になれば、大教室で机を並べることもできるくらい優秀な学生なのは、私だって昔から知っているしね?」
だがどこの馬の骨とも知れない俺を、貴重な十人の枠に入れるのは、オリーヴィアとしては承服しかねるという話だ。
「それとも私が知らないだけで、あなたも優秀な学生なのかしら、ナナシ君?」
「生憎と最近ようやく〈サンダー〉を習得したレベルだ」
「話にならない!」
オリーヴィアは大仰に首を左右にした。
「で、でもナナシはスゲエんだぜ! 魔法を学び始めてたった一週間で〈ファイア〉を習得したんだ!」
「ヒイロだって一か月かかったのにね!」
「ナナシ君は一か月で〈サンダー〉まで行ったんだから、どれほどの素質を秘めてるのか、常識では測れない人なの」
ヒイロ、モモ、リンゴが熱心に俺を同行させるべきだと主張してくれる。
しかしオリーヴィアは頑として聞かなかった。
「その話が嘘でないなら、破格の素質の持ち主なのは認めるわ? でも現時点では、まるで戦力にならない〈レベル〉の学苑生だという話に変わりはない。ナナシ君には残ってもらって、ヒイロたち三人と私たち七人で攻略すべきだわ?」
「ま、待ってくれよ、オリーヴィア!」
「アタシたちはこれまで何度も、ナナシの機転に救われてきたのよ!」
「叡智の塔がわたしたちに問いかけるのは、ただ魔法の技術だけではないでしょう?」
オリーヴィアはにべもない態度をとり続けたが、ヒイロたちはあくまで食い下がった。
彼らがそこまでしてくれたというのに、俺だけ黙っているというわけにはいかないだろう。信頼に応えたい。
「塔の試練は、何度だって挑戦可能なんだ。一度、俺込みのメンバーで試させてもらえないだろうか? それで俺が足手まといにしかならなかったら、すぐに撤退して俺抜きのメンバーで再度挑戦するということでどうだろう?」
「一度でいいのね? それであなたは大人しく諦めてくれる、と?」
「ああ。俺だとて別に手柄を誇りたいわけではないし、両教室が無事に試練を突破することを一番に願っている」
「ヒイロたちももう食い下がったりせず、私の指揮下に入ってくれるのね?」
オリーヴィアは俺の提案に譲歩するふりをして、代わりに再挑戦以降は主導権をよこせと、欲深い要求をしてくる。
この発想が瞬時に出てくるのだから、なるほど女狐だ。
「お、おうっ。それでいいぜ!」
「どうせ一発クリアなんだからっ」
ヒイロたちは一瞬怯んだが、すぐに構うものかと応答した。
オリーヴィアも、ジェリド教室の七番手らしい女生徒に言い含めて納得させ、それから右手を差し出した。
ヒイロが握手を交わして、両教室の合意が成された。
◇◆◇◆◇
かくして俺たちは十一人で、トウシタへと馬車で向かう。
全員が乗れるほど大型の馬車だが、本来は荷運び用なのだろう。幌は付いているがシートはない。
だから俺たちは思い思いの場所に腰を下ろし、硬い板で尻を痛めながら馬車に揺られる。
両教室が同盟を組み、共闘する以上は、ここで互いに交流を持っておくべきだろう。
ジェリド教室の面々も、同じ考えだったようだ。
気さくに話しかけてきた。
彼らは決してエリート気取りの、鼻持ちならない連中ではなかった。
一人――俺が枠を奪ったせいで、一度目の挑戦メンバーからは外れることになった――女生徒だけは、さすがにわだかまりがある様子だったけれど。
しかし他のジェリド教室の面々が、
「あいつ――ミントのことは気にするな」
「ナナシ君の言ったことにも一理あった」
「オレたちは納得している。が、君もミントの気持ちを察してやってくれ」
と俺に対してフォローしてくれたし、同時に気遣いを求めてきた。
まさしく同盟、あくまで対等の関係で行こうということだ。
こういう合理的な思考をできる者たちは、俺にとって大変に好ましい。
そんな風に和気藹々とした空気で、道中の無聊を吹き飛ばしていると――
「三十五階の試練について、改めて全員で情報共有をしておきたいのだけれど」
オリーヴィアが一同に傾注を求めて言った。
再確認や質問の機会を、この場で設けると。
「三十五階の試練は、雪山のような場所で行われるわ。そこで〈ジニアスアバター〉が千を数える間、〈ブリザード〉の猛攻を凌ぐという内容になっているの」
今、オリーヴィアが言った〈ブリザード〉というのは、強力な氷の精霊だ。
炎の大精霊〈イフリート〉とは対となる存在だと、そんな学説が根強い。
「倒してはいけないのか?」
「もちろん滅ぼすことができれば、千を待たずに凌ぎ切ったことになるでしょう。でも無理よ。ロケーションは雪山だと言ったでしょう? 精霊なんだから周りの冷気――氷の魔力を吸収して、無限に〈生命力〉を回復させてしまうの」
俺の質問に、オリーヴィアは「そんなことも知らないの?」とばかりの様子で答える。
無論、俺も精霊の特質については図書館で学んでいる。
炎の精霊なら砂漠や火山で、氷の精霊なら雪山や氷原で、水の精霊なら湖沼や海で――と精霊たちは自らの魔力に適合した場所では、傷ついても傷ついても再生するという。
では彼らは無敵の存在かというと、そんなことはない。
過去の偉大な〈魔法使い〉や魔法武器の使い手たちによって、討伐例がいくらでもある。
〈再生〉速度以上の〈ダメージ〉を与えてやれば、倒すのは不可能ではないということだ。
「それくらい私だって知っているわよ」
俺が指摘すると、オリーヴィアはむっとなって答えた。
「それに私たちだって試したわ。〈ブリザード〉の吹雪を防ぐチームと〈ファイア〉で攻めるチームに分かれて攻撃した。でもあちらの再生力の方が遥かに勝っていた」
だからオリーヴィアたちは攻撃を諦め、〈僧侶〉の魔法による防御に徹したが、それでも〈ブリザード〉の吹雪をシャットアウトできず、挑戦自体を諦めて塔を降りたのだと。
「叡智の塔が試練の場として用意したあの雪山は、普通の雪山よりも遥かに豊かな氷の魔力で満ちているのだと思うわ。だから、いくらヒイロが〈ファイアⅢ〉を習得できたといっても、あの大精霊を滅ぼせるとは思えない」
というのがオリーヴィアの自信に満ちた見立て。
ただ〈ファイア〉系の魔法は、精霊本体を狙うのではなく、吐く吹雪の威力を減じらせるという用法も可能だから、ヒイロにはその役を期待しているのだと。
「私を守ってくれるでしょう、ヒイロ?」
オリーヴィアはいたずらっぽく言った。
ミーティングはもうおしまいというサインでもあるのだろう。
わざわざヒイロの隣に移動して、腕を抱えてしなだれかかった。
「お、オレに任せろよ!」
「『任せろよ!』じゃないわよ、バカヒイロっ」
「守るならお姉ちゃんたちを守ってくれるんじゃないの?」
たちまちヒイロがデレデレと鼻を伸ばし、モモとリンゴがイライラとしだす。
さらには過激なことに、モモがヒイロとオリーヴィアの間を裂くように割って入り、さらにリンゴが反対からヒイロを挟み、姉妹二人でヒイロの左右の腕を抱えて、オリーヴィアのスキンシップを阻む。
「昔、こっぴどくヒイロをフッたくせに、今さら色仕掛けなんてサイテーね、オリーヴィア!」
「ヒイロ君はわたしたちのも――カーマイナー教室のリーダーなんですぅ!」
とオリーヴィアを威嚇するモモとリンゴ。
だがオリーヴィアも然る者で、ヒイロの腕がとれないならばと、正面から大胆にしなだれかかる。
「ウヒョー」とますます鼻を伸ばすヒイロ。
「「ムキー」」とますます怒りを露わにするモモ&リンゴ。
そのままオリーヴィアと三人で、一人の男を取り合う痴話ゲンカのような様相を呈す。
トウシタに着くが着くまで、ずっとかしましいことこの上ない。
それをジェリド教室の面々が呆れ顔で眺めていた。
正直、俺も同じ想いだった。
◇◆◇◆◇
それでもやっぱりオリーヴィアという女は、クレバー且つ頼りになるジェリド教室のリーダーなのだろう。
叡智の塔に到着するころには、「戯れはここまで」とばかりに切り替え、厳しい面構えになっていた。
ミントに指示して宿の手配と馬車の管理をを一任すると――残るジェリド教室の仲間たちを率い、試練へと臨む。
無論、俺たちカーマイナー教室の四人もそれに続く。
一階中央の祭壇から、三十五階まで移動は一瞬。
俺たち両教室の選抜メンバー十人は、塔が作り出したかりそめの雪山に放り込まれる。
知らない間に誰かが三十五階の突破に成功し、試練内容が変わっていた――という事態にはならなかった。
それが幸か不幸かは、これから結果を以って判明することだが。
「さ、寒いっ……!」
「情けないことを言わないで頂戴、ヒイロ。〈コールドプルーフ〉なり〈コールドプロテクション〉なり急いで!」
と、ヒイロがオリーヴィアの叱咤を浴びるのを聞き、俺を除く全員が急いで魔法の詠唱に入る。
〈コールドプルーフ〉というのは魔法使いが、〈コールドプロテクション〉は僧侶が習得できる防御魔法で、どちらも冷気から身を守る効力がある。
使い手によほど〈レベル〉差、〈魔力〉差がない限りは、後者の方が強力である。
なので僧侶の魔法が苦手なヒイロを除いた八人は、知恵の神霊への祈りを捧げ、〈コールドプロテクション〉を用いていた。
「はい、ナナシ君にも」
両方とも習得できていない俺に対しては、リンゴが代わりに防御魔法をかけてくれる。
彼女はオリーヴィアと並んで、このメンバーでも一番〈レベル〉の高い僧侶だそうで、俺も安心していられる。
〈フリーズ〉のような攻撃魔法のダメージさえ大きく軽減してくれる魔法だから、外気の寒さ程度は完全にシャットアウト。体の震えがすぐに止まった。
そうして準備を整える暇があればこそ、試験官たるジニアスアバターが俺たちの前に顕れた。
上空を真っ白に覆う曇天に、老人の巨大なバストアップ幻像が浮かび上がる。
『私が千を数える間、〈ブリザード〉の吹雪を凌いでみせよ』
――と、オリーヴィアから聞かされた通りの試練を課される。
ほとんど同時に〈ブリザード〉が召喚され、俺たち十人に向けて攻撃をしかけてくる。
氷の女王然とした威厳を持つ精霊が、強烈な吹雪を吐きかけてきたのだ。
「ぐっ……」
リンゴの〈コールドプロテクション〉を以ってしても防ぎきれない痛みと、寒さで全身が痺れていくような感覚に、俺はうめき声を漏らす。
周りのメンバーも同様だ。
防御魔法の恩恵がなかったら、俺たちはあっという間に凍死させられていただろう。
とはいえこのまま手をこまねいていても、冷気ダメージでじりじりと〈生命力〉を削り取られていく。
一同は再びナルサリューに祈りを捧げ、回復魔法を全員に、継続的にかけることで、〈ブリザード〉の猛攻を凌ごうとする。
大精霊の吐く吹雪の威力は、オリーヴィアの話から想像した以上にすさまじいもので、率直に言って状況は芳しくない。
それでも皆が魔力を振り絞り、懸命に耐えていた。
一方、僧侶の魔法が一切使えない俺は、この場で俺にできる唯一のことをする。
すなわち〈ファイア〉の詠唱だ。
「クーン・ウーニヌー・ティルト・ウン・プレイ・エ――」
それも通常の〈ファイア〉ではなく、長い呪文を付け足すことで威力等を激増させる俺オリジナル――いや、違うな。本来の形である原初の〈ファイア〉だ。
荒れ狂う吹雪の中、俺は負けじと声を張り上げた。
狙いは〈ブリザード〉本体への直撃!
放った烈火が、女王然と屹立する氷の大精霊に襲い掛かる。
手応え――アリ。
俺のヘヴィカスタマイズ〈ファイア〉は、大精霊を相手に確かなダメージを与えることに成功した。
ただオリーヴィアが言っていた通り、〈ブリザード〉は周囲の魔力を吸収して、すぐさま全快してしまった。
その一連の過程を、俺はこの氷の試練よりも冷徹な眼差しで検分した。
己が放ったヘヴィカスタマイズ〈ファイア〉の威力と効果の評価を、正確に行おうとした。
「何をやっているのよ、ナナシ君! 〈ファイア〉は精霊本体を撃つんじゃなくて、吹雪を相殺するために使ってって言ったでしょう!?」
とオリーヴィアが猛抗議してきたが、俺は耳を貸さなかった。
貸す余裕がない。
攻撃魔法の効力評価に狂いがあれば、この試練を突破することは不可能だからだ。
俺はもう一度長い呪文を唱えると、ヘヴィカスタマイズ〈ファイア〉を〈ブリザード〉本体に直撃させ、再度の効力評価を行った。
結果は一回目と同じ。
〈ブリザード〉にかなりのダメージを与えることには成功したが、すぐに全回復されてしまう。
氷の女王は痛痒も感じた様子はなく、むしろ哄笑するように吐く吹雪の圧を上げた。
「私たちはチームで戦っているのよ!? 足並みを乱さないで!」
おかげでオリーヴィアの悲鳴じみた批難が飛んでくるが、俺はやはり黙殺した。
俺だとて目立ちたい一心で、スタンドプレイをやっているわけではない。
ただこのまま吹雪を耐え凌ぐのに全員で専念したところで、一千秒はとうてい保たないと判断した上での状況対応だ。
そう、専守防衛作戦のままでは、ジェリド教室にとっては前回の二の舞、カーマイナー教室と同盟を結んだところで結果は変わらない――それが俺にはわかった。
わかってしまったんだ。
攻撃魔法の効力評価にせよ、専守防衛の結果予測にせよ、それらの判断力や観察眼は、学苑や図書館でお勉強したところで養われるものではないはずだ。
あくまで経験や実践によってのみ、身に着けられるもの。
あるいは天性の領分のはずだ。
にもかかわらず、俺にはそれらを正確にできる手応えがあった。
どうしてできると思えるのか、自分でも説明がつかない。
なくした記憶の中に答えがあるのかもしれない。
とにかく俺は、この「理屈なき感覚」に賭けることにした。
性分的には、博打なんて好きじゃない。
本来ならば、説明がつけられないことに望みなんて託さない。
だが、叡智の塔の試練は何度でも挑戦可能だ。
そして、どうせこのままでは失敗するだけなら、博打でもなんでも試してみる方が――むしろ合理的というものだ。そうだろう?
だから二度目のヘヴィカスタマイズ〈ファイア〉と、その過程と結果を冷徹に観察した上で、俺は仲間たちに大声で呼びかけた。
「ヒイロ! モモ! リンゴ! 四人で一斉射を仕掛けるぞ! 最大火力をぶつけてやれッ」
「おう任せろっ!」
「このアタシの見せ場ってワケね!」
「みんな、がんばろうねっ」
ヒイロたちは逡巡なく俺の呼びかけに応えてくれた。
「「「「クーン・ウーニヌー・ティルト・ウン・プレイ・エ――」」」」
四人で長大な呪文の詠唱を始めた。
専守防衛に参加していたヒイロたちが、攻撃に転じたため、吹雪のダメージ量に対して回復魔法が追い付かなくなる。
メンバー十人全員が、みるみる〈HP〉を削られていく。
だが、俺たちカーマイナー教室の四人は、激痛に耐えて呪文の詠唱を続けた。
「自殺行為よ! 今すぐ防御に徹しなさい!」
オリーヴィアが金切り声で命じてきたが、俺たちは黙殺した。
「「「「――フラン・イ・レン・エル!」」」」
そして四人で呪文を完成させた。
四人で烈火を撃ち放ち、〈ブリザード〉に直撃させた。
俺はカーマイナー先生にひろわれ、魔法の修業を始めて以降、「己の裡に眠る魔力を、自在にコントロールする」という皮膚感覚を、日に日に確かなものにしていた。
だから同じ〈ファイア〉でも、日に日に威力が増していた。
そして、今や俺のヘヴィカスタマイズ〈ファイア〉は――理論上はおかしい話なのだが――モモとリンゴのヘヴィカスタマイズ〈ファイアⅡ〉の威力を凌駕していた。
だがヒイロの放ったヘヴィカスタマイズ〈ファイアⅢ〉の火力は、俺たち三人のそれを合わせたよりも、さらに数倍した。
そんな俺たち四人の攻撃魔法を浴びて――〈ブリザード〉は一瞬で蒸発した。
ダメージを与えてもすぐに回復してしまう精霊が相手ならば、一瞬で〈HP〉の全てを削り切ってしまえばいい。
俺一人では不可能でも、俺たち四人なら――攻撃魔法のヘヴィカスタマイズ化を習得したカーマイナー教室ならば、それができるはずだと。
俺の効力評価に狂いはなく、予測通りの結果となったのである。
オリーヴィアと揉めた時に、リンゴが俺のことをフォローしてくれたが……今回の試練に必要だったのは、ひとえに魔法の技術だったな。
ただし「どんな魔法を習得しているか」なんて表層的な技術ではなく、「同じ魔法でもどれだけ使いこなすことができるか」という、いわば奥義に類する技術だが。
『〈ブリザード〉消失により続行は不可能、すなわち試験突破と認める』
とジニアスアバターからも正式にアナウンスがあった。
「よっしゃーーーーーー!」
「これがアタシたちの実力ってワケ!」
「ナナシ君の判断もよかったわっ」
ヒイロ、モモ、リンゴが俺に抱きついてきて、揉みくちゃにされた。
そんな俺たちカーマイナー教室を、ジェリド教室の面々が呆然と見ていた。
あんなに口やかましかったオリーヴィアでさえ、声を失っていた。
そして俺たちの試練突破を祝福するように、真っ白な雪雲が消え去り、眩い晴れ空が覗いた。
ははっ! 叡智の塔も粋な真似をしてくれるじゃないか。
次回もぜひお楽しみに!