第六話 奸智と叡智(ケンキドゥ&ナナシ視点)
前回のあらすじ:
〈叡智の塔〉が秘めた殺意にさらされるも、ナナシの拳で粉砕!
三十階のスピード攻略に成功する。
私――“十三賢者”の一人にして若き教育大臣、賢者の学苑の長であるケンキドゥは、客を招いて会食していた。
場所は王城のほど近くにある、私の屋敷だ。
相手は同じ“十三賢者”の一人で、経済大臣を務める老人。
今日の晩餐は、私の自慢のお抱え料理人に、私が手ずから指示をして作らせた。
葡萄酒も私が厳選したものだ。
それらに舌鼓を打ち、経済大臣もご満悦の様子。
このご老人もかなりの資産家で美食家だが、私の趣味の良さには感服していることだろう。
そうやって散々もてなした後に、私はいよいよ本題を切り出す。
「貴殿をお招きするのは久方ぶりのことですが、粗餐にご満足いただけましたかな?」
「もちろんですとも、ケンキドゥ殿。さすが四十のお若さで、“十三賢者”に名を連ねるだけのことはおありだ。博覧強記は当然として、粋人でもいらっしゃる」
「それはよかった。いや、心配しておったのですよ。昨夜の接待に比べたら、取るに足らぬとご満足いただけないのではないかと」
「……はて。なんのことでしょうかな、ケンキドゥ殿?」
「フフ、お惚けあるな。ゆうべもお楽しみだったのでしょう? いくつもの商会から秘密の歓待を受け、酒池肉林の挙句に美女たちと褥をともにしたとお聞きしましたが?」
「はて。なんのことかわかりかねますな」
私がズバリと指摘しても、経済大臣は顔色一つ変えずに繰り返した。
並の胆力の持ち主なら、いきなり秘密を暴かれてギクリとなっただろうに。
さすがは私と同じ“十三賢者”の一人。海千山千の古狸だ。
だが――
「アナトン、ギメエラ、ゼール、トーリッド、ナシェル――」
私がご老人を接待した商会の名を一つずつ暴いていくごとに、さしもの古狸もだんだんと蒼褪めていく。
「き、貴様、なぜそれを知っているっ!」
「フフフ。さあ、なぜでしょうな」
無論、私の手に神にも通ずる〈攻略本〉があるからだが、わざわざ教えてやる必要はない。
「いけませんな。経済大臣の立場を利用して、懇意の商会に大小様々な便宜を図り、その見返りに秘密の歓待や裏金を受け取る――明るみになれば、貴殿も失脚では済まない。そのお年で牢獄生活はさぞ辛いものとなるでしょうな」
「わ、ワシを脅すのか、若僧!」
「いえいえ、これは脅迫ではありませんよ。ただ事実を口にしたのみです」
この賢者の国には、貴族制度は存在しない。
偉大なる最初の〈賢者〉にして初代国王ジニアスが、厳禁したからだ。
他国では愚にもつかぬ輩が世襲によって強大な権力を得、また好き放題してもよほどのことでなければ罪にも問われぬという。
しかし、ここガクレキアンキは違う。
私のように絶大な実力を持っていなければ“十三賢者”には任命されないし、またたとえ“十三賢者”であろうともこの老人のように罪を犯せば罰せられる。
なんと先進的なことであろうか。全てはジニアス陛下のご聡明とご見識の賜物。
嗚呼、素晴らしきかな我が祖国よ!
「わ、ワシを告発する気か、ケンキドゥ!」
「それは貴殿の態度次第というものですな」
「……ワシに何をさせるつもりだ?」
「なに、簡単なことですよ。次の“大賢者”にはぜひ私に一票を」
私がほくそ笑むと、ご老人は目を剥いて驚いた。
この賢者の国には貴族制度が存在しないのと同様に、王家も存在しない。
これも初代ジニアス陛下が、世襲による戴冠を厳禁したからだ。
そうしたところでどこからも批難は出なかっただろうに、自分の子孫たちに決して王位を継がせなかったからだ。
ではどうやって国王を決めるかというと、四年に一度行われる“十三賢者”たちの投票により、メンバーの中から一人を選んで決定する。
おかげでガクレキアンキでは、暗愚が王になることはない。
どこまでも実力主義が貫かれているということだ。
ゆえにガクレキアンキの国王は、民に広く畏敬され、“大賢者”と呼ばれることも多い。
私自身、その呼び名の方が好ましく思っている。
そして、私こそが次の“大賢者”に相応しいと――この偉大な国をさらに偉大なものとする実力を持っていると、自負している。
「わ、わかった……。次の選挙では貴様に票を投じよう」
経済大臣はがっくりとうなだれると、自己保身のために私に屈服した。
「だがケンキドゥよ、私と貴様の票を合わせてもたったの二票だ。貴様のような貫目の足らぬ若僧に、他の誰も票は入れまいよ」
「ご心配は無用。私が次の“大賢者”になるための策は、既にここにある」
私はそう言って、自分の頭をつついてみせた。
それでご老人は、何か不気味なものを目の当たりにしたかのように刮目した。
私の醸し出す迫力に呑まれた。
貫目の足りぬ若僧だと?
それが全くの不見識から出た言葉だと、このご老人も気づいてくれたようだな!
経済大臣が肩を落として帰宅した後、私は書斎に籠った。
私が一人きりになるのを待って、〈攻略本〉を抱いた知恵の神霊ナルサリューが、スーッと姿を現す。
「まさに赤子の手をひねるというやつだな。あの海千山千のご老人を、こうも容易く降すことができるとは。いささか拍子抜けだよ」
「…………」
私が軽口を叩くと、ナルサリューは聞こえなかったかのように無言、無表情を貫く。
まあ、神霊という超常の存在に、人間臭い反応を求めるのも愚かしい話だ。
よろしい、ならば実のある話をしよう。
私は気分を害することもなく、ナルサリューに依頼する。
「次は建設大臣ラパンの項を読み聞かせてくれ」
「承知シタ」
ナルサリューは感情のない声で応答すると、抱えていた〈攻略本〉を私の前に広げる。
私と同じ“十三賢者”の一人にして建設大臣の、ラパンについて書かれているページをめくって開く。
ナルサリューの読み上げを心地よく聞きながら、私は昼間のことを思い返す。
今日の学苑はちょっとした騒ぎだった。
カーマイナー教室――いや、私が見込んだヒイロ君が、〈叡智の塔〉を三十階まで攻略して帰還したというのだ。
やはり私の目は間違っていなかった。
この私の薫陶を得るや、こんな短期間で一気に十階も登塔してみせたのだからな。
ヒイロ君ならばきっと遠からず、〈叡智の塔〉の最上階まで到達してくれるに違いない。
「フフッ。何もかも順調だ」
全ては私の頭の中にある計画通り。
塔のことはヒイロ君に委ね、私は私の為すべきことに邁進しよう。
「『――らぱんハ近年、たるて通リニ囲ッタ愛人ヲ溺愛シテオリ――』」
「そうか、ならば将を射んと欲すれば、まず馬を射よだな。今度はその愛人の項を読み聞かせてくれ」
「承知シタ」
経済大臣殿同様に、建設大臣殿にも私に票を投じてもらうとしよう!
◇◆◇◆◇
俺――賢者の学苑生ナナシは、学苑の図書館で今日も読書に耽っていた。
ヒイロたちと皆で話し合った結果、〈叡智の塔〉の攻略は三十階まで登塔できたことで一段落つけていた。
ごく短期間で成果を出せたことで、ケンキドゥへの一旦の面目を果たせたこと。
命懸けの試練を長期間続けるのは、メンタルをやられてしまう恐れがあること。
何より塔の攻略に血道を上げるあまり、学苑での勉強や修業を怠っては、かえって効率が悪いだろうという判断だ。
俺たちはまだまだ学生、成長途上の身だ。
学苑でさらなる実力を養うことができれば、その分だけ塔の試練の攻略にも役立つ。
かえって早道になる可能性が高い。
というわけで、俺は大好きな読書に午前の早いうちから耽っていた――のだが、今は外が騒がしくて集中を欠いていた。
だから仕方なく、一息入れることにする。
図書館二階の窓から、その騒動を眺める。
騒ぎの中心はヒイロだった。
主に魔法の実験、実践に使われる広場で、ついにモノにできた新魔法のお披露目をしようとしている。
噂が噂を呼んだか、大勢の学苑生が集まり、ヒイロを遠巻きにしているが――本人の性格というものだろう――ヒイロは得意満面でこそあれ、全く気後れした様子がない。
広場には年代物の魔法装置がいくつも設置されていて、用途に応じて扱うことで、様々な魔法の効力をいろんな角度から計測することができる。
ヒイロが起動させたのは、攻撃魔法の威力を測定する装置だ。
およそ三メートル間隔で縦一列に設置されていて、それぞれが魔力の障壁を出現させる。
これを攻撃魔法で撃ち抜き、何枚破壊できるかでおおよその威力も測定できるという仕組みだ。
余談だが、この広場にある測定装置は全て、大昔に魔女の国から輸入したものだという。
この賢者の国とはお隣同士で、しかも魔法を貴び、魔法文明を誇るお国柄同士、両国は昔からライヴァル関係にある。
にもかかわらず自国で測定装置を開発できず、ヴィヴェラハラから取り寄せるしかなかったのだから、当時の学苑関係者の忸怩たる想いや、想像に難くない。
まあ、だからこそその歴史は大っぴらになってなくて、今日では学苑生のほとんどが、これらの魔法装置は国産のものだと端から信じて疑っていない。
その点は滑稽なことだと思いつつ――そんな自国の恥ずかしい歴史を完全に隠蔽したり改竄したりせず、図書館で調べればすぐわかるようになっている点では、知識と公正を重んずるガクレキアンキという国の美点であり、プライドだとも思う。
話を元に戻そう。
ヒイロが衆人環視の中、いよいよ魔法のお披露目を始めた。
「フラン・イ・レン・エェェェェェェェル!!」
得意絶頂、意気揚々。呪文を唱える大声が、ここまで聞こえてきた。
そして撃ち放たれる、盛大極まる猛火。
展開された十枚の魔力障壁を尽く呑み込み、破壊し尽くした。
〈叡智の塔〉の攻略により得た様々な経験で、ついに自在に駆使できる域にまで至った〈ファイアⅢ〉であった。
以前はまだ焦ってミスすることもあって、見栄っ張りなヒイロは息をするように発動できるまで、俺たち以外の誰にも披露していなかったのだ。
「スゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッ!!!!!」
「マグママイン先生でさえ八枚までしか壊せない障壁を、全部壊しちゃったなんて……」
「まぢかよ……っ。ヒイロの奴、本当に〈ファイアⅢ〉を習得したのかよ!」
「学苑の先生たちだって、誰もⅢ系魔法は使えないんでしょ?」
「というか、世界で五人くらいしか使えないんじゃなかった?」
「否、その常識はもう古い。ヴィヴェラハラには、さらに幾人も使い手が隠れていたことが、先の東西魔女戦争の様相から明らかになっている」
「うっせーよ! ヒイロがスゲエってことには変わりねえだろうがッ」
「あと軽率に魔女の国褒めんなッ」
「しかもヒイロはまだ十七歳だぞ!? 十代でⅢ系魔法を習得できた奴なんて、ガクレキアンキの歴史でも実在すんのか!?」
「これが魔法の天才……」
と――遠巻きにしていた学苑生たちも、ますます騒然となる。
また感極まった様子でヒイロに駆け寄り、絶賛する者も少なくない。
特に女生徒たちに黄色い声でキャーキャー騒がれ、ヒイロは鼻の下を伸ばしていた。
そのだらしない顔を、俺は図書館の二階から苦笑混じりに眺める。
すると、やってきたモモとリンゴが俺の左右に立って、
「フンッ。何よ、あの顔! キンモ~。カッコワル~」
「ふふっ。妬いてるモモちゃんも可愛い」
「だ、誰が嫉妬してるってのよ!?」
「もちろん、Ⅲ系魔法なんて習得しちゃったヒイロ君に、負けず嫌いのモモちゃんは嫉妬しちゃうよね~?」
「うっ……」
「あ、それとも女の子に囲まれてデレデレしてるヒイロ君のことが、イラッとしちゃいました~?」
「リンゴ姉!」
姉妹喧嘩ならよそでやって欲しい……。
俺は咳払いをし、図書館では静かにすべきだと二人を諭そうとする。
だがその寸前、広場の騒ぎに変化が起きる。
多くの生徒がヒイロのⅢ系魔法習得に感化され、発奮したのだろう、
「うおおおおお、オレだって一日も早く〈ファイアⅢ〉を習得してみせるぜ!」
「アハハ……でも私たちは、まず〈ファイアⅡ〉が使えるようにならないとね~」
「今日のマグママイン先生の講義には身が入るなっ」
「ヒイロくんも私たちに手とり足とり教えて~~~ン」
とワイワイ言いながら、ヒイロを囲んでゾロゾロと移動していく。
「ふふっ。わたしたちも行きましょうか」
「マグママイン先生の講義は貴重だから、ナナシを呼びに来てあげたのよ! 優しいアタシたちが!」
リンゴとモモが誘ってくれる。
「ありがとう。だがすまない、俺はここで自習を続けるつもりだ」
賢者の学苑では、どの教師がなんの講義や実習を行うかの時間割が、あらかじめ発表されている。
生徒たちはそれらに自由に参加できるし、あるいは受講しないという選択も好きにできる。
「マジで言ってんの、アンタ!? マグママイン先生は攻撃魔法の第一人者なのよ!? それに学究肌だから、学生の指導より自分の研究優先で、滅多に講義を開いてくれないのよ!? その貴重な一回を不意にするつもり!?」
モモが絶対アリエナイとばかりにまくし立てる。
もちろん、彼女は口が悪いだけで根は善人で、これも俺のためを思って言ってくれることだと、理解している。
「だがマグママイン先生は、〈ファイアⅢ〉を使えないんだろう?」
「そりゃ魔法の実践には、魔力の大小とかそれをコントロールするセンスとか、知識以外のものも関わってくるから……。でも造詣なら絶対、この国で一番よ! ヒイロなんていくら〈ファイアⅢ〉が使えるようになったって、天才肌だから完全に魔力とセンス頼りで、他人に教えたりできないんだから!」
「マグママイン先生の造詣が本物なら、頭を下げてでも教わりたいがな」
「先生が大したことないっていうの!?」
「ヒイロが余裕で十枚壊した障壁を、八枚しか破壊できないんだろう?」
だったらここで自習した方がいい。
この素晴らしい蔵書の数々の方が、その先生より多くのことを俺に教えてくれる。
モモは納得のいっていない顔だったが、リンゴがフォローするように訊いてくる。
「ナナシ君は、今日は何をお勉強していたのかしら?」
「引き続き呪文の解読や、魔法一つ一つの由来・歴史を調べている」
「ハァ!? それになんの意味があるワケ!? 呪文なんて丸暗記すればいいだけだし、ましてや由来とか魔法の修業に関係ある!?」
モモがますます納得がいかないとヒステリーを起こす。
「確かに丸暗記するだけで魔法を使えるようにしてくれた、先人の努力には敬意を払うべきだ。しかし、自分で改めて調べるのも面白いぞ。例えば今日、俺たちが使っている呪文の多くは、先人の研鑽によってかなり省略されているのを知っているか?」
「本当はもっと長ったらしい呪文だったってこと? だったらナニ!? そんなの不便なだけじゃないのよ!」
「それがそうでもないから面白いんだ」
論より証拠だ。
あまり見せびらかすものではないが、モモの善意への返礼、そして一層の成長を促すために一肌脱ごう。
◇◆◇◆◇
というわけで俺はモモとリンゴを連れて、誰もいなくなった実験広場まで来た。
先ほどヒイロが使っていた、攻撃魔法の威力を測定する装置を起動させた。
手前から奥へと並ぶ十枚の魔力障壁と対峙し、呪文を唱える。
使うのはレベル1で習得できる〈ファイア〉だ。
俺も〈叡智の塔〉での経験を経て急速に成長し、〈フリーズ〉や〈サンダー〉を使えるようになっていたが、敢えてヒイロに揃えた。
「クーン・ウーニヌー・ティルト・ウン・プレイ・エ――」
と詠唱を始めた俺に、モモが戸惑いの、リンゴが興味津々の色を顔に浮かべる。
二人とも聞き覚えのない呪文、フレーズだろう。
だが太古の〈ファイア〉はこうだったという。
そして今日の〈ファイア〉の、推定で五倍は威力が高かったと。
「カルレン・イ・ティルティ・ア・レウン・プレ――」
さらに今日の〈ファイア〉よりも、〈会心率〉が高かったと。
「ヌー・ア・レレン・オン・ウェア――」
このフレーズは太古の〈ファイア〉にはない。
少しずつ解読を進めている俺が、アレンジに加えたものだ。
このフレーズを足すことにより、攻撃範囲を縮小し、代わりに威力の密度を高めることができる。
そう――呪文や魔法の由来・背景・歴史への理解を深めることで、同じ〈ファイア〉でも自由自在にカスタマイズできるのだ。
最初はただの好奇心だったが、図書館に通っているうちに、俺はそのことに気づいた。
他にも誰か、気づいている者はいるかもしれない。
だが少なくともこの学苑では、そうは教えられていない。
そしてヒイロやモモのように、生徒の誰もが教師の講義を頭から鵜呑みにし、己の創意工夫を加えようとは考えない。
俺は学苑で教えられるものよりも、遥かに長い長い呪文を唱え続けた。
その後に学苑でも教えている通りの、一般的な呪文に繋げた。
そして、最後に締めくくった。
「――フラン・イ・レン・エル!」
魔力の障壁へ向けて、〈ファイア〉を撃ち放つ。
燃え盛る炎が、展開された十枚を尽く呑み込んでいく。
そして、破壊し尽くすことに成功した。
Ⅰ系魔法でこの威力だ。
現代風に言うならばさしづめ、ヘヴィカスタマイズ〈ファイア〉とでも名づけようか。
「マグママイン先生から学ぶことは何もない」
実証完了。
振り返った俺を、モモが愕然となって凝視し、リンゴが好奇心いっぱいに目を見開いていた。
「スゴイわ、ナナシ君! これってヒイロ君の〈ファイアⅢ〉に匹敵するってことかしら!?」
「いや、十枚までしか障壁を展開できないこの装置では、測定限界があるだけだ。ヒイロの〈ファイアⅢ〉はもっと威力があった。対して俺のヘヴィカスタマイズ〈ファイア〉では、十枚を破壊するのがギリギリのところだろう」
「ふ、フンッ。ナナシにかかればヒイロも形無しってことね!」
「いや、実用性という意味では短い呪文でとてつもない威力を出せる、ヒイロの魔法の方が当然、優れている。対して俺のやり方は何をカスタマイズするか状況から必要を見定め、またフレーズを足す時間を余分に捻出する必要がある」
だから命懸けの実戦で試してみる気にはならず、塔の攻略時にも使わなかった。
俺の修業と研鑽はまだまだだと、謙遜抜きに説明する。
「ただ、呪文を解読したり魔法の背景を知ることにだって、意味があることを二人には知って欲しかったんだ」
「うふっ。早速、ヒイロ君にも教えてあげないとだねっ」
「待ってよ、リンゴ姉! 先にアタシがマスターして、散々自慢してからよ、あいつに教えるのは!」
――と。
この日から俺たちカーマイナー教室は、魔法を表層的に習得するのではなく、より深く理解する研究を始めた。
次回もお楽しみに!