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第三十六話 慕情と友情

前回のあらすじ:


エリスとの激闘が続く中、ショコラが強力な装備をまとって参戦!



『ダンスのお相手ならこのワタシが務めて差し上げます!』

「そう、あくまであたしの恋路を邪魔するというわけね?」

『マグナス様には既に未来の奥方様がいらっしゃると申し上げたでしょう!』

「でも、略奪愛って燃えない?」

『ステキ! ――ではなく、フラチでございますよ、エリス様!』


 ショコラは風を操って素早くエリスの背後をとり、雷を操って激しくエリスの背中へ拳打とともに叩き込む。

 近接攻撃なので、エリスもこれを魔力で逸らすことはできない。

 弱点属性の攻撃を浴び、全身を弓なりに逸らして悲鳴を上げる。


『やった! ワタシ、通用してますっ』


 とショコラもガッツポーズ。

 しかしそれが油断というもので、エリスから反撃の爪をもらい、右の肩口にメイド服ごとぱっくりと傷を刻まれる。

 風による高速飛行手段と、雷による追加攻撃手段を約束してくれるシュトルムヴィントだが――そこはやはりエアゴーレムの欠点で――防御能力(ダメージカット)に関しては一切、貢献しない。

 レベル25のショコラが、レベル44のエリスの爪を何度も喰らっていれば、バラバラにされかねない。


 ゆえに俺が地上から支援に回る。


「ア・ゲンク・イ・レーイ・ティルト・ヨーク」

「ア・レン・ムウラ・オン・レン」


 と――矢継ぎ早に呪文を唱え、〈アジリティⅡ〉や〈マジックアーマーⅡ〉等で、ショコラに強化魔法(バフマジック)をかけていく。

 一方、


「プレ・レン・レイ・ヨーク・シー」

「カル・ハー・エイ・ヌーン」


 と――エリスに対し、〈パラライズⅡ〉や〈バインドⅡ〉といった状態異常魔法(デバフマジック)をかけていく。

 これらは発生させた何かを投射するわけではなく、対象に直接かける魔法であるため、“魔海将軍”の力といえど逸らすことはできない。

 無論、俺とエリスはレベル差が4もあるため、抵抗(レジスト)されてしまうこともある。

 だがそれなら、かかるまで唱え直せばいいだけの話だ。

 俺は〈呪文詠唱練達〉スキルを会得しているから、素早く連続して呪文を唱えるのも得意だし、何よりショコラが空中戦でエリスを釘付けにしてくれているため、集中することができる。


 そしてショコラが魔法で強化され、エリスが状態異常で弱まれば、彼我のレベル差を大きく埋め合わせることができる。

 白兵戦素人のエリスがせっかくのレベルを活かしきれていないことや、〈天界の宝石:雷閃〉の効力でシュトルムヴィントの電撃がすこぶる効くこともあり――ショコラは丁々発止と、対等以上の見事な戦いぶりを見せていた。


 エリスも半ば悲鳴じみた声になって、


「次から次へと、嫌らしい手を重ねてくるわね、マグナス!」

「あらゆる手段を使って勝ちにいくと言っただろう?」

「わかってるわよ! 誉め言葉よ!」


 実際、エリスはこれだけ追い詰められても、はっきり喜色を浮かべていた。

 同時に、何かを待ちわびるような顔つきをしていた。

 

 その、まるで恋する乙女の如き情熱的な表情。

 ショコラと戦いながらも時折、俺へと向ける切望の眼差し。

 あまりに強く、激しく、何より赤裸々な感情に――エリスが何を待ちわびているのか、伝わってきた。

 人情の機微に疎い俺でさえ、わかりすぎるほどにわかった。


 すなわち、チェックメイトとなる最後の一手だ。


「いいだろう。確かに頃合いだ」


 エリスの〈MP〉(そう、生命力(〈HP〉)ではなく)ももう充分に削った。


 俺は懐に忍ばせていた、〈天界の宝石:鷹眼(たかのめ)〉を取り出す。

 これはエルドラ・カリコーンを討って得た、戦利品(ドロップアイテム)だ。

 俺がルクスンの“魔弾将軍”に次いで、“魔炎将軍”を討つと決めたのも無論、伊達や酔狂ではない。

 この〈:鷹眼〉が“魔炎将軍”特効の〈天界の宝石〉ゆえに、ヴィヴェラハラへとやってきたのだ。


 右手に持ち、上空のエリスへと〈天界の宝石:|鷹眼〉を掲げる俺。

 するとだ。

 エリスのちょうどヘソの下辺りに、輝く紋様が浮かび上がる。

 あれこそが奴の魔力の源。

 すなわち魔物としての急所を、〈:鷹眼〉が浮かび上がらせたのだ!


「ムウラ・ア・ヌー・ア・ベイン・オン・レン・ティル」


 俺は長い呪文を唱え、ヘヴィカスタマイズした〈マナボルトⅣ〉を、右手に〈保留/ストック〉する。


「シ・ハー・ア・デル・エル」


 そしてヘヴィカスタマイズした〈シェイドⅣ〉を、左手に〈保留/ストック〉。


 その両手を合わせ、〈魔拳将軍の指輪〉の力を借り、合体魔法を練り上げる。

 さらに〈魔嵐将軍のブーツ〉の力で、あたかもそこに不可視の階段が存在するかの如く、上空へと駆け上がる。

 そこにいるエリスへ向けて、まっしぐらと!


「あはっ、なんてステキ!」


 エリスはまるで塔の上で想い人を待つ、囚われの姫のような表情を浮かべた。

 ショコラとの交戦も忘れ、ただ俺へと右手を差し伸べた。


『今です、マグナス様!』


 ショコラがその隙を見逃さず、空気も読まず(だがそれでいい!)、手筈通りにエリスを背後から羽交い絞めにした。


 俺は一息に肉薄すると、エリスの急所である紋様へと狙いを定めた。


「やっぱりあたし――あなたのことが好きみたい」


 同時にエリスが俺の耳元へ唇を寄せ、そう囁いた。


 俺はそれに何も答えない。

 代わりに〈武道家〉の体術を用い、エリスの急所紋へ、掌打とともに合体魔法を叩き込んだ。


 魔法の神霊ルナシティのみが可能としたという、〈マナボルトⅣ〉と〈シェイドⅣ〉を合わせたこれは、神話の故事に事例を当たれば、〈フィニッシャー〉――とその名が言い伝えられている。

 膨大な〈MP〉を一発で刈り取り、対象を〈激昏睡〉状態に陥らせる、合体魔法の中では最も地味だが極悪な秘術である。


“八魔将”二体の魔力を継承した妖人は、糸が切れた人形のようにがっくりと意識を失った。


    ◇◆◇◆◇


『殺さなくてよかったんですか、マグナス様?』

「物騒な言葉を使うなよ、ショコラ」


 地面に横たわらせたエリスを前に、俺は半眼で小言を言った。

 否――エリスを後ろに、というべきか。

 現在、ショコラの手で裸に剥いて、身ぐるみを剥いでいるところだった。

 まあひどい絵面だ。

 倫理的に何重もの意味で直視しがたい光景であり、俺だけそっぽを向いているのである。

 

『持ってましたよ、マグナス様! 〈天界の宝石:細波〉に〈:陽炎〉……それに〈魔炎将軍の魂〉とか他いろいろ、戦利品(ドロップアイテム)がどっさりと!』

「そうか、報告ありがとう。物色がすんだらエリスに服を着せてやってくれ」

『こんな女、このまま転がしておけばよくないですか?』

「俺の目によくない」

『アリア様に密告したりしませんから、鑑賞なさったらどうですか? 率直に申し上げてこれほどの美乳、レアですよ? 一生の思い出クラスですよ?』

「いいから早くしまいなさい!」

『はーい』


 俺が怒鳴ると、ショコラが「もったいないなあ」「マグナス様はこういうとこチキンだなあ」と言わんばかりの態度で、エリスにドレスを着せていく気配がした。


 それが終わるのを待ち、俺は廃城を後にしようとする。

 もう用はすんだ――と思ったのだが、


『本当に殺さなくていいんですか? 害獣(モンスター)ですよ?』


 ショコラが重ねて確認してくる。


『まさかこの女に情がわいたんですか? なんともマグナス様らしくない甘々ご判断ですね。やっぱり美乳に未練がわいたって言われた方が、納得なんですけど!」


 言葉遣いこそふざけているが、口調は真剣そのものだ。

 だから俺も観念し、胸のうちを明かす。


「ルクスンの城が陥落した時のことを覚えているか?」

『エルドラとかいう〈光の戦士〉のくせに“魔弾将軍”に魂を売ったクズ野郎が、反乱を起こした時のことですね?』

「そうだ。その時、エリスは謀反者の魔手から、ベアトリクシーヌ公女を救った。公女が言うには、エリスはレイに借りが一つあって、それを返すために公女だけは守ったそうだ」

『そういえばそんな話も聞きましたね!』

「しかしレイからすれば借りを返してもらったどころか逆に、ベアトリクシーヌ公女を救われて、エリスに大きな借りを作ったと考えるだろう」

『わかります。レイ様は底抜けのお人好しですものね!』

「レイがその借りを返す前に、俺がエリスを殺したら、きっとレイが悲しむ」

『それは……そうですね』


 だから俺は、エリスを殺さない。

 この女に情けをかけるのではなく、レイとの友情のためにだ。


『――ってマグナス様は「言わせんな、恥ずかしい」心情だったのですね! 皆まで聞いちゃってゴメンナサイ』


 ショコラは自分の頭を小突いて謝罪した。

 本当に反省しているのか……?


「……まあそういうわけだ。帰るぞ」

『はい、マグナス様!』


 ヴィヴェラハラでやるべきことは全て終わった。

 後は世話になった人たちに、挨拶をするだけだ――

来週もお楽しみに!

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