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第三十三話  VS“魔炎将軍”(エリス視点)

前回のあらすじ:


エリスが”死者の女王”を裏切り、”魔炎将軍”と接触を果たした。

「悪いが僕は、遊ぶ時いつも全力で興じる主義でね!」


 炎の道化の生首――“魔炎将軍(メヘスレス)”は、たわむれかかるように先制攻撃をしかけてきた。

 二又に分かれた帽子代わり――双頭の炎龍が、熱線めいたブレスを吐きかけてくる。


「わかるわ! 全力じゃないと面白くないものね」


 あたしは不敵に微笑むと、バーラックから継承した魔力を解放する。


「そしてお生憎様、あたしに飛び道具は効かないわよ?」


 迫る二条の熱線の軌道をねじ曲げ、左右外側へ逸らそうとする。


 だけど……できない!?

 熱線は一向に曲がることなく、交差するようにあたしを直撃した。


「あああああああああああっ……!」

「ははは、飛び道具がなんだって?」


 苦悶の悲鳴を叫ぶあたし。

 そのあたしを嘲笑う“魔炎将軍”。


「この炎は全て、僕の霊体。だから今の熱線も、僕の腕のようなもの。つまりは近接攻撃さ!」

「腕? 触手の間違いでしょ、キモい奴!」


 あたしは痛みを誤魔化すため、強がりで叫んだ。

 こいつの攻撃能力、“魔海将軍”や“魔弾将軍”より遥かに上なんじゃない!?


「ははは、美女の強がりは好きだよ。きれいだからね!」


 そのあたしを嬲るように、“魔炎将軍”は再び双頭龍の顎門(あぎと)から熱線を放ってきた。


「あたしに飛び道具は効かないって言ったでしょ!」


 あたしはもう一度、遠隔攻撃逸らしの魔力を解放する。

 ただしさっきよりも強く、振り絞るように!

 そして迫る二条の熱線を、渾身であらぬ方へと逸らすことに成功する。

 あたしだって“八魔将”の力を受け継いだんだし、防御能力に関しては自信があるのよ!


「ね?」


 と小さく舌舐めずりする、あたし。

 軌道を逸らされた熱線が、それぞれ書棚に直撃して――多分、貴重な――書物をいっぱい燃やし尽くしちゃったけど、まあ悪いのはこんなところで火を使った奴よね?


 ともあれ――

 今、こいつがベラベラしゃべってくれたことが、ヒントになった。

 普通、炎の攻撃魔法や魔力を撃ち放つ場合、「炎を発生させる」「発射する」までが術者のコントロール下で、「放った後から命中するまで」はもうコントロール外ということなのだろう。

 だからどれだけの威力を秘めていようとも、あたしの魔力で簡単に逸らすことができる。

 これはマグナスの魔法でさえそう。実証済み。

 一方、“魔炎将軍”が吹く熱線ブレスは、放射後もずっと奴のコントロール下にあるに違いない。それこそ飛び道具を撃つんじゃなくて、触手を伸ばすみたいに。

 だから、簡単には曲げられない。

 あたしも魔力を振り絞り、“魔炎将軍”の魔力を上回らなくちゃいけなかったってこと。


「ははは、面白い曲芸を見せてもらった!」

「よく言うわ、ピエロみたいな顔をして!」


 道化の顔で哄笑しながら、双頭のドラゴンが三たびブレスを吹いてくる。

 あたしは再度その熱線の軌道を逸らしながら、突撃する。


“魔炎将軍”が笑っていられるのも、本当に余裕があるからだ。

 だってそうでしょ?

 さっきもベラベラとヒントをしゃべってくれたのは、こいつが完全に「遊び」のつもりだっていう証拠。

 ふざけた奴!


 これは是非とも、こいつの表情が歪むところを見てみたくなったわね。

 だからあたしは背中から羽を伸ばし、翔けるように一瞬で距離を詰めて、刃物のように伸ばした右手の爪で、道化の顔面を引き裂いてやる。


「熱づっ!?」


 だけどダメージを負ったのはあたしの方だった。

 あたしの必殺の爪は、炎でできたあいつの霊体をすり抜けるだけ。

 逆にひどい火傷を負わされる始末。

 まあ、火の中に手を突っ込んだらそうなるわよね! っていう当然の結果。

 あたしはこの肉体を自在に変化させる魔力の応用で、火傷を治しつつ舌打ちする。


 でもさあ、やってみなくちゃわからないじゃない?

 こいつら魔物(モンスター)って、どいつもこいつもデタラメなんだし。

 そもそも体が炎でできてる生き物って何よ? って話だし。

 案外、殴ったら効くかもって思ったのよ。


 一方、“魔炎将軍”はこうなるとわかってたのだろう。

 あたしの爪を避けようともせずに嘲笑っていた。


「それはさすがに芸がないよ、“魔海”の」


 と自分は芸を見せるかのように、攻撃手段を変えてきた。

 なーんて言っても、今度は道化の口から炎を吐いただけだけど。


 人間くらい丸呑みできそうなほど大きなその口から、凄まじい火勢のブレスが迸る。

 だけど、あたしにとっては双頭龍のブレスと違いはない!

 魔力を渾身で振り絞り、迫る猛火を左右に掻き分けるように逸らしてやるだけ。

 

「僕の攻撃をねじ曲げるその力、けっこう〈MP〉を食うだろう? 果たしていつまで持つかな!」


 口からブレスを吐き続けながら、ペラペラしゃべる“魔炎将軍”。

 その方がよっぽど芸があるじゃない。腹話術みたいで!


「あんたがブレスを吐くのだって、タダってわけじゃないでしょ?」


 どっちの魔力が先に尽きるか、根競べってやつだ。

 あたしはそう思ったけれど――


「違うな! 違う、違う。まったく見当外れだよ、お嬢さんっ」


“魔炎将軍”はあたしの思惑を読んだように、そしてゲラゲラと笑いながら間違いを指摘した。


「この図書室内、だんだん僕にとって快適な空間になってきたと思わないかい?」


 その言葉にあたしもハッとなった。

 遅まきながら気づいた。

 室内の気温が上がってる。それもどんどん、シャレにならないくらいに。


 これまた当たり前の話だった。

 この図書室は、さすが黒魔女王の城だけあって、地下深くとは思えないほど広い。

 それでもほとんど密閉された空間には違いない。

 だからこんな場所で“魔炎将軍”が火を吐き続ければ、室内の空気が際限なく加熱されていく。

 そして、あたしは自分に迫るブレスの軌道をねじ曲げることはできても、周りの空気(熱気)を遮断することなんてできない。


「じわじわと蒸し焼きにしてあげるよ、お嬢さん!」


“魔炎将軍”がゲラゲラと楽しげに、嗜虐的に哄笑した。


 これはマズい……っ。

 あたしは状況を打破するために突進し、メヘスレスの左目を狙って爪を振るった。

 けど”魔炎将軍”は余裕の態度。嘲弄するように、ふわりと後ろへ回避された。


「“魔海”のからどれだけ強大な魔力を継承しようと、そもそも戦い慣れしてないねえ」

「うるさいっ」


 嫌なところをズケズケと指摘してくれるわね!

 見た目だけじゃなくて、ホントに宮廷道化にでもなったつもり?


「君も水でも出して、消火に精を出してみたらどうかな?」

「うるさいっ」

「できないだろうね。“魔海”のもできなかったから! 魂を売った人間ども(キミたち)が“八魔将(ボクたち)”の魔力を継承する時、全く別の形の能力となって引き継がれるんだけど、不思議と苦手部分は共通するんだよ」


“魔炎将軍”が絶えず炎を吐きながら、言葉を織り交ぜてプレッシャーをかけてくる。


 ふふっ……。

 確かにこいつら魔物(モンスター)って連中は、本当に規格外。

 一体一体の個性も抜群。

 だからこそ、見ていて飽きない。面白い。

 人間なんかより、あたしはこいつらの方がずっと好き。

 だって、あたしはずっと退屈していた。

 周りにいる連中(ニンゲン)はみんな、どいつもこいつもありきたりで、あたしの想像から一歩も外にはみ出さない。しかもやることなすこと全部、あたしには予想ついちゃう。

 だからあたしは躊躇なくバーラックに魂を売ったし、魔物の仲間入りを果たした。


 でもね?

 あたしは魔物(あんたら)より、ずっと、もっと、面白い奴を見つけたの。

 そう――マグナスよ。

 人間の考えていることなんて、手に取るようにわかっちゃうあたしが、あいつのやることだけはちっとも予想できない。

 いつも、いつも、驚かされちゃう!

 このヴィヴェラハラで、女軍師としてあいつに知恵比べを挑んだから、よけいにでもあいつの凄さを、予想のつかなさを痛感させられた。

 だって、こっちは“死者の女王(ブラッククイーン)”たちの最強黒魔女連合軍を用意したってのに、マグナスったら見たこともない奇天烈ゴーレム軍団を用意してぶつけてきた。もうメタメタにやられた。

 でも、本当に見応えがある決戦だった。面白かった。

 負けて悔いなしってやつ。


 悔いはないけど……もっと、ずっと、マグナスのことを見続けていたいじゃない?

 もっと、ずっと、深く知りたいじゃない?

 だからあたしは、その資格を手に入れなくちゃいけない。

 もっと強い魔力を手に入れて、マグナスがずっと先に行ってもついていける――高みの見物を決め込むことができる、それだけの強さが必要なのよ。

 そのためにあたしは今、こんな地下の穴倉で、こんな熱い痛みに堪えているのよ。

 これってもはや恋じゃない?(棒)


「だからさ――“魔炎将軍”の魔力(あんたのつよさ)、あたしによこしなさいよおおおおおおおおおおっ!」

 

 あたしは炎のブレスを掻き分けながら、翔けるように突進した。


「ははは、本当に芸のない女だね! (物理)による攻撃なんて効かないって、まだわからないかなあ!」


“魔炎将軍”が双頭龍による熱線ブレスも合わせながら、嘲笑とともに炎を吐く。


 ふふっ。

 笑いたければ笑えばいいわ。

 いつまでもお遊び気分でいればいいわ。

 今度こそ芸ってやつを見せてあげるから!


 あたしは振り絞った魔力の一部を、右腕に集めた。

 バーラックから継承した力のおかげで、あたしは自分の肉体をあたかも液体のように自在に変化させることができる。

 あたしに向かってくる遠隔攻撃の軌道を、潮流のように操ることもできる。

 そして自前の魔力だって、自在に形や流れを操ることができるのよ!


 その能力を以って、あたしは渾身の魔力を右手に集中させ、螺旋状にまとわせる。

 さらに激しく回転させる!


「物理で殴ってダメならば、魔力で殴ればいいんでしょ!?」


 狙いは一点、“魔炎将軍”の左目よ!

 だって、さっき、そこを狙ったあたしの爪を、あんたはわざわざよけたものね?

 さりげなく装ってたけど、あたしには違和感ありまくりだったわよ?

 だって別の場所を狙った時は、わざわざあんたは避けなかったものね?

 爪による攻撃は効かないってわかっていても、念には念を入れて回避したってわけよね?


「つまりはそこに、“魔炎将軍”の急所が隠されてるってことでしょ!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」


 あたしは背中の羽で一度大きく羽ばたき、一瞬で加速すると、“魔炎将軍”の左目へ右腕を突っ込むように、純魔力の螺旋回転攻撃をお見舞いした。

 予想通り、奥に何か力の結晶が隠されていて、それを一息に穿ち、破砕した。

 きっと“魔炎将軍”の心臓に当たる部位だったのだろう。

 道化野郎はもう笑ってはいられず、凄まじい形相で断末魔の悲鳴を叫んだ。

 そして、それがメヘスレスの死に顔となった。

 最後は爆散して消滅した。


「ごめんね? あんたの言う通り戦闘経験はろくにないけど――バカな女じゃないのよ、あたし」


 あんたの魔物としての規格外の力はともかく、思考の方は手に取るように読みやすかったわよ?

 バカな人間たちと同じくらいね!


「さ、マグナスに会いに行きましょっか♪」


 あたしは全身に流れ込んでくる“魔炎将軍”の強大な魔力を受け容れ、その昂揚と快感に酔い痴れながら呟いた。

大変申し訳ありません、一週お休みをください!

次回は12月7日に更新いたします。

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拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
こちらピッコマさんのページのリンクです
ぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
[一言] 連載再開を3年も待ち続けたのですから一週間なんてあっという間です。無理をせずにゆっくりでいいですから完結に向かって頑張ってください。
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