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第三十話  新型ゴーレム軍団の力

前回のあらすじ:


黒魔女連合軍との決戦開始!

マグナスは新素材を使った画期的なゴーレムで対抗する。

 ケルベロスは平均〈レベル〉が二十と、かなり強力なモンスターだ。

 今や俺がレベル四十に到達し、“八魔将”どもの側近クラスともなるとレベル三十台はあるため、少し感覚が麻痺しているが――世間一般の常識に照らし合わせば、一匹で町一つ滅ぼすこともできる魔物である。


 それを兵として使役する“地獄の犬飼(ケルベロスハンドラー)”は、当然恐るべき魔女といえよう。

 ただし、やはりというか数はそろえられない。

 少数精鋭部隊である。


 ゆえに“地獄の犬飼(ケルベロスハンドラー)”に相対するイザベッラには、こちらも少数精鋭部隊を率いてもらった。

 カジウはクロム島ステンレス商会から〈クロム鉱〉を贖い、作ったクロムゴーレムたちである。

 金属製ゴーレムの代表格であるアイアンゴーレムに比べ、クロムゴーレムはさらに硬く、しかも軽量俊敏で、何より炎属性の攻撃に対し絶対的な〈耐性〉を持っている。

〈ミスリル銀〉のような天然の魔力を帯びた鉱物を素材にしたものを別格とすれば、金属製ゴーレムの中でも最強ではなかろうか?

 シャロンはクロム鉱を初めて扱う(というか初めて見た)にもかかわらず、見事なゴーレム兵を設計してくれた。

 さすがこの魔女の国(ヴィヴェラハラ)でも五指に入る魔女。

人形遣い(ゴーレムマスター)”の異名は伊達ではない!


 もちろんイザベッラ自身も、金属製ゴーレムを扱わせたら四弟子の中でも随一。

 彼女率いるそのクロムゴーレム部隊は、干戈を交えるケルベロス部隊を圧倒していた。

 何しろケルベロスにとって強力な武器である炎のブレスが、クロムゴーレムにはまるで通用しないのだからな。

 ケルベロスの爪牙もそれなりに脅威だが、やはりクロムゴーレムの硬度にはほとんど歯が立たない。

 またケルベロスは、獅子や虎よろしく巨体に似合わない足の速さを持つモンスターだが、それもクロムゴーレムの俊敏性ならしっかり対応できる。

 敵ケルベロス部隊が崩壊もせずになんとか戦線を保てているのは、例によって“死者の女王(ブラッククイーン)”の魔力でゾンビ化(兵員の補充)ができているからというだけだ。


『ヲ~~~ホッホッホ! 黒魔女最強格と仰っても、蓋を開けてみれば大したことございませんわね! この百年に一人の麒麟児たるわたくしを相手取るには、あなた方でははっきり役者不足ですわン!』


 などとイザベッラの高笑いが、〈遠話の札〉から聞こえてくるほどの優勢ぶりだった。

 はは、まったく困った奴だ。

 軍事目的の連絡以外で〈札〉を使うなよ。


    ◇◆◇◆◇


 一方、黒魔女連合軍にとってサンダーエレメンタル部隊は、シャロンのゴーレム部隊を相手どるのに、戦力としてかなり期待していただろう。


 なにしろ精霊という奴らは実体を持たない。

 だから鉱石や植物でできたゴーレムたちでは、まともに〈ダメージ〉を与えられない。

 天然の魔力を有するミスリルゴーレムやアダマンタイトゴーレムなら、余裕で精霊を駆逐することができるが、なにしろ素材が希少すぎる。

 数の暴力が支配する戦争という舞台において、満足に運用できるほどの数をそろえることは、俺が〈攻略本〉を駆使しても不可能だった。


 対して唯一例外なのが、シルバーゴーレムである。

〈銀〉というのはどうも精霊界にも存在するようで、だからか天然の魔力を帯びていないにもかかわらず、銀は精霊たちを傷つけることができる。

 とはいえ銀とて貴金属であり、シルバーゴーレムの大軍を用意するのはやはり難しい。

電霊使い(スパークダンサー)”ほどの魔女に独力で対抗できるシルバーゴーレム使いは、この国でも“銀仮面(シルバーフェイス)”くらいのものであろう。

 その“銀仮面(シルバーフェイス)”にしたって、先の鉱山都市タウメイの戦いで手持ちの兵力を全滅させ、再び部隊を構築するには何か月もかかる。この最終決戦には間に合わない。


 ならば俺は、敵サンダーエレメンタル部隊にどう対抗するのか?

 答えはケイトに、アメジストゴーレムの部隊を率いてもらった。

 素材となった〈紫水晶〉も、カジウはドモン島から取り寄せた。

 ドモン島には世界最大、空前規模の紫水晶の鉱床が存在し、昔から名産品だったのである。

 島を本拠地とするキンコリー商会が、南部諸島連盟一位なのも、歴代当主の努力と商才もさることながら、その宝石鉱床あってこそといえよう。


 ただし俺がカジウで交易に精を出していた時代、紫水晶はまだ扱っていなかった。

〈ゴム〉や〈天然アスファルト〉と違い、紫水晶は誰でも価値を知っているし、仕入れ値は安くない。

 当時の俺の事業がもっと上手くいってから、手を出そうと計画していた交易品なのだ。

 しかしカジウではいろいろあって、海原の神霊サイレンへの奉納金を俺が独力で稼ぎ終える前に、“連盟”の九商会が合同出資してくれた。

 おかげで結局、俺が紫水晶を扱うことはなかったという経緯だった。


 そしてこの最終決戦に際し、俺はキンコリー商会に紫水晶を求めた。

 当主であるピートルは、バランスの良い人間性と優れた先見性を持つ、立派な紳士だ。

 俺もカジウでは彼の世話になった。

 そんなピートルは今回もまた、「“魔王を討つ者”の恩義に報い、世界平和のためならば」と特別に、商会が貯蔵していた大量の紫水晶を無利子・後払いでいいからと提供してくれたのである。


 紫水晶は電流に対し、絶対的ともいえる絶縁性を持つ宝石だ。

 ゆえにアメジストゴーレムに電撃は効かない。

 敵サンダーエレメンタル部隊がどれだけ凄まじい火力を持っていようと、アメジストゴーレム部隊が相手では無力。

 ただしアメジストゴーレムもまた、実体を持たないサンダーエレメンタルにはダメージを与えられない。

 当然、両者の戦いは膠着する。


 だがそれでいい。

 俺がケイトに命じたのも、打破ではなくその戦線の膠着だ。

 ケイトはストーンゴーレムの扱いに長けているし、アメジストゴーレムはその亜種。

 また四弟子たちの中でも格別に粘り強いという性格をしている。

 この任務にうってつけだし、俺の期待にしっかり応えてくれた。


 よって俺も安心して号令を下せる!


「聞こえるか、ネビス?」

『こちら魔道火力支援部隊、感度良好』

「〈フリーズ〉の斉射を開始せよ。目標、敵右翼」

『了解。敵サンダーエレメンタル部隊へ〈フリーズ〉の斉射を開始する』


 ネビスの応答があり、しばらくして魔道火力支援部隊が、アメジストゴーレム部隊の後方から魔法攻撃を開始した。

 Ⅰ系、Ⅱ系の〈フリーズ〉が、雨あられと敵サンダーエレメンタル部隊を蹂躙する。

 冷気が稲妻で構成された精霊に触れるや、熱で大量の水と化して、その霊体にダメージを与えることに成功する。

 大増員されただけあって、その総魔法攻撃力は尋常ではない。レベル四十の俺の目から見てさえもだ。

 使い捨てだが攻撃魔法の威力を底上げする〈触媒〉――〈火トカゲの舌〉や〈ミスリル硬貨〉――も、イザベッラたちがせっせと作ってくれた。大量に持ち込んでいた。

 戦争とはこうやってやるものだと、魔道火力支援部隊は今日も実証してくれた!


    ◇◆◇◆◇


 ケイトとネビスらの連携により、戦場の北側(味方左翼、敵右翼)で戦局が大きく動いた。

 一方、南側でも敵陣を打破するため、俺は次なる指示を出した。


「ズッチ――敵ゴブリン部隊へ側面攻撃を開始せよ」

『待ちくたびれたんだぞっ』


 ズッチの威勢の良い応答があり、いよいよ遊撃隊が動き出す。

 彼女に与えた新型は、〈黒曜石〉をメイン素体としたオブシダンゴーレムだ。

 なお黒曜石自体はありふれた素材で、このヴィヴェラハラでも容易に大量確保できる。

 人類が冶金を発明する前は、槍の穂先やナイフ代わりに使われていたというだけあって、黒曜石でできたオブシダンゴーレムは攻撃力がすこぶる高い。

 軽いので人形兵にしては機動力もある方。

 代わりに金属性に比べるとやはり脆く、防御力に難がある。

 

 俺はそんなオブシダンゴーレムの攻撃力だけを活かすため、一工夫を凝らした。

 二本の足で歩くのではなく、車輪で移動するようシャロンに設計依頼したのだ。

 しかも車輪の縁には、カジウはネルフ島特産の、ゴムを使って補強した。

 この〈ゴムタイヤ〉という新素材利用法は、〈攻略本〉で図示された使い道の一つで、俺もいつか運用しようとアイデアを温めていたのだ。


 こうすることでズッチの部隊は、道なき道を高速で移動することができる。

 木の枠の車輪を使った通常の馬車は、まともに整備や舗装されていない道では、極端に進行困難になることを鑑みれば――〈タイヤ〉の踏破性を獲得したズッチの部隊は、ゴーレムとは思えない機動力を発揮できる。

 あたかも通常の戦における騎兵の如く、活躍できる。

 一対一の盤面が四か所生まれているこの戦況で、俺たちだけ第五の部隊を有している利点を、これでもかと活かすにはこの手が一番であろう。

 ガーッと突撃するだけでいいので、ズッチの性分にも合っているしな。

 双子のケイト同様、ストーンゴーレム(の亜種)を操るのにも長けているしな。

 

 そんな俺の期待に応え、オブシダンゴーレム部隊は敵ゴブリン部隊の柔らかい横腹を、思う様食い破った。

 今まで待機させた分、鬱憤を晴らすような暴れぶりだ。

 刃物状にデザインされた両腕を振り、雑兵(ゴブリン)どもを斬って斬って斬りまくった。

 

 さらに加えて、ズッチにはグラディウスMk-Ⅱとショコラを預けている。

 いにしえの戦車よろしくオブシダンゴーレムに荷台で牽かれるグラディウスと、敏捷無比の殺戮メイドであるショコラが部隊の先陣を切り、あたかも一騎当千の豪傑の如き大活躍で敵陣の傷口を広げていく。


 ついには“死者の女王(ブラッククイーン)”が魔力で蘇らせる速さよりも、殲滅速度の方が上回る。

 敵ゴブリン部隊の打破は時間の問題。

 その後もズッチら遊撃隊には、自由に暴れ回ってもらうつもりだ。


「ティナも、イザベッラも、ケイトも、ズッチも――やればちゃんとできるじゃないか」


 彼女らを直弟子にとった、シャロンの目も確かだったというか。

 ただ今まではなかなか命令を聞かなかったから、規律がものをいう戦争では実力を発揮できなかっただけで。

 四人とも長ずれば、大魔女になるのかもしれないな。

来週もお楽しみに!

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