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第二十六話  最後にして始まりの戦場

前回のあらすじ:


最強黒魔女四人による連合軍の前に、“純潔の宝石”セレストですら力及ばず敗北してしまう。

 俺――〈魔法使い〉マグナスは、シャロンの招集を受けてネビュラに戻っていた。

 ともに黒魔女たちの調略行脚をしていた、パウリとショコラも同様だ。

 ただしパウリは軍議には出ず、大増強された魔道火力支援部隊を調練中の、ネビスの様子を見にいく。

 なので同席するのはシャロンの他、四人の弟子たちのみ(一応、ショコラは俺の後ろでメイド然と、大人しく控えている)。

 場所は市長公館の会議室。


鉱山都市(タウメイ)が再び“東側”に奪われたわ。それも援軍を出す暇もなく、わずか一日での失陥よ」


 深刻な顔でシャロンが告げた。


「“銀仮面(シルバーフェイス)”ほどの方が秒殺されたと仰るのですか、お師様ン?」

「ついでに言うと、“純潔の宝石(ヴァージン ジェム)”もたまたまその場に居合わせたそうだけど、二人して手も足も出なかったそうよ」

「そんなのウソだぞ。“純潔の宝石(ヴァージン ジェム)”が守る城なんて、“死者の女王(ブラッククイーン)”でもそう簡単に陥とせるはずがないんだぞ」

「侵攻してきたのがその“死者の女王(ブラッククイーン)”で、しかも彼女一人ではなかったのよ。あと師匠の話をウソ呼ばわりするな、ズッチ!」

「く、黒魔女最強の“死者の女王(ブラッククイーン)”の他に、どなたがいたんですか~?」

「“地獄の犬飼(ケルベロスハンドラー)”、“妖魔の郷の姫(ゴブリンプリンセス)”、“電霊使い(スパークダンサー)”――実に魔女四人による連合軍だったそうよ」

「絶句」

「ええ、私も報せを聞いて驚いたわ。なりふり構わないとはこのことね」

「だからと言って程度というものがありますわン! ヴィヴェラハラでも十指に入る魔女たちが、四人で共闘なんてプライドを捨てる真似をしたのですか!?」

「そんなの創作の世界だぞ。『俺の考えた最強の黒魔女軍』だぞ」

「そ、想像しただけで気絶しそうです~」

「ケイトに同意」


 シャロンの口から知らされる恐るべき状況の数々に、イザベッラたち四人が騒然となった。

 俺は今朝、更新された〈攻略本〉のおかげで知っていたが、そうでなければ当然の反応だろう。

 にわかに空気が強張る中、シャロンが俺に軍師としての意見を求める。


「“死者の女王(ブラッククイーン)”の思惑をどう見る、アンリ?」

「このままではもう“東側”に勝ち目がないと考えたのだろう。先に名の出た四人の判断なのか、誰かの入れ知恵かまではわからないが――その賢明さゆえに、現在の戦況でもう『追い詰められた』のだと感じたに違いない。だからこそ先ほどあなたが言った通り、なりふり構わない策に出た。今の黒魔女軍にできる限りの、最強戦力を集結させた」


 と、ここまでの話は俺が説明するまでもなく、聡明なシャロンなら自ずと理解していただろう。

 敢えて語り聞かせたのは、きっと彼女の弟子たちは何もわかってないからだ。

 いつもなら俺とシャロンが頭を痛めてそれで終わりだが、今回は彼女ら四人にもしっかりとわからせなければならない。


 そして、ここから先の話が、シャロンが求めていた「軍師の意見」だ。


「“死者の女王(ブラッククイーン)”がタウメイを陥としたのは恐らく、黒魔女四人が最低限度連携して戦うことができるのか、そのテストだ。共闘すると覚悟を決めたはいいが、本当に軍として機能するかどうかはまた別の話だからな」

「……なるほど。タウメイは重要な都市とはいえ、戦場全体(ヴィヴェラハラ)を大局的に見て、プライドを捨ててでも奪い返したいほどのものかしらと、それが不思議だったんだけど。確かにそれなら理解できるわ」

「そして結果から判断するに、テストは最高に上手くいったと見ていいだろう。ほどなく“死者の女王(ブラッククイーン)”は、このことを内外に喧伝するはずだ。いや、まだネビュラまで声明が届いていないだけで、既に始めている公算が高い」

「劣勢になった“反体制側”の士気高揚と、私たち“体制側”への示威として、ね?」

「そうだ。そして奴らはその最高戦力を以って、最大の『局所的勝利』を狙ってくるはずだ。すなわち真っ直ぐにレクイザムを陥とし、このネビュラを陥とし、王都を囲んで“善なる魔女王(ホワイトクイーン)”に城下の盟を迫る方策だろう」

「なるほど、なるほど。さすがはアンリだわ、的確な読みね」

「これでも軍師としてメシを食っている身だからな」


 シャロンの賞賛に、俺は表情を消して答えた。

 何しろ「恐らく」とか「だろう」とか「はずだ」とか使ってさも自分の考えの如く語ったが、今の話は全部〈攻略本〉情報だからな!

 軍議のために必要だからそうしたが、自分の手柄面するのは恥ずかしくて仕方ない。

 滔々と説明する間、実は顔から火が出そうだった。


「ではアンリ――その読みの上で、私たちはどうするべきかしら?」


 シャロンが重ねて、俺に「軍師の意見」を求めてきた。


 俺は当然、腹案を即答する。

 先ほどの話は確度百パーセントの〈攻略本〉情報からの引用だが、しかし俺自身もいつかはこうなるのではないかと遥か前から予測していた。

 だから、ちゃんと備えていた。


「もちろん、俺たちも白魔女軍の最強戦力を以って、最大の『局所的勝利』を狙う」


 すなわち“死者の女王(ブラッククイーン)”ら四人との、真っ向勝負だ。

 会戦で奴らを撃破できれば、もう黒魔女たちにはろくな戦力が残っていない。

 いや、戦意の方が先に尽きるだろう。

 早々に降伏し、“善なる魔女王(ホワイトクイーン)”にどうにか命乞いをしようと、そのことに躍起になるに違いない。

 

「こっちの最強戦力ということは、私たちも他の白魔女たちと共闘するという話かしら? 例えば“純潔の宝石(ヴァージン ジェム)”や“銀仮面(シルバーフェイス)”と」

「いや、それはしない。なぜなら“西側(おれたち)”はまだ追い詰められていないからだ。自尊心を捨てて協力してくれと要請しても、本気で腹を括るなんて彼女らにはできない」


 まして“純潔の宝石(ヴァージン ジェム)”たちは元々、日和見主義者だからな。

 決死の総力戦に加わるくらいなら、なんのかんのと理由をつけて傍観して、最後はどっちの尻馬に乗るかと、それしか考えないはずだ。


「でもじゃあアンリ、最強戦力なんてどこから用意するの?」


 不思議そうに首を傾げるシャロン。

 師匠へ右へ習えの弟子四人。

 そんな彼女らに俺は断言した。


()()()()()()()()()()()。この戦争の当初から今日までずっと戦い続け、敗戦にもめげず、逆転に漕ぎつけ、とうとう黒魔女たちを追い詰めるに至った、歴戦の将軍と四人の前線指揮官たちが」


 この国でも五指に入る魔女、“人形遣い(ゴーレムマスター)”シャロン。

 その高弟であるイザベッラ、ズッチ、ケイト、ティナ。


「あなたたちを勝たせるために、俺は今日まで準備をしてきた」


 その集大成をぶつけることができれば、いかな“死者の女王(ブラッククイーン)”ら恐るべき魔女連合軍であろうと、必ず勝てる。

 他の助けなどいらない。

 むしろ半端な気構えの奴らを加えても、烏合の衆になり果てるだけだ。


「ふふっ、アンリはいつもそうね。そんなに堂々と『勝てる』って断言してくれたら、私だって本当にそう思えてくる。あなたみたいに素敵な……安心を与えてくれる男性がいるだんて、想像したこともなかったわ」


 俺がまだ詳しい作戦を説明する前から、シャロンがにっこり笑顔になった。

 ケイトだけが熱心にうなずいている一方、他の弟子たちは白けた様子。

 でもシャロンは気にせず、どこか懐かしむように続ける。


「アンリが私のところに来てくれて、どれくらい経ったかしら?」

「五か月と少しだ」


 一体の“八魔将”を討つためにかけた月日としては、〈攻略本〉を手に入れた以降、最長となる見込みである。

 アラバーナでの古代遺跡探索やカジウでの交易も時間がかかったが、やはり戦争ともなるとどんなに急いでも限度がある。

 俺が拙速を貴ばない性格もあるしな。


「戦争なんて密度の濃い日々だったからかしら、あっという間の五か月だったわね。それでいて、あなたが私を訪ねてきてくれた日のことが、どうにも懐かしく思える」

「……確かに。同感だな」

「あなたを軍師として迎える決断ができた、あの日の自分を褒めてやりたいわ」

「それも同感だ、シャロン。男の立場が極めて弱いこのヴィヴェラハラのお国柄で、俺の胡乱な話に耳を傾けてくれた、あなたの英断が祖国を救うのだから」


 シャロンはやはり聡明な女性だ。

 今のは自身の心を整理するのと同時に、弟子たちに語り聞かせていたのだ。

 次こそ最終決戦になるぞ、と。

 だから初心を思い出せ、と。


「ではアンリ――具体的な作戦を聞かせてくれるかしら?」

「まずレクイザムは捨てる」


 俺のその一言に、再び場が騒然となった。

 落ち着いているのはシャロンだけで、笑顔で話の先を促す。


「城塞都市の外壁は意味を為さないと、“死者の女王(ブラッククイーン)”らがタウメイでテストを行ったことで、こちらもまた参考になった。ありがたいことにな」


 だったらレクイザムに立てこもる意味はない。

 下手をしたら、みすみす包囲されてしまうだけ不利だ。


「ゆえに野戦にて雌雄を決す。そのためにうってつけの場所がある」


 俺が振り返ってショコラに目で合図すると、いそいそと会議机に地図を広げた。


「ここだ」


 俺はその地図上の一点を――魔法都市ネビュラのすぐ東にあるアラキル荒野を指した。

 それを見てシャロンが、また懐かしそうな顔をした。


 かつて“死者の女王(ブラッククイーン)”のアンデッド部隊に、ボロボロに負かされた土地だからだ。

 俺もその時上空にいて、シャロンたちのひどい戦いぶりを初めて目にすることになった。

 しかし軍師(おれ)と魔道火力支援部隊が合流することで、シャロンのゴーレム部隊は見違えた。

 そして“魔獣狂い(ビーストマニア)”の軍を相手に、シャロンたちは初勝利を飾った。

 その思い出の土地だ。


「まさしく初心に帰らされるわね」


 とシャロンが嘆息した。

 俺も同感だった。

来週もお楽しみに!

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