第十七話 裏の裏
前回のあらすじ:
マグナスたちはゴーレム軍団を率い、魔獣が跋扈する森・テラルバルトに侵攻する。
一方、マグナスたちが火計で来ると読んだエリス・バーラックは、あたかもフィクサーとして暗躍し、雨を降らせる能力を持った魔女を連れてきたのだった……。
俺――〈魔法使い〉マグナスは、凄まじいにわか雨に打たれながら、重苦しい湿気と戦の空気を、肺いっぱいに吸い込んだ。
闇の森テラルバルトを舞台に、泥沼の戦争が始まっていた。
目を開けているのも難しいほどの豪雨の中、ゴーレム軍団とキマイラ軍団が激突する。
森の王者然と立ちはだかる、シックスアームグリズリー。
樹上から跳びかかってくる、シャドウパンサー。
地の底から突如現れ、牙を剥くミュータントワーム。
また空からはグリフォンやワイバーンといった増援が、次々と襲い来る。
そんな恐るべきキマイラどもに、シャロンらが指揮するストーン、アイアン、シルバーゴーレムたちが、粛然と応戦する。
俺が貸したグラディウスMk-Ⅱは先陣に立ち、獅子奮迅の働きぶりをみせる。
だが――
刻一刻と強くなる雨脚同様に、ゴーレム軍団は目に見えて劣勢となっていった。
そもそも地の利は敵にある。
鬱蒼たる森林は、魔獣どものテリトリーだ。
逆に図体のデカいゴーレムたちは、木々が邪魔で動きが制限される。
加えて、この豪雨。
地面がぬかるみ、ゴーレムたちは自重で足が沈み、とられてしまう。
このままでは、俺たちは早晩、潰走を余儀なくされる。
いや……。
この足場で、しかも鈍重なゴーレム軍団が逃げきれるとは思えない。
全滅必至だ。
反撃に出なければならない。
効果的で、徹底的な打撃を、キマイラどもに喰らわせてやるのだ。
しかし、火計ではダメだ。
この豪雨の中では〈炎属性〉の魔法は威力を激減させてしまう。
敵は、俺たちが火計を使ってくると踏んで、対策していたのだ。
〈攻略本〉にも記載されている“雨雲を倶して参る者”辺りだろう。 恐らく、雨を降らせることのできる魔女を呼び寄せ、待ち構えていたのだ。
まさに、こちらの思うツボとも知らずにな!
「準備はいいかい、諸君?」
パウリがこの激しい雨音の中、不思議とよく徹る落ち着いた声で、魔道火力支援部隊に号令をかけた。
「「「はッ!!」」」
麾下総員が、激しい雨音に負けない大声で応答した。
そして、一斉に袋の中の〈魔法触媒〉を取り出した。
〈ファイア〉系の威力を一回だけ増幅させる、〈火トカゲの舌〉――ではなく。
〈サンダー〉系の威力を一回だけ増幅させる、〈ミスリル硬貨〉を。
「「「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!!」」」
全員が一斉にⅠ系やⅡ系の〈サンダー〉を唱え、魔獣ども目がけて撃ち放った。
轟音! 轟音! 轟音!
そして、極大の閃光の奔流。
無数の大蛇の如き電光が、魔獣どもを滅多打ちにし、感電させる。
おりしもこの大雨だ。
ずぶ濡れとなった魔獣どもは、〈雷属性〉に対する抵抗力にデバフがかかった状態に等しい。
それが森羅万象の摂理というものである。
かたや魔法触媒により強化された雷魔法。
かたや大雨によって魔法抵抗を弱体化された魔獣たち。
直轄魔道火力支援部隊による一斉放火は、面白いほどに魔女の眷属どもを蹂躙した。
「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!」
さらに、俺自身による〈サンダーⅣ〉の追撃!
〈ミスリル硬貨〉によって威力増幅できるのは、Ⅱ系魔法まで。
Ⅳ系魔法を増幅できる魔法触媒は、レベル30台の〈魔女〉や〈錬金術師〉でなくては作製不可能で、入手も事実上不可能だ。
よって俺だけは魔法触媒を使用していないのだが――まあ、そんなものは必要ない。
この程度のレベルの魔獣の群れ、しかも抵抗力にデバフがかかった状態とあれば、俺の〈サンダーⅣ〉の効果範囲に入った全ての敵を、一撃で殲滅できる。
直轄魔道火力支援部隊も二斉射、三斉射と〈サンダー〉を連発し、その戦闘力を十全――否、十二全に発揮していく。
皆、〈ミスリル硬貨〉は小袋いっぱいに用意してきたので、ケチケチする必要がない。
小袋いっぱいの魔法触媒が隊の全員に行き渡るよう、イザベッラががんばって作製してくれたのだ。
パウリに褒められたい一心で!
「このまま一気に畳み掛ける!」
「「「はッ!!」」」
俺の号令一下、直轄部隊が一斉に呪文を唱える。
俺も合わせて詠唱し、新たな〈サンダーⅣ〉を皆とともに撃ち放つ。
雷の猛威にさらされた魔獣どもは大混乱だ。
ろくに知能のないこいつらはともかく――使役する“魔獣狂い”は今ごろ、唖然呆然となっているだろう。
なにしろ連中は、俺たちが火計で来ると読み切ったつもりで雨を降らせ、してやったりと思い込んでいただろうからな。その実、俺たちが用意していた作戦が、〈ミスリル硬貨〉による雷撃作戦だったと知って、今ごろどんな気分だろうか?
エリス・バーラックと一緒に、「どうしてこうなった!?」と頭を抱えていることだろうか?
ははは!
想像すると、笑えてくるではないか!
読んでくださってありがとうございます!
舞嶋大先生のコミカライズも6話まで公開されてます。
気づけば30万お気に入り登録、ありがたい限りです!
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