第十四話 あなたも魔女の端くれならば(イザベッラ視点)
前回のあらすじ:
ケイトがマグナスに懐いた一方で、未だ反抗的な他の魔女見習いたち。
そんな中、パウリが「なんとかしようか」とマグナスに持ちかけて――
わたくし――〈魔女〉見習いイザベッラは、査問会を開いておりました。
場所はレクイザムにある、小さな喫茶店。
一緒に丸テーブルを囲んでいるのは、妹弟子のズッチとティナ。
そして被告は、同じく妹弟子のはずのケイトですわン。
「最近、あの胡散臭い男のところに、足繁く通ってるようですわね、ケイト?」
「う、胡散臭い男って~? だ、誰のこと~?」
「惚けないでくださいな。アンリ・マグナッソーのことですわン」
「惚けるってことは、後ろめたいってことだぞ、ケイト。お姉ちゃん、哀しいぞ」
「ズッチに同意」
わたくしは対面に座るケイトをにらみつけ、さらに両隣のズッチとティナが左右からプレッシャーをかけます。
「べ、別にいいでしょ~? 皆には関係ないでしょ~?」
「大いに関係ありますわン。わたくしたちは、あの男を全く信用しておりません。常に猜疑の目を向け、落ち度があればすかさず糾弾し、一日も早く追放すべきだと考えているのです」
「そ、そんなことをする必要はないと思うの~っ」
「ほら、ケイトはそう言うと思ったぞ。あいつの肩を持つってんなら、私たちへの裏切りだぞ」
「イザベッラとズッチに同意」
「うううぅ~……」
わたくしたち三人に凄まれ、ケイトは泣き出しそうになります。
双子の姉のズッチと違い、ケイトは昔から気が弱く、わたくしたちに逆らえない性格。
一時の気の迷いであの男に入れあげていても、わたくしたちがこうして心を鬼にして諭してあげれば、すぐに魔女としての本道に立ち返ることでしょう。
ええ、わたくしたちだって、何もケイトが憎くて、こんな査問会を開いているわけではないのですわン。
むしろ逆。
たった四人の姉妹弟子同士、絆を大切に――
「わたしは皆がなんと言おうと、アンリさんに魔法を習いに行くわ~」
「ぬぁんですって!?」
わたくしはぎょっとなって、思わず口汚く叫んでしまいました。
ズッチとティナも目を丸くしております。
まさかケイトが! あの臆病なケイトが!
わたくしたち三人を相手に口答えするなんて!
「お姉ちゃん、もうケイトが何を考えてんのかわかんないぞっ」
ズッチが嘆きましたが、この女の言うことなんか真に受けてはいけません。
彼女とケイトは双子といえど、考え方も価値観も真反対の、バラバラ姉妹なのですから。ズッチがケイトのことを理解できないのは、むしろ平常通りというもの。
「ケイトがまさか恋愛脳だったなんて……」
ティナが愕然となりましたが、このこと自体がまさに衝撃的。
彼女はいつも他人の尻馬に乗るか、言下に否定するかどちらかなので、自分の意見を口にするのなんて前代未聞のことですの。
それだけティナもショックだったのでしょう。わたくしも同感ですわン。
「べ、別にわたしは恋愛感情で、アンリさんに会いに行ってるわけじゃないし~」
ケイトが見え透いた嘘をほざきやがります。
恋愛感情じゃないのなら、その真っ赤な頬はなんなのかしらン。
「それに恋愛脳ってひどいよ~。皆だっていつかは恋人欲しいとか結婚したいとか思うでしょ~? 普通のことでしょ~?」
「くだらない。わたくしたちは魔女なのですよ? その時点で『普通』ではないのですわン」
「じゃ、じゃあ~、イザベッラは恋愛も結婚もしないの~? 一生~?」
「ええ、興味ありませんわン。恋愛感情など、所詮は種の保存本能がもたらす幻想にすぎません。わたくしたち魔女が極めて長寿である意味を、少しはお考えになったら? ケダモノにすぎぬ凡人どもと同じ低次元まで下りていく愚かさが、ケイトは理解できないのかしらン? どうせ子孫繁栄を求めるのならば、血のつながりにではなく、思想と技術の継承者を作らんと求めるのが、魔女というものではなくて?」
「ううう~~っ」
ズバズバと正論で畳み掛けていくわたくしに、ケイトの如きは一切反論できず、唸りながらにらみつけてきます。
「も、もういいわよ~。イザベッラの頭でっかち~っ」
半泣きになったケイトは、逃げ出すように店を出ていきました。
情けない。そして、これだけ諭しても理解できないとは……。
我が妹弟子ながら、本当に浅はかな娘ですこと!
◇◆◇◆◇
被告がいなくなったことで、場はすっかり白けてしまいました。
ズッチが席を立ち、追従するようにティナも店を出ていきます。
独り残ったわたくしだけが、我が道を行くように堂々と、お茶を楽しみ続けます。
すると――
「ここ、相席いいかな?」
いきなり横から声をかけられました。
わたくしはカップを傾けたまま、鋭く視線だけを投げかけます。
二十代前半くらいの青年が、ニコニコして立っておりました。
とっても甘やかなベビーフェイス。
でも、片頬に大きな傷があって、そのワンポイントのおかげで得も言われぬ男らしさが醸し出されております。
「席なら周りにいくらでも空いておりますわン?」
「君と相席したいんだよ」
青年は勝手なことを言うと、わたくしが許可したわけでもないのに着席しました。
しかも対面ではなく隣に!
ずりずりと椅子を引きずって、わたくしと肩が触れ合うような近さで!
「ちょっとっ」
わたくしはカップを叩きつけるようにして置くと、抗議で声を荒げます。
しかし、ベビーフェイスの青年はいけしゃあしゃあと、
「強引な男は嫌い?」
「あ、当たり前でしょう、無礼――」
「綺麗な手をしてるね?」
青年はわたくしに皆まで言わせず、いきなりわたくしの手を包み込むように握ってきます。
あまりのことに、わたくしは思わず声を失ってしまいました。
頬が痛いほど熱くなってしまいました。
べ、別に男性経験が乏しいからではありませんわン!
決してこの青年がイケメンだからではありませんわン!
「僕はパウリ。君の名前は?」
「ひ、人の名を聞く前に、まず名乗りなさいなっ」
「だから、パウリだってば。あはは、君、面白いね?」
「わ、わたくしはイザベ――」
「それに何より可愛い」
「な~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
これが自分の声とは信じられない、あられもない悲鳴がわたくしの口からほとばしります。
もう赤面して、うつむいたまま上げられません。
そう――
「チョロい」という呟きがどこかから聞こえたような気がしましたが、発生元を確認することもできなかったのですわン。
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