第十四話 初めての〈合成〉
:前回のあらすじ
メゴラウスの大坑道の採掘場を確保し、報酬にバゼルフの金槌をゲット!
ラクスタ王国屈指の豪商、マルム。
娘のアリアとは、祖父と孫ほどに歳の離れた59歳。
恰幅がよく、いかにも善人そうな、笑顔を絶やさない男だが、よく観察すれば瞳は全く笑っていないのがわかる。
アリアに父親を紹介された時、マルムは初対面から俺のことを気に入っていたようだった。
しかも、俺がレアメタルの採掘場を、あっさり確保してみせたことで、
「いや素晴らしいですな、マグナス殿! さすがは大魔法使い!!」
と、自分の眼鏡は間違っていなかったとばかりの態度で、掛け値なしの激賞を叫んだ。
もちろん、約束の報酬である〈オリハルコンスミスハンマー〉をすぐにくれたばかりか、色を付けてくれた。大量の金貨もくれた。
今の俺にとって、金はもはやさほど重要ではないのだが、気持ちというものは受けとってうれしいものだ。
それどころかマルムは、こんなことまで言い出した。
「商人は時間を貴びます。私も回りくどいことは大嫌いです。なので単刀直入に申しますが、娘のアリアをもらってはいただけませんか、マグナス殿?」
なんと、アリアを嫁にくれるというのである。
俺とよしみを結んでおけば、今後も莫大儲かるのではないかと、そう踏んでのことだろう。
いやはや、先見の明があるというか、それにしても決断が速くて大胆というか……。
なるほど、だから彼はこの大国でも屈指の豪商なのだろう。
「そこまで買ってもらうのは、ありがたいのだが……」
「アリアではお気に召しませんか? 親の欲目かもしれませんが、娘は気立てもよく、美しさだって誰にも引けを取りません。何より賢い子です。世間のバカな男どもは、女は頭が悪い方がよいなどと内心で思っておりますが、これはまったくさもしいコンプレックスというものです。賢いアリアならば必ずや、マグナス殿を末永く盛り立てることでしょう。マグナス殿なら、その価値がわからないはずがない」
「い、いや、そんな売り込みをかけられずともな……」
アリアがどれだけ魅力的な娘かは、俺とてわかっているのだ!
ただ、結婚となると話は別だ。
やり手商人らしいマルムの強引な売込みに、俺がたじたじになっていると、アリアが助け舟を出してくれた。
「いけません、お父様。マグナス様はいつか魔王モルルファイを討伐し、世界を救うための旅をしてらっしゃるのです。今はその力を蓄えるために、しばしこのラクスティアにご逗留なさっているだけなのです。アリアはマグナス様をお慕い申しておりますが、嫁には参りません。マグナス様の旅の重荷になるような、愚かな真似はしたくありません」
「……ふうむ。確かに。目先の欲に囚われ、魔王にこの世界を滅ぼされてしまえば、儲け話どころではなくなってしまうな」
マルムは一頻り思案した後、考えを改めた。
「いや、失礼をしました、マグナス殿。私の視野が狭かった。いえ、まだまだマグナス殿の大器を理解できず、つまらない話を振ってしまいました。どうか、失礼をお許しくだされ」
「いや。わかってくれればけっこうだ」
アリアの機転で、その場を円満に収めることができた。
なるほど、賢い娘というものは、得難い魅力を備えている。
俺はアリアと出会えて、好いてもらえて、幸運だった。
◇◆◇◆◇
〈オリハルコンスミスハンマー〉を得たバゼルフは、さっそく工房に籠って、俺の依頼の品の鍛造にとりかかってくれた。
〈攻略本〉の用語では、〈秘術鍛冶師〉が可能とする〈合成〉ということになる。
〈触媒〉となるのは、砕けるまで使い込まれた〈歴戦の大盾〉。それにフォレストジャイアントからドロップした、〈猛々しき森の心〉を合わせる。
バゼルフ曰く、一から武器を打って作るのと違い、マジックアイテムの〈合成〉にはそれほど時間がかからないという。
「それでも、おまえさんの依頼品が完成するまで、一週間は見て欲しい。それだけ大作ということだ」
バゼルフはそう言って、工房の扉を締め切った。
俺は、偏屈な彼が決して口にしなかった、胸中の言葉を汲み取っていた。すなわち、「それだけ精魂を込めて鍛造する」ということだ。
まだ会ったばかりだが、俺はバゼルフの為人と接して、信用できる男だと感じていた。
だから黙って、一週間を待った。
そして一週間後、彼の工房を再び訪ねた。
バゼルフは完璧な仕事ぶりをみせてくれた。
「おお……っ。これはっ……なんと見事な……!」
思わず感嘆してしまう俺。
「フン。会心の出来じゃわい」
寡黙なバゼルフまで、らしくもなく豪語を口にする。
それだけ自分の仕事が誇らしかったのだろう。
俺たちはしばし飽きもせず、目の前の完成品を鑑賞し続けた。
鋼の肉体を持ち、直立すれば身長三メートルを超す、雄偉なる容貌のゴーレムだった。
しかも、ただのスティールゴーレムではない。
〈歴戦の大盾〉を〈触媒〉に使っているため、戦闘能力に長けたバトルゴーレムだ。
しかも〈猛々しき森の心〉によって、とてつもない魔力を裡に秘めた、ヒグマの姿をしたグリズリーゴーレムだ。
「のう、マグナスよ。もしよければ、ワシが銘を刻んでよいか?」
「願ってもないことだ。あんたほどの鍛冶師の〈銘入り〉となれば、俺も誇らしい」
俺は喜んで依頼し、バゼルフがグリズリーゴーレムに〈銘〉を彫金した。
銘――グラディウス
バゼルフは俺のゴーレムに、そう〈銘〉を付けた。
「ありがとう、バゼルフ。これでメゴラウスの最深部を目指せる」
「な、なにっ!? どういうことじゃ!?」
俺はバゼルフに説明する。
メゴラウスの大坑道の最深部には、ある強力なボスモンスターが存在する。
坑道内がモンスターでいっぱいになっているのは、もちろん人間たちの愚かしい戦争も原因だが、戦死者たちを瘴気でアンデッド化させている元凶もいたのだ。
〈攻略本〉の情報によれば、そいつのレベルはなんと34。
28の俺でも端倪すべからざる相手だ。
しかし、ソロで挑む以外の道はない。俺のレベルについてこられる奴などこの国にはいないし、質の伴わない数の暴力など、超高レベルのボスモンスターには通用しない。
「こいつの試運転には、ちょうどいい相手だと思わんか?」
俺は頼もしき相棒――グラディウスの胸を叩いた。
大坑道の奥に潜むボスモンスターとは!?
次回、対決です!
というわけで、読んでくださってありがとうございます!
毎晩更新がんばります!!