第四話 誰にでも不得手はある
前回のあらすじ:
マグナスは軍師として白の魔女シャロンに迎え入れられるが、シャロンの様子が何やら……。
『あれ、完全に狙ってましたよね』
市長公館を辞して、一旦宿に戻るなり、ショコラが言った。
「狙う? 誰が何を?」
意味が理解できず、俺は問い返した。
『シャロン様が、マグナス様をですよ』
「別に命の危機は感じなかったが……よからぬ企みを抱いているということか?」
俺が見抜けなかった悪意を見抜くとは。
さすがはショコラだ。大いに褒めてやらねば。
『企みは企みですけどね……』
ところがショコラは、歯に物が挟まったような口ぶりになる。
加えて、心なしか俺に対する呆れのようなものも感じる。
「言いたいことがあるなら、はっきり言え。それで怒るほど俺は狭量ではないつもりだ」
『ではご命令に従い申し上げますが――シャロン様は、マグナス様のことを異性として意識されているようです』
「はあ!?」
『マグナス様をお食事に誘ったのも、そこでオトす気マンマンのご様子でした。あれはそのままお持ち帰りを狙う、猛禽の目でございましたね』
「そんなバカな!? 会ったばかりだぞ!?」
全く予期せぬ展開に、俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
『マグナス様のお顔がお気に召したとか、声が好みだとか、ろくな男に今まで出会えなかったとか、理由はいくらでもございましょう。それに、マグナス様に恋をしたわけではなく、あくまで異性として意識しているという程度です』
「それなら、まあ納得できんでもない。しかし、じゃあ狙うか? その程度で」
『オトナの女性ですからね。「ちょっといいな」と思った程度でも、大攻勢を仕掛けますよ。普通ですよ、普通』
ショコラはしたり顔で語った。
おまえ、恋愛経験とかないだろうに。
「ううむ……急に会食に行きたくなくなったな……」
『一度受けてしまったものを、断るのはさすがに失礼かと』
「だよなあ……」
白の魔女側を戦争に勝たせるためにも、シャロン女史とは友好関係を築かなくてはならない。
こんなくだらない理由で、気分を害させるわけにはいかない。
『隙を見せず、楽しくお食事をなさりつつも、早めに切り上げるのが得策かと。スマートに』
「難しいことを言う……」
だが、やらねばなるまい。
自信は全くないがな!
『アリア様を泣かせるような真似は、どうぞご自重くださいませね?』
「あ、当たり前だっ。いざとなったら――」
『いざとなりましたら?』
「小用に立つふりをして、陰から全力で〈スリープ〉をかけて逃げる」
『……………………とてもマグナス様らしくてよろしいかと』
よいわけないだろう!
そこは止めてくれショコラ!
「……しかし、つくづく難儀なことだ。〈メテオストライク〉なりなんなり使えれば、戦争などいくらでも勝てるんだがな」
そうはできない理由があった。
〈メテオストライク〉等の合体魔法は、桁外れの威力を持つ反面、消費する〈MP〉も膨大である。〈レベル〉が40に達した今の俺でも、二発撃つのが限界。その二発で総〈MP〉の八割を持っていかれる。
それが問題なのだった。
このヴィヴェラハラを蝕む“魔炎将軍”は、黒の魔女たちのバックについている。
もし俺が、〈メテオストライク〉等を使っての連戦連勝を続けたら、いつかはそいつが最前線に出張ってくることが予想される。
そして、俺が戦争に勝つために合体魔法を一発使ってしまい、その直後に“魔炎将軍”が襲いかかってくると、非常にマズいことになる。
過去の“八魔将”たちとの戦闘経験からいって、連中は合体魔法一発だけでは斃しきれない。
Ⅳ系魔法等、他の手段で〈HP〉を削っておいてから、隙を見い出して合体魔法をとどめに撃ち込むのが必勝パターンといえる。
ところが、戦争で勝つのに一発、対“魔炎将軍”用に一発、合体魔法を撃ち込むと、その削りに使う攻撃魔法用の〈MP〉があまりに心許ない。
“魔弾将軍”とエルドラ・カリコーンの連戦では、合体魔法を二発使ったが、あれはレイが獅子奮迅の活躍で、奴らの〈HP〉をかなり削ってくれていればこその結果だった。
では発想を逆転して、“魔炎将軍”との戦いの間にもMPを回復したらどうかというと、これも無理。
俺のMPはあまりに膨大になりすぎたし、“八魔将”との戦いもそれを前提としたステージに上がっている。
アラバーマの古代遺跡で発掘した〈賦魔の石〉も、今となっては焼け石に水。
ラクスタでテンゼン・デルベンブロ相手に使った、〈マナポーション〉ガブ飲み作戦も同様だった。
ゆえにやはり、戦争に勝つのに合体魔法を使うのは、得策ではない。
であらばシャロンに、真っ当に勝ってもらうのが一番よい。
俺が“魔王を討つ者”マグナスではなく、〈軍師〉アンリ・マグナッソーとしてシャロンたちに協力を申し出たのも、それが理由だ。
ちなみに「マグナッソー」は本名のもじりとして、「アンリ」というのがどこから出たかというと、ゲオルグ将軍に仕える参謀の名前を借りている。身バレする可能性を少しでも減らす小細工だが、将軍も当の参謀殿も喜んで貸してくれた。
ともあれ俺は、連敗を重ねる彼女らゴーレム軍団に献策し、勝たせなければならない。
「シャロン女史の弟子たちは、あからさまに非友好的態度だったからな。せめてシャロン女史とは、良い関係を築いておきたい……」
『でなければ、勝てるものも勝てませんしね。がんばってくださいませ!』
「……ああ。これも軍師の仕事と割り切るさ」
俺は腹を括ると、力強く宣言した。
「それはそれとして、不安だからこっそりついてきてくれるよな、ショコラ?」
『……マグナス様は本当に、女性関係はからきしでございますね』
頼む……言ってくれるな……っ。
本日、新作をスタートしたしました!
タイトルは「永劫の夜を統べるもの ―最強の魔術師、吸血鬼の王に転生す―」です。
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