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第三話  魔女の国ヴィヴェラハラ

前回のあらすじ:


ヴィヴェラハラ屈指の魔女にして市長=将軍、シャロンの元に謎の軍師()が現れる。

 俺――〈魔法使い〉マグナスは、名前と経歴を詐称していた。


「私はアンリ・マグナッソーと申します。ルクスンのゲオルグ将軍にお仕えする、〈軍師〉です。こちらはメイドのショコラ。ゲオルグ将軍の密命を携え、貴国の援助に参りました」


 相手は魔法都市ネビュラの市長、シャロン女史だ。

 彼女はたちまち興奮し、


「まあ! ゲオルグ様と仰ると、“魔弾将軍”の軍勢から最後までキロミツを守り通した、護国の英雄でいらっしゃいますわよね? その軍師ともなれば、マグナッソー様もきっと一廉のお方に違いありません。ようこそ、我がネビュラへ!」


 熱心に席を勧め、またシャロン自身も俺の対面に腰を下ろした。

 俺のソファの背後にはショコラが侍り、シャロンの後ろにはイザベッラ、ズッチ、ケイト、ティナが立つ。

 この四人がシャロンの高弟だというのは、〈攻略本〉で確認済みだ。

 そして四人が四人とも、男である俺のことを、胡乱げににらんでいる。


 ここは魔女の国ヴィヴェラハラ。当然の反応だった。

 むしろ、シャロンが塩対応じゃなかったのが、俺には意外なくらいで、


「それで、それで、マグナッソー様。本日はどういう用件でいらっしゃったのかしら?」

「ご存じかどうか……つい先日、我がルクスンは“魔弾将軍”の討伐に成功いたしまして」

「まあ! それはお祝い申し上げます!」

「痛み入ります。しかし、戦勝の代償は大きく、我が国は多くのものを失いました。これから時間をかけて、建て直さなくてはなりません。そのためにも、古来より大切な交易相手である貴国とは、従前以上の協力関係を築いていきたいというのが、ベアトリクシーヌ姫殿下のお考えなのです」

「まあ! 願ってもいないお言葉ですわ! 我がヴィヴェラハラの今日の繁栄とて、貴国との友好関係あってこそですもの。ただ、私は一市長にすぎませんし、お約束できることは限られております。それにご存じかどうか、戦といえば我が国も今……」

「存じております。そして、そのために私はネビュラへやって参りました」


 憂い顔で言葉を濁したシャロンへ、俺は力強く相槌を打った。


「と、仰いますと? マグナッソー様」

「我が国の魔物被害は小康状態を迎え、国家レベルでの臨戦態勢は必要なくなりました。疲弊した財政で維持をするのも大変ですしね。ところが軍師たる私にとっては、活躍の場がなくなってしまったというのが、正直な状況です。そこで、貴国の苦境を知ったベアトリクシーヌ姫は、私を遊ばせておくくらいならば、貴国の助太刀に派遣するべきだと判断なさったのです」

「まあ! まあまあまあ! なんとありがたい思し召しでしょうか! 姫殿下にはなんとお礼を申し上げたらよいことか!」


 シャロンは喜色満面になって、俺への感謝と歓迎の意を示した。

 握手のために手を伸ばそうとした。


 ところが、


「ルクスンなんてド田舎から遥々、無駄足ご苦労様ですわン」

「でも、軍師なんて別に求めてないんだぞ!」

「申し訳ないですけど、〈魔女〉でもない方が、わたしたちの戦力になるとは思えないです~」

「ケイトに同意」


 シャロンの後ろにいる四人娘たちが、四様の非友好的な態度を示した。

 予想通りの反応なので、俺も腹は立たないどころか、苦笑いが出るばかりだ。



〈魔女〉という特殊な職業(クラス)について話をしよう。

 これは女の〈魔法使い〉という意味ではない。全く別の、サブ専用職業(クラス)だ。ゆえに、メインに当たる魔法使いのレベルより上げることができない。

 例えば、〈攻略本〉情報によればシャロンはレベル21の魔法使い、且つレベル21の魔女でもあるが、ここから〈経験値〉を稼いで、魔女の方を先にレベル22にすることはできない。


 また魔女が使うことのできる魔法は、俺たち魔法使いが使える魔法とは似て非なる、固有のものばかりとなる。

 小動物を使い魔にして操り、その五感を共有する魔法などが代表的だな。

 他にもシャロンらが得意とする、ゴーレムを量産する魔法や、一度にたくさん操る魔法など。同様にアンデッドを作り出して操る魔法、キマイラを作り出して操る魔法、異界の混沌生物を召喚して操る魔法などなど、強力なものが多い。


 二つ分の職業(クラス)を研鑽しなくてはいけないため、成長そのものは遅いという欠点はある。

 ただし魔女は〈不老長命〉スキルも習得できるため、トップクラスの連中になると「見た目は三十歳前後、実年齢八十歳、魔女歴六十余年の年功者」なんて奴らもいるらしい。

 これもまた〈攻略本〉情報によれば、シャロンはヴィヴェラハラでも五指に入る魔女だが、まだ二十七歳(見た目も二十歳くらい)なので、相当の素質の持ち主であり、努力家ということになる。


 そして、ここからが重要なのだが、魔女は誰でもなることのできる職業(クラス)ではない。

 このヴィヴェラハラに生まれた女性だけ――もっといえば、“始まりの魔女”たちの血筋に連なり、隔世遺伝した者だけがなることができる。


 千年前の話か、二千年前か、記録が失伝するほどの太古。

 その時もこのアルセリア世界は、先代の魔王による侵略を受けた。

 対抗するため、運命の神霊タイゴンは〈勇者〉を、武勇の神霊プロミネンスは〈光の戦士〉を、という具合に人類から英雄を選出し、戦わせた。

 そして、魔法の神霊ルナシティが選び出したのが、その“始まりの魔女”たちなのだ。


 今日の魔女たちは、せいぜい優遇職という程度で、“始まりの魔女”たちのような、勇者や光の戦士に匹敵する「超」優遇職ではない。

 それでも同レベル同士なら、魔法使いより魔女の方が優れているのは間違いない。

 ゆえに今日、魔女という連中はこの四人娘のように、つけ上がっている者たちが多いのだという。「我こそは選ばれし優等種!」という選民意識が強いのだと。プチユージンがうじゃうじゃいるみたいなものだな。

 ……やめよう、想像したら吐き気がした。


 そういう背景もあって、このヴィヴェラハラは徹底した女尊男卑というお国柄だ。

 人口の半分は男なのだが、肉体労働にしか就けない。

 国の要職は全て女性、さらにいえば魔女たちで占められている。

 男である俺が、「君たちを助けてやる軍師でござい」とやってきて、四人娘に歓迎されないのは、そういう事情であった。



「言葉を慎みなさい、このバカ弟子ども!」


 ところがシャロンは、そんな四人娘を振り返って一喝した。


「友好国のルクスンから、しかも我が国を助けるために、遥々ご足労いただいたマグナッソー様に向かって、その口の利き方はなんですか!」

「ですが、わたくしたちにも魔女としての矜持がありますわん」

「思っていることを言っただけなんだぞ!」

「嘘はいけないと思うんです~」

「イザベッラに同意」

「だまらっしゃい!! 外交センスゼロの烙印を捺して、ロザリン様に言いつけますよ!」

「「「「うっ…………」」」」


 四人娘たちは一斉に息を呑んだ。

 師匠の喝破が効いたというよりは、“善なる魔女王(ホワイトクイーン)”の名前を出したのが覿面だったようだが。


「バカ弟子どもが失礼をいたしました、マグナッソー様。私の薫陶が行き届いておりませんで、お恥ずかしいばかりですわ」

「どうかお気になさらず」

「ありがとうございます! 正直な話、私どもは黒の魔女たちの大攻勢に、たじたじにさせられておりますの。あなたのお知恵をぜひ拝借させてくださいませ」


 シャロンはそう言って、今度こそ右手を差し出した。

 俺たちは堅い握手を交わした。


「よろしくお願いいたします、マグナッソー様」

「最善を尽くすことをお約束します、シャロン女史」

「どうぞ、堅苦しいことは抜きに、シャロンとお呼びくださいませ」

「では、私のこともアンリと」

「アンリ……。ふふ、逞しくも知的な物腰のあなたに、まさに相応しいお名前だわ」


 まあ、偽名なんだけどな。


「ところで、アンリ。今晩は空いていらっしゃるかしら? 歓迎の意を込めて、お食事でも一緒にどう? よい店を知ってますの」

「わかりました。お言葉に甘えましょう」


 特に予定はないし、将軍と軍師が親睦を深めて悪いことはないので、俺は了解した。


 ところで、シャロンはいつになったら手を離してくれるのだろうか?

 どうして握手したまま親指で、俺の手をねちっこく撫でさするのだろうか?

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