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第二話  魔法都市の魔女たち(???視点)

前回のあらすじ:


アンデッド軍団にボコボコにされる、ゴーレム軍団の様子を上空から眺めるマグナス。

 私――〈魔女〉シャロンは頭痛を堪えていた。

 鏡に映る自慢の美貌も、心なしか老けて見える。毎晩ちゃんと泥パックで手入れしているお肌が、心労でしおれているからだ。

 私まだ二十七なのに! まだ二十七なのに!


「ハァ……いくら私が一番レベル高くて、一番ゴーレム作りも巧みで、一番美しいからって、将軍なんて野蛮なお仕事、向いてないのよ……」


 鏡の中の私に向かって愚痴り、鏡の中の私が相槌を打ってくれる。まあ、自分で首を振ってるんだけど。


「美人かどうかは将軍職と関係ないですわン」

「あとシャロン様が一番美人かどうかは、議論の余地があると思うぞ!」

「レベルとゴーレム作りに関しては、仰る通りですけど~」

「ケイトに同意」

「うるさいわよ、あんたたち!」


 かしましい小娘どもに、勢いよく振り返ってツッコむ私。

 ああもう! こいつら鏡の中の私と(げんじつ)おしゃべり(とうひ)もさせてくれない!

 頭痛の種となっている小娘どもを、私はキッとにらみつけてやる。


 ここは魔法都市ネビュラにある、市長公館の執務室だ。

 まあ、市長って私のことなんだけど。

善なる魔女王(ホワイトクイーン)”ロザリン様に、三か月前に任命された才媛なんだけど。


 これで税金チョロまかし放題! 

 商人たちと癒着しまくり! 私腹肥やしまくり!

 やったぜ研究費がジャブジャブだ! み、ミスリルゴーレムとか作っちゃう? いっそアダマンタイトゴーレム行っちゃう???


 ……なーんて喜んでたのも、束の間のこと。

 この魔女の国ヴィヴェラハラでは、市長は有事の際には将軍となって、町を守らなくてはいけない決まりだ。

 そして、よりにもよって私が市長に任命された矢先に、勃発しちゃったのだ。

 それも国を二つに割ってしまうような、大戦が。

 我が世の春、短かっ!


 私たち、ロザリン様に依然として忠誠を誓う者たちは、“体制側”とか“西側”とか“白の魔女の軍勢”だとか呼ばれている。

 一方、何をトチ狂ったか、ロザリン様に対していきなり反旗を翻した連中は、“反体制側”とか“東側”とか“黒の魔女の軍勢”だとか呼ばれている。


 で、ぶっちゃけ現在、黒魔女さんたちの方が優勢である。

 ヴィヴェラハラの国土の東側半分が、早や連中に奪われている。

 だって“死者の女王(ブラッククイーン)”とか“魔獣狂い(ビーストマニア)”とか“異界の門を叩く者(ケイオスノッカー)”とか、ヴィヴェラハラでも有数の魔女たちが、ほとんど全部あっち側だもん。

 こっちにいるの、真面目に私とロザリン様だけだもん。

 それにロザリン様は国主だから、矢面に立つわけにはいかないし。

 じゃあ、私が奮闘しなくちゃいけないってなるじゃない?

 トホホ……。


「奮闘しなくちゃいけないのよ……。ねえ、わかってるわけ、あんたたち?」


 私は頭痛の種である小娘たちに、じっとりとした目を向ける。


 この四人の娘たちは、私の直弟子だ。

 全員、十代だ(羨ましくなんかない!)。

 魔女としての素質は充分なんだけど、まだ経験が浅いし、何より人の言うことを聞かない。

 私もまだたったの二十七歳の若い む す め だから侮られてるわけね?

 実際、ロザリン様や“死者の女王(ブラッククイーン)”みたいな バ バ ア に比べたら、そりゃ貫録ないしね?


 普段の修業だったら、それでもよかった。

 私も師匠だ弟子だとあんまり厳密にやるのは、精神が老けそうでいやだった。友達姉妹みたいな関係でよかった(それで伸びなくてもその子の自己責任だし)。


 でも、これ戦争なのよね。

 この子たちには、将軍たる私の下、現場指揮官としてゴーレムを率いてもらわないといけないんだけど、もうダメ。無理。センスゼロ。


「ねえ、イザベッラ? 私、一番弟子のあなたには、アイアンゴーレムを任せたわよね? 軍の中核なんだから、軽挙妄動しちゃダメって、クドクドと言っておいたわよね?」


 まだ十七のくせに、とんでもない色香を香水と一緒に振りまく小娘に、私はお小言を言う。


「しかし、お師様。好機とあれば攻勢に出るのは、当然のことですわン」

「どこが当然よ! あんたの中核部隊が突出したせいで、全体が総崩れになったんじゃないの! 反省しろ反省!」

「お師様。古来より、勝つも負けるも兵家の常と申しますわン」

「負けた奴がゆーな盗人猛々しい!」


 私は怒鳴りすぎ、血圧上がりすぎで、立ちくらみを覚える。

 別に歳だからじゃないわ! 歳だからじゃないわ!


「ズッチ。ケイト。その後の、あんたたち両翼の動きはなんなの? てんでバラバラじゃないの。私は常に呼吸を合わせろって言い含めておいたでしょ?」


 私は次いで、十六歳の双子にお小言を言う。


「イザベッラがピンチになったんだから、ガーッと攻めて助けるのが普通だぞ!」

「イザベッラがピンチになったのですから、守りに入って様子見したくなるのが人情です~」

「そんなわけないじゃん、ケイトが間違ってるぞ!」

「ね、姉さんはすぐそうやって、わたしの言うことを否定ばっかりして~」

「どっちの判断も間違いじゃないわよ! ただ攻めるも退くも一緒にやれって言ってるの!!」


 この双子は本当に性格が真反対で、息が合わない。

 それでも石を扱わせたら巧みな魔女たちで、ストーンゴーレムの部隊を任せるには、この子たち以上の適任はいないのだ。

 もしかしなくても私の軍団、人材いなさすぎ……。


「最後にティナ――」

「なに?」


 ぶっきらぼうで、師匠への口の利き方を知らない十五歳の少女に、私は目をやる。


「あんたに任せたシルバーゴーレム部隊、私が命令するまで、絶対に動かしちゃダメって言ったわよね?」

「肯定」

「なのに勝手に動かしたわよね?」

「肯定」

「なんで勝手に動かしたのよ、反省しろ反省!」

「味方が全部ピンチになったんだから、ガーッと攻めて助けるのが普通だぞ!」

「ズッチに同意」

「今はズッチには聞いてない! あと同意してんじゃないティナ!」

「否定」

「姉弟子じゃなくて師匠に同意しろティナ!!」


 私は大声を出しすぎて、ゼィゼィと肩で息をした。


「まあまあ、お師様。次、勝てばよいだけのことですわン」

「勝てるビジョンが一個も見えないから、こうして雷落としてるんでしょ!?」

「そんな弱気じゃ勝てるものも勝てないんだぞ! 当たって砕けろの精神だぞ!」

「あんた一人が砕けるなら勝手だけど、ヴィヴェラハラの命運がかかってるからバクチできないんでしょうがっっっ」

「わ、わたしたち、ちゃんと反省しましたから~。次は大丈夫ですから~」

「本当ね!? 本当に反省したのね!?」

「ケイトに同意」

「じゃあテストしてもいいわね!?」


 私が目を吊り上げて詰め寄ると、バカ弟子どもはこくこくとうなずいた。


「一秒で答えなさい! もし目の前のアンデッド軍団に隙が見えたら!?」

「無論、全力突撃ですわン」

「ガーッと突撃だぞ!」

「罠の可能性があるので後退です~」

「イザベッラに同意」

「正解は『将軍の判断を仰ぐ』でしょこのクソボケどもおおおおおおおおおおっ」


 何も反省してない分からず屋どもの前で、私は地団駄踏みまくった。


 まさにその時である。


「市長閣下。面会希望のお客様がいらっしゃっております」


 公館で働く役人(魔法は使えないけれど、優秀で勤勉な事務職のエキスパートたちだ)が、報せにやってきた。


「どこの商人か知らないけど、当面は取り込み中って伝えて!」

「いえ、それが、大公国のベアトリクシーヌ姫の、紹介状を持っておいでで」


 むう。それは無下にできないわね。

 こんな時だからこそ、隣国とのおつき合いは大事だわ。


「男? 女?」

「若い男性の方です。メイドの方も連れておられますが」

「りょーかい!」


 私は鏡の前に立つと、バカ弟子どもを叱り飛ばして乱れた髪を、さささっと整えた。

 いつ、なんの拍子に、ステキな男性と出会えるかもわからないのだ。油断は禁物だ。


 ついてこいとも言ってないのに、勝手についてくるバカ弟子たちをぞろぞろ従えて、私は応接室へと向かった。


 待っていたのは、怪しげな風体の二人組だ。


 まずメイドさん。

 連れてきてるのは聞いてたし、仮に貴人ならそういうこともあるんじゃない? って思ってたけど、格好がまともじゃない。

 メイドのお仕着せって普通は楚々たるものだと思うんだけど、この子が着てるのはナイ胸でも強調するようなデザインだし、スカート丈は膝上だしで、煽情的。

 なんか娼館とかにいそう。


 そして、男の方。

 部屋の中にもかかわらず、フード付のコートを着て、人相を隠してるの。

「オレ、怪しいものっす!」って全力で言ってるみたい。

 思わずしげしげと観察しちゃう。


 ――って、あらあら?

 あらあらあらあらあらあら!?

 よく見たら、イイ男!?


 まだ若そう。というか多分、十代。可愛いお顔。

 なのに表情は、まるで無数の修羅場をくぐってきたような、精悍な面構えなの。

 そのギャップに、お姉さんクラクラきちゃう。


「初めまして、市長閣下」


 その彼が、歳相応の若々しい声に、歳不相応の沈毅な口調で挨拶した。


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