第四十一話 男と男の約束
前回のあらすじ:
エリスによって事なきを得たベリーだが、城内の惨状を見て、レイの胸の内で号泣する。
俺――〈魔法使い〉マグナスは、〈光の戦士〉レイを相手に、雌雄を決しようとしていた。
「「ア・ウン・レーナ」」
ともに〈練気功〉に集中し、〈ステータス〉をブースト。
俺は〈大魔道の杖〉を純然たる長柄武器として構え、〈ブラッククレイモア〉で斬りつけてくるレイを迎え撃つ。
上段から斜めに走る太刀筋。真一文字の薙ぎ払い。刺突。
そのどれもが鋭く、重い。
“魔弾将軍”と、続くエルドラ・カリコーンとの連戦。そして勝利により、レイの〈レベル〉は37まで一気に上がっていた。
今の彼の斬撃を凌げる者など、人類に果たして何人いるのだろうか?
俺の〈武道家〉のレベルも35まで上がっていたが、まるで分が悪い。
そもそも同レベルだったとしても、光の戦士と武道家では、勝負にならないしな。
自然、俺は防戦一方に追い込まれる。
だが、やられっ放しの俺ではない。
そして俺は、ただの武道家ではない。
「シ・ティルト・レン・エ・ヌー・ゲンク・ティルト・ハー」
激しく斬り結びながらも、呪文を唱える。
レイほどの戦士が相手の白兵戦闘中でも、Ⅱ系魔法くらいなら同時に行使できた。
俺は〈ストレングスⅡ〉などの強化魔法を用いて、さらにステータスを上昇。
レイとの差を詰めていく。
防戦一方の戦いが、互角の打ち合いになっていく。
「〈スラストラッシュ〉!」
流れを引き戻すために、レイが〈スキル〉を使い始めた。
高速の刺突、二十一連。
良い判断だが、俺には通じない。
〈攻略本〉情報のおかげで、俺はこのスキルを、使えはしないが精通している。
知識があれば、対処法は練れる。
〈スラストラッシュ〉は剣士レベル21で習得できるスキルだ。
連撃系のスキルとしては、かなり手数が多い部類に入る。
その分、一発一発の威力は実は少ない削り技。
俺は二十一発の刺突全てをいなすことは最初から諦め、喰らうに任せる。
ただし〈硬気功〉を用いて瞬間的に〈防御力〉を高めて、〈被ダメージ〉を最小に抑える。
そうしておいて、レイが二十一連撃を放ち終わった隙に、俺も反撃する。
「哈ッ!」
杖の柄頭の部分で、レイのみぞおちを突く。
とにかく速く、鋭く。
重くなくていい。威力は二の次でいい。
実際、レイはこれに対処できず、俺の突きはきれいに入る。
途端、レイの動きが急に、わずかに鈍る。
俺が武道家レベル35となって習得したばかりの、〈点穴〉というスキルだ。
相手に近接ダメージを与えた時に、様々な〈バッドステータス〉を付与できる。
しかもこのスキルの目玉は、状態異常に強力な〈耐性〉を持つ光の戦士やボスモンスター相手でも、ある程度効果を引き起こすことができるのである。
「隙をついて大ダメージを狙うんじゃないのが、マグナスらしい戦い方ですよね!」
「ふふ、いやらしいか? しかし、君を相手に手段を選んでいたら、暴力的な力で薙ぎ払われてしまうからな」
俺はレイと打ち合いながら、また〈点穴〉の隙を虎視眈々と窺う。
さっきの〈点穴〉により、レイには〈素早さ低下:小〉のバッドステータスを与えた。
次は〈力低下:小〉がいいか? あるいは〈麻痺〉が有効か?
そう思えど、今度はレイが専守防衛の構えに入って、隙を見せてこない。
〈素早さ低下:小〉一つ喰らったくらいで、上手の彼ならまだまだ互角の範囲だろうに。
この辺りがレベルが高いだけのバカには真似できない、レイの戦闘センスだ。賢さだ。
「〈ファルコンブレード〉!」
そしてカウンタースキルを用い、俺の後の先をとってくる。
今度は逆に、俺がいいのを一発もらう。
畳み掛けるように、レイの〈ファングスラッシュ〉、〈熱風剣〉、〈纏気功〉が炸裂する。
武道家――特にウーリュー派のそれ――はかなり多彩なスキルを習得できる職業だが、他者から見様見真似で会得できるレイの多彩さには、逆立ちしても敵わない。
そもそも俺の使える武道家スキルは、会得したばかりの〈点穴〉を除いて、全部レイも使えるしな。
その〈点穴〉だってこの戦いの間に、レイは会得してしまう公算大。
そして、俺が〈点穴〉のような、地味で長期戦向けのスキルしか使わないように、レイもまた〈プロミネンスブレード〉や〈レインボウラッシュ〉のような、大技は使ってこない。隙をさらさない。
白兵戦ではレイの方が上手なのだからと、焦る必要はないのだからと、ジリジリと差を開いていって、最後には勝っていればいいのだからと、そういう当を得た戦いぶりに徹している。
実に俺好みの戦法だ。
君は本当に、俺のものの考え方まで会得していったな!
百手先の詰みが決まったチェスのような戦い。
実際、俺がただの武道家であれば、淡々たる敗北へと突き進むしかなかっただろう。
しかし、そうはいくか。
レイ。君がそのつもりなら、俺とて考えはある。
俺は再び、専守防衛の構えをとった。
今度はレイが攻めあぐねる番となった。
ただし、俺も決して攻めを放棄したわけではない。
「フラン・イ・レン・エル!」
レイと白兵戦を演じながら、〈ファイアⅡ〉の呪文を唱える。
烈火が広がり、避けようのない範囲攻撃がレイを炙る。
Ⅱ系の攻撃魔法など、今のレイに与えられるダメージは、たかが知れていた。
しかし、ゼロではない。
そちらがジリジリと優位を広げていく戦法なら、俺もこれでコツコツとダメージを蓄積していくまでのこと。
「さすがです、マグナス!」
「君こそな」
超高レベル同士だからこその、地味にして煩悶とした攻防が続く。
いつ果てるとも知れないそれに、しかし終止符を打ったのはレイだった。
「〈バーラックメイル〉!」
自分の前面に水の膜を展開すると、俺の攻撃呪文の連打を「ぬるり」とあらぬ方向へ逸らす。
と同時に、とうとう大技を放ってくる。
「〈ブルーライトニング〉!」
電光石火の突進技だ。
レベル35の武道家となった俺といえど、見切れる速さではなかった。
紫電をまとった〈ブラッククレイモア〉の刀身で、抜き胴を打ち込まれる。
「ちゃんと大技も交えていかないと、怖さがないですよね」
「ふっ。そこに気づいたか」
俺は痛みを堪えながら、油断なくレイへ構えをとり直し、追撃に備えた。
だが、レイは追撃どころか、突っ立ったまま。
まるで戦意を失ったように、ただこちらを見つめていた。
「どうした?」
「マグナスもちゃんと“怖さ”を見せてくださいよ」
「…………」
「こんな戦いは、あなたの本当の戦い方じゃない。だったら、いくら続けても茶番だ」
「…………」
「お願いします、マグナス。掛け値なしの、全ての力を総動員して、僕と戦ってください」
「…………わかった」
君の覚悟を酌もう。
全ての力を君に見せよう。
俺は一歩を踏み出した。
レイから遠ざかるように。
そして、見えない階段を上っていくように。
一歩一歩、〈魔嵐将軍の靴〉の特殊効果を使って、大空へと上り詰めていく。
レイの〈軽気功〉でも届かぬ高みへと到達する。
だが、俺にとっては魔法の射程範囲である。
「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン」
俺は〈サンダーⅢ〉の呪文を唱えた。
敢えてのⅣ系ではなく、Ⅲ系攻撃魔法だ。
理由はある。
地上では、レイが〈ブラッククレイモア〉を溜めるように構えていた。
「〈ソードウェイブ〉!」
そして、俺に向かって剣波を放ってきた。
そう、レイは並の前衛職ではない。遠距離攻撃用のスキルだって会得している。
ただ距離を大きくとったという程度では、魔法使いは今のレイには勝てない。
地上から撃ち放たれた剣波が、俺へと迫る。
その行方を、結果を、レイが見つめる。
その少年の目が、大きく瞠られる。
そうだ、よく見ておけ。レイ。
レイの放った〈ソードウェイブ〉は、俺を害することはできなかった。
俺の周囲に球殻状の、不可視の力場が張り巡らされ、遮ったのだ。
“魔弾将軍”とエルドラ・カリコーンから得た膨大な〈経験値〉により、俺はレベル40魔法使いとなった。
人類未踏の40台に、ついに到達した。
同時に、一つのスキルを習得した。
〈余剰魔力放出〉という。
〈サンダーⅢ〉を用いるのに、俺の〈魔力〉はあまりに過剰すぎる。
その余った分の魔力を周囲に放ち、障壁とし、呪文詠唱中の術者を守るスキルなのだ。
これがある限り、レイの〈ソードウェイブ〉程度の威力では、俺にダメージを与えられない。
そして俺は、魔法によって一方的に攻撃が可能だ。
烈しい電撃が地上を蹂躙する。
後に残ったのは、大の字になって倒れる、レイの姿だけだった。
◇◆◇◆◇
「起きろ、レイ」
「痛くてもう起き上がれません」
「嘘をつくな。君がⅢ系魔法一発でやられるタマか」
「無理と言ったら無理です。僕の負けです」
大の字に寝転がったまま、レイがさっぱりと笑った。
憑物が落ちたような笑顔だった。
「昨日からずっと抱えていた、悩みは消えたか?」
「はい」
レイは逡巡なく即答する。
「マグナスは本当に強いですよね」
「ああ」
まだまだだ、とは敢えて答えなかった。
「魔王なんかに負けませんよね」
「当然だ」
俺は平気で嘘をついた。
「僕なんかいなくても、へっちゃらですよね」
「ああ。エルドラ・カリコーンを討ったおかげで、新たな〈天界の宝石〉もドロップした。これで新たな予定表を立てられる」
俺は懐から〈天界の宝石:鷹眼〉を取り出してみせた。
「ベリーが独りになっちゃったんです」
「聞いた」
「独りで、この荒廃した国を立て直さないといけないんです」
「難儀だな」
「支えてあげたいんです」
「わかる」
大の字に寝転がったままのレイ。
その隣に、俺は腰を下ろす。
そうして二人で、青空を見上げる。
見上げ続ける。
だから、互いの表情は窺えない。
「でも、マグナスと旅も続けたかった……!」
「俺もだよ。レイ」
そこで互いに言葉が途切れる。
無言になって、空を見上げ続ける。
もし、このまま一緒に旅を続けたら――そんな仮定の未来に、しばし想いを馳せる。
俺とレイとショコラと三人で、様々な土地を巡り、様々な人と出会い、様々な魔物を討ち――そんな情景を、あの青空に重ね合わせる。
「後から追いかけますからね」
「そうか」
「一日でも早くルクスンを立て直して、追いかけますから」
「ベアトリクシーヌ姫を置いていってよいのか? また独りになってしまわないか?」
「ベリーのことですからね。もうこの国が大丈夫ってなったら、今度は世界を救ってこいって、僕の尻を蹴飛ばしますよ」
「ははは、なるほどな!」
「追いかけますからね」
「急げよ? でないと俺が先に魔王を斃してしまう」
「わかってますよ。メチャクチャ急ぎますよ」
「そうか。ならば期待して待っている」
男と男の約束だ。
これにて四章完結です!
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます!
16日より五章を更新していく予定ですので、今後ともよろしくお願いいたします。
そして『「攻略本」を駆使する最強の魔法使い』1巻がついに発売されております!
なにとぞなにとぞ応援のほどよろしくお願いいたします!!




