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第三十九話  負ける気がしない(マグナス&レイ視点)

前回のあらすじ:


皆の力を合わせて、“魔弾将軍”を撃破!

 エルドラの耳障りな狂笑が、中庭に響く。

 俺は顔をしかめずにいられなかった。

 一方、レイは気味悪げにしながら問い質す。


「何がおかしいんだよ、エルドラ!?」

「ギャハハハおかしいに決まってるだろ! これが笑わずにいられるかよ! ギャハッ、ギャハハハッ、おまえらはミスを犯した! にもかかわらず、“魔弾将軍”を斃したヤッターって間抜け踊りをしてやがるんだからな! なんておめでたい奴らだギャハハハハハハ!」

「僕たちがなんのミスを犯したっていうんだよ? 頼みの“魔弾将軍”もやられて、強がりはよせよ、エルドラ!」

「強がっていられるのも今のうちだけなのは、おまえらの方だよバアアアアアアアアアカ!」


 エルドラは大きく舌を出して嘲弄する。

 その舌が、どんどん伸びていく。

 人間としてはありえないほどに伸びて、垂れ下がっていく。

 同時に、エルドラの全身が何回りも巨大化していく。


 そして――身の丈四メートルはあろう魔物と化す。

 右腕と左腕がそれぞれ三本ずつ、計六本腕のモンスターだ。

 左右それぞれの腕の一本は、手首から先が長大な刃物のように変化している。

 また左右一本ずつ、手首から先が弓になっている腕がある。

 残る一本ずつは、その弓に矢をつがえた格好だ。


「おまえらは殺す順番を間違えたんだ! “八魔将”はなあ、死後、オレのような魔物側に迎えられた人間に、その強大な力の全てを譲渡するんだよ! 礼を言うぜ? おまえらがカリコーンをぶっ殺してくれたおかげで、オレはその強大な力を丸々手に入れた! ギャハハハ! ギャハハハハハハ! あ~~~最高の気分だ~~~~!!」


 エルドラ・カリコーンが、六本の腕で支持した四つの武器を打ち鳴らし、哄笑した。


 そんな姿を見て、レイが一言。


「エルドラは、そんな気味の悪い姿になっても、本当にうれしいの……?」


 ははは、よくぞ言ってやった!

 痛快とはこのこと。

 しかし、エルドラにとっては痛烈な皮肉だろう。たちまち顔面を赤黒く染め、


「うるせええええええええっ。ミスを認めたくないからって、論点逸らしてんじゃねええええ!! おまえら、オレに情けをかけてしまったんだろ? だから、殺せなかったんだろ? いい子ちゃんらしいもんなあ、おまえら! その愚かさを、おまえらの命で贖えやあああ!」


 左右の弓矢を、俺とレイに向かって射放ってくる。


“魔弾将軍”の力を受け継いだ、エルドラ・カリコーンのレベルは43になる計算だ。

 それほどの最高峰ボスモンスターが射た弓矢だ。

 当然、温くはない。というか、普通は何もできずに脳天を射抜かれ、即死だろう。


 そう。狙った相手が、俺とレイでなければ、な。


「〈バーラックメイル〉!」


 レイは左腕に盾状の水膜(ウォーターバックラー)を顕現させ、矢をあらぬ方へと逸らさせる。


「――ムウラ・ア・ヌー・ア・ベイン・オン・レン・ティルト」


 俺は威力と引き換えに詠唱短縮カスタマイズした〈マナボルトⅢ〉で、真正面から矢を迎撃。


「愚かなのも、命で贖うのも、俺たちじゃない。おまえだよ、エルドラ・カリコーン」


〈大魔道の杖〉の先端を突きつけ、俺は告げた。


 俺たちは決して、斃す順番をミスしたわけじゃない。

 逆だ。こうなるようにと、時間稼ぎをしていただけだ。

 むしろ、おまえを“魔弾将軍”より先に斃してしまわないようにと、苦心させられたくらいだぞ?


〈攻略本〉によればこの大公国では、密かに“魔弾将軍”に魂を売った者が、相当数いた。

 貴族に騎士、枚挙にいとまがなかった。

“魔弾将軍”も口説き落とす相手を見繕うのに、苦慮していたようだな。

 このルクスンの権力者には、有能で志も高い者か、無能で欲深い者かの、両極端な人材しかいなかったらしい。魔物どもが真に求める、有能且つ欲深い者が皆無だったらしい。

 それで手当たり次第にコナをかけるしかなかったようだ。


 だから、俺も下手に“魔弾将軍”を討てなかった。

 タイミングをしくじれば、誰にその力が譲渡されるかわかったものじゃない。

 エリス・バーラックのように、また姿をくらまされるかもしれない。

 同じ轍を踏む愚は避けたい。

 だから、エルドラ。おまえを生かしておけば、まず間違いなくおまえが“魔弾将軍”の力を受け継ぐと踏んでいたんだ。

 そして、その通りになった。


「もう、遠慮は要らん」


 ここからは全力で討たせてもらうぞ?


    ◇◆◇◆◇


 僕――〈光の戦士〉レイは、魔物と化したエルドラに斬りかかっていった。

 左右をショコラとグラディウス? が固めてくれるので、僕は正面だけに集中できる。


「クソウ! クソウ! クソウ! どいつもこいつも邪魔臭え!」


 エルドラは二本の剣を右に左に、メチャクチャに斬りつける。

 三方から攻めかかる僕たちを、煩わしそうに斬り払おうとする。


 でもおかげで、太刀筋が散漫になっている。

 僕は〈ブラッククレイモア〉を使って、余裕で受け流せる。

 ショコラもちゃっかり専守防衛になりつつ、嘲り、からかうような身ごなしで、ヒラヒラと斬撃をかわして、ますますエルドラを激昂させる。

 グラディウスも重厚な両腕で、ガッチリとガードを固め、剣を寄せ付けない。それがまたエルドラを苛立たせる。

 エルドラも立派な剣をせっかく二本も持っているのに、二刀流の利を活かせてない。

 こう言っちゃなんだけど……太刀筋が汚い。マグナスだったら「無様」って切り捨てそう。


『くすくす。この方、多対一で戦った経験がおありでないのでは?』

「なんだとおまえエラソーに!?」


 ショコラが図星を指してしまったらしい。

 エルドラがたちまち顔を真っ赤にした。


 でも、考えてみれば確かにそうかも。

 僕たちのパーティーにエルドラがいたころは、常に四人で戦ってたし。

 決闘の時は当然、一対一だったし。

 今だって“魔弾将軍”が乱入する前は、一騎討ちしようって話だったし、乱入した後も実質一対一を二か所でやってたみたいなもんだし。


「ぶっ殺してやる、メイド!」


 エルドラが怒りに任せて、右の剣をショコラへ叩きつける。

 そのあまりに直線的すぎる太刀筋を、ショコラは読み予測でヒラリとかわす。

 空転したエルドラは、地面を強く叩きすぎて、体勢を崩す。


『おやおや、この国の方言では地面のことをメイドと仰るのですか?』

「テメエエエエエエエエエエエエ!」


 エルドラがますます頭へ血を上らせたところへ、グラディウスが顔面パンチを一発。


「テメエもかあああああああああ!?」


 エルドラが左の剣を叩きつけるも、グラディウスはしっかりガード。

 これでエルドラは、両の剣を左右に振りつけ、体も横に開いた格好になる。

 つまりは正面ががら空きだ。


「〈プロミネンスブレード〉!」


 エルドラから会得した、超高威力の〈スキル〉を真っ向から打ち込む。


「チクショオオオオオオオオ、なんでだあああああああ!? オレは“魔弾将軍”の力を手に入れたんだぞおおおおおおおおお!? おかしいだろこんなのおおおおおおお!?」


 まるで子どものようにダダをこねるエルドラ。


 なんだか、考えさせられちゃうな……。

 僕とエルドラは、同じ光の戦士として、仲間として、一緒に旅に出て、魔物と戦った。

 ただの村人だった僕に、戦い方を手ほどきしてくれたのは、エルドラだ。

 あのころは、本当に頼れる男だったのに……。

 それが今では、光の戦士は僕一人になって、エルドラは魔物になって、こうして戦っている。

 いや、これは果たして戦いになっているんだろうか……?


 このわずか数か月の間に、僕の人生は二度の転機を迎えた。

 一つはエルドラに裏切られ、見捨てられたこと。

 もう一つは――そう、マグナスと出会ったことだ。


 出会ったばかりのころ、僕はかなり頑なになっていたよね。

「僕に命令しないで!」とかいっつも言ってたよね。

 でも、マグナスはそんな僕に、辛抱強くつき合ってくれた。

 エルドラたちに裏切られた、僕の心の痛みが癒えるまで、急かさず待ってくれた。

 ううん、そうじゃないな。

 マグナスは僕に、お互いに信頼する大切さを、思い出させてくれたんだ。

 だから、僕の心の傷はきれいさっぱり消えたんだ。

 いつの間にか僕は、「命令しないで」って言わなくなっていたよね。最後に言ったのがいつか、もう思い出せないや。

 頑なだった僕が、マグナスとごく自然にやりとりできるようになっていたよね。

 それで、二人でいろんな冒険をしたよね。


 僕が、エルドラたちとするはずだったのに、できなかった旅や戦いや成長を。

 マグナスたちが代わりにしてくれたんだ。


 今、それを強く実感するよ。

 かつて僕の左右にはエルドラとテレサがいて、後ろにはラッドがいて、魔物たちと戦った。

 今、僕の左右にはショコラとグラディウスがいて、後ろにはマグナスが見守ってくれている。

 光の戦士は僕一人になっちゃったけど、“魔弾将軍”と四人で戦っているんだ。


 うれしいな。

 うれしいな。


「ごめん、エルドラ。僕は今、負ける気がしない」


 僕は〈レインボウラッシュ〉を放った。

 ショコラとグラディウスが再び作り出してくれた隙に、七属性七連撃の大技を叩き込んだ。


「待て! 待て! 待ってくれ、レイ!」


 一方的にやられ続けたエルドラが、とうとう命乞いを始める。


「オレたちは仲間だろう? いや、仲間だったろう? その時の(よし)みを思い出してくれよ! こんなひどい真似は、もうやめてくれよ!」


 それを聞いた僕は、どんな顔をしていいかわからなかった。

 だから、ただ大声で叫んだ。


「誼みだって!? ()()()()()()()()()()()()()()、僕だって――」


 その先はもう、言葉にならなかった。

 頭の中でたくさんの感情が渦巻いて、グチャグチャになった。


「オレは光の戦士なんだ! 神霊プロミネンスの選ばれた一人だ! そのオレを殺しちゃったらマズイだろう!?」


 エルドラが四メートルの巨体をいっぱいに使って、六本の腕を盛んに振って、自分の正当性を主張した。


「今の君はとても光の戦士に見えないけど……でも、わかったよ」

「おお、わかってくれたか! 友よ!」

「僕の固有スキルに、〈ジャッジメント〉ってのがある」

「は……?」

「君が犯した罪の分だけ、追加ダメージを与えるスキルなんだ。これは」

「……待て! 待ってくれええええええええええええええええええええええええええ!」

「君が正しき光の戦士なら、ノーダメージだから。()()()()?」


 僕は一切の躊躇なく、エルドラへ〈ジャッジメント〉を叩き込んだ。


「ギイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ」


 聞いたこともないほど凄まじい悲鳴が、エルドラの口からほとばしった。


    ◇◆◇◆◇


 俺――〈魔法使い〉マグナスは、泰然とその時を待っていた。

 エルドラ・カリコーンは左右の弓矢を使って、盛んに俺を攻撃してきたが、慌てず騒がず、回避と迎撃に専念していた。

 そうしていれば、チャンスが来るとわかっていたからだ。

 レイとショコラとグラディウスが、直に作ってくれるとわかっていたからだ。


 レイ。ありがとう。

 君にはそう言っておかなければならないな。

“魔弾将軍”とエルドラ・カリコーンとの連戦なんて無茶な作戦を、俺が採ることができたのも、君がいてくれたおかげだ。

 君が俺の期待以上に成長してくれたおかげだ。

 でなければ、いくら俺とて〈MP〉が()たなかったことだろう。


「ふふ。負ける気がしないとはこのことだな」


 俺は薄く笑った。

 ほどなくして、レイの〈ジャッジメント〉が炸裂し、エルドラ・カリコーンが悶絶した。

 俺は既に〈魔力〉を練り上げている。

 そして、長い呪文を詠唱する。


 エルドラ・カリコーンの弱点は、“魔弾将軍”と同じ。

 ならば、同じ〈合体魔法〉でとどめを刺す。

 魔法の神霊ルナシティのみが可能としたという、〈サンダーⅣ〉と〈マナボルトⅣ〉を合わせたこれは、神話の故事に事例を当たれば、〈パニッシャー〉――とその名が言い伝えられている。


 俺は重ね合わせた拳から、雷の弓矢を顕現させて、構えて引き絞る。

 そして、エルドラ・カリコーンに狙いをつけ――矢をつがえた右手を離した。


 結果は語るまでもない。

更新、日付代わって申し訳ありません!

正直に白状しましてストックも付き、あっぷあっぷの状態です……。

本業に支障をきたすわけにはいかないし、皆さんをやきもきさせるのもいけないので、ちょっと考えねばと思っております。


そして、謝罪しておいて心苦しいんですが、ちゃっかり宣伝させてください!

いよいよ今週金曜に、1巻が発売されます。

GAノベルさんから発売されます。

かかげ先生の度肝を抜かれるようなイラスト付きで発売されます。

アリアといちゃいちゃする短編含む、書き下ろしもアリアリで発売されます。

私も見本誌をいただき、本当に書籍化された自著を見て、感動いたしております。

皆様もなにとぞなにとぞよろしくお願いいたします!!

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拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
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