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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第一章  常に〈命令させろ〉と言い張る勇者編

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第十三話  メゴラウスの大坑道

前回のあらすじ:


ドワーフの名工・バゼルフとの親交を確立し、彼のための金槌を入手することとなったが――

 俺は初めて、〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉というものに乗った。

〈攻略本〉によればランクAに分類される貴重な〈マジックアイテム〉で、ラクスタ王国でもたった五枚しか存在しないらしい。

 およそ六人を乗せて浮遊し、地面すれすれを滑るように走ることのできる乗り物だ。

 直進時の最大スピードに限れば、馬の二倍ほどの速さも出すことができる。


「これなら大坑道まで、二時間もかからないはずです」


 と、隣に座るアリアが言った。

 そう、この貴重な絨毯は彼女――というよりは、マルム商会――の所有物なのだ。

 ラクスタ王国とハリコン王国の国境にあり、さらに人里離れたメゴラウスの大坑道へ行くため、特別に貸し出してもらっていた。

 もしこの絨毯がなかったら、最寄り町まで〈タウンゲート〉でショートカットしても、片道一週間くらいの徒歩旅になっていただろう。


「助かるよ。なあ、バゼルフ?」

「お、おう。そうだの」


 俺たちの後ろで、バゼルフがやけに縮こまっていた。

 ドワーフは乗馬も苦手というのが通り相場だが、どうやら〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉も苦手らしい。口数が少ないのは元からだが、明らかに声まで震え声になっていた。

 まあ、仕方がない。目的地までは我慢してもらおう。


「マグナスさん。私、お弁当も用意してきたんです。食べながら参りましょう」

「まるでピクニックだな」


 ウキウキとバスケットを開けるアリアに、俺は苦笑を禁じ得ない。

浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉は、どれだけスピードを出していても、ほとんど揺れがないため、昼食を採るのに支障はなかった。

 アリアのお手製だというサンドイッチは、すこぶる美味かった。


    ◇◆◇◆◇


 メゴラウスという名の大坑道がある。

 ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンといった、魔力を帯びたレアメタルを産出することで知られた、稀有な鉱床だ。

 ただし、それは大昔の話。

 ラクスタとハリコンの中間地点に存在するため、両国が所有権を主張し、メゴラウスはたびたび戦場となった。凄惨な戦いが幾度となく大坑道内外で繰り広げられた。

 そして、現在ではアンデッドの巣窟と化し、放棄されてしまっている。

 人間の愚かしさの、象徴みたいなスポットとなっている。


 俺たちはアリアの父親――豪商マルム自身の依頼を受け、メゴラウスを目指していた。

 そこで大量のレアメタルを採掘し、持ち帰る報酬として、マルム商会が保有する〈オリハルコンスミスハンマー〉を頂戴する運びだった。

 俺が〈攻略本〉の情報を当たって、『豪商マルムの依頼 その5 メゴラウスの大坑道で採掘せよ!』というサブクエストを発見したのが、きっかけだった。


 アリアもデート気分でついてくると言い出したのが、ややびっくりさせられたが、まあ俺がいれば危険はないだろうと判断した。どっちみちバゼルフを守ってやらなければいけないし、そうなれば一人も二人も大して変わらない。

 それにアリアが同行してくれたおかげで、こうしてマルム商会秘蔵の〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉を使わせてもらっているし、決して間違った選択ではなかった。


 何より旅の間、アリアが一緒にいれば楽しいしな(無視できない重要な要素)。


    ◇◆◇◆◇


「ここがメゴラウスの大坑道ですか」

「ふむ。入口も通路も広いな」

「当然じゃろう。その昔はレアメタルを採り尽くさん勢いで、掘って掘って掘りまくったんじゃ。そりゃあ広がってないわけがなかろう」

「なるほど、バゼルフの言う通りだ。それにおあつらえ向きじゃないか。このまま〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉で乗り込めそうだ」

「まだ乗り続けるのか!? この頼りない布に!?」

「奥まで歩き続けるのはしんどいだろう? 俺やあんたの頑健な足ならともかく、アリアの女の細足では限界がある」

「まあ! 私のことを心配してくださったなんて……うれしいですマグナスさんっっっ」

「ぐむむむ、好きにせい!」


 ――という話し合いの結果、俺たちは〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉でそのまま乗り入れた。

 坑道内は真っ直ぐではないので、速度はさほど出せない。歩くのとそう変わりはない。

 でも楽さという点では段違いで、これなら探索も捗りそうだ。


 ただし捗るといっても、あくまで移動に限った話。

 侵入していくらもしないうちに、坑道内を跋扈するモンスターどもが襲ってきた。

 錆びた剣や盾を構え、朽ちた鎧を身に着けた、骸骨――スケルトンソルジャーの一団だ。


「哀れな――そして愚かな連中よな。人間どもの欲望の、行き着いた果てがこの姿よ。昇天もできずに、永遠にこの洞穴をさまようしかない」


 と、バゼルフが面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「人間どもの欲望? ドワーフも混ざっているようだが?」


 と、俺はスケルトンソルジャーどもの中に、人間よりも遥かに背が低くて、そのくせがっしりとした骨格の個体が混ざっていることを、揶揄とともに指摘した。


「フン。ただのチビスケじゃろ。ドワーフなはずがない」

「認めないのか? 頑固な奴だな」


 俺とバゼルフ、二人で軽口を叩き合いながら、屈託なく笑う。

 バゼルフの奴め、〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉は恐いくせに、アンデッドモンスターのことは全く恐くないらしい。


 その逆が、アリアだった。

 スケルトンソルジャーどもの不気味な姿を目撃するなり、「ヒェ」と蒼褪める。

 事前に話はしているし、彼女も覚悟を決めていただろうが、やはり聞くのと実際に見るのとでは、恐怖の度合いが違ったのだろう。

 それでも、アリアは気丈にも、パニックで大騒ぎをするような醜態はさらさなかった。

 俺にしがみつきたいだろうに、俺の戦いの邪魔にならないようにと、震える手で俺の長衣の裾をつまむだけで、耐えていた。

 なんと健気な娘だろうか!

 俺は彼女の恐怖を打ち払ってやるためにも、朗々たる声で呪文を唱えた。


「ムウラ・ア・ヌー・ア・ベイン・オン・レン・ティルト!」


 俺が掲げた〈大魔道の杖〉から無数の、漆黒の矢が(ほとばし)る。

〈マナボルト〉。

 すなわち魔力でできた、純然たる破壊の力だ。

 他の攻撃魔法だと、破壊範囲があまりに広すぎて、坑道内で使うのに不安があった。落盤を引き起こす恐れがあった。

 しかし、この〈マナボルト〉は単体攻撃魔法且つ、必中効果がある。

 目標だけを効果的に破壊し、周囲には害を及ばさない。

 しかも、ランクS装備〈大魔道の杖〉の特殊能力により、本来は単体攻撃の〈マナボルト〉で集団を攻撃できる。

 それが無数の矢という形なって顕現し、複雑な軌道を描いて飛び交いながら、次々とスケルトンソルジャーどもに着弾した。

 一撃必倒、それぞれがレベル3の雑魚モンスターである骸骨どもを、木端微塵にした。


「なんと……魔法一発で一掃か……!」

「マグナスさん、すごいですっ!」


 バゼルフが瞠目して感嘆し、アリアが感極まって抱きついてくる。

 確かにレベル28の俺が使えば、初級魔法の〈マナボルト〉でも、彼らが驚くほどの威力は出せるが。

 先日、習得したばかりの〈マナボルトⅢ〉の方を使ったら、どんな反応を見せてくれるかな? いたずら心が俺の脳裏をチラとかすめる。

 しかし、やめておこう。俺は遊びに来たわけではないのだ。無益なMPの浪費は、俺の主義に反する。


    ◇◆◇◆◇


 俺の快進撃は止まらなかった。

 坑道内にはまさに「充満」と言っていいほど、大量のスケルトンソルジャーが跋扈していたが、俺の集団殲滅〈マナボルト〉で尽く蹂躙していった。

 白骨が散乱した後を、悠々と〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉に乗ったまま、推し通っていった。


「……おぬし、ワシが想像していたよりも、遥かに凄まじい魔法使いであったようだな」


 と、バゼルフなど感心しきりにヒゲをしごく。

 一方でアリアは、俺がついていれば全く怖くなんかないと理解したようで、


「きゃー。前に魔物がっ。魔物がっ。マグナスさんこわいですー」


 もう何かのアトラクションのように大喜び、大はしゃぎで、俺に抱きついてくる。

 そのくらいのことでは、練磨された俺の呪文詠唱は微塵も揺るぎはしないと、これも理解した上で甘えてきているのだ。「こわい、こわい」と口実を唱えながら、バゼルフの目も気にせず密着してきているのだ。


「……道を失うなよ、魔法使い殿」


 バゼルフも苦笑しながら、そこだけ釘を刺してきた。

 無論、俺とてアリアの肢体の柔らかさや、いい匂いに悩殺されて、チョンボするような愚行はゴメンだ。

 スケルトンソルジャーどもを蹴散らしつつも、しっかり〈攻略本〉をチェックしている。


 そこに、描かれているのだ。

 メゴラウスの大坑道の、完全地図が。


 蟻の巣のように複雑な大坑道内も、これを参照しながら進む限り、絶対に迷ったりはしない。

 ()()()()()()()()()()()()()()へも、迷い込んだりなどしない。


「着いたぞ。ここだ」


 俺は〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉を停止させた。

 狭い通路の先、とても開けた場所にたどり着くと、ウジャウジャいたスケルトンソルジャーどもを掃討。場所を確保する。

 採掘途中のまま戦争で放棄された、レアメタルの採掘場だ。

 ここで俺たち三人は、ツルハシを担いで採掘する予定――なわけがない。非効率にもほどがある。

 そこで俺は新たな呪文を唱える。


「ゲンク・ア・ティルト・エル!」


 たちまち何もない虚空に、漆黒の門が開いた。

 門の先は、王都ラクスティアに繋がっている。

 そして向こう側から、屈強な鉱夫たちがぞろぞろとやってきた。

 そう、〈タウンゲート〉でこの採掘場と王都を繋ぐことで、アリアの父親が雇った男たちを、安全に、且つ高速で大量に呼び寄せたのだ。

 後はツルハシ担いだ彼らに任せておけば、レアメタルもザクザクという寸法だ。

 それに豪商マルムが雇った男たちの中には、用心棒もたくさんいたから、ここまでたどり着いてしまえば、採掘場だけスケルトンソルジャーどもから守るくらい、わけはない。

 俺の受けた依頼は完了だ。

 さあ、〈オリハルコンスミスハンマー〉をいただきに行こう!

 そしていよいよ〈合成〉だ!

次回、初めての〈合成〉です!


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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