表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/183

第三十七話  VS魔弾将軍(レイ視点)

前回のあらすじ:


乱入する魔弾将軍と、マグナスは遠距離戦を繰り広げる最中、レイとのアイコンタクトを交わし――

 僕――〈光の戦士〉レイは、マグナスとアイコンタクトを交わした。


「テメエ、なに余所見してやがる!?」


 エルドラがムキになって、渾身の剣を叩きつけてくる。

 僕はそれを体ごと横に捌いてかわすと、逆にカウンターをエルドラの脇腹に叩きつける。


「ぐぉっ!?」


 痛みと驚きで目を剥くエルドラ。


 僕は確かにアイコンタクトをとるために、君から目を外したよ?

 でも同時に、誘いでもあったってわからないかな? わからないんだろうな。

 僕だって覚えはよくなかったし、いやらしい特殊能力を持つボスモンスターたちとさんざん戦って、何度も痛い目に遭って、ようやく学んだくらいだから、自慢にはならないよね。


 でもさ、エルドラ。

 この程度の誘いに引っかかるようじゃ、ここから先はきついと思うよ?


「フラン・イ・レン・エル」


 ほら、マグナスの呪文が聞こえる?

 ()()()()()()()()()()()()


「じゃあ、がんばってね」

「ハァ!? なんだ、いきなり!?」


 僕は当惑するエルドラに向かって、返事はせずただ突進する。

 助走をつけてジャンプ! さらにエルドラの頭を踏み台にして、もう一度ジャンプ!

 マグナスから会得した〈軽気功〉を用いて、高く高く跳躍する。


 これはウーリュー派の〈武道家〉が習得できるスキルの一つで、 超人的な……というか物理法則を無視したような身軽さを発揮できる。


 そして、僕が跳んだのと前後して、マグナスの〈ファイアⅣ〉が炸裂した。

 強烈な爆炎がエルドラに着弾し、付近の庭ごと蹂躙する。


「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ」


 地獄で苛まれる亡者のような悲鳴が、エルドラの口からほとばしる。


 僕はもはやそれに構っていられず、ただ行く手を見上げながら、さらに高く跳んだ。

 マグナスの〈ファイアⅣ〉は、エルドラを中心に炸裂した。

 つまりは、今の僕の足元に着弾した。

 よって僕は、下から噴き上がってきた強烈な爆風に乗って、もっと、ずっと高くへと、跳躍できたんだ。

 普通ならあり得ないけど、〈軽気功〉を会得した僕には可能だった。


 そしてつまりは、マグナスの〈ファイアⅣ〉はエルドラへの攻撃だったと同時に、僕を爆風で強引に運ぶ手段だったということ。

 僕はマグナスの起こした熱い風に乗って、たどり着くことができた。

“魔弾将軍”が陣取る、尖塔の上にまで。


「味な真似をしてくれるではないか、光の戦士よ!」


 もちろんカリコーンは、僕が空中にいるうちに、迎撃しようとした。

 五本の魔弾を射放ってきた。

 しかし僕だって予測済み。対策済みだ。


「〈バーラックメイル〉!」


 僕が今着用している鎧の銘を叫ぶ。

 マグナスとバゼルフが贈ってくれた、〈魔海将軍の魂〉を合成素材に用いた、世界で一つきりの鎧が、それで反応する。

 僕の前方に水でできた膜(ウォータースクリーン)を顕現させて、広げる。

 それが五本の魔弾を受け止めるでもなく、弾き返すでもなく、ただ「ぬるり」と受け流して、あらぬ方へと逸らしてくれる。

 一日に三回までしか使えない特殊効果だけど、遠距離攻撃に対する防護力はとんでもない!


「いざ!」


 僕は〈軽気功〉でふわりと屋根に降り立つと、そのまま“魔弾将軍”へと突っ込む。

 尖塔の、傾斜のきつい屋根の上は、足場として最悪だけど、これも〈軽気功〉を身に着けた僕には、何も問題がない。


 僕がマグナスとアイコンタクトを交わした、その最大の趣旨がこれだ。

 僕が“魔弾将軍”に接近戦を挑み、エルドラはマグナスがあしらう。

 互いの相手を交換することで、戦局が有利になるんじゃないかって踏んだんだ


「侮ってくれるなよ、光の戦士! 私が接近戦を苦にすると思ったら、大間違いだぞ!」


 カリコーンはどっしりとした構えで待ち受けると、弓をまるで鈍器代わりに、野太い左腕で振るってくる。


「〈バーラックメイル〉!」


 僕はもう一度、その銘を唱えた。

 もう一度、水でできた膜(ウォータースクリーン)を顕現させた。

 ただし今度は、左腕のすぐ付近に、ちょうど半球盾(バックラー)のような形とサイズの膜を。

 それを盾に使って、“魔弾将軍”が叩きつけてきた弓を「ぬるり」と受け流す。

 さっきの前面全てを守る水の加護と違って、このやり方だと範囲は極小だけど、使用回数に制限はないんだ。


「ぬう! やりおる!」


 カリコーンだって、僕の〈ブラッククレイモア〉で受け止められるくらいの覚悟はしていただろう。

 しかし、当然顕れた水流の盾(ウォーターバックラー)に、完璧に受け流されるのは、予想外だっただろう。

 僕はその不意を衝いて、一撃重たいやつを“魔弾将軍”の脇腹に叩き込む。


「〈プロミネンスブレード〉!」


 エルドラから会得したばかりの、極大〈炎属性〉の斬撃だ。

 さしもの“魔弾将軍”でさえ、たたらを踏んでよろめいた。

 効いてる!


「うおおおおおおおおおおお!」


 僕は雄叫びを上げると、〈ブラッククレイモア〉で斬りに斬って、畳み掛ける。


「確か……レイといったな、光の戦士よ!」


 カリコーンも然る者、五本の右腕を駆使し、〈ブラッククレイモア〉の刀身の腹を横から叩いて、いなして、防ぐ。


「魔王様の勅命に従い、私は君にこう訊ねねばならぬ! ――私の部下となれ。さすればルクスンの半分を君にやろう!」


「ごめん、要らない!」


 僕とカリコーンは剣と拳で激しくやりとりしながら、言葉を交わした。


「なぜだ? 欲はないのか?」

「そりゃ僕にだってあるよ! 人間だもん!」

「では、なぜ欲さぬ? 君が首を縦に振るだけで、大国の半分が手中に収まるのだぞ?」

「僕はただの村人なんだ! そんなものをもらっても困る! 絶対持て余す!」

「はははははははははは!」

「な、何がおかしいの!?」

「おかしいに決まっている! 自分で気づいていないのか?」


“魔弾将軍”は、からからと笑い続けた。

 なんだろう……こんなこと思っちゃいけないんだろうけどさ……。

 敵ながら、魔物ながら、気持ちのいい笑い方だった。

 そんな笑顔のまま、カリコーンは言った。


「ただの村人が、この“魔弾将軍”と互角に打ち合えるものかよ! 冗談も休み休み言えい!」


 彼の顔に書いてあった。

 僕が誘いに乗らなくて、部下にならなくて、残念だと。

 僕が誘いに乗らなくて、好敵手のままでいてくれて、満足だと。

 相反する感情が、不思議ときれいに同居していたんだ。


「おおおおおおおおおおおおおお!」

「はははははははははははははは!」


 僕は雄叫びを上げて、“魔弾将軍”は哄笑して、さらに何十合と斬り結ぶ。

 カリコーンは接近戦を苦にしないと言った。

 でも、やっぱり弓と違って得意じゃない。

 レベル34止まりの僕が、互角にやり合えているのがその証拠だ。


 でも、互角は互角だ。

 この“八魔将”の一角は、僕一人が張り切って斃すべき相手じゃない。

 これは遊びじゃなく、ルクスンの――ひいては世界の命運がかかる戦いなんだから。


「〈ブルーライトニング〉!」


 僕はロレンスさんから会得した秘剣を使った。

 高速で相手に接近するとともに、〈雷属性〉の斬撃を放ち、そのまま相手の脇を交差し、後方に駆け抜けるという、突進技だ。

 それを応用して、脇を駆け抜けるのではなく、突進速度を活かしてそのまま体当たりをぶちかました。


 結果――僕は“魔弾将軍”ごと宙に身を投じ、前庭へと墜落していった。


「はははははは、天晴!」


 カリコーンの笑い声が、流れ星の如く尾を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
こちらピッコマさんのページのリンクです
ぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
[良い点] カリコーンさん 素敵な武人で、敵ながらかっこいいです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ