第二十九話 いざ最後の仕上げへ
前回のあらすじ:
エリスの策謀を、マグナスが危うく防ぐ
俺――〈魔法使い〉マグナスは、いささか面映ゆい想いをさせられていた。
ルイーゼル公子とゲオルグ将軍に、熱烈すぎる出迎えを受けたからだ。
「今の隕石を落とす魔法は、マグナス殿のものですよね!? いや、素晴らしい! あんな魔法が実在するなんて、聞いたことがない! まさしく神話の域だ! 魔法の神霊の如き御業だ!!」
「よくぞこの町を、キロミツを守ってくれた! ルクスンの公子として、貴殿には感謝に堪えない!!」
今にも抱きついてきそうなくらいの勢いに、俺は正直たじたじにさせられてしまう。
「それに、四砦の攻略中にもかかわらず、よくぞ戻ってきてくださいました!」
「デルタ砦がもぬけの殻となっていたので、まさかと思ってな。その予想が外れても笑い話ですむが、当たっていた時はコトですゆえ」
「見事な判断力だ、マグナス殿! しかも遠くデルタ砦よりの足労、しかも神速の如き移動、大儀という他ない」
「いえ、それは〈タウンゲート〉というまた別の魔法があるので――」
「そう謙遜なさるな! ともあれ、四砦攻略はまた改めてということにして、今日はゆっくりと休んでくれい。城に部屋を用意させよう」
「いえ、四砦の攻略は終わりましたゆえ、すぐにでも兵を差し向けて、占拠していただきたい」
「は……?」
「……この短時間で、四砦全てか? デルタ砦だけではなく……か?」
「ええ、完了しております」
「素晴らしい! 素晴らしい! 素晴らしい!」
「誠に申し訳がない、マグナス殿……っ。未だ公子にすぎぬこのルイーゼルの権限では、あなたの大功に報いる術がない!」
プリンスとゲオルグ将軍が、感極まったように武者震いした。
ところがそこへ、闖入者が現れる。
「そのような男に、褒美など必要ございませんぞ、殿下!」
野卑な声でそう怒鳴り散らしたのは、ゴブリンからの虐殺を免れた、ルクスン騎士の生き残りだった。
恐らくは隊長格であろう。
後ろに五人、重傷者を引き連れていた。
「いきなりだな、ドバン卿」
「殿下! その男は味方を後ろから撃つ卑怯者でござる! 褒美どころか、処罰が必要と存ずる!」
騎士たちを見た途端、プリンスの目がすっと細められ、声も冷え冷えとしたものに変わったのだが、ドバンと呼ばれた男はその変化に気づくこともなく、主張を続けた。
「さきほど空から降ってきた石のせいで、この者ら五人が怪我を負ってござる! この不始末、どう責任をとるのか、魔法使い!」
俺に指を突きつけて非難してきた。
俺の合体魔法〈メテオストライク〉は、命中精度に難があり、且つ攻撃範囲が広い。
ゴブリンどもだけを吹き飛ばせるように細心の注意をしたつもりだが、どうしてもコントロールに限界があった。
俺はドバンとやらに向かい、口を開きかけた。
しかしその寸前、プリンスが「必要ない」とばかりに片手で制す。
そして、ドバンに向かって感情を押し殺した声で言った。
「ドバン卿よ。マグナス殿が大魔法によってゴブリンどもを撃退していなければ、今ごろ貴様らは全員、野辺に屍をさらしていただけだと思うが、どうか? 生きて帰れたおかげで、こんなところで益体もない言いがかりをつけることもできる、その喜びを噛みしめながら、マグナス殿に礼を言うのが筋ではないか?」
「な、何を仰るか、殿下っ。吾輩たちはあの状況から、背水ならぬ背城の陣を敷き、死兵と化してゴブリンばらを殲滅する予定でござったっ」
「フン。事が終わった後ならば、なんとでも言えるな」
プリンスが鼻を鳴らし、ゲオルグが「誠、仰る通りかと」としかつめらしく首肯した。
「そもそもの話だ、ドバン卿。門を閉め、貴様らを見殺しにせよと将軍に命じたのは、このルイーゼルだ。恨み言の一つや二つはあるのではないか?」
「ま、まさかあろうはずがございません、殿下」
俺のことを忌々しげににらんでいたドバンが、一転、諂いの目をプリンスに向けた。
「吾輩らは危険を承知の上で、ただ己が勇気に従い、城外へ打って出たのでござる。それで殿下を責めるような筋違いは、考えてはおりませぬ」
さももっともらしい言い訳を咄嗟にひねり出すため、しどろもどろになるドバン。
「そうか、ゲオルグの制止を振りきって出ていったことは、憶えておるようだな。貴様らに最低限の責任感というものが残っていたようで、私もホッとしたぞ」
「で、殿下……?」
「ならばもう、わかっておるな? 無為に戦をしかけておきながら敗北し、あまつさえ我が身大事で遁走し、危うく城内へゴブリンどもを招きかけた責任、貴様らにはとってもらうぞ! 必ずだ! マグナス殿への問責など、貴様らには百年早いわ!!」
「で、殿下! どうぞご慈悲を、殿下!」
「どの口でそれを言うか! ゲオルグ、こやつらを引っ立てよ!」
「はい、殿下。畏まってございます」
ゲオルグ将軍は一礼すると、部下に命じてドバン以下を連行させる。
生き延びた他の騎士たちも同じ沙汰になるだろう。
「見苦しいところをお見せした、マグナス殿。どうか許して欲しい」
「それこそ殿下になんの責任もございませんよ」
いずれ大公となった暁に、もっとまともな騎士団に改革してくれればそれでいい。
◇◆◇◆◇
俺たちでは役に立てない戦後処理はプリンスたちに任せて、先に一休みさせてもらうことにした。
将軍の城にある、賓客用の部屋をあてがわれ、合流したレイやショコラと寛ぐ。
ただし、談笑とはいかない。実際的で殺伐とした話題を三人でする。
「城門が破壊される様を見ただろう?」
「凄まじい光景でした。いったいどんな魔物の仕業なんでしょう」
「サイクロプスは一番に斃しておいたからな。あんな真似ができるのは、他には“魔弾将軍”だけさ」
『なんと! 敵の総大将自らこのキロミツまできていたのですか!?』
「違うぞ、ショコラ。奴は奴の城から矢を射放ち、城門を破壊したのだ」
「ええ!? 待ってください、マグナス。“魔弾将軍”の城は、このキロミツからまだけっこう離れてるって言ってませんでしたか?」
「言った。ここから北へ五十キロは離れたところだ、奴の城は」
『つ、つまり、“魔弾将軍”は……』
「五十キロ先を弓矢で攻撃することも可能……?」
恐れおののく二人に、俺は渋い顔で首肯する。
「俺が〈光の戦士〉を仲間に求めた理由がこれだ。遠距離攻撃のスペシャリストである“魔弾将軍”は、〈魔法使い〉の俺にとって、すこぶる相性が悪い」
「……それはマグナスが僕に〈レベル〉を合わせるのをやめて、本気を出してもってことですよね……?」
「ああ、そうだ」
俺がもう一度首肯すると、二人が絶句した。
「とはいえ、いつかは奴を斃さねばならん。そして、決戦の日はもう近いぞ。俺たちはキロミツまでやってきたのだからな」
「は、はい!」
「四砦のボスモンスターは斃した。俺もレイもレベル31となった。よって明日からは次の段階へと進む。そこでレベルを35まで上げて、“魔弾将軍”に挑む総仕上げとする」
『いよいよというわけでございますね』
「わかりました、マグナス! 僕も精一杯がんばります!」
「よい返事だ。ならば今日は充分に休息し、英気を養おう。明日からはしばらく野営になるからな」
『でしたらその準備をしなくてはなりません! たとえ野宿でもマグナス様には美味しいものを召し上がっていただかなくては!』
「ははは、その気持ちはありがたいが、準備は明日からでいい」
俺たちはそんな話をして、実際その日はゆっくり休んだ。
プリンスたちが歓待もしてくれた。
そして翌日、俺たちは“ナルサイ号”で、キロミツの西にある山岳地帯へと向かう。
人里離れた山奥に、俺の目指す場所がある。
そこは、昼なお濃霧が立ち込めた、厳粛な雰囲気の場所である。
高峰群に囲まれた、せいぜい一キロ四方の狭い窪地。
そのさらに中心部へと俺たちは歩いて向かう。
どんな場所であるかは、先に伝えておいていたため、レイとショコラの足取りは、なんともおっかなびっくりとなっていた。
「着いたようだぞ」
『「ヒェ」』
濃霧で視界が通らない中でも、地面を踏む感触が変わったことで、俺たちも気づく。
レイとショコラが小さな悲鳴を漏らす。
まあ、気持ちはわかる。
俺たちの足元を、大地を――大量の白骨が覆い尽くしていたのだ。
人骨ではない。もっと巨大な生き物の骨が、窪地の底に堆積している。
「こ、これが全て、ドラゴンの骨なんですか!?」
「ああ、そうだ。ここが『竜の墓』だ」
世界中のドラゴンが、その死期を悟った時、この地を訪れ、静かにその時を待ち、同胞たちの骨の中へと埋もれていくのだ。
『ドラゴンの骨や牙は、売れば高いとアリア様が仰ってました。大金持ちになれるのでは?』
「持ち帰れればの話だがな」
俺がそう言った時、折よく遠吠えが聞こえてきた。
何か巨大なバケモノの、巨大な咆哮だ。
「ほら、〈墓守〉が来るぞ――」
いよいよ12月になりました!
『「攻略本』を駆使する最強の魔法使い」1巻が、14日についに発売となります。
書き下ろし短編やかかげ先生の素晴らしいイラスト、キャラステータス表なんかもついております。
皆様ぜひぜひよろしくお願いいたします!!




