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第十二話  ドワーフの名工バゼルフ(マグナス視点)

前回のあらすじ:


マグナスがいなくなったことで、どんどんおかしくなっていく勇者パーティー。

マグナスが求めているドワーフの名工・バゼルフに、狼藉を働くが……。

 俺――〈魔法使い〉マグナスは、バゼルフの工房を訪ねた。

 エンゾ村から〈タウンゲート〉を使って、王都ラクスティアに帰還したその日はアリアに会いにいって夕食をともにし、翌日すぐのことである。

 まずは出入り口の木製扉をノックして、来意を示す。

 ところが、何も返事がない。

 偏屈だと〈攻略本〉にも書いてあるからなあ……。

 これは入れてももらえないのかと、思案したところだった。

 どうも扉がしっかりと締め切られていなかったらしく、ノックの拍子にゆっくりと、勝手に開いていった。

 おかげで工房の中の様子が、俺の目に映った。


「って――おい、どうした!?」


 俺は勢い込んで中へと入る。

 老ドワーフが床に倒れていたからだ。

〈攻略本〉に載っていた写し絵からも、彼がバゼルフなのは間違いないが……。

 ひどい怪我だった。全身に打撲痕があった。滅多打ちにされていたのだ。


「おい、いったい誰にやられたんだ!?」

「勇……者……」


 バゼルフは息も絶え絶えに答えた。


「勇者!? まさか、ユージンたちか!?」


 訊ねると、バゼルフは倒れたまま、弱々しくうなずいてみせる。

 あのバカめ……。

 どこまで堕ちれば気が済むのか……っ。


「いや……今はとにかく怪我を治すのが先決だな。〈ハイポーション〉を飲め。俺のをやる。こんな怪我、すぐに治るぞ!」


 俺は励ますように声をかけながら、懐から〈ハイポーション〉の瓶を出した。

 普通の〈ポーション〉と違って、買えば相当に高価な、貴重な品だが、どうせアイテム収集に血道を上げていた時に、ついでで入手したアイテムだ。

 何が惜しいものか。


 ところが、バゼルフは弱々しく首を左右にした。

 飲む気はないと拒絶した。


「なぜだ!?」

「ワシは……施しなど……受けん……っ。第一……人……間は……信用なら……ん」


 クソッ、偏屈にもほどがあるだろう!

 ……いや、それだけの話ではないな。

 ユージンたちにひどい目に遭わされて、よけいに頑なになっているのだ。


 どうしたものか……。

 俺は思案に暮れ、視線を宙に彷徨わせた。

 そして壁に掛けられた、たくさんの武具が目についた。

 俺は迷わずその中の一本――〈サンダートライデント〉を指して言った。


「あの素晴らしい槍を売ってくれ」


 壁に掛かっている中では、群を抜いて高価な、ランクB装備だ。オークションに出せば、金貨八千枚は下るまい。

 恐らくはバゼルフ自身で鍛えた業物で、自慢の品だろう。飾り方から彼の矜持がびりびりと伝わってくる。

 とはいえ、今の俺なら余裕で買える品だ。そこを敢えてこう言った。


「……だが、すまない。手持ちの金では足りなそうだ。宿へ取りに帰ればあるのだがな。しかし、あれだけの逸品だ。その間に売れてしまうかもしれない。それは惜しい。というわけで、手付け代わりにこの〈ハイポーション〉を――」

「もういい。……もうわかった」


 バゼルフが痛みを堪えながら、くぐもった声で笑い出した。

 この偏屈そうなジイさん、恐らく一年に一回も笑ったりしないのではないか?

 そんな雰囲気を漂わせる彼が、確かに笑っていたのだ。


「……茶番はいい。その薬、ありがたくいただこう、人間よ」

「俺はマグナス。魔法使いマグナスだ」

「ありがとう、魔法使いマグナス」


 バゼルフは丁重な物腰で〈ハイポーション〉の瓶を受け取ると、慎重に飲み干した。

 みるみるうちに傷が癒え、バゼルフは矍鑠と立ち上がる。


「それで、ワシに何の用だ、マグナスよ? まさかあの槍を本気で欲しがっているわけではあるまい、魔法使い殿?」

「ははは! そうだな、あんたを超一流の鍛冶師と見込んで、鍛造して欲しい〈マジックアイテム〉があって来たのだ。素材も用意してきた。あとはあんたの矜持と腕前に見合う報酬を用立てできればいいのだが……正直に言って、少し負けてもらえると助かるね。具体的には〈ハイポーション〉一本分くらい」

「がはは! なるほど、なるほど、承知した。いいだろう。負けてやろう。ケチは言わずに〈ハイポーション〉二本分くらい」

「さすが、その太い腹は伊達ではないな?」

「なかなかの男振りだろう? これでも若いころはモテたものさ」

「ドワーフの美的センスではそうなのだろうが、人間の男ならばもっと腹を引っ込めろと、女に言われてしまうだろうね」


 軽口を叩き合っているうちに、互いの間にある空気も打ち解けていく。

 種族は違えど、男と男だ。

 俺も偏屈なところは多少なりとあるし、魔法と鍛冶、道は違えど己の技量に自負を持っているのも、バゼルフと共通していた。

 要するに似た者同士なのだ。


 だが、ひとしきり笑い合った後、バゼルフが咳払いをした。

 気まずそうな、申し訳なさそうな顔になって、告白する。


「依頼を引き受けてやりたいのはやまやまなのだが、一つ問題があるのだ。愛用していた金鎚を勇者に奪われてしもうた」

「やはり、愛用してるものでないと、勝手が違うのか?」

「ワシとて一人前の鍛冶師よ、道具は選ばん――と言いたいが、〈マジックアイテム〉を打つとなると、さすがに話が変わる。ミスリルか、アダマンタイトか、魔力を持つ金属でできた金鎚でないと、鍛造不可能なのだ」

「なるほどな……」


 俺は得心が行き、唸った。

 しかしユージンめ、よけいなことをして煩わせてくれる。

〈ミスリルスミスハンマー〉や〈アダマンタイトスミスハンマー〉となれば、そう易々は入手できないだろう。


 どうしたものかと、俺は〈攻略本〉をひもといた。

『アイテム』の章の索引を読み漁った。

 そして、一か所に目が留まった。


「ほう……これはこれは……」

「どうした、マグナスよ? その本はなんだ? 何が書いてあるのだ?」

「詳しい話は後だ、バゼルフ殿」


 俺はほくそ笑みながら言った。


「どうやら入手できそうだぞ――それも〈オリハルコンスミスハンマー〉がな」

貴重なオリハルコンの金槌の入手法とは――!?


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

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