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第二十六話  城塞都市キロミツ

前回のあらすじ:


レイが呪いの防具もゲットしたり、デストレント乱獲でレベルとステータスをブーストしたり。

 キロミツは町の周囲を高い外壁に囲まれた、城塞都市だ。

 出入り口は東西南北の四か所。それぞれで検問が執り行われており、入出に際して怪しい人間かどうかや、持ち物をチェックされる。


 俺とショコラ、レイの三人は、南門の検問前にできている行列に並んだ。


『これはずいぶんと待たされそうですね、マグナス様。正直、面倒臭いです』

「なんだか入念にチェックするみたいですね。いつもこんな調子なんでしょうか?」

「さて、それはどうかな。戦時中でもあるまいし、毎日がこの有様では、物流も滞りそうなものだが」

『“魔弾将軍”の軍勢と、戦争中だからということでしょうか?』

「そのために人間の出入りを厳しくチェックするというのは、どうも違和感があるがな」


 俺は二人とそんな話をしつつ、周囲の様子を窺う。

 それで一緒に並んでいる、旅人や行商たちの話が耳に飛び込んでくる。


「知らないのかい? 今このキロミツに、大公殿下のご長子サマが陣中見舞いにいらっしゃっているのさ」

「都から騎士団を率いてきたって噂だぜ」

「俺は逆に、ご長子サマが騎士団に担がれて、嫌々キロミツまで連れてこられたって噂を聞いたぜ? なんでも都で騎士連中が、立場が悪くなるポカをやらかしちまって、誤魔化すために勇ましいところを見せなきゃならねえんだとかなんとか」

「へえ。おまえさん、事情通だねえ」

「ともかくこのウンザリするほど厳重な検問は、公子殿下がいらっしゃってるからかいな」

「まあ、次期大公殿下にもしものことでもあれば、たとえゲオルグ将軍といえど、首が飛んじまうわなあ」


 なるほど、そういう事情だったか。


「仕方ありませんね。順番を待ちましょう」

『せめてワタシが面白い話をして、マグナス様の無聊を慰めて差し上げますね!』


 俺とレイがデストレント乱獲にいそしんでいた間、ショコラにはアリアと一緒にちょっとした頼みごとをしていたのだが、その時の様子を面白おかしく話してくれる。

 おかげで退屈を忘れ、いよいよ俺たちの順番が来る。


「次の方、どうぞ!」

「大変お待たせいたしました。そして、ご協力に感謝いたします」


 検問に立つ兵士たちが、ひどく申し訳なさそうに、且つ丁重な態度で俺たちに応対する。

 これは意外であった。厳重な検問と聞いて、てっきり居丈高な態度で、こちらの痛くない腹をネチネチと探ってくるのだろうと、そんなイメージを勝手に抱いていたのだが。

 兵士たちの物腰はどこまでも丁寧で、好感を覚えさせるものだった。


 こういう末端にこそ、率いる将の手腕が表れるものだと、俺は思う。

 してみるとゲオルグ将軍は、噂に違わぬやり手なのかもしれない。

 さすがはモンスターの軍勢を相手に、防衛戦を続けているだけのことはあるか。

 兵法書にも曰く、長期の守城戦は本当に難しいものなのだという。実際の戦い自体は攻め手の方が苦しいが、戦が泥沼化した時、兵の士気や民心を維持するのは、守り手側の方が圧倒的に苦慮させられるのだと。


 俺はそんなことを考えつつ、兵士たちに名前と目的を告げた。


「名はマグナス。キロミツには“魔弾将軍”を討ちに行く途上で立ち寄った」

「レイと申します。同じく“魔弾将軍”を斃すため、マグナスとパーティーを組んでます」

『ショコラでございます。マグナス様に全てを捧げるメイドでございます』


 一人阿呆なことを口走ったが、ともあれそれを聞いた兵士たちが、血相を変えた。


「マグナス様にレイ様!?」

「も、もしや“魔王を討つ者”に〈光の戦士〉でいらっしゃるか!?」

「ショコラ様というお名前は寡聞にして存じませんが……ううむ、さすが偉大な英雄殿ともなれば、可憐な少女に奉仕させるのも当然のことかっ」

「ああ、そのマグナスとレイだ」


 俺はルクスン大公から拝領した、〈公認証明書〉を提示しながら首肯した。

 あと最後の一人、あんたはちょっと黙れ。な?


「しかし、俺たちのことをよくご存知のようだが?」

「はい! 実はゲオルグ将軍より、もしお二人がキロミツにいらっしゃった折には、ぜひとも将軍にお会いいただけないかとお願いするよう、徹底されておりまして」

「ほう。そんなことが」

「ですので、なにとぞご検討いただきたいのですが……?」

「構わんよ。というより噂のゲオルグ将軍に、こちらこそ一度お会いしてみたいくらいだ」

「あ、ありがとうございます!」

「ただちにご案内いたします!」


 俺たちは兵士らに先導され、将軍の居城へ赴くことになった。


    ◇◆◇◆◇


 城に着いた俺たちは、そのまま貴賓室へと案内された。


「なにぶん前線のことで、満足におもてなしできませんが……」


 と言いつつも、兵士が一生懸命茶菓子を出してくれる。

 俺は申し訳程度に手をつけ、ショコラとレイがうれしそうに頬張っていた。


 ほどなく、出入り口の扉が開き、騎士に警護された二人の男がやってくる。


「ようこそいらっしゃいました、マグナス殿。レイ殿。ショコラ殿。私が大公殿下よりこの都市の防衛を仰せつかりました、ゲオルグと申します」


 真っ先に名乗ったのは、意外に武官というよりは文官然とした、線の細い中年の男だ。

 俺たちはソファから立ち上がると、順に握手を交わす。

 それからゲオルグ将軍に席を勧められて、俺たちは再び腰を下ろす。

 ところが、将軍自身は決して着席しようとしなかった。


 代わりにもう一人が、俺たちの対面のソファに腰を下ろした。

 それで俺は、この彼が何者か理解した。

 貴公子然とした青年だ。


「お初にお目にかかる、ルイーゼル公子殿下」

「ご挨拶痛み入る、“魔王を討つ者”マグナス殿」


 互いに目礼を交わしたこの相手こそ、このルクスン大公国の次期統治者、ルイーゼル公子(プリンス・ルイーゼル)であったのだ。


 プリンスは次いで、レイに向かって声をかけた。


「妹の騎士を懸けた先日の決闘、私も観覧席から拝見させてもらったよ」

「きょきょきょ恐縮です殿下っっっ」

「そう畏まらないでくれたまえ、光の戦士にしてベアトリクシーヌの騎士よ。あのじゃじゃ馬がついに自分の騎士を持つ気になったかと、感心も安堵もしているんだ。ぜひ私とも仲良くしてくれると、ありがたい」

「ここここ光栄です殿下っっっ」

 

 レイは緊張のあまりに、プリンスの言葉がよく聞こえていないようだった。


「はははは! だから、楽にしてくれと言っているのに」

「ごごごごごめんなさいっっっ」


 プリンスに苦笑いされ、レイはますますカチンコチンになる。

 身分の高い相手を前にしているせいか。

 あるいは、仲良くなったお姫様の、実の兄を前にしているせいか。


 実際、プリンスはレイの人品を、見定めようとする気配があった。


「妹は勝気だし、わざと賢しらに振る舞って、周りを嘲弄する悪癖があるからね。およそ男から好かれる性格ではないし、将来大丈夫なのかとずっと不安に思っていたんだ」

「でででででもっっっ、ベリーはっっ、根は優しい女の子ですっ」


 なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃないか、レイ。

 しかもプリンス相手に、ちゃんと主張できるじゃないか。

 お姫様のことだから、というだけかもしれないが。


「妹が君を騎士にした理由がわかったよ、レイ殿」


 プリンスはにっこりとなって言った。


「私も、君のような男が妹の騎士になってくれて、喜ばしく思う。妹とちょうど釣り合いがとれているし、君といれば妹も少しは丸くなってくれるだろう」

「よよよよよくわかりませんけど、がんばりますっっっ」

「はは、その意気だ。そして、重ねて頼む。どうか、これからは私とも仲良くしてくれたまえ」

「はい! はい!! はいぃ!!!」


 レイ。「はい」は一回でいいぞ。


 しかし、そんなレイの純朴さを、プリンスはいたくお気に召したようだ。

 レイを見る目を細め、相好を崩していた。


 それから、プリンスは一転表情を引き締めると、


「マグナス殿が将軍の招きに応じてくれたのは、キロミツの現状を知りたいからだと思うが、如何か?」

「まさにその通りです、殿下」

「私も陣中見舞いに来て、詳しく知ったばかりだが、貴殿にも将軍から説明させよう」

「痛み入る」

「それでは、ご説明させていただきます」


 俺が礼を言うと、ゲオルグ将軍が丁重に、ローテーブルにキロミツ周辺地図を広げた。


 魔物たちは北から攻めてくる。

 それを食い止めるため、前線基地として四つの砦が配置されているようだった。


「……しかし、四つとも×がついているな」

「はい。四つ全て、既に陥落しているのです。今までだましだまし戦って参りましたが、いよいよこのキロミツが矢面に立つ時が、近づいております」


 無念げに答えるゲオルグ将軍。


「“魔弾将軍”はこれらの砦を落とすため、強力な四体のボスモンスターを派遣してきました。アルファ砦はサイクロプスに、ブラボー砦はキングバジリスク、チャーリー砦はグレーターデーモン、デルタ砦はゴブリンウォーゴッドに蹂躙され、そのまま今は占拠されている始末で……」

「なるほどな……」

「我々は今、砦を奪還すべく反攻作戦を行うか、このキロミツを最後の砦として籠城作戦を行うか、その岐路に立たされております」

「差し支えなければ教えていただきたい。将軍はどちらを選択する腹積もりだ?」

「正直、決めかねております。どちらも非常に大きなリスクを伴うので」

「ふうむ……」


 本当のことは明かせぬ手前、プリンスには「キロミツの現状を知りたい」などと言ったが、実は〈攻略本〉情報でわかっていた。

 俺が知りたかったのは、ゲオルグ将軍の出方だった。

 しかし、決めかねているというなら、それも俺には好都合。


「反攻作戦に出るなら、俺たちも砦奪還を手伝わせていただこう」

「ま、真ですか、マグナス殿!? 正直、お力を貸していただければと考えてはおりましたが、まさか本当に助太刀してくださると仰るか!? 私如きの権限では、さしてお礼はご用意できませんよ!?」

「なに。構わないさ」

「ありがとうございます! これで町に被害を出さずにすむ! して、どちらの砦の奪還作戦に、参加していただけましょうか?」

「無論、決まっているさ――」


 俺は即答した。

 隣でレイも相槌を打った。


「四つ全て、すぐにでも取り返して参ろう」

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