第二十五話 いざ懐かしの地へ
前回のあらすじ:
レイが呪いの魔剣を試し切りし、ソロでファイアドレイクを撃破!
試し切りを終えた俺たちは、〈タウンゲート〉を使って王都ラクスティアへ帰還した。
「坊主――いや、レイ。おまえさん、やるのう」
「ありがとうございます、バゼルフさん。この〈ブラッククレイモア〉も、素晴らしい切れ味でした。……不気味なのが玉に瑕ですけど」
「そうか、そうか。そいつもきっと、優れた持ち主と出会えて喜んでおろうよ」
「……ですかねえ?」
【ギケケケケケケケケケケケケケケ】
などというやりとりをしながら、バゼルフの工房に戻る。
「実はな、バゼルフに頼んで、レイのために誂えてもらっていたのは、剣だけではない」
「本当ですか!? まさか鎧も!?」
「おうさ、〈ブラッククレイモア〉すらをも超える、逸品に仕上がったぞ。我ながら自慢じゃ」
「わあ! うれしいです、マグナス! 早く見たいです、バゼルフさん!」
喜ぶレイを引きつれ、俺とバゼルフは工房の奥へ進んだ。
そこに飾ってある、防具一式の前に立った。
胸当て、籠手、脛当てのみという、レイの機動力は損なわず、しかし要所はしっかり守ることのできる設計。
美しい白銀色は、素材に〈古代アラバーナ精製ミスリル〉を使ったからだ。ただのミスリル製鎧以上に、着用者に多大な〈魔法耐性〉を約束してくれる。
「凄い! まともだ!」
目にしたレイが、たちまち瞳を輝かせた。
「それに綺麗でカッコイイです!」
「気に入ってくれたようで何よりじゃ。触ってもいいんじゃぞ?」
「ありがとうございます、バゼルフさん! うわあ! うわあ!! 新品だっ。ピカピカだっ。銀色なのはこれもミスリル製だからですか? でも、ところどころ金色なのは――」
「うむ。要所には〈オリハルコン〉を用いている」
「オリハルコン!」
レイが感嘆して叫んだ。
それがどれだけ稀少かは、知らぬ者がいないだろう鉱物だからな。
俺たちも“魔海将軍”バーラックの船で発見したばかりだ。
「まあ、ワシにもっと腕があったら、総オリハルコン製の鎧も作ってやれたんじゃがのう。許せよ、レイ」
「何を仰るんですか! 既に贅沢すぎですよ!」
「そもそもオリハルコンを扱える鍛冶師自体が、この大国でも五人いるかどうかという次元だからな」
バゼルフは謙遜したが、彼もメキメキ腕を上げている最中だし、俺もせっせと珍しい素材を持ち込んでいるし、いつかは総オリハルコン製の鎧を作るのも、夢ではないだろう。
「装備してみてもいいですか!?」
「当たり前だ。そのために用意したんだからな」
「むしろ、早う着けてみせてくれい」
「本当にありがとうございます!」
レイは喜々として、一式を装備した。
誇らしげな立ち姿を、俺たちに披露した。
刹那――
【でろでろでろでろでろでろでろでろでーんで】
「なんか変な音聞こえたあああああああ!?」
「ああ、興味深いな」
「なるほど、こいつはこんな風になるんじゃのう」
「なんで二人とも冷静に観察してるんですか!? 驚いてないんですか!?」
「そりゃ、〈ブラッククレイモア〉が不気味に笑い出すくらいなんだ」
「こいつも何かしらあるんじゃろうと、察しはつくはのう」
「も、もしかして、この鎧も呪われた鎧なんですか!?」
「はっはっは、ようやく気づいたか」
「かっかっか、レイよ。おまえさん、察しが悪いのう」
「もおおお二人とも他人事だからって笑ってえええ! ああ、脱げないっ。この鎧脱げないよぉっ。助けてェ!」
「〈ブラッククレイモア〉を使いこなした君なんだ。〈武具浄化〉を使えばちゃんと脱げるさ」
「そうじゃ。落ち着けい」
パニックになる少年を、俺とバゼルフは温かく見守るのだった。
◇◆◇◆◇
レイのために新調した鎧は、古代アラバーナ精製ミスリルやオリハルコンを元に、合成素材として〈魔海将軍の魂〉を用いた一点物だ。
そう、掛け値なしに世界にこれ一個きり。
〈攻略本〉式にランク分類すれば、SSSとなるだろう。
「銘――〈バーラックメイル〉としようか」
レイが脱いだ鎧に、バゼルフが彫金した。
一方、そのレイはやや不貞腐れ気味に、
「それで、この鎧もテストしに行くんですか? 僕、どこだって行きますよ。こうなったらヤケですよ」
「いや、必要ない。〈ブラッククレイモア〉で確認は終わっている」
「じゃあ、予定通りクラウヒルで、ボスモンスター狩りに邁進しますか?」
「いや、それも必要ない」
俺はゆっくりとかぶりを振った。
「えっ!? じゃ、じゃあ、〈レベルアップ〉計画はどうするんですか!?」
「極めて簡単に28まで上げる方法が、実はある。それを使うことにした」
「そんなすごいものがあるなら、どうして最初から使わなかったんですか!?」
「ボスを斃して〈経験値〉を稼ぎ、レベルを上げ、〈ステータス〉や〈スキル〉を鍛える。しかしそれだけでは、人は本当の意味で強くなったとは言えないからだ」
「た、確かに……」
今までの戦いを反芻しているのだろう。
レイは遠い目になって、うなずいた。
「俺はクラウヒル周辺に棲息する、レベル20台のボスモンスターたちを討伐して、俺と君のレベルを25まで上げる予定だった。同時に、ますます厭らしくなるボスモンスターたちとの戦い方を、君に学んでもらうつもりだった」
「でも、必要なくなった……?」
「そうだ。ファイアドレイクとの戦いぶりを見て、確信した。実は、いつでも助太刀に入れるように、心の準備をしていたのだがな。まるで無用だった。君はレベル20台のボスモンスターが相手でも、堂々と戦い、危なげなく打ち破った。やっぱり君はセンスがあったな、レイ。呑み込みがよく、自分で考える力もある」
「そ、それほどでも……」
本気で照れるレイに、俺は口元をほころばせながら、
「ともあれ、もはやクラウヒル辺りでモタモタしている必要はないと判断した」
「わ、わかりました。じゃあ、28まで一気に上げてしまいましょう!」
「ああ。その意気だ」
俺たちはバゼルフに改めて礼を言うと、工房を後にした。
早速“ナルサイ”号に乗って、王都ラクスティアを発った。
目指す村へ向かった。
“ナルサイ”号を使えば、すぐに到着だ。
「ひなびた村ですねー。生まれ故郷を思い出します」
「そうか。ノココ村というんだ」
答える俺の声に、どうしても感慨がにじむ。
この村は、俺にとっても思い出深い場所だからだ。
俺の、本当の魔王退治の旅の、始まりの地だからだ。
「マグナス。ここで何をするんですか?」
「デストレントというレベル27ボスモンスターを育成し、乱獲する」
「はぇ!? ボスモンスターを育成!? 乱獲!?」
「27とはいえ、楽な相手だぞ? まず〈スリープⅡ〉で眠らせてから、ヘヴィカスタマイズした〈サンダーⅢ〉でとどめを刺すんだ。まだレベル23だった俺でもできたことだし、〈魔海将軍の金貨〉で、君のレベルに合わせても余裕だろう。むしろ、新しいのが一匹育つまで、三日もかかるのが億劫だ。いや、今は〈タウンゲート〉も“ナルサイ”号もあるから、その間よそで何かしているのも手か」
「いや、そういうことを驚いているんじゃなくてですね……」
「驚くのはまだ早いぞ? こいつの〈ドロップアイテム〉がまた美味くてな――」
「ああもう! とにかくやってみましょう! やればいいんでしょう!?」
俺とレイは協力して、デストレントの育成と乱獲を始めた。
ほどなく俺はレベル28〈武道家〉に、レイはレベル28〈光の戦士〉にまで成長できた。
またデストレントからドロップした各種の果実を食べさせ、レイの全ステータスがプラス50ブーストされた。
こうして俺たちは、城塞都市キロミツへ向かう準備が整ったのである。
そこは“魔弾将軍”の侵攻を耐え凌ぐ、ルクスン大公国の最前線だ。




