第二十三話 決闘の決着(レイ視点)
前回のあらすじ:
エルドラとの決闘開始。そして――
僕は見様見真似で〈レインボウラッシュ〉を放つ――
刀身に真っ赤な光が宿り、まず〈炎属性〉の一撃をエルドラに叩き込む。
たとえ刃引きされた練習用の剣だろうが、エルドラのまとった重甲冑の上から大ダメージを叩き込む。
間髪入れず、刀身が青い光を放ち、〈風属性〉の一撃。
さらに刀身が緑光に染まり、〈地属性〉の一撃。
白光煌めいて〈光属性〉の一撃、電光閃いて〈雷属性〉の一撃と、打って打って打ちまくる。
そのたびにエルドラが、「ぐぎゃっ」とか「ぷげぇ」とか短い悲鳴を上げる。
強打に次ぐ強打のラッシュ技なので、長い悲鳴になる前にすぐ次を打たれるからだ。
”降参だ、レイ! お願いだからからもうやめてくれぇ!”
エルドラはもう半泣きになると、心の声で懇願してきた。
七連撃技の、まだ五撃目なのに耐えられなかったようだ。
でも、ごめんよ。エルドラ。
僕は心の中で謝った。
この〈スキル〉は元々、エルドラのものだ。
だから、その君ならわかってくれるよね?
〈レインボウラッシュ〉は、一度始めたら簡単に止められる技じゃない。
僕は七連撃全てを叩き込んだ。
エルドラはもんどりうって、大の字になった。
意識を失っていないのが不思議なくらいのダメージを負って、ビクンビクンと痙攣していた。
観覧席が一瞬で静まり返った。
あれだけエルドラに声援を送り、僕に野次を投げつけていた、若手騎士たちが声を失い、ただただポカンと阿呆口をさらしていた。
そんな硬直した空気の中で、一人――大公殿下が席を立つと、
「見事である! まったくもって素晴らしい戦いぶりよ!」
なんと僕へ向けて拍手喝采してくれたのだ。
するとたちまち、殿下の周囲にいた大臣や貴族たちも立ち上がって、
「いやまさしくですな! さすがは〈光の戦士〉殿!」
「天晴! 天晴!!」
「神霊プロミネンスのご加護は伊達ではないということ、しかとこの目に焼き付け申した!」
「レイ殿がこの調子で“魔弾将軍”を討ち取る様、臣の目に浮かぶようですぞ!」
「いや、我がルクスンは安泰だ!」
なんとも調子のいい絶賛の嵐だった。
正直、僕を本気で褒めてるというより、大公殿下が褒めているからお追従で……という風に見える。白けてしまう。
いや――だからこそ、大公殿下の手放しの激賞は、うれしいものだよね。
白けてなんかいられない。僕は観覧席の殿下に向かって、丁重に一礼した。
すると期せずして、僕への拍手喝采がますます大きくなった。
さらには、観覧席の雰囲気が妙な方向へと転がっていく。
大臣たちとその取り巻きの文官たちが、口々に言い出した。
「いやはや、光の戦士というのは、ここまでお強いものなのですなあ!」
「はて……? よくよく考えてみますれば、エルドラ卿とて光の戦士であらせられるのでは?」
「ややっ、これはおかしい。理屈が合いませんぞ、やややっ」
「同じ光の戦士でも、レイ殿とエルドラ卿では違うということではございませぬか?」
「うむ、その通りぞ。かたや“魔王を討つ者”マグナス殿に、同志と見込まれたレイ殿。比べてエルドラ卿は、土台からして実力が違ったということでしょうなあ」
「ははは、大臣閣下。エルドラ卿とて一応は、騎士階級の出なのですぞ」
「まるで我が国の騎士団が、てんでだらしないように聞こえてしまいますぞ、はははは」
……本当に妙な空気になってきちゃったなあ。
「呆れるでしょう、レイ? これが権力闘争に躍起になる、宮廷人という連中の姿よ」
僕がげんなりとしていると、ベリーがやってきて言った。
「文官と武官が反目し合うのは、宮廷内の常。そして、騎士たちがあなたを目の仇にしたように、その騎士たちが目障りな大臣たちからすれば、あなたはまさに『敵の敵は味方』というわけですわ」
「そんな味方は別に要らないなあ……」
「ええ、よくわかっていらっしゃいますわね」
ベリーはそう言うと、僕の目の前で自分の存在を主張するように、胸を反り返らせてみせた。
つまり、「あなたの本当の味方は、わたくしだけ」と言いたいのだろう。
そりゃうれしいけど。
「あれもごらんなさい、レイ。見苦しくて、もはや笑えてきますわよ?」
次いでベリーはそう言って、観覧席の一部――騎士たちが陣取った辺りを、顎をしゃくって示してみせた。
若手とベテランが混在し、互いに罵り合っていた。
「エルドラ卿め、無様な姿をさらしおって!」
「騎士の風上にも置けん惰弱者よ!」
「誰だ? あんな奴を旗頭に担いで、“光の騎士団”などとけったいなものを創設しようとしていた奴は?」
「吾輩は知らん! 若手どもの暴走であろう!」
「な、何を仰いますか! つい昨日まで、一枚噛ませろと仰っていたではありませんか!」
「知らんな! 第一、婦人を使って姫のお身柄を狙うなどと、卑怯千万! 同じ空気を吸うのも汚らわしい卑怯者よ!」
「そ、それは、どんな罠からも貴婦人を守り通さねばならないという、厳しい現実を体現するためにエルドラ卿は敢えて――」
「だまらっしゃい! それで負けて恥の上塗りをしているようでは、世話はないわ!」
「おかげで吾輩たち、ルクスン騎士の風評にまで傷がついてしもうたわ!」
「責任をとれ、痴れ者が!」
「そ、某たちとて知りませぬ! 責任をとるというならばエルドラ卿がとるのが筋でしょう!」
騎士たちは都合の悪さを誤魔化すため、盛大に責任転嫁と仲間割れを始めていた。
特に立場の悪い、エルドラとつるんでいた若手たちは、まるで逃げるようにそそくさと退席していく。
まして倒れ伏すエルドラを介抱してやろうという者など、一人もいなかったのだ。
「ね? いっそ笑えてくるでしょう?」
「ぼ、僕はそこまでは思わないけど……」
くすくすと忍び笑いを漏らすベリーに、僕はジト目を向けた。
君も大概イイ性格してるよね……。
「ともあれこれで、誰もレイがわたくしの騎士となることに、否やは唱えられないでしょう。早速、父上のところへ参って――」
「待て……っ。オレは認めん……ぞっ……」
ベリーの言葉を、虫の息のエルドラが遮った。
「クソ……クソ……っ。なんで……どうして……こうなった……っ」
往生際の悪いことを、青息吐息で口走っていた。
その姿はあまりにも憐れで、僕はにわかに返事ができない。
だから、エルドラの疑問に答えたのは、別の人だった。
即答しようとしたベリーよりもさらに早く、〈大魔道の杖〉を携えた青年が、颯爽と現れて――
「なぜか、だと? 決まっているさ。おまえが彼我の力量も見極められない、間抜けだったからだ。『侮り』という、最も言い訳のできない愚行を犯したからだよ」
そう冷淡に告げたんだ。
「マグナス!? いつこっちに!?」
「ついさっき、ちょうどだ。城を訪ねてみれば、こんなバカ騒ぎになっていて、正直なにをやっているのかと、呆れたぞ」
「ご、ごめん……」
「君は“魔弾将軍”を討つために強くなっているのだろう? こんな小物を相手にしている暇はないぞ?」
「小物て……」
ベリーより遥かに物言いが辛辣なマグナスに、僕は苦笑いが禁じ得なかった。
一方そのベリーが、マグナス相手に物怖じせず対峙し、
「お初にお目にかかりますわ、“魔王を討つ者”」
「こちらこそお初にお目にかかる、ベアトリクシーヌ公女」
「マグナス様の仰ることもごもっともですが、今回はわたくしの未来の野心のため、わたくしが一方的にレイを巻き込んだことですの。だから、責めるのでしたらレイではなく、このわたくしになさって?」
「なるほど、承知しました。あなたはお優しい方のようだ。同時に先見の明をお持ちの、聡明な公女殿だ」
マグナスはそう言って、ベリーに微笑を見せた。
僕もそろそろつき合いが長いから、わかる。あれはマグナスが好感を覚えた相手にしか見せない笑顔だった。
「では、公女殿下。我々はここらでお暇します。なさねばならぬ使命が残っておりますので」
「ええ、けっこうですわ。ですが、憶えておいてくださいましね? 今やこのレイは『ベアトリクシーヌの騎士』ですの」
ベリーはまるで「一時、貸し出してあげますわ」とばかりの態度で、僕を前に突き出した。
「憶えておきましょう」
マグナスは再び微笑んだ。
それから一転、冷え冷えとした顔つきになると、エルドラの傍にしゃがんで、懐から取り出した〈ハイポーション〉を彼の口に突っ込みつつ、
「おまえも憶えておけ――何百万分の一という幸運をつかみ、光の戦士となって、伯爵家の嫡子となった。それでもう充分だろう? おまえ程度の浅知恵で大それた野心を抱くと、身を滅ぼすのがオチだぞ? いいな? 俺は優しくはないから、一度しか忠告してやらんぞ?」
ドスの利いた声音で、エルドラに向かって言い置いた。
その迫力は尋常じゃなく、エルドラは子犬のように震えることしかできなかった。
役者が違うよなあ……。
「さあ、行くぞ。レイ。それとも、君もこいつに一言あるか」
「いいえ。行きましょう、マグナス!」
僕はベリーにしばしの暇を告げて、マグナスとともに王都を再出立した。




