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第十一話  ドワーフの名工バゼルフ(ミシャ視点)

前回のあらすじ:


フォレストジャイアントの戦利品から、新たにマジックアイテムを合成しようとするマグナスは、王都に戻ってドワーフの名工・バゼルフを訪ねようとするのだが……。

 あたし――女〈戦士〉ミシャは、焦っていた。

 その主たる原因は、〈勇者〉ユージンのせいだ。

 あたしとユージン、女〈僧侶〉のヒルデ、女〈武道家〉のニャーコの四人は今、王都ラクスティアの鍛冶屋街に来ていた。

 その奥まった場所にひっそりと工房を構える、〈秘術鍛冶師〉バゼルフを訪ねていた。


「聞いたぜ、バゼルフさんよ? あんた、〈炎水晶〉が三個あれば、オレの〈ミスリルソード〉を〈フレイムソード〉に打ち直せるんだってな? 素材はちゃんと集めてきた。金も用意してある。一丁、カッコいいのを打ってくれよ!」


 ユージンは不愉快なほど馴れ馴れしい口調(本人だけは偉大な勇者らしからぬ気さくさと、自画自賛している)で、バゼルフに依頼を告げた。

 しかし、金床の前に座しているバゼルフは、仏頂面のまま、ユージンと顔を合わせようともしなかった。

 噂通りの偏屈なジイさんだ。

 いっそ苦々しい口調になって、


「フン。誰に聞いたか知らんが――」

「近衛騎士隊長のテンゼンだよ。こないだ王様の誕生パーティーに招かれた時、初めて会って意気投合したんだ。そして教えてくれたんだよ。あんたが昔、テンゼンの〈ミスリルソード〉を〈フレイムソード〉にしてやったんだってな」

「フン。それはあいつがまだ、権力欲に目がくらんでいなかった時期のことだ」

「じゃあ、いいじゃん。オレは世界のために、魔王モルルファイを倒す運命を背負った男だぜ? 協力しろよ、ジイさん。いつかオレの偉業が伝説として語り継がれる時、あんたの名前も刻まれるかもしれないぜ? 『勇者のために武器を鍛えたドワーフ』ってな。まあ、オレが魔王と戦う時まで、まだ〈フレイムソード〉なんかを使い続けてるかは疑問だけどな」


 ものの頼み方も知らないユージンは、話せば話すほど、職人気質らしいバゼルフの神経を逆撫でしていた。気づかぬは愚鈍な本人ばかりだった。

 慌ててヒルデが割って入り、交渉を変わる。


「あなた様の腕を見込んでお願いです、バゼルフ様。どうか、世界を救うためにあなた様のその匠の業を貸すのだと、そうお考えくださいませ。神霊タイゴン様は、バゼルフ様の高潔な意志と義気を、きっとご照覧あるはずです」


 さすがは僧侶、よくもまあ咄嗟にそんな綺麗事をぺらぺら並べ立てられるものだと、いつもあたしが呆れ半分に感心する、弁舌を振るって説得に当たる。

 同時に、バゼルフの前に楚々と跪いて、上目遣いになって、密かに自慢らしい胸の谷間を見せつけてと、女の武器も駆使してみせる。

 本当に厭らしい女!

 でも実際、たいがいの奴はこれでコロリとやられるのだから、男ってのは度し難いほどバカばかりなのだろう。

 あたしの知る限り、ヒルデを胡散臭げにして相手しなかった男なんて、マグナスだけ。

 そして今日、あたしのその人物録の中に、二人目の名が刻まれた。


「おまえさん、さぞやモテるんじゃろうな」

「え? ええまあ……しかし、神霊に純潔を捧げた身では、意味はありませんが」

「しかしな、ワシらドワーフからすれば、おまえさんはふくよかさがまるで足りん。鼻もシュッとしすぎて狷介に映る。つまりは不細工だということよ」

「!!」

「そんなおまえさんの色仕掛けや巧言令色など、ワシには『意味はありません』よ」


 皮肉げに鼻を鳴らす、偏屈極まるバゼルフに、ヒルデは言葉と顔色を失った。

 あたしは少しいい気味だと思った。

 でも、笑っていられるような余裕と暇はなかった。


「こいつ、所詮は穴掘りチビ(ドワーフ)の分際で、ごちゃごちゃやかましいにゃー」


 マグナスと入れ替わりにユージンが勧誘した女武道家で、猫人族(ケットシー)のニャーコが、いきなりバゼルフに蹴りをかましたのだ。

 蹴り飛ばされた彼は、ドワーフ特有の丸っこい体型のせいもあって、壁際まで転がっていき、硬い石壁に激突した。


「ちょっ、何すんだよ、ニャーコ!?」

「ミシャもやかましいにゃー。分からず屋には拳で説得しろってお師匠様が言ってたにゃー。ウチはそれを忠実に守っただけだにゃー。ミシャも拳で説得されたいかにゃー」

「なんだと!?」


 拳じゃなくて足だったろと、ツッコむ余裕もない。

 この脳筋はいつもこんな調子で、行く先々で人を殴ってはトラブルを起こす常習犯だった。

 理知的で、常に五手、十手先を考えながら物を言い、行動していたマグナスとは、正反対のパーティーメンバーだった。

 しかも、一番最悪なのは――


「おお、名案だぜ。ニャーコの言う通りだ」


 パーティーリーダーのユージンが、往々にしてニャーコのやり口に賛同を示すのである。

 高レベル〈武道家〉の蹴りを食らい、壁際でぐったりしているバゼルフへ向かって、ユージンが脅迫口調で続ける。


「おう、ジジイ。あんただって命は惜しいだろ? さっさとオレのために剣を打てよ」

「ユーシャさまの言う通りにするにゃー。ウチの手が滑って、うっかりぶっ殺したらどうするにゃー」


 ニャーコと左右から、バゼルフを小突き回す。


「ちょっとっ。マグナス、あいつら止めてっ」


 あたしは思わずそう言いかけて、ハッと口をつぐんだ。

 マグナスはもういないんだった。

 そう……こういう時、真っ先にユージンの愚行へ苦言を呈してくれていた、あの高潔な男はもういない……。

 ユージンが短慮で、パーティーから追い出してしまったんだ。

 ……だったら、あたしがユージンを止めるしかない!


「ユージン、あんた正気!? それじゃ街のゴロツキどもと変わらない! 衛兵でも呼ばれたらどうすんの!?」

「ミシャ、おまえこそ頭、大丈夫か? オレは世界を救う勇者様だぞ? ジジイが衛兵に助けを求めたとして、まともに相手されると思うか? こんな小汚えジジイとオレと、いったいどっちが信用あるよ? 社会的ステータスがあるよ?」

「……汚いのはどっちよ」

「ああん? おまえもいちいち口やかましい女だな。いくらツラがいいからって、いい加減鬱陶しくなってきたぜ。そんなにオレのやり方が気に食わねえなら、おまえも戦力外通告してやろうか? マグナスと同じ末路をたどるか?」


 ユージンに忌々しげにそう言われて――情けないことに、あたしは反論できなかった。

 ヒルデがくすくすと、嫌味たらしい笑い方をしながら、


「ミシャさんはこのパーティーを出ていくわけにはいきませんものね? 勇者様の一行として魔王を倒して、故郷に錦を飾って、冤罪で家名に泥を塗る羽目となったお父様の、汚名を晴らさないといけませんものね?」

「……ああ……そうだよ。……あたしが悪かった。……だから、出ていけなんて言わないでくれ……」

「最初からそう言えばいいんだよ、バアアアカッ」


 ユージンに思いきり罵倒され、ゲラゲラと嘲笑される。

 あたしは屈辱に震えながら、顔を落とすしかない。

 壁際で震えているバゼルフと、なんら立場は変わりやしない。


 結局――バゼルフはユージンの言いなりになって、〈フレイムソード〉を打った。

 頑固オヤジも、圧倒的な暴力の前には敵わなかった。

 ユージン、ヒルデ、ニャーコの嘲笑を背後から浴びせられ、「おら急げよノロマ」と遊び半分に尻を蹴られながら、バゼルフはみじめさに耐えて、黙々と金鎚を振るった。

 そして、〈フレイムソード〉が完成するや、奪い取るような勢いで、ユージンに持っていかれた。


「おお、いいデキじゃねえか。さすがの腕前だな、ギャハハハハハ!」

「その金鎚もかなりの名品とお見受けしますわ。口止め料代わりにいただいていきますね、くすくすくすくす」

「ウチらがマオーを倒して、ラクスティアに凱旋した暁には、返してやるにゃー」


 ニャーコがとどめとばかりに、バゼルフを蹴り飛ばして昏倒させた。

 そんな彼になお嘲笑を浴びせながら、ユージンたちは工房を後にした。

 本当に、強盗や野盗の如き所業だった。

 でもあたしは卑怯にも、目を閉じ、耳を塞いでいることしかできなかった。


 どうしてこんなことになってしまったのか……。

 いつからこんなパーティーになってしまったのか……。

 こんな調子で本当に、あたしたちは世界を救えるのだろうか……?


「助けて、マグナス……」


 あたしは口をつぐんで、その台詞を呑み込むことしかできなかった。

マグナスがいなくなったことで、どんどんおかしくなっていく勇者パーティー!

次回は行き違いになったマグナスが、傷つけられたバゼルフを訪ねます。


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

本日は2話更新です! このあとすぐ「第十二話」をお楽しみいただけると幸いです!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 力こそ正義!力こそ正義!
[一言] 助けてマグナスとか、こいつも追い出したうちの一人なのにどの面下げて言ってんだろう
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