第十一話 マグナス攻略作戦(レイ視点)
前回のあらすじ:
保護した女性はシェリスと名乗る。そして、マグナスはなぜか彼女に対してそっけなくて――
僕、マグナス、ショコラの三人は、しばらく暮らしたモンリバーの町を後にした。
目指すは次の町、クラウヒル。
その周辺のボスモンスターをやっつけて、〈レベル〉上げと〈ドロップアイテム〉入手を図る予定である。
それと、保護したシェリスさんを送り届けるため、道中は四人旅となる。
クラウヒルまで、“ナルサイ”号を使っても三日かかる。
その間、マグナスのシェリスさんに対する態度がずっと冷淡なままだと、確かに気まずい。
だから僕は一肌脱ぐことにして、二人を仲よくさせる作戦を立てたんだ。
作戦その一。
「ねえ、みんな。カードやらない?」
僕は笑顔でそう切り出した。
移動初日、小さな宿場町で一泊することになって、夕食をとった後のことである。
四人部屋しか空いてなかったのをこれ幸いに、僕は急いでゲーム用のカードを買ってきた。
『いいですねえ、ぜひやりましょう!』
ショコラなら食いついてきてくれると思ってた! 本当にありがとう!
明るくてノリのいい彼女は、パーティーに欠かせないムードメーカーだ。そして今回もショコラの天真爛漫さに、大いに助けてもらうことになった。
実際、ショコラは最初から、シェリスさんに分け隔てなく接してくれるしね。
「シェリスさんもやりますよね?」
「ええ、ぜひ交ぜてちょうだいな。あたし、こういうの強いわよ?」
『ワタシもメイドだからといって、勝負事では遠慮しませんからね!』
「うふふ、面白そう」
「ですよね、ですよね。マグナスもやりません?」
「俺はけっこうだ」
マグナスはそっけない態度で、さっさと自分のベッドに引き籠もると、自作の手記みたいなものを読み耽りはじめた。
……いや、大丈夫。
こんなのはまだ計画のうち。
僕はわざわざ寝室の真ん中に机と椅子を出して、三人でカードゲームを始める。
明るく! 楽しく! 元気よく!
「はーい、またあたしの勝ちねー」
『ぐぬぬ……シェリス様、本当にお強いですね……っ』
「よし、次に行きましょう、次。今度こそ負けてられないですよ!」
『レイ様の仰る通りです! ワタシ、負けません!』
「ねー。次ですよ、次ー」
と僕は一ゲーム終わるごとに、マグナスの様子をチラッと窺う。
普通、傍で皆が楽しく遊んでいたら、気になるよね?
まして白熱したゲームっぽかったら、気になって仕方ないよね?
むしろ、交ざりたくなるよね?
それでシェリスさんと一緒に遊んでたら、きっとマグナスだって打ち解けると思うんだ。
ね、名案でしょ?
「すまないが、俺は先に休ませてもらうぞ」
名案だと思ったのに!
「ああ、俺に遠慮する必要はないから。俺は周りが騒がしくても眠れるし、楽しく続けてくれ」
さっさとシーツを頭までかぶってしまったマグナスを見て、僕は作戦の失敗を悟った。
作戦その二。
「ねえ、みんな。そろそろお昼にしない?」
僕は笑顔でそう切り出した。
移動二日目、“ナルサイ”号で、街道を進んでいる途中のことである。
「次の宿場まで、まだあと少しかかるぞ?」
「いやいや、マグナス。お店に入らなくても、お弁当の用意があるんです」
「ほう」
マグナスが“ナルサイ”号を、街道脇の原っぱによけて、停止させた。
そのままお弁当タイムとなる。
僕は背嚢の中から、バスケットを取り出す。
「じゃーん!」
『これは美味しそうなサンドイッチです!』
「実はこれ、シェリスさんのお手製なんですよ!」
『ああ、それで早朝からレイ様と、お二人でこそこそ出かけてらっしゃったのですね』
「そうなんです、宿の厨房を借りて。僕もちょっとだけお手伝いしました」
本当はシェリスさん、料理がてんでダメで、僕がほとんど作ったんだけどね!
『ワタシにも声をかけてくだされば、腕を振るいましたのに』
「それはまた別の機会に、楽しみにさせてください」
『承知いたしました、レイ様。舌を震えさせて差し上げますよ』
「それも楽しみですけど、今はシェリスさんの『真心がこもった』お弁当をいただきましょう」
僕はバスケットをいそいそと、皆の真ん中に置く。
チラッとマグナスを盗み見る。
僕が生まれた村の、同年代の女の子たちがよく言ってたんだ。
「男はまず胃袋からつかめ」って。
実際、男は女性の手料理ってやつに弱いと思う。美味しい物にも目がないと思う。
マグナスだって、このシェリスさんが作った(という触れ込みの)美味しいサンドイッチを食べれば、気持ちがほだされるはずだよ。
「さあさあ、食べよう! 僕もうハラペコ。いただきまーす!
『いただきます、シェリス様』
「ええ、どうぞ。お口に合うといいんだけれど」
「美味しいですよ、シェリスさん! うわー、料理上手なんですねー」
ホントは自画自賛になっててムズ痒いんですけどねー。
「ほら、マグナスも食べてくださいよ」
「すまないな。俺は朝食を食べすぎてしまったみたいだ」
「えっ」
「俺に遠慮せず、皆でわけてくれ」
「えっ。えっ」
『それは残念でございますね、マグナス様。こんなに美味しいのに。でも、気落ちしないでくださいませ。明日のお昼はこのショコラがお弁当を用意いたしますので!』
とか言いながら、片端から食べるのやめてくれないショコラ!?
マグナスの分がなくなっちゃうから! 本当になくなっちゃうから!
「なら明日は、ショコラに頼んだ」
『お任せください、ご主人様!』
しかもショコラがなんの気なしに、明日の胃袋ゲットチャンスまで潰してるし……。
名案だと思ったのになあ……。
作戦その三。
「ねえ、マグナス。クロウヒルの周辺には、どんなボスモンスターがいるのかな?」
僕は笑顔でそう訊ねた。
移動三日目、街道脇の原っぱで、ショコラお手製の弁当をいただきながらのことである。
「そうだな……例えば、リュンクスという猫に似た魔物がいる。こいつは透視能力が厄介なモンスターで――」
と、マグナスは滔々と語り出す。
僕も彼とパーティーを組んでしばらく、最近になってわかったことがある。
それはマグナスが、ウンチク語りが好きってこと。
そう、まるで学者や魔法使いみたいにさ!
だから、訊くとなんでも喜んで教えてくれるし、僕も彼の話は本当に興味深くて楽しいから、瞳を輝かせて聞き込んじゃう。
するとマグナスの方も、内心ちょっとうれしそうなんだよね。
だから、これはもう最後の手段だ。
マグナスに大好きなウンチク語りをしてもらい、シェリスさんには内心退屈だろうけど、一緒に聞いてもらう。
それで、まず「皆で談笑をしている」という形式を作る。それをきっかけに、なし崩し的に本物の談笑へ移行していく。そういう作戦だ。
明日にはクラウヒルに到着しちゃうし、もう手段は選んでられない!
僕はマグナスのリュンクス語りを聞きながら、シェリスさんに目配せを送った。
それでシェリスさんも興味津々のふりをしながら、
「まあ! 透視能力だなんて厄介ね! そんなのを持っている魔物を狩りに行っても、先に見つかってしまうんじゃないかしら。最悪、近づく前に逃げられてしまうんじゃないかしら」
「ああ、それはだな――」
マグナスは早速、シェリスさんに知識を披露しようとした。
僕も内心、よっしと拳をにぎった。
「――いや、ご婦人に聞かせて楽しい話でもないな。これはここまでにしよう」
にぎったのに!
名案だと思ったのに!
「レイ。魔物退治の話は、シェリスさんを無事に家へ送り届けた後、改めて腰を据え、作戦会議するべきだと思うが、どうだ?」
「……はい。……まったく正論ですね」
僕はそう答えるしかなかった。
◇◆◇◆◇
移動三日目の夕方が来て、僕たちは宿場町で一泊することにした。
あとはもう寝るだけ、という時間が来てしまった。
結局僕は、マグナスとシェリスさんの間を取り持つことはできなかった。
「お役に立てず、ごめんなさい」
「いいのよ、レイ。あなたがとってもがんばってくれたこと、あたしは見てたわ」
シェリスさんは苦笑いを浮かべた。
僕には、とっても魅力的な表情に見えた。
美人だから苦笑いも似合う……というわけじゃない。気づいた。同時に、僕への親愛の情もたっぷり込められていたから、魅力的に映ったんだ。
「そんなあなただから、ご褒美に一つ、お姉さんが真剣なアドバイスをしてあげる」
シェリスさんは妙に改まった口調で言い出した。
「あなた、利用されやすい性格をしてるから、もっと気をつけた方がいいわ? 相手がお姉さんだからよかったけど、もっと悪いこと企んでる奴だったら、痛い目を見るわよ?」
「え? え? どういうことです?」
「あたしは小賢しい男が一番嫌い。つまらない。でも、あなたくらい突き抜けて善良な男だと、かえって見てて退屈しない。そういうことよ」
シェリスさんはそう言って、いきなり僕の額に軽いキスをした。
「んんん~~~~~~~~~~!?」
僕はびっくりして仰け反ってしまう。
真っ赤になってしまう。
シェリスさんの唇が触れた辺りが、まるで火を持ったように熱くて、両手で押さえてしまう。
今のよくわからない台詞といい、もうパニックもパニックだ。
「ありがとう、レイ。短い間だったけど、あなたには世話になったわ。今夜は早く、ぐっすりと寝ることね?」
「え? 早く? ぐっすり?」
「別に起きてて、聞き耳立ててくれても、燃えるけど。ちゃんと寝たふりしててね?」
シェリスさんは最後まで謎めいたことを言って、宿にとって部屋へ戻っていった。
内緒話は打ち切りだ。
仕方なく、僕もマグナスとの二人部屋に戻る。
マグナスは自分のベッドで、分厚い本に読み耽っていた。
青い装丁の、彼の愛読書だ。
……そういえば、シェリスさんの前では、一回も開いてなかったな。
「マグナスは、シェリスさんの何を警戒してるの?」
隣のベッドに入って、僕は訊ねた。
訊ねずにはいられなかった。
「見知らぬ相手を、軽々しく信用するものじゃないだろう?」
マグナスは本から顔を上げて、率直に答えてくれた。
「……一理あるね。でも、だったら僕のことはすぐに信用してくれたの?」
「君が、見知らぬ村人のために、アースドレイクに立ち向かった、善良な男だからだ」
「それはラッドもそうじゃない?」
「でも、そいつは君を捨てて逃げた」
「僕が間抜けなだけで、もし逆の立場だったら、僕だって見捨てて逃げたとは考えないの?」
「事実、君は逆の立場にいなかった。君は勇敢に前衛を務め、仲間に見捨てられるとは、最初から考えてもいなかった。そのこと自体が、君の善良さの証拠だ。君がもっと小賢しい男だったら、そんな危ないポジションを務めない。もっと保険をかける」
「…………そうかな?」
「君はもう少し、自己評価を上げてもいいな」
マグナスはそう言って、本を大切そうにしまうと、
「明日も出発は早い。寝ようか」
「ええ、そうしましょう」
僕たちはベッドにもぐった。
◇◆◇◆◇
とはいえ、なんだか眠れなかった。
なんだか考えさせられることがいっぱいあったような気がして。
なんだかまるで考えがまとまらなくて。
僕はベッドの中でぼーっとしたまま、何時間もすぎてしまった。
だから、気づくことができた。
出入り口のドアが、外からそーっと開けられるのが。
「いつまでもあたしにツレナい態度をとる、マグナスが悪いのよ?」
シェリスさんがひそめた声で、いたずらっぽく笑うのが。
忍び足で、マグナスのベッドに向かうのが。
僕は思わず、薄目を開けて確認する。
すると視界に飛び込んできた。
裸よりもいやらしい、スケスケの寝巻を着たシェリスさんの姿が!
そして彼女は、ベッドで眠るマグナスの上に、大胆に跨る。
こ、これって、いわゆる一つの夜這いってやつですか!?
ええええええええええ普通そこまでするうううううううううううううう!?
読んでくださってありがとうございます!
そして、ついに4章も11話に突入いたしました!!
作品全体としても、なんと100話を突破しております!!!
ここまで書き続けられたのも、応援してくださっている皆様のおかげです!!
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