第十話 エンゾ村への凱旋と報酬
前回のあらすじ:
フォレストジャイアントと戦い、撃破!
エンゾ村に帰還した俺とグランツを、村民一同が盛大な歓呼をもって迎え入れてくれた。
「お帰りなさいませ、マグナス様!」
「ご無事で何よりです!」
「グランツ! この野郎! いつの間にかいなくなって、心配させやがって!」
「まさかマグナス様の足を引っ張ってはないだろうな?」
「まあまあ。マグナス様ともども、こうして無事に帰ってきたのですから、よいではありませんか」
「うむ、その通り!」
俺たちは皆に囲まれ、揉みくちゃにされる。
特に若い娘たちなどは、頬を赤らめてべたべた触ってくる。「きゃっ、魔法使い様に触っちゃった」などと、娘同士できゃいきゃい盛り上がっている。
なぜ村人たちが、離れた森でのことを、俺たちがボスモンスターに勝ったことを、知っているのか?
身の丈6メートルの、フォレストジャイアントの断末魔の悲鳴が、なんとこのエンゾ村まで届いていたらしい。
さらには、
「ありがとうございます、マグナス様! 孫娘が……ずっと臥せっていた孫娘が、嘘のように元気になって、ベッドを出てきたのです……!!」
村長がもう涙と洟だらけになって、感謝の言葉を叫びまくる。
その隣には、すっかり血色の良くなったメルもいた。
「ありがとうございます、魔法使い様。森のボスモンスターを倒せば、わたしの病気が治るかもと仰ってらしたそうですね? 本当にその通りになりました! なんとお礼を申し上げたらよいか……!」
「礼ならこいつに言ってやってくれ」
俺はグランツの袖を引っ張った。
想い人であるメルが出てきた途端、いい図体して、もじもじと俺の背後に隠れていたのだ。
それを引っ張り出して、メルの前に突き出してやる。
「グランツ!?」
「こいつはな、あんたの病気を治してやりたい一心で、俺に協力を申し出たんだ。俺の盾となって、怖い怖い巨人を相手に、一人で突っかかっていったんだ。どこかのたまたま運命に選ばれただけのバカとは違う、本物の勇者だよ」
「え……いや……オレは……いえ私は、別に……」
「謙遜するな、勇者殿!」
俺は笑顔でグランツの背中を叩いた。
意中のメルの前で舞い上がっているのか、顔も体格も厳めしい男が、それでふにゃふにゃとよろめく。
「グランツったら、そんな調子で本当にボスモンスターと戦いになったの?」
メルが冗談めかし、屈託なく笑う。
村人たちも「そうだ!」「メルの言う通り!」と腹を抱える。
悪意のない、気持ちのいい爆笑が巻き起こる。
グランツも「参ったなあ……」と困り笑い。
と――そんな彼の、逞しい体にメルがそっと寄り添い、
「グランツも本当にありがとう。うれしい」
幼馴染の彼に、万感を込めた声音で礼を言った。
周囲の爆笑の渦が、冷やかしの声や口笛に変わる。
ふむ……と俺のグランツを見る目も変わる。
グランツの口ぶりでは、まるで脈のない片想いみたいに言っていたが、メルの方を見れば案外、最初から勝算はあったのではないか?
まあ、こういうのは自分ではわからないものだしな。
めでたい話じゃないか!
俺はグランツという朴訥な男に、好感を持っている。
だから二人が上手くいくのを、祈らずにいられなかった。
……俺もラクスティアに帰ったら、一番にアリアに会いに行こう。うん。
◇◆◇◆◇
その日は村を挙げてのお祝いになった。
飲めや歌えのお祭り騒ぎになった。
俺はこの手の騒ぎは苦手だと思っていたが、意外と楽しめていた。
村人たちがみんな素朴で、押しつけがましいところが一切なく、ただ純粋にメルの快気を祝い、俺たちの勝利を祝ってくれているからだろう。
グランツは乾杯攻めに遭っているが、俺はそこまでアルコールに強くないことを申告すると、みな遠慮してくれた。
エンゾ村の人々は、本当に慎み深い気質だった。
そんな代表である村長が、俺の隣に来て申し出た。
「マグナス様には、ぜひとも何かお礼をしなければと思っておるのですが……」
こんな片田舎では、お礼になるものが果たしてあるかどうか、恐縮している様子だった。
実際、俺も欲しいものは別にない。
村中逆さに振って、なけなしの金貨を「どうぞお納めを」なんて言われても、ただ後味悪いだけだしな。金なんか全く困ってないし。
「案ずるな。報酬はもうもらっている」
「そ、そうなのですか……?」
「ボスモンスターから、狙いの〈ドロップアイテム〉が出たからな。それで満足だ」
俺はそう言って、村長を安心させた。
それと、敢えて言わなかったが、戦利品はもう一つあった。
グランツが使っていた〈歴戦の大盾〉だ。
フォレストジャイアントの戦いの最中、砕け散ってしまったが、その破片がちょうど、俺の欲しかったアイテムに相当したのだ。
まあ、村長からすればただの砕けた鋼片だし、説明しても理解できないだろうし、言わずもがなだけどな。
グランツにも「くれ」と頼んだ時、「もちろん、喜んで差し上げますが……こんなものを?」と首をひねっていたしな。
俺はメルを救うに当たって、〈クエスト〉に挑戦するに当たって、フォレストジャイアントと戦うに当たって、無論、徹底的に〈攻略本〉を調べ上げた。
それで、フォレストジャイアントが78%の確率で、〈猛々しき森の心〉というレアアイテムをドロップすることがわかった。
俺が首尾よく入手したという戦利品がそれだ。
この〈猛々しき森の心〉――〈攻略本〉では〈合成アイテム〉という聞いたことのない分類わけをされていた。
少数民族であるドワーフの中でも、さらに稀な〈秘術鍛冶師〉に他の〈合成アイテム〉や〈触媒〉と一緒に渡し、秘伝の業を以って鍛えてもらうと、全く別の〈マジックアイテム〉になるのだという。
そして〈猛々しき森の心〉と合成できる触媒となるのが、グランツからもらったこの鋼片だった。
〈歴戦〉の名を冠するほどに使い込まれた盾を、さらに砕けるまで使い込んで、残ったその破片。
ラクスティアにたくさんある鍛冶工房を巡れば、どこかで売ってもらえるだろうと踏んでいたが、おかげで手間が省けた。
二つを合わせてできる〈マジックアイテム〉は、〈魔法使い〉である俺が魔王攻略の旅を続けるに当たって、重宝すること間違いなしの代物だ。
あとはドワーフの〈秘術鍛冶師〉を見つけるだけ。
これもラクスティアほどの王都だったら、一人や二人はいるだろうと踏んで、〈攻略本〉をひもとき、『重要人物一覧』の索引を当たった。
ビンゴだった。
鍛冶屋街の奥でひっそりと工房を営んでいるという、偏屈なドワーフ。
名をバゼルフという。
俺は王都に戻り次第、早速彼に会いに行くつもりだった。
ついに10話まで来ました!
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