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第一話  戦力外通告からの逆転快進撃スタート

マグナスの物語、始まりました。

よろしくお願いいたします!

 俺――〈魔法使い〉マグナスは、呪文を唱えた。


「フラン・イ・レン・エル……!」


 かざした〈古樫の杖〉の先に、一抱えはあろう炎の球が五つ、発生する。

 それらが矢のように飛んでいって、魔物に炸裂。

 しかし、効かなかった。

 天を衝くような巨大な木の怪物――デストレントの樹皮に、焦げ目の一つもつけることができず、跳ね返されてしまったのだ。


「ダメだ、ユージン! やっぱりこいつに炎の魔法は効かない!」


 俺はパーティーリーダーである〈勇者〉ユージンに、そう主張するしかなかった。

 しかしユージンは、たまたま神霊タイゴンとやらに選ばれただけの、愚かな少年だ。


「うるせえ、間抜け野郎! テメエの無能を棚上げして、不平をカマシてんじゃねえ!」


 育ちの悪さを隠せない、口汚い言葉で却下する。

 ユージンは俺より二つ年下の、十六歳だ。まだ子どもなんだ。

 俺は自分にそう言い聞かせ、辛抱強く説得を続けた。


「不平を言いたいわけじゃない。他の属性の攻撃魔法を試すべきだと言ってるんだ」

「だから、うるせえ! 植物の魔物には炎の攻撃が一番効くに決まってんだろ!?」

「それはあくまで理屈の話だ。理屈と現実が異なる時、間違っているのは理屈の方だ」

「いいからおまえは〈勇者〉のオレに従ってろよ! リーダーはオレだ!」


 ユージンはあくまで〈命令させろ〉と、ツバを飛ばしてわめき散らす。

 仕方がなく俺は、先ほども使った〈ファイアⅢ〉を連発。

 しかし何度ぶつけても、デストレントには効かなかった。


「ったく〈魔法使い〉ってのはこれだから使えねえ! おまえらが使える魔法って、マジでボスモンスターにゃ全く効かねえよな」


 ユージンが舌打ち混じりに不平を垂れる。

 デストレントに剣で斬りつけ、野太い腕のような枝で殴り返される。

 すかさずパーティーメンバーで〈僧侶〉のヒルデが、ユージンに回復魔法を使う。


「さっすが、マグナスと違ってヒルデは使えるぜ!」

「ありがとうございます、勇者様。でも、私があなたを支えるのは当然のことです」

「うひょー!」


 ヒルデは目を瞠るような美少女だ。そんな彼女に天使のような笑顔を向けられ、ユージンは戦闘中にもかかわらず、舞い上がった。

 バカなガキでしかないユージンは、ヒルデの可愛い顔の下に隠れている、性悪で自分勝手な本質を見抜けない。


 ヒルデがユージンをチヤホヤしているのは、〈勇者〉だからという理由だけだ。

 彼女は〈僧侶〉ゆえに、〈運命の神霊〉タイゴンのことを信仰している。

 そして、神霊タイゴンは〈勇者〉ユージンに、いずれ魔王モルルファイを斃し、世界を救う運命を託した。

 ヒルデにとってはその運命をサポートすること自体が、何よりの信仰の証というわけだ。

 ユージンを木に登らせるためならば、いくらでもおだて上げるし、女の武器をチラつかせることだって辞さないだろう。

 もし明日、気まぐれなタイゴンが「やっぱりドブネズミを〈勇者〉にしよう!」と神託をほざいたら、ヒルデはユージンを蹴り飛ばして捨てた後、自らドブに入って、ネズミに媚を売り始めるだろう。

 ユージンはそんなことにも気づかず、いつも鼻の下を伸ばしているのだ。


「あんたら、戦闘中にイチャついてんじゃないよ!」


 パーティーメンバーの最後の一人――女〈戦士〉のミシャが、ハスっぱな口調ながら、正論を言った。

 デストレントに有効だと思われる、〈鋼の斧〉を勇敢に振るい、何度も大きな切り傷をボスモンスターの樹皮に刻みつけていた。

 結局、ミシャが一番活躍して、デストレントを討伐することができた。

 俺の〈ファイアⅢ〉は一度も効かなかった。


    ◇◆◇◆◇


 俺たちはラクスタ王国の都、ラクスティアに帰還した。

 ここ二週間くらい拠点として使っている、宿屋を兼ねた酒場で、戦利品を広げる。

 ボスモンスターであるデストレントは、大量のドロップアイテムを落としていった。食べただけで各種〈ステータス〉を上昇させる効果を持つ、貴重な木の実がドッサリだ。

 どこか林檎に似た果実を、テーブルの上に山と積み上げ、パーティーみんなで相好を崩す。


「まず、〈力の果実〉と〈器用さの果実〉と〈知覚の果実〉はミシャの分でいいよな?」


 どちらも〈戦士〉の彼女には重要な〈ステータス〉だ。

 反対の声はどこからも上がらない。


「じゃあ、遠慮なくいただき! むっ――ウンメエ! これ、めっちゃ美味しいじゃん!?」


 ミシャが一口かじるや否や、恍惚となった。

 どうやら〈ステータス〉が上がるだけでなく、味までいいらしい。

 俺も早く食べたい。

「次に〈硬さの果実〉と〈素早さの果実〉と〈生命の果実〉は、リーダーであるオレの分でいいな?」


 どれも生き残るために重要な〈ステータス〉なので、これもまあ当然か。

〈勇者〉が死んでしまったら、この世は魔王に滅ぼされるしかないのだから。

 ユージン、この臆病者めと、思わないでもないが。


「〈神聖力の果実〉と〈精神の果実〉は、ヒルデにやるよ」

「ありがとうございます、〈勇者〉様。光栄ですわ」


 ヒルデにまた微笑みかけられ、ユージンはデレデレと鼻の下を伸ばした。

 正直、魔法の使用回数に関わる〈精神の果実〉は、俺も欲しかった。

 ヒルデと山分けでいいんじゃないかという思いはあった。

 だけどヒルデの回復魔法は、俺たちパーティーの生命線と言って過言ではない。冷静に判断して、ユージンの考えもあながち間違いじゃないと思うし、だから黙っておいた。

 残る〈魔力の果実〉さえいただけるなら、俺はそれでいいと。

 ところが、


「残りの〈魔力の果実〉だが……オレがもらうわ」

「なぜそうなる、ユージン?」


 さすがの俺も黙っていられない。


「当たり前の話だろ。オレだって数は少ないけど、魔法くらい使えるんだぜ? それも世界でオレ一人しか使えない、〈勇者〉専用魔法がな!」

「勇者様の仰る通りですよ。実際、マグナスさんの魔法なんて、今日も全然役に立たなかったじゃないですか。〈魔力の果実〉をマグナスさんにあげても、ただの持ち腐れになります」


 ヒルデが辛辣なことを言った。

 その顔には、そこはかとない優越感が浮かんでいる。


「学院の〈魔法使い〉の皆さんは昨今、口をそろえて仰います。自分たちの研究のおかげで魔法も進歩して、人々の暮らしを便利にしていると。はっきり申し上げて、増長も甚だしいかと。人々の暮らしを助けているのは、私たち教会の〈僧侶〉が使う奇跡の魔法だけです」


 ここ二十年ほど、頽廃しきった教会は民に見放されっ放しで、かつての権威がなくなっている。

 逆に、俺も育った学院の評判は鰻登り。教会勢力を奪っている形だ。

 それがヒルデは悔しくて、ここぞとばかりに〈魔法使い〉の俺のことをあげつらっているのだ。


「あたしもユージンの意見にさんせーい。働かざる者、食うべからずだわ」


 ミシャまでそう言い出しては、俺はもう引っ込むしかなかった。


 悪いのは、炎の魔法にこだわったユージンだろうに。他の属性を試してみれば、俺だって戦力になれたかもしれないのに。


 俺はそう思えど、口にはしなかった。

 まるで言い訳めいていて、こんな恥ずかしいことを主張するのは、矜持が許さなかった。

 ただ忸怩たる想いを堪えていると、


「つーかさ、マグナスをパーティーに入れたのは失敗だったかもな。王立学院をたった十五歳で卒業した天才っつー評判だから、仲間に入れてやったのによ」

「確か、神の御言葉である聖刻文字を、史上初めて解読なさったのでしたかしら? まあまあ、涜神極まれりですね。それで、何か役に立ちましたか? 神の御心は深淵で、その御言葉を解読できたからといって、所詮は人の身に正しい理解ができるわけないでしょうに」

「まあ、どんだけ偉かろうと、そもそも〈魔法使い〉自体が穀潰しってオチだったのかもな」

「戦いだって勇者様やミシャさんのように、物理で殴った方が有効ですしね」

「マグナス、おまえもうパーティー抜けろよ。代わりに女〈武道家〉でも仲間にするからさ」


 ユージンとヒルデに代わる代わる言われ、笑われ、俺はもう聞いていられなかった。

 思わず、席を立ち上がる。


「あんたはそれでいいの?」


 ミシャが明後日の方を向いて、ぶっきらぼうに訊ねてきた。


「聞いてなかったのか? たった今、戦力外通告を受けたんだ。このパーティーでは、〈勇者〉の命令が絶対だそうだからな」

「ふーん。――根性なし」

「なんとでも言え」


 俺は踵を返すと、足早に酒場を立ち去った。

 背中に、ユージンとヒルデの嘲笑を浴びながら。

 悔しかった。悔しいなんてものじゃなかった。


 しかも虚しい……。明日から、どうするかな……。


 故郷である学院都市に帰るべきか?

 しかし、勇者とともに魔王を倒してこいと、大声援で送り出してくれた同輩たちに、顔向けができない。

 俺は〈魔法使い〉の代表として世界を救い、全〈魔法使い〉の地位向上に貢献すべく、皆の期待を背負っていたのだ。


「ハァ……」


 嘆息混じりに、トボトボと夜道を歩く俺。

 すると、後ろから声をかけられる。


「魔法使い殿! お待ちください、そこの魔法使い殿!」


 振り返れば、商人らしき恰幅のいい男が、大慌てで追いかけてきていた。

 さっき俺が酒場にいた時、すぐ近くのテーブルで食事していた男だ。

 俺は職業柄、広く周囲に目を配り、観察する癖が染みついている。だからこそ、見覚えがあったのだ。


「何の用だ?」

「は、はいっ。皆様が勇者様ご一行と知って、何か儲け話につながることはないかと、悪いとは思いつつ聞き耳を立てていたのですが……」

「それで、俺に儲け話を見い出したと?」

「そうなんです! 魔法使い殿は聖刻文字が解読できるとか?」

「ああ、そうだが……」

「でしたら、この本を買い取ってくださいませんか? 生活に困窮している魔法使いから、借金のカタに入手したのはいいですが、さっぱり売れなくて困っていたのですっ」


 そう言って男が見せたのは、辞書のように分厚い一冊の本だった。

 表紙には確かに、聖刻文字で文章が綴られている。


『魔王モルルファイを倒すまでの、あらゆる情報を完全網羅!

 大丈夫!! 神にも通ずる(カミツーの)〈攻略本〉だよ!!!』


 正直、興味をそそられる煽り文句だった。

 これが聖刻文字で書かれていなければ眉唾物だが、神の文字を扱えるのは、神自身と下僕である神霊たちのみ(それと、解読に成功した俺だけ)。

 あたら妄りに疑いをかけるものでもなさそうだ。


「買おう。いくらだ?」

「どうせ売れませんので、ほんのお気持ちだけで。金貨一枚でも。二枚でも」


 さっきの酒場兼宿屋に十泊して、ちょうど金貨一枚ほどだ。

 俺は気前よく、金貨三枚を手渡した。

 そして、今夜の寝床を新たな宿に求めると、個室でその〈攻略本〉をひもといた。


「こ、これは――」


    ◇◆◇◆◇


 三日後。

 俺はデストレントに向けて、呪文を唱えた。


「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!」


 天空から巨大な稲妻が降臨し、巨木の魔物に落ちる。

 ユージンたちが、実質三人がかりでようやく倒したボスモンスターを――俺一人で屠った。


「凄い……。こいつは本物だ……!」


 俺は〈攻略本〉を手にしながら、興奮と戦慄を禁じ得なかった。



読んでいただいてありがとうございます!

ここからずっとマグナスのターンです!!


今夜は第三話までUPする予定です。

そちらもぜひぜひよろしくお願いいたします。

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新作始めました。
『辺境領主の「追放村」超開拓 ~村人は王都を追放された危険人物ばかりですが、みんなの力をまとめたら一国を凌駕する発展をしてしまいました~』
★こちらが作品ページのリンクです★

ぜひ1話でもご覧になってみてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ありがとうございます。 [一言] ↓のこぽたとかいうやつ、キモ過ぎて草
[良い点] チート物語でも攻略本を駆使する新しい形 典型的なクズ要素を詰め込んだ勇者の存在。 読んでいて面白いのはこの2つがあるからでしょう [気になる点] ・丁寧語・尊敬語・謙譲語の使い方が下手 …
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