第5話
ぎりぎりと避けた。
安堵の息をつく暇もなく、二番目の攻撃に襲われる。
彼らの動きの特性を覚えて、避けるのが精一杯だった。
焦っているかのように見える一匹が遠吠えを鳴らす。
――ウオーン!
すると、魔獣たちに取り囲まれてしまう。抜け出すのはできないようだ。
危ない。
本格的に狙われ始めた。
後の男の子だけでも逃げさせなければ。
そう思った瞬間、
死角から襲われてきた。
「くっ」
恐ろしい爪に肩がふれた。
倒れながら眼鏡が遠くにはじき出された。
勇者の時には魔王を措いて、自分を倒すことができる者はなかったけど、情けなくも無力に私を押さえつける魔獣を佇立したまま眺めることしかなかった。
時々刻々と大きくなる魔獣が目の前まで着く。やがて感じられるはずの痛みに覚悟したとき――
ペロ。
え?
ペロペロ。
状況をよく理解できない私は呆然としているだけ。
しばらくの間、やっと分かるようになった。言葉どおり、私は魔獣に舐められていた。
傷ついた私の肩が舐められる。
まもなく傷が瞬く間に消えて行く。
すると、魔獣は本腰でかかてきた。顔が一瞬にじとじとになる。な、何よ。
急にどういうこと?
きょとんとしている私に声が聞こえてきた。
「君が屈服させたのだ」
「え? 何の……」
「君の力に服従しただろう」
男の子の説明に理解した。へぇ、魔界とは、魔獣さえ力に従う存在なんだ。でも、何かこれは力に屈服するというより、主が大好きな犬のようだね。
傾いていた私は手を伸ばして、やはりマジックアイテムなのか傷さえ出来ない眼鏡を拾い上げて掛ける。そうしたら、魔獣たちが舐めるのを止めて、再び歯を剥き出しになった。
「あっ」
驚きのあまり、眼鏡を落としてしまった。地に落ちた眼鏡が転ぶ。そしてまた魔獣に舐められた。
……ん?
こいつら、まさか……。
また眼鏡をかけると、唸り声が聞こえてくる。
……眼鏡をかけていた時と眼鏡をかけない時の違いが激しいじゃない?
魔獣らも四天王の色気にやられたのか!
「力に屈従した」という意味を考えていると、男の子の眼差しに私を囲んでいた魔獣たちが瞬時に散らばった。
「……えっと、大丈夫?」
一応、男の子の無事を尋ねてみた。多分、大丈夫だと思うけどね。
これ、私が払うと言ってもいいのかな。
「……」
「――……え……、まあ、大丈夫そうね」
言うべき言葉が見付からない私は慌てて名乗った。
「あ、あの、はじめまして。私はユリナと言うの」
そして、迷った末に先を続ける。
「あのね……もし道に迷ってしまったら、連れて行ってあげるから」
「……」
また返事がない。
あれ? もしかしたら、照れてるだけなのかな。
「ついて来てね」
男の子の手を繫いで歩き出す。男の子はおとなしくついてきた。
その後、ふと足がとまる。
「あ、あの」
私は振り返しながら口を開く。
「ここ、どこ?」
***
そういえば、私、道に迷っているところだった。誰を連れて行く立場ではない!
絶望していた急に手が取れた。
「……来い」
そう言った男の子につられて行くと、見慣れた風景が浮かぶ。
「あ、リリアンの城だ!」
うれしくて、喜びの声を上げる。
「本当にありがとう!」
「……」
男の子は相変わらず無表情だったが、私は感謝の言葉を告げる。
「ねぇ。良かったら、名前、教えてもらってもいいの?」
「……クロード」
「そうか。ありがとう。それじゃまたね!」
私はクロードに手を振って城に帰った。