第2話
目を開けると、なぜか子供になっていた。
さらに、ものすごく大きな胸に埋もれたままだった。
この女の人、何と無く知り合いのような……。
リリアン。色欲のリリアン。誰だっけ――
あ、分かった。
色欲の四天王、夢魔の女王、リリアンだ!
子供になると、見る角度が違ってわからなかった。
勇者だったころにはとても小さな女性だと感じたから。あの大きな胸は例外として。
そもそも勇者の私より身長が高い女性など探すのがもっと大変だろう。
とにかく、リリアンは明るく笑顔で言った。
「さあ、今日から私のことを『リリアン様』と呼びなさい。詳しいのは執事のブリテンに聞けばいいのよ」
「リリアン様……恐れ入りますが、ユリナ様は後継者なので『お母さま』と呼ぶことにするのが正しいのでは」
「何を言ってるの。私が『お母さま』と呼ばれる年齢に見える?」
リリアンの眉間がしわくちゃになった。
すると、ほかの連中がブリテンという人を遠くに投げてしまった。
悲鳴が果てしなく響き渡った。
やっと笑みを取り戻したリリアンは一番前に立っていた人を指す。
「詳しいのは新しい執事……えっと、名前何ったっけ。とにかくこれに聞けばいいの」
「は、はい!新しい執事のジャックと申します」
うれしそうに叫んだジャックに抱かれたまま、自分の部屋に案内された。
***
急に執事になったジャックの説明によると、私はなんと、新たな魔王と同じ日に生まれた『魔神に祝福された』新しい四天王のようだった。
勇者の魂を魔神が祝福するなんて、何という不合理な……。
そのような私の意見とは関係なく、ジャックは本当にうれしそうに語った。
「ユリナ様に仕えるようになるなんて。この何の幸運――さらに、新しい魔王様と同じ日に誕生するとは。必ず立派な四天王になるのでしょう」
(新しい魔王か。では、その時に魔王を殺すのが成功したようだな)
命をかけたせいで、私はその後どのようになったのか分からなかったが。
どうも私は魔王を殺すことに成功した勇者になったようた。
これでしばらくの間、人間系は平和だよね。
そして、少し緊張が解けた私は部屋にいた鏡で自らを観察し始めた。
リリアンの言葉通り、ルビーのような赤い双眼と黒檀のような艶めく黒髪をしていた。
ひとまず、外見は10歳くらいに見えたが、魔族はもともと生まれた時からこのような姿らしい。そして10年余りの幼児期を過ごして成人になると、完全な姿を取り揃えという。
そういえば、生まれたばかりのになんだか――
「色気が、あふれている?」
自らの言葉に、自分が驚いた。
だって、そうでしょう。私とはまったく似合わない言葉じゃないか。
魔王を討伐し、世界に平和をもたらす。それだけのために生きてきた私だから、女の人生とは無縁だった。
だから、女子力ゼロ、色気ゼロの人生を送ってきたのに。
「ハアハア」
後から変な音が聞こえてきた。
なんか、過度に不吉な。
「ジャ……ック?」
「はぁ……すみません、ユリナ様。しかし、ユリナ様があまりにも美しくて、とても耐えられな――」
「ひぃっ!」
私は見かけとは反対に色気のない音を立てて、早くジャックから離れて、蹴りをした。しかし、残念ながら手足が短いせいでジャックの顔に当ることはできない。
「ユリナ様、ユリナ様。このジャックは……ジャックは……」
「とっとと失せろ!」
「ひどい! でも、本当に好き!」
ジャックに今にも飛びかかられてしまいそうだ。
無意識的に体中から聖力を引き上げようとしたが無理。
そもそも、魔族で生まれ変わりしたものが、聖力を使うのができるはずがなかった。
(誰でもいいから助けて!)
そして、勇者の時は決してやってみたことがなかった惰弱な思いが、脳みそをかすめた。
その瞬間だった。
バタンと――
ドアが砕ける音が耳に入ってきた。