7話 フラニー
フラニーがこの国に滞在していた理由は、アニメ文化、特にコスプレが大好きで移住を決意し、やってきたらしい。
オタク仲間のアマタ紹介で幼馴染だった俺も一緒に遊ぶようになった。
そして俺とフラニーは、動物好きという同じ共通点で意気投合し、結婚まではたした。
妻となったフラニーは、喫茶店の手伝いも家の事もしっかりとこなし、外国人女性でありながらもしっかりと近所づきあいもこなしている。
俺には、勿体ないほどの妻だ。
そんなフラニーには、少し年の離れた妹がいて、いつも気にかけてオンライン等で話している様だが外国からはるばる遊びに来る事になったらしい。
昨晩は、フラニーが徹夜で何やら作ってた様で、車の中に紙袋を詰め込んでいた。
今日の12時程に着くと言う事で空港へと向かう。
久しぶりに会える事もあり、フラニーは、テンポの良い音楽と共に揺れているくらいには、テンションが高い。
空港へ着くと紙袋を下ろし、いそいそと何やら準備をはじめている。
紙袋から出された布には、『ウェルカム トゥ ラタティシア』と書かれ、飾りつけも艶やかだった。
ちなみにラタティシアとは、フラニーの妹の名前だ。
俺は、布に付けられている棒を持たされ、反対側に付けられている棒は、フラニーが持ち、バッ!っと広げられる。
ラタティシアが来るまでの30分程この状態が続いた。
(誰か! 助けてください!! なんだこの恥ずかしいプレイは!!!)
ウキウキ気分のフラニーを止められるものは、誰もいなかった。
ちらっと見て視線を外す人。
微笑ましそうに見る人。
同情の視線を送る人。
広げた布の下を通りゴールを喜び合う人。
実に様々な人が俺の精神をゴリゴリと削っていった。
アナウンスが到着の知らせが流れ、理由は違えど俺とフラニーの気持ちは、最高潮へと達していた!
ぞくぞくとゲートをくぐり抜けて来る人達、その中にこちらに気づいて急ぎ足で来る者がいた。
「おね~ちゃ~ん!」
「シア!」
ガシッ!とハグを交わし、喜び合っている。
少し落ち着いて来た時にこちらへと視線を向けて来た。
「お久ぶり、おにーさん。」
「久しぶりだね、ラタティシアちゃん。 大きくなったね。」
「おにーさんは、少しやつれました?」
「……いろいろ、あったんだよ。」
俺は、遠い目をしながら答えた。
「長旅で疲れたでしょ? シアの大好きなハンバーグ用意しているよ♪」
「わ~い、おねーちゃんのハンバーグ大好き♪」
広げられた布を丸め紙袋へ詰めている間に話は、まとまった様だ。
俺達は、家へと帰り、ちょっと遅めの昼ご飯を食べる事になった。
「こっちがおねーちゃんのが大好きだったお菓子屋さんのクッキーでこれが乗り換えの空港で買った東京バナナでそれがさっき買ったご当地キティーちゃんとキューピーちゃんだよ♪」
「わ~い、ありがとう!」
「こっちがおにーさんへのお土産でベネチアンマスクです!」
「いつも悪いね。これで俺のコレクションもまた一つ増えたよ♪」
ここだけの話、俺は決してお面コレクターではない。
まだ結婚する前、フラニーのコスプレを褒めた事があったのだがたまたま仮面モノでその時は、まだ幼かったラタティシア勘違いして、お面をプレゼントして来るようになった。
幼い子供の心を踏みにじるわけにもいかず、あれよあれよとお面コレクターにされてしまったのだ。
前に魔王が持って行った翁面もラタティシアが選んだモノでない事がバレたらどうなる事かと気が気ではないのだ。
こうして、楽しいランチタイムは、一人の挙動不審者を他所にすぎていった。
その後も姉妹トークに花が咲き、その間俺は、晩御飯の準備やお風呂を用意したりしていた。
たまには、こんな日があっても良いだろうと気を使ったつもりだった。
「ユウくん! ちゃんとシアの相手もしてあげないと嫌われてるんじゃないかと心配してたよ?」
「いや、姉妹水入らずの邪魔をしたら悪いかと思って……。」
「言い訳しない! ほら、皆一緒に会話して、ご飯食べて、お風呂に入って、寝よう!!」
「最後の二つは色々と問題あるから!!」
俺の言葉に不思議そうに首をかしげるフラニーをなんとか説得して、お風呂と寝る時は、別にしてもらった。
(世の中ままならないぜ。)
次の日の朝、フラニーがいない事に気づいたラタティシアが眠気眼のままで起きて来る。
「おねーちゃんは?」
「フラニーなら狩りに出かけてるよ?」
「狩り?」
「ラタティシアちゃんに取れたての美味しいモノ食べさせるって材料調達に山に行ったんだよ。」
「おねーちゃん、一人で危なくない?」
「それは、大丈夫かな? ちゃんと狩人のコスプレしてたし……。」
フラニーは、コスプレする事でそのキャラクターになりきり、なんでもこなせるようになる。
コスプレの為にちゃんと訓練や知識をしっかり学んでいた様だ。
ちなみに動物好きと前に話していたが俺は、愛でる方でフラニーは、狩る方で好きなのだ。
「ただいま~♪」
「ほら、噂をすれば帰って来た。」
「イッパイ取れたよ~♪」
「ほんとにイッパイ!!」
「こっちが川魚のニジマスやアユで、こっちが山菜とキノコ、そして、じゃじゃ~ん! 猪です!!」
「この国の猪は、カッコいいね!!」
そう、棒に逆さ吊りにされている猪は、大きさも二回りほど多きく、額に角が生えていた。
(誰か~、魔物鑑定できる人来てください~!!)
「ふ、フラニー、これは何処にいたのかな?」
「今日は、シアの為にちょっと山の奥の方に行って、洞窟を抜けた所が大草原だったんだよ! そこに珍しい生き物がいっぱいいてね!! でも荷物になるからこの一匹だけしか取れなかったよ。」
「そ、そっか、今度、地図でその場所教えて?」
「うん、良いよ♪」
(厳重に策を張らないといけない、魔王が来た時についでに封印してもらうか……?)
「でも、猪の肉は、処理に時間かかるから今日は、食べられないね。」
「そっか、残念。」
「代わりにこの肉使って良いから。」
俺は、冷凍庫からサクラポークの肉をだしてフラニーに渡した。
それからラタティシアが帰るまで必死にフラニーを山へ行かせない様にして、空いた時間に立ち入り禁止の看板を建てに行き、最善策を取るのに必死だった。
後に魔王が再び現れ、封印してもらい残っていた角と体内にあった石を見せるとワイルドボアと言う魔物である事が判明した。
肉は、残念ながら食べてしまった為、素材は、無理やり引き取らせた。