3話 アホ毛星人
目覚めの良い朝、鳥達の歌うような鳴き声に体も元気が出て来る。
目を開け、背伸びをして、今日も一日頑張ろうと意気込む。
隣を見ると妻であるフラニーが凝視してこちらを見ていた。
「・・・。」
「・・・。」
「そんなに凝視してどうしたんだ? 普通、寝顔を覗く場合は、もっとやわらかい表情が一般的だと思うのだが。」
「あ、ごめん、何でもないよっ。」
「ん? 寝癖が付いているじゃないか。」
「痛い!」
「ご、ごめん!?」
フラニーの頭の真ん中にぴょんと髪が跳ねていたので手で軽く押さえてやったのだが痛みをあらわにしたので驚いて謝ってしまった。
そんなに強くしたつもりはなかったのだが痛かったのなら俺が悪いのだろう。
着替えを済ませ、顔を洗ったりといつもと同じようにしていると視線をずっと感じる。
振り向くとそこにはフラニーが凝視していた。
コワイ! 超恐いんですけど!?
フラニーは、俺と目が合うとすっといつもの自分の行動に戻って行った。
不思議に思い、とりあえず、フラニーの熱を測ったりしてみたが特に異常はなかった。
「なぁ、フラニー、今日は、なんだか変だぞ? 病院に行ってきたらどうだ?」
「病院!? そんな所に行けるわけないでしょ!!?」
「うぉ!? 急にどうしたんだ?」
「あっ、ごめん、なんでもないよ、大丈夫だから。」
ますますおかしい。
今日は、気にかけてやっていた方が良さそうだと思い、店の開店準備を進めていく。
普段通りに開店準備を進めて行くフラニー。
動きもいつもと変わらないし病気と言うわけでもなさそうだ。
開店準備も終わり、いつもの様にやってくる常連さん。
そして、常連さんを凝視するフラニー。
「フラニーちゃん、注文良いか? おい、フラニーちゃん、どうしたんだ?」
「あっ、ただいま伺います。」
「そんなにじっと見つめて、おじちゃんに惚れちまったか? ガハハハ」
「何バカな事を言っているんだい。 この子には、ユグルちゃんがいるっていうのに」
「A定食ですね。 承りました。」
「まだ、言ってないんだが。 いや、それで良いんだがな。」
「フラニーちゃん、具合でも悪いのかい?」
「B定食ですね。 承りました。」
「・・・。 ちょっとユグルちゃん、フラニーちゃん何かあったの?」
「今朝から何か変なんですよね、熱とかは無いみたい何ですが」
フラニーの様子は、おかしかったものの特に問題が起こるわけでもなく、つかの間の休憩時間になった。
とりあえず、フラニーには、ゆっくりしてもらう事にして、俺は、減って来た野菜を取りに畑へと向かった。
区画分けされた畑には、根菜類や果菜類、葉茎菜類、ハーブ類等いろいろ育てている。
サラダ用のレタスや料理に使う人参やニラ、ハーブティーに使うレモングラス等を収穫する。
ここで大問題が発生する、増えすぎたニラを抜こうとしたが抜けないのだ。
仕方なく切ろうとしたら悲鳴が聞こえた!
「痛い!」
「!?」
驚いて辺りを見回すも誰もいない。
不思議に思いながらも目線をニラに戻すとそこには、ニラが居なかった。
いや、ニラ達は避難していた。
いや、そうじゃない、良く見たらニラですらなかった!
毛だ! ぴょんと跳ねた緑色の毛だ!!
驚いているともぞもぞと動くモノが視界に入る。
レモングラスを植えていたその方へと視線を向けると同じように退避している毛がいた!
それだけじゃない、雑草と思われていたカヤも毛だったのだ!!
「よくぞ、我々の正体を見破ったな。」
「な、何者なんだ!?」
「我々は、アホ毛星人だ!」
アホらしくて、目まいがしてきたが必死に耐えぬいた。
とりあえず何故ここに居るのか尋ねる。
「目的は何だ?」
「我々は、この星に数年前から住み着き、征服の機会を伺っていたのだ!」
「ナンダッテ~!?」
「フフフ、驚いただろう! だが後一歩の所で見つかってしまうとはな。」
「どうやってここまで来た? 何故俺の家に住み着いているんだ?」
「教えると思っているのか? まぁいい、冥土の土産に教えてやろう。 そこの農具入れの中に我々の転移装置が繋がったのだ! そして都合が良い事に我々が擬態出来る植物があったのでな!!」
「今日中に全部ひっこ抜いておこう。」
「「やめろう! 人でなしか!!」」
征服しに来たような奴らに言われたくないが面倒なのでスルーだ。
アホ毛星人か、ひょっとしてフラニーがおかしかったのもこいつ等の仕業なのか?
俺が思案しているとスルーされたアホ毛星人が怒りをあらわにして言い放つ。
「だが見られたからには、生かしてはおけぬ! 新しく手に入れた戦闘用操人の餌食にしてくれる!!」
まさかと思い後ろを振り向くとそこには、フラニーが立っていた。
これは、思ったより状況が悪い。
まさか、アホ毛に殺されるとか、恥ずかしくて死んでも死にきれない!
「目を覚ますんだ、フラニー!」
「やってしまえ! 戦闘用操人1号よ!!」
「黙れ、アホ毛野郎!」
「どうしたのだ、戦闘用操人1号よ!?」
「友だと思って仲良く接していたのにまさか征服を企んでいたなんて!」
ベチーン!「痛い!」
フラニーは、アホ毛を引き抜いて、地面へと叩きつけていた。
アホ毛星人もアホだがこんな奴らに騙されるフラニーもアホだなと再確認できた。
というか、知っていたのなら教えて欲しかった。
「バカな!? 長い時間をかけて信用させ、寄生したというのに自力で引きはがしだと!!?」
「私を騙した報い、受けてもらうからね!」
「「ぎゃ~~~! やめろ~!!」」
フラニーは、畑に植わっているアホ毛星人達をむしっては、叩きつけを繰り返していた。
俺から見たらただの雑草除去作業だがアホ毛星人から見たら怪獣映画並みのスケールだろう。
あっという間にカヤの外になった俺は、お茶をすすりながらその光景を見ていた。
「もう悪さをしたらダメだよ?」
「グスン 今日は、これぐらいにしといてやろう。 覚えてろよ!!」
むしられ尽くしたアホ毛星人達は、捨て台詞を残して、泣きながら農具入れの中へと姿をけしていった。
最後まで茶番にしか見えなかった。
これで一件落着かな?
「ごめんね、ユウくん。 私、アホ毛星人に騙されてたみたい。」
「気にしなくても良い、今度から何かあったら俺に教えてくれ。」
「ありがと、ユウくん♪」
ぎゅっと抱き着いてきたフラニーに少し自分も甘いのかと思いながらも悪くない気持ちがあった。
午後の開店時、常連さん達も元に戻ったフラニーを見て嬉しそうにいつもの注文をしていた。