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不条理に抗いし者  作者: 燐月
少年編
3/5

出会い

「よっし、これで今日の見回りも終わりーっと。おいスレイン、お前まだ一人前にならねぇのか?おれは早くお前と呑みに行きてぇんだよ」


 スレインと共に歩いている男──チズヤがスレインに話しかける。


「お前と呑みに行くなんてお断りだ。」


「釣れないねぇ…そんなんだとガールフレンドが出来ないぞ?」


 チズヤはにやりと笑って言った。


「必要ない、自分の事だけで手一杯だから」


「違いねぇ、だがまぁ、1人位は守れる位の余裕は持っておいた方がいいぞ

 」


 チズヤが自嘲するような顔で言った。


「努力はする」


「十分だ。っと、忘れてた、スレイン、ザイルが呼んでたから後で顔だしとけよ」


 と、言ってザイルは去っていった


「1人くらい守れる余裕…ね…」


 スレインは自分の手を握り、呟いた




 スレインは人気のない、スラム街を一人歩く。

 その足取りに迷いはない。

 薄暗い道を右へ左へと曲がって行く。

 少し歩くと開けた広場に出た。


 ここは、スラム街最大のコミュニティ、Edenエデンの拠点。

 とはいえ、広場以外に特筆すべきものは他よりも2回りほど大きいだけのぼろぼろな家だけ。

 だが、彼らにとっては十分だった。


 スレインはその、大きな家に入る。

 中は外見ほどぼろぼろではなく、綺麗に整えられている。

 スレインはその中のある1つのドアを軽く2回・2回の順でノックしてから、声をかけた


「ザイル、来たぞ」


 間もなく、中からザイルの声がする


「スレインか、鍵は空いてるから入っていいぞ」


「ザイル…また散らかしてる…」


 部屋に入って早々、スレインは呆れ顔で言った。


「し、仕方ないだろ、最近忙しかったんだから…」


 ザイルの部屋には紙やら鞄やらが大量にばらまかれており、床がほぼほぼ見えない状況だった。


「はぁ、ヴィーツェさんに怒られても知らないよ」


「大丈夫大丈夫、ヴィーツェなんて屁でもねーから」


「ヴィーツェさんなんて屁でもない…と」


 スレインはザイルの言ったことを復唱しながら何かを紙に書いている。


「ま、まてスレイン、そのメモはなんだ?」


「ん?これ?ザイルが言ったヴィーツェさんの悪口リスト」


「なんでそんなもん作ってやがる!寄越しやがれっ!」


 ザイルがスレインに慌てて掴みかかるが、スレインはそれをするりと躱す


「んーじゃあ、こうしよう。この紙を捨てる代わりにザイル、今度外に連れてってよ」


「くっ…仕方ねえ、今度連れてってやるよ。だから早くっ!その紙を寄越せ!」


 といってザイルはスレインから紙を奪い取り、懐にしまった。


「約束、わすれんなよ?」


「あぁ、わかってるって。んで、今回お前を呼んだ訳なんだが…お前が8つになったら一人前に認めることを決めた。俺としてはまだ早いと思うんだがな…周りがそれを認めなくてな」


 一人前として認められる──それにより、ここの人々は自由と義務、そしてEdenエデンの一員としての誇りを得ることになる。


 自由とは、Edenエデンの縄張り外に自由に出入りすることができる。なぜ、一人前でないと出入り出来ないのか?と思うかもしれないが、いくら近年になって法が整備されてきたとはいえ、まだまだ犯罪は多い。

 スリなどはまだいい方で、攫われて奴隷として売られる。なんてことはザラである。それらから守るために、一人前以外は自由に外に出ることが出来ないのだ。


 次に義務、これは一人前に認められた者は必ず、一つ以上の役割を課される。それは見回りであったり、情報収集であったりと多岐に渡る。


 そして誇り、これは体のどこかにEdenエデンの紋様を刻印するのだ。

 刻印、とはいえ魔法を利用しているため、刻印する際に痛みもなく、綺麗に消すことも可能だ。



「2年後に一人前?それ、本当か?」


 スレインが困惑した様子で尋ねる。


「本当のことだよ。他の奴らは今すぐにでもしたいみたいだったがな…」


 ザイルはしんどそうな顔をしている。


「本当なのか…でも、なんで?自分はまだ子供。」


 スレインは率直な感想を言う。


「まぁ、理由としては、十分過ぎる程の実力を持っていること、頭がいいこと。の2つが大まかな理由だな」


「なるほど…でも、あと2年間は何も変わらないから、それまではいつも通りやる。」


「あぁ、問題ないぞ。ただ、もしかしたら仕事が少し増えるかもな。」


「そのくらいなら許容範囲。もう話は終わり?」


「あぁ、もう戻っていいぞ」


「じゃあ、また」


 といってスレインは振り返り、部屋を出る。


「はぁ〜嬉しい事なんだが、しばらくは仕事が増えそうだ。」


 というザイルの呟きは1人しかいない部屋の中で消えていった。




 ザイルと別れた後、スレインは自身の寝床へと歩いていた。

 いつも通りの道を歩いていたのだが、ふと違う道を歩いて帰ろうと思い、いつもは直進する道を左へと曲がった。


 いつもとは違う道、どこか探検してるみたいで楽しいものだ。なんて考えながら歩いていると。


「きゃーーー」


 少女の悲鳴が聞こえた。声の大きさからして、余り遠くはない。

 スレインはその声の方向へと走り出した。

 その声のした場所にたどり着くと


「離してっ!離してよっ!」


 少女が男2人に捕まえられ、逃れようと必死にもがいている。


「ちっ、面倒くさい」


 スレインは男達の後ろから駆け寄り、飛び上がると、少女を掴んでいる方の男の首に蹴りを入れた。


「ぐぁっ!」


 といい男が倒れる。


「どうしたっ!」


 ともう1人が倒れた男の方を見るが、もうその場にスレインはいない。

 蹴りを入れてすぐ、 もう1人の男の背後に移動すると、同じように首に蹴りを入れ、気絶させた。


「こんなものか」


 といい、衝撃で少し痺れた足をぶらぶらとほぐしていると


「あっあの、助けてくれてありがとう」


 振り返ると先程まで襲われていた少女がいた



 これが、運命の出会いだった。

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