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不条理に抗いし者  作者: 燐月
少年編
2/5

月日は流れる

 ここは、エスティーダ王国のスラム街。

 職のない貧しい人々がコミュニティを形成し、生活したいた。


 貧しいとは言えども、ここの人々は生きるのに最低限の物品は揃っており、ある程度幸せな暮らしを送っていた。


「スレイーン!スレインどこだ!」


 30代の男──ザイル=ナータスがある人物を探すため、スラム街を歩いていた。


「なに?ずっとここにいるけど」


 ザイルの背後から突如少年の声が聞こえる。


「うわっと、スレイン、ずっと後ろにいたのか!?いるなら声掛けてくれよ」


 ザイルは背後にいた少年──スレインに驚きつつも声を掛ける。


 その少年は、若干長めで煤汚れた灰色の髪に碧眼、そして女子と言われても違和感の余りない顔立ち、いわゆる中性顔だ。


 そして8年前、ザイルがスラム街で拾ってきた捨て子だ。


「いや、ザイルならすぐに気づくかなと」


 スレインは無表情のまま答える


「まぁいい、お前は今年で8歳だろう?いい加減みんなの役に立ってもらおうと思ってな」


「ん、武器はずっと前から教えてもらってるから問題ない。」


「ははっ、そりゃ頼もしいや。とりあえず、お前さんにやってもらいたいのは見回りだな。最初のうちは俺か他の奴らと同行しろ。」


「わかった。──時にザイル、久しぶりに打ち合いをしよう。」


 そういってスレインは腰に差している短剣を2本、逆手持ちにして構えた。


「おっ!いいねぇ、最近は相手してやれなかったからな、やってやろうじゃんか」


 そういってにやりと笑いながらザイルはハルバード……ではなく槍を構えた。


 よく見るとお互いの武器の刃は潰されている。


「それじゃ、この石を上に投げて地に落ちたら開始だ。」


 そういってザイルは中くらいの石ころを数メートル上に投げ────落ちた。


 その瞬間、2人は同時に駆け出す。先に仕掛けたのはザイル。槍のリーチを生かし、短剣では到底勝てないレンジから攻撃を繰り出す。

 槍は真っ直ぐスレインの胴に向かって突き進む、そのまま当たるかと思われたが、当たる瞬間にスレインの姿が掻き消えた。


「もっと速くでいいんだぞ?」


 スレインの声がしたから聞こえる、槍はしゃがみこんで躱したようだ。


「お希望ならもっと速くしてやるよっ!」


 ザイルがもう1度槍を突き出す、だが、その速度は先程とは比べ物にならない程速かった。

 だが、スレインはそれを紙一重で避ける。その顔は無表情だったが、その目が「そんなものか?」といった余裕のある目をしていた。


「まだまだ行くぞっ!」


 またザイルの速度が上がる。

 流石に全てを避けることが出来なくなったスレインだが、両手に持つ短剣を駆使し、華麗に受け流していた。


 スレインは小柄である。それは弱冠8歳である。というのも原因だが、小柄な少年である。


 故に大人と純粋な力では絶対に勝てない。だが、この世界で生きていくには大人と渡り合う必要がある。そのためにスレインは考えた。大人に対抗できる手段を。そして知った。自身の素早さならば、大人にも勝てると。

 そして力に対抗するために力をそのまま受けるのではなく、受け流す。という技術を得ることにより大人にも引けを取らず、勝つことができると。


 ザイルの繰り出す槍はまるでいくつもの槍を使っているのでは、と思うほどの速度でスレインへと突き出されるが、スレインは躱し、受け流してそれらを捌いていた。

 だが、完全に捌ききることができる訳もなく、頬や脇の当たりにいくつものかすり傷が出来ていた。


 いつまでも続くかと思われたこの攻防だった……が、

 スレインが槍を受け流した時、ザイルが重心を掛けすぎたのか、若干の隙が生まれた。

 それを逃がすものかとスレインは一瞬のうちに反撃に出て、ザイルの胴へと短剣を当て、勝負あったと思った瞬間。

 スレインの体が吹き飛んだ。


「ぐわっ!」


 ドシンと鈍い音が壁からした。スレインは5メートルほど吹き飛び、壁にぶつかったようだ。


「決まった……ってやっべ、力込めすぎたっ、スレイン!大丈夫かっ!?」


 ザイルの方は左足を蹴り上げた状態で余韻に浸っていたが、スレインが壁にぶつかった音で正気に戻ったようだ。


「ぐぅぅっっ、はぁ、はぁ、も、問題ない……」


 スレインは呻き声を上げつつも1人でよろよろと立ちが上がった。


「わりぃわりぃ、つい本気でやっちまったよ。んにしてもお前……本当に強くなったな。最後の一瞬とか本気で焦っちまったぜ」


「毎日の稽古の成果、かな」


「恐らくだが、俺らのコミュニティの中で、俺の次に強いんじゃないか?まっ、まだまだお前には負けないがな」


 そういってザイルは笑ってスレインの額を小突いた。


「今に見てろ、いつかぎゃふんと言わせてやるからな!」


 そういってスレインは走って帰ってゆく


「おぅ!いつでも相手してやんよっ!」


 ザイルは走ってくスレインに向かって叫んだ。


「まさか、たった8年でここまでくるとは…あれはとんでもない拾い物だったのかもな…」


 そんなザイルの呟きは風に掻き消されていった。

次回、ヒロイン(予定)の登場予定です

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