月日は流れる
ここは、エスティーダ王国のスラム街。
職のない貧しい人々がコミュニティを形成し、生活したいた。
貧しいとは言えども、ここの人々は生きるのに最低限の物品は揃っており、ある程度幸せな暮らしを送っていた。
「スレイーン!スレインどこだ!」
30代の男──ザイル=ナータスがある人物を探すため、スラム街を歩いていた。
「なに?ずっとここにいるけど」
ザイルの背後から突如少年の声が聞こえる。
「うわっと、スレイン、ずっと後ろにいたのか!?いるなら声掛けてくれよ」
ザイルは背後にいた少年──スレインに驚きつつも声を掛ける。
その少年は、若干長めで煤汚れた灰色の髪に碧眼、そして女子と言われても違和感の余りない顔立ち、いわゆる中性顔だ。
そして8年前、ザイルがスラム街で拾ってきた捨て子だ。
「いや、ザイルならすぐに気づくかなと」
スレインは無表情のまま答える
「まぁいい、お前は今年で8歳だろう?いい加減みんなの役に立ってもらおうと思ってな」
「ん、武器はずっと前から教えてもらってるから問題ない。」
「ははっ、そりゃ頼もしいや。とりあえず、お前さんにやってもらいたいのは見回りだな。最初のうちは俺か他の奴らと同行しろ。」
「わかった。──時にザイル、久しぶりに打ち合いをしよう。」
そういってスレインは腰に差している短剣を2本、逆手持ちにして構えた。
「おっ!いいねぇ、最近は相手してやれなかったからな、やってやろうじゃんか」
そういってにやりと笑いながらザイルはハルバード……ではなく槍を構えた。
よく見るとお互いの武器の刃は潰されている。
「それじゃ、この石を上に投げて地に落ちたら開始だ。」
そういってザイルは中くらいの石ころを数メートル上に投げ────落ちた。
その瞬間、2人は同時に駆け出す。先に仕掛けたのはザイル。槍のリーチを生かし、短剣では到底勝てないレンジから攻撃を繰り出す。
槍は真っ直ぐスレインの胴に向かって突き進む、そのまま当たるかと思われたが、当たる瞬間にスレインの姿が掻き消えた。
「もっと速くでいいんだぞ?」
スレインの声がしたから聞こえる、槍はしゃがみこんで躱したようだ。
「お希望ならもっと速くしてやるよっ!」
ザイルがもう1度槍を突き出す、だが、その速度は先程とは比べ物にならない程速かった。
だが、スレインはそれを紙一重で避ける。その顔は無表情だったが、その目が「そんなものか?」といった余裕のある目をしていた。
「まだまだ行くぞっ!」
またザイルの速度が上がる。
流石に全てを避けることが出来なくなったスレインだが、両手に持つ短剣を駆使し、華麗に受け流していた。
スレインは小柄である。それは弱冠8歳である。というのも原因だが、小柄な少年である。
故に大人と純粋な力では絶対に勝てない。だが、この世界で生きていくには大人と渡り合う必要がある。そのためにスレインは考えた。大人に対抗できる手段を。そして知った。自身の素早さならば、大人にも勝てると。
そして力に対抗するために力をそのまま受けるのではなく、受け流す。という技術を得ることにより大人にも引けを取らず、勝つことができると。
ザイルの繰り出す槍はまるでいくつもの槍を使っているのでは、と思うほどの速度でスレインへと突き出されるが、スレインは躱し、受け流してそれらを捌いていた。
だが、完全に捌ききることができる訳もなく、頬や脇の当たりにいくつものかすり傷が出来ていた。
いつまでも続くかと思われたこの攻防だった……が、
スレインが槍を受け流した時、ザイルが重心を掛けすぎたのか、若干の隙が生まれた。
それを逃がすものかとスレインは一瞬のうちに反撃に出て、ザイルの胴へと短剣を当て、勝負あったと思った瞬間。
スレインの体が吹き飛んだ。
「ぐわっ!」
ドシンと鈍い音が壁からした。スレインは5メートルほど吹き飛び、壁にぶつかったようだ。
「決まった……ってやっべ、力込めすぎたっ、スレイン!大丈夫かっ!?」
ザイルの方は左足を蹴り上げた状態で余韻に浸っていたが、スレインが壁にぶつかった音で正気に戻ったようだ。
「ぐぅぅっっ、はぁ、はぁ、も、問題ない……」
スレインは呻き声を上げつつも1人でよろよろと立ちが上がった。
「わりぃわりぃ、つい本気でやっちまったよ。んにしてもお前……本当に強くなったな。最後の一瞬とか本気で焦っちまったぜ」
「毎日の稽古の成果、かな」
「恐らくだが、俺らのコミュニティの中で、俺の次に強いんじゃないか?まっ、まだまだお前には負けないがな」
そういってザイルは笑ってスレインの額を小突いた。
「今に見てろ、いつかぎゃふんと言わせてやるからな!」
そういってスレインは走って帰ってゆく
「おぅ!いつでも相手してやんよっ!」
ザイルは走ってくスレインに向かって叫んだ。
「まさか、たった8年でここまでくるとは…あれはとんでもない拾い物だったのかもな…」
そんなザイルの呟きは風に掻き消されていった。
次回、ヒロイン(予定)の登場予定です