ハジマリ
初投稿です。
至らぬ点が多いとは思いますが、よろしくお願いします。
ここは、エスティーダ王国 城下町の北側、スラム街。
ここには仕事がない者同士が集い、いくつかのコミュニティを形成し、暮らしていた。
これは、その中のある1つのコミュニティでの話。
「ザイル!ザイル=ナータスはどこだい!」
老婆の声が聞こえる。
「そんなに騒がんでも俺はここにいるぞ、おばば。」
ザイルと呼ばれた男が答える。男は、服装こそみすぼらしいが、背が高く、顔も整っている。
そして、その背には1本のハルバードを背負っている。
「おぉ、そこにおったか、ザイル。お前さん、確か今日が見回りの担当じゃったろ?その時にすこーしだけ遠回りをしてきてほしいのじゃ」
「遠回り?また厄介ごとか?」
ザイルがいかにも面倒くさそうに尋ねる。
「まぁ、確かに面倒ごとなんじゃが、お前さんや儂等にも十分な利益があるとおもうぞ?」
老婆はどこか楽しそうな声で答える。
「はぁ…まぁ、俺らに悪影響がなきゃ問題ねーよ。んで、どこに行けばいいんだ?」
頭をガシガシと掻きながら尋ねる。
ザイルは知っていた、この老婆はなぜだか知らないが未来予測に限りなく近い事ができ、その結果を自分等に教えてくれることを、そして、その予測が外れたことがいままでないということを。
「おぉ、行ってほしいところはな……」
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薄暗く、人気のない道をザイルは1人、自身等の縄張りの見回りのため、歩いていた。
エスティーダ王国のスラム街には3つのコミュニティが存在し、度々縄張り争いが起こるのでその為だ。
「おばばが言ってたのはこの道だったな…」
ザイルがいつも見回りをしている道を1つ外れ、歩く。
数メートル歩くと音が聞こえてくる。
「なんだ?この音…人か?いや…まさか…」
ザイルがその音に向かって歩く毎にその音は大きくなり、明確になってくる。
「────、────、 ─────ゃー、 ────ぎゃー、 おぎゃー」
その音の正体は、なんと赤子だった。
「おいおい、まさか捨て子かよ。おばばが言ってたのはこの事なのか?だがしかし…色々分からない点があるな…」
そう、ここはスラム街。子を捨てるのなら普通は教会に行くはず、なのになぜ、わざわざここに捨てたのか。教会がこれ以上子供を養えない、というのならまだわからなく無いが、この王国の協会でそんなことを聞いたことは無い。
そしてもう1つ、この赤子が入っている籠と、掛けられているタオルが豪華過ぎるのだ。これ程の物は貴族、若しかすると王族の物の可能性が有り得なくもない物だった。
もし、貴族の子だったとして、なぜ捨てたのか、貴族に子を育てられない訳が無い。
「とすると…忌み子…か?」
忌み子、近年の貴族で稀にある話だ。
何かしらの縁で平民の子を孕んでしまった貴族の人間は親や周囲の人間の手により、子を捨てられる。中には殺してしまう場合もあるとか。
「なっ!?こ、これは…」
だが、ザイルがその赤子の体を見た時、捨てられたおそらくの理由を理解した。
その子は顔以外の全身に真っ黒な鎖の文様が刻まれていた。
「腹を痛めて産んだ子の全身に文様が刻まれていて気味が悪くなって捨てたってことか?全く、胸糞悪くなる話だな。仕方ない、連れ帰ってやるか」
ザイルはその赤子を抱き抱え、拠点へと帰ってゆくのだった。
この出来事が、全ての、はじまり。