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少年の野望

「……まったく! ルナリアと来たら短気なんだから!! さすがに今度ばかりはきっちりお説教してやらないといけないわね!

 マリーと余計な決闘なんかした挙げ句、聖剣をブチ折られるなんて、ほんっとーにどう怒ったらいいのよ、もおっ!」


 愛用の大きなクッションの上で、ソニアは駄々をこねる子供のようにジタバタと手足を動かした。


「備えておいたからいいものの! 私が備えてなかったら一大事じゃすまなかったわよ、今回は!!」


 ソニアには、この事態に対する何らかの備えがあるようだ。

 それでも、大事には代わりないらしい。

 ぶんっと頭を振って跳ね起き、腕組みをして部屋の中をうろうろする。


「にしても。大変なことになったわね……あれが、(くだん)のドラゴンマスク……ジオールド。ほんとうに旧神竜かどうかはわからないけれど、損傷があったとはいえ、聖剣と宝鎚(ほうつい)をあっけなく破壊したからには、まっとうな人間なんかじゃないのは確かよね」


 立ち止まり、うーんと唸る。


「……もし。あのドラゴンマスクが、見境なく破壊行動なんかに出たら、日本の自衛隊なんかじゃ絶対に止められない。万全の状況のルナリアとマリーでも、どこまで抗えるか――

 切り札になり得るのは、やっぱり()だけ……さすがに、ちょーっと荷が勝ちすぎるかなあ。いくら、中にあの御方(・・・・)がいらっしゃるとして、も」


 とにかく、と挟んでソニアが独り言を続ける。


「まずは、賢人会議と元老院への根回しをしないと! 聖剣を折られた責任は確かにルナリアにあるけれど、不可抗力の状況でもあったと、今のうちにっ」


 ソニアは早足で部屋の出口に向かった。ドアに手をかける手前で、再び足を止める。


「……この状況。きっとカミルは大笑いで喜んでいるわね。部屋に押しかけて(いや)みでも言ってやろうかしら――けれど、悔しがる私を見たら、余計に喜ぶだけよね、あの子。ああ、ほんっと忌々しい。顔だけはあんなに可愛いのに、性格はとことん可愛くなんだから!」





 ソニアがイライラしている頃。


「あーっはっはっはっ! いい気味だ、ルナリア姉さま!! 聖騎士になんかなって、さぞやいい気分だっただろうけれど、伝家の宝剣をへし折られては、誰に顔向けできようか!」


 自室で遠視魔法の水鏡を見ていたカミルは、大声で笑っていた。


 いい気味。

 実の姉を笑い飛ばすにしても不適切すぎる言葉だが、カミルの自室は、物理的にも魔法的にも完璧な防音が施されている。

 聞きつけた誰かに咎められることなど、ありえない。


「……セレブレイトは、このソード家の象徴。それを失ったとあれば、このソード家そのものの地位も危うくなる……けれど。僕にはランス家のレイチェルがある(・・)。いざとなれば、僕がランス家に婿入りする手もあるか」


 レイチェルは、カミルの許嫁だ。ランス=ブリタリア家の正統四王家の序列は二位。ソード=ブリタリア家が今回の問題で序列降格などになれば、ランス=ブリタリア家から次の王が生まれる可能性が高い。

 カミルは、魔法学、帝王学いずれにおいても優秀だ。

 そしてその自身の優秀さを理解し、自身の価値が下がるようなことは、人前では絶対にしない。

 結果。ランス=ブリタリア家におけるカミルの評判も、かなり高い。

 レイチェルはランス=ブリタリア家の四女だが、この家に男子の子供はいない。姉たちがいずれも王位に興味などなく、幸せな結婚のみを夢見る乙女揃いだと、カミルは知っている。


 故に。

 カミルがランス=ブリタリア家に婿入りし、ソード=ブリタリア家の序列が下がれば。


「――僕が王になれる可能性は、かなり高い。くっくっくっ、運が向いてきた」


 にしても、と挟んでカミルが続ける。


「……ジオールド。彼女を触媒にして、召喚儀式は確かに成功したはずだけれど、何故、あんな形で向こう(・・・)に顕現したのか……完全にこっちのコントロールを受け付けないが、まあ、いい。僕が何をしなくとも、あれ(・・)は、あのノウ無しにご執心のようだから」


 前回の事件。ジオールドの竜体が、練たちの世界で出現するよう仕組んだのは、カミルだ。

 そして今回、ジオールドの精神体を召喚、利用を試みたのも、カミル。

 召喚儀式は、成功したかのように見えた。だが、今の状況はカミルの想定外。

 触媒として用意した少女の魔力蓄積霊的構造内にジオールド精神体を召喚し、その力をカミルが利用する予定だったが、現在、カミルの管理下にない正体不明の人間にジオールドの精神体は寄生し、好き勝手に行動している。


「問題は。どこの誰に、ジオールドが憑いたか、なんだが――クソ、アリスさえ離反しなければ、向こうの調査はもっと簡単に進むものを。ゴミみたいなアイツ(アリス)のせいで計画が遅れるだなんて、実に腹立たしい」

 がんっとカミルは机を蹴った。机上の、魔法の水鏡が大きく揺らめく。

 揺れる水面に、カミルは目をやった。

 ちらりとカミルは机の上の水鏡に視線を向ける。

 ルナリアをお姫さま抱っこした練が映っていた。


「せいせい、ルナリア姉さまの騎士(ナイト)を気取るがいいさ。僕はこの状況を利用させてもらうだけだから――

 くっくっくっ……はーっはっはっはっはっはあッ!!」


 カミルは一三歳らしからぬ、野望に満ちた笑い声を上げた。


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