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強者x2=はた迷惑

 練たちが駆けつけた高等部のグラウンドは、まるで絨毯爆撃を受けたような有様だった。

 クレーターだらけの地面に、無数の亀裂。

 土が溶け、赤いマグマになっている場所さえ、いくつもある。

 グラウンドに野次馬はいない。校舎を見やると、三階の窓に、びっしりと生徒たち。

 その生徒たち全員の目が集まっているのは、グラウンドの中央。

 ただ二つの人影。


 白銀の甲冑に聖剣を携えたルナリア。

 黒いドレスに真紅の大鉄槌を担いだマリー。


「……凄いことになってるな」と練。


(面白いが、これまたもったいないことしてやがるなあ、あいつら)とグロリアス。


 ルナリアの甲冑は、魔力と相性がよい白金(プラチナ)をメインに、各種の宝石、輝石、貴金属を用いて造られた、魔法術装と呼ばれる特殊なものだ。

 以前、グロリアスが総額一〇億円ほどはするはずだと言ったその魔法術装が、ひび割れとへこみ、欠損だらけになっている。


 一方、マリーの黒いゴシックロリータ様式のドレスは、そこら中が焼け焦げ、下着や肌が露出している。担いだ紅い大鉄槌も、遠目に欠けや割れがあるのがわかるほどに、ボロボロだ。


「前にルナリアの鎧が高いって言ったが。あのハンマーも、高いのか?」


(あれこそ値段の付けられねえ代物だっての。ハンマー家に伝わる伝家の宝刀ならぬ伝家の宝鎚(ほうつい)、クリムゾン・ザ・スレッジハンマーだぜ? 俺が王になった五〇〇年前よりも、さらに古い代物だ。まあ、ルナリアの聖剣セレブレイトもそうなんだが)


 紫音が困った顔をする。口から出るのは、ソニアの口調。


「ハンマー家と揉めることになるわね、うち(ソード)。でも、まあ。さすがルナリアね、あの魔女相手に、ハンマーがボロボロになるまで追い詰めてるんだから!」


「……ソード家とハンマー家は仲が悪いのか?」


(そりゃまあ王位継承権争いしてる家同士だぜ? ランス家はかなりソード家よりだがよ、残る二つ、シールド家とハンマー家は、今でも正統王家の座を狙ってるってな)


 紫音の口を借りてソニアが語る。


「マリーが二〇〇歳を超えてなお、あの姿で生きているのは、ハンマー家を正統王家にするのにこだわっているから、という話も聞くわね。ここまであからさまに王位に挑戦したなんて話は、私は知らないけれど」


 レイチェルがおろおろする。


「あ、あの! 決闘、止めたほうがいいんじゃないです!? どっちかが酷い怪我しちゃう前に!」


「そうねぇ」

 紫音の顔が、困惑しきった苦笑になる。

「誰が止められるのかしら、あれ」


「ふふふふふっ。やりますね、ハンマー公……! わずかにでも剣筋を誤れば、この聖剣とてへし折られてしまいそうです」


 ルナリアが微笑する。かたや、マリーが高笑する。


「はーっはっはっはっ! いやいや、おぬしこそ大したもの! 我が一族の宝、真紅の大鉄槌をここまで砕くとは! さすがは、たった三年で聖騎士になった怪物だ!」


「過分な評価、ありがとうございます。ですが、私はまだ、こんなものでは」


「奇遇だな。儂の本気も、まだまだこれからだ」


「では」「ああ。続けるぞ」


「ハアアアッ!!」「おらあッ!!」


 ルナリアの聖剣とマリーの鉄槌が再び激突する。

 練には何をしているのかわからないレベルの、速さと技の応酬。

 わかるのは。互いの一撃一撃が、必殺の威力を持っているだろうことだけだ。


 ソニアの意識が表面化している紫音の顔に、深刻さが浮かぶ。


「――さすがに、まずいわね。この状況」


「確かに。このままだと被害はグラウンドだけじゃすまなさそうだ。校舎の一つや二つ、瓦礫と化してもおかしくは――」


「そういうことじゃないわ。ブリタリアの王族が、あまりに人間離れをした戦闘力を持っていると日本政府に知られることが、好ましくないのよ」


(だろうな。普通の人間から見たら、ルナリアもマリーも、でたらめすぎる。度が過ぎた存在は、一般人にゃ理解されねえものだ、今も昔もな。おまえも、ルナリアの同類だ。肝に銘じておけ)


「度が過ぎた存在……俺は、そんな自覚ないんだが」


(おまえも、そうなんだよ。良くも悪くもな)


 紫音が、普段の紫音ならしない、からかうような表情になる。


「そうね。練くんは正直、強烈よ? 貴方の能力、賢人会議も元老院も、特別視してる。そもそも、単身で旧神竜を退けるようなでたらめな人間が、日本なんかにいるわけがないって主張している貴族や賢者も、少なくないんだから。そこはルナリアが証人だから、うむを言わせなかったけれどね」


「……むぅ」と唸った練の耳に、遠くからアリスの声が飛び込む。


「れーんーっ! その二人、どうにかして止めてくれないッ!?」


 アリスがどこにいる、と練は声が聞えたほうに眼を向けた。

 校舎の三階。窓から半分身を乗り出して、両手をぶんぶん振っているアリスを見つけた。遠目だが、アリスがスマートフォンを手に取る様子がわかる。

 同時に、スマートフォンに着信。練はすぐに通話に応じた。


『生徒がマジでビビってるから、いい加減、その二人を止めたほうがいいと思うんだけど。このままじゃルナリア、麗しの暴君とか呼ばれちゃうわよ? って、さっき、どっかで男子がそう呼んでただけだけど』


 早口で、アリス。口調は軽いが、確実に焦りが感じられる。


『正直、ここまでの戦闘力だってわかってたら、この前、喧嘩なんかふっかけなかったわよ、私だって。聖騎士って単騎で一軍を凌駕するって話、ほんとだったのねぇ。その聖騎士と互角以上に渡り合う学院長も、冗談みたいに凄いけど』


「……魔力一の俺に、魔力四〇〇〇のルナリアと、魔力三〇〇〇の学院長を止めろ、と?」


『できるでしょ? 魔力四〇〇ぽっちの私じゃ、無理だけど。練の魔力一は、特別な魔力一だから』


「無茶を言う。でも、やるだけやってみるさ」


『期待してるわよ。成功したらキスしてあげるから!』


「それは遠慮しておく」


『何で即決で遠慮す――』


 練は通話を切った。すぐに着信があるが、無視をして傍らのレイチェルに目を向ける。


「頼みがある。全力で、ライティングを暴走(・・)させてくれないか?」


 目をぱちくりと、レイチェル。


「全力で、暴走? です? いいのです?」


「ああ。頼む」


「よくわからないけれど、わかりましたです! レイチェル、全力で暴走します、でーす!」


 レイチェルが胸元で、両手でろくろを回すように構える。


「いきます、ですッ!」


 レイチェルの構えた手の間に、魔法記述光跡が発生し、球形の魔法陣を構成し始める。感じられる魔力が跳ね上がっていく。


「一〇〇、二〇〇、四〇〇……もう一〇〇〇を超えた。勢いが全然とまらない」


(凄えな、改めて見るとよ。マジで一〇〇〇〇オーバーだな、魔力量)


 球形魔法陣が、ほんの数秒で両手に収まらないほどの大きさに成長。さらに大きさを増していく。


「ど、どうしましょう、です! 思ったより勢いがっ、ぜんっぜん、とまらなくて、ほんとに制御できなくて、いいのですっ!?」


 一〇〇〇、二〇〇〇、三〇〇〇と魔力量が跳ね上がり、レイチェルが怯えと焦りの声を上げた。


「大丈夫だ、問題ない! その魔力、使わせてもらう!」


「ふえっ?」


 驚くレイチェルに向けて、練は極微細魔法記述光跡を放った。


 魔法記述無効化魔法マジックスペルキャンセルスペル


 構成途中の魔法を強制キャンセルし、魔力に戻す練のオリジナル魔法だ。

 極微細魔法記述光跡が、暴走するレイチェルの球形魔法陣を包み込む。


「起動!」


 練の意志で、魔法記述無効化魔法が発動。球形魔法陣が崩れて無数の光の粒と化し、そのまま安定する。

 黄金の砂金が、一抱えの球形の空間の中で舞っているように見える状態だ。

 その光景に、紫音が眼を見張った。


「魔力が目に見える形で、粒子化するなんて」


「ああ。無効化した魔法の魔力が簡単に散らないよう、魔法を少しアレンジしてみたが、上手く行った」


(練。ざっと三〇〇〇以上あるこの魔力、どうする?)


「頭を冷やしてもらうとしよう、あの二人には」

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