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そこで愛!?

「と、いうわけで。この儂『鉄槌使いの紅い魔女』ことマリー・ゴールド・ハンマー=ブリタリアが手ずから魔法を指導してやろう。光栄に思うがいいぞ」


 オープンテラスの丸いテーブルを、練たち生徒四人と、課外授業講師のマリー学院長が囲んでいる。マリーから右回りにルナリア、練、アリス、紫音の席順だ。

 課外授業の行われるカフェテリアは、練が通っている大図書館の建物の一角にあった。

 室内のテーブル席が一〇〇ほど。外のオープンテラスに五〇席ほど。ここに来る途中のアリスの話だと、主に大学生が昼食をとるのに使い、今も客のほとんどが私服の大学生だ。

 制服姿の練たちは目立ち、注目されている。だがそんな視線など練は気にならなかった。

 何を教えてくれるのだろうか、と期待するだけだ。


「とりあえずは茶にするか。おぬしら、何がいい? ここは儂がおごってやろう」


 だがマリーの二言目は、それだけだった。

 は? と練は肩すかしを食らった気分になった。


「ではダージリンを」とルナリア。


「私はアッサムで」とアリス。


「僕はアールグレイをアイスでいただきます」と紫音。


「儂もそれだな。おい、元神童よ。おぬしは何にする?」


 マリーに問われ、練はメニューに何があるのか、テーブルの中央のスタンドメニューを見た。

 メニューには紅茶が多いが、紅茶の種類など練はさっぱりわからない。


「ブレンドコーヒーで」


(また無難なの選ぶな、おまえ)


 マリーがジェンカに顔を向ける。


「そこのドロイド。ここはセルフサービスだ、室内(なか)に行って商品を買ってこい」


「姫さま。行ってきていいデス?」


 とジェンカがルナリアに伺いを立てる。

 こくりと頷くルナリア。ジェンカが、とととっと小走りでお使いに向かう。


「さて」とマリーが改めて口を開く。

「儂の持論であるが。魔法(ブラックアーツ)とは本来学ぶものではなく、研究するものだ。自ら調べ、想像し、考え、それでも解決できぬことがあるならば、初めて師に助力を願うべき。

 儂自身、そうして二つ名を持つ魔法使い(ブラックアーティスト)になった。そんな儂が何をここで教えるべきかの。のう、『真円に満ちる白い月』よ?」


 マリーがルナリアを横目で見る。練は首を傾げた。


「真円に満ちる白い月?」


「王女殿下の二つ名よ。聖騎士としてのね」


 とアリス。なるほど、と練は頷き、思い出す。入学式初日の、ルナリアの出で立ちを。

 白銀の甲冑、魔法さえ切り裂く大剣。修得難度の高さ故に使い手が少ない転移魔法を使ったことからも、ルナリアが剣だけではなく魔法もかなりのレベルだと想像がつく。

 とはいえ。練は聖騎士と言われてもピンとこない。


「聖騎士。どれくらいなるのが難しいんだ?」


 ルナリアがびっくりしたように目を見開き、ぱちくりと瞬きした。

 かか、とマリーが楽しそうに笑う。


「どれくらい、ときたか。そうさの。ブリタリアは建国以来五〇〇年以上を数えたが、聖騎士の位を得たのは両手の指に足らん。そこの姫も美麗な姿とは裏腹に、中身はとんだ化け物だ」


「化け物だなんて、ハンマー公。少々、その喩えは不満です」


「やかましいわ、この化け物が。わずか三年の魔法と剣の修練で聖騎士になるなぞ、聞いたことすらない。どういうチートだ、おまえ」


 唐突にルナリアが頬を朱に染め、うつむく。


「それは、その。愛の力と申しますか……」


「そこで愛か。まったくこの姫は」


 呆れ顔のマリー。紫音が何故かにやにやとしている。アリスが軽く苛立ったような顔をする。


「はいはい、そんな聞いて胸焼けしそうな話はこれくらいにして。わかった、練?」


「何が?」


「学院長がそれとなく言ったでしょ? この課外授業のスタンスよ。ここは授業のように一方通行でただ教わる場じゃないの。それくらい、理解できた?」


「ああ、そういうことか。わかっているつもりだ。自習でわからないところのみ、教えを請うという形でいいんだよな? それならさっそく」


 練はカバンから魔法の自習に使っているノートを取り出し、テーブルで開いた。


「何? 今朝研究してた、高速起動補助魔法の話?」とアリス。


「いや、それはだいたい目処がついてるから。転移魔法について、学院長と王女殿下に添削してもらいたいんだ。二人とも使うところは見せてもらったからおおよそはわかっているんだが、王女殿下と学院長で微妙に魔法記述光跡が異なる。そこがよくわからない」


 練の手元のノートを、練以外の全員が覗き込む。

 ノートの左右のページ、どちらにも円形の魔法陣が説明書きと共に記入されていた。

 右のページに『王女殿下』、左のページに『学院長』と術者名が記されている。

 むぅ、とマリーが短く唸る。


「儂の転移魔法は入学式の日に二度見せただけだと思うが、おぬし、覚えていたのか?」


「私などは一度きりしか見せていませんが。さすがです、練さま」


 何故かルナリアが誇らしげな顔をしたが、練には意味がよくわからない。


「さすがでも何でもないですよ、王女殿下。見たものは覚えられて当然じゃないですか」


(……おまえ、例外。普通は覚えられねえっての)とグロリアス。

「例外にもほどがあるな、黒陽練よ。そんな学生、儂は見たことがないぞ」とマリー。


「あんたは特例。誰もがそんな簡単に覚えられたら、こんな学校いらないわよ」とアリス。


「君は例外中の例外だよ。魔法に対する理解力と記憶力、常軌を逸してると思う」と紫音。


「そうなのか?」


「そうです」とルナリアが力強く頷いた。続けて、

「私の転移魔法は、異次元間転移のために開発された、新式の転移魔法です。学院長のものは古典の本式転移魔法。この世界の中でのみ使うのでしたら、学院長の魔法記述光跡で充分です。異次元間転移は、転移先の座標特定にさらなる手間がかかります、このように」


 ルナリアが右手を軽く掲げ、人差し指を立てた。

 す、と指先から流れ出すように光の線による記述、魔法記述光跡が生じて空中に小型の魔法陣を描く。


「探査魔法を次元間探査に応用した術式です。緯度経度の数字を術式に組み込むことで目標の地点の状況を見ることができますが、次元間の場合は精度に問題があり、不鮮明です。

 この魔法で転移()ぶ先の様子と座標を特定してから、改めて転移魔法に数値を入力しなければいけませんが、リスクはそれなりに残ります」


 アリスが辟易とした顔をする。


「転移ってリスク多いのよね。下手に間違えると壁とか地面の中に転移して、即死したりするし。必要な最低魔力値が五〇くらいと、魔力効率も悪いし」


 練はルナリアが空中に描いた魔法記述光跡を即座にノートに書き写し、頷く。


「そうか、わかった。それなら――」


 ノートの白紙のページを開き、練は思いついた魔法の術式を一気に書き綴ると、ページを破いてルナリアに差し出した。


「これで次元間探査と転移の術式を連動させられると思う。目的地に障害物があったら自動でキャンセルもかかるが、どうだろう? 多少だが必要な魔力も減るはずだ」

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