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魔法にケアレスミスは許されない

 ルナリアが課外授業を練に提案した、数日後。


 高等部の全学年一斉に、一時間目の内容を変更し、高等魔法教育選考テストが行われた。

 そして。結果は、その日の夕方のホームルームで発表された。

 一年A組の教室。教壇のシャーリーが、喜色満面のこれ以上ない笑顔で結果を告げる。


「今朝のテスト。高等部三学年全てで実施されましたが、合格者は四名でした。なんと!」


 ぱんっとシャーリーが胸元で手を打ち鳴らした。


「びっくりです、二年生、三年生を差し置いて、全員がこのクラスでした!」


 どよっと教室が騒がしくなる。誰だろう、と生徒が近くの席の生徒と話し始めたせいだ。

 シャーリーが、二度三度と繰り返して手を鳴らす。


「はいはい、お静かに! すぐに発表しますから!」


(四人ねぇ。まあ、予想はついていたけどな)とグロリアス。


 四人か。と練は教室を見回し考える。ブリタリア王国の聖騎士の資格を満たすルナリアと、魔法技術値が全学年ナンバーワンのアリスは、確実にテストをクリアしているだろう。

 寮初日の夜、そのアリスを精神系魔法であっさり上回った紫音もおそらくはクリアしている。

 となると、残りは一人――前方の席で道長が笑みを浮かべ、こちらを肩越しに振り返った。

 受かるのは僕だ。そんな表情。テストの結果に、絶対の自信があるらしい。


「合格した生徒は放課後、カフェテリアに行ってください。なんとあのマリー学院長自ら、今日からさっそく講義をしてくださいます。それでは、出席番号順に名前を呼びますね」


 生徒たちが静かになった。シャーリーが、一呼吸置いて口を開き直す。


「江井紫音さん。ルナリアさま。黒陽練くん。千羽アリス亞梨子さん。以上四人です、おめでとう!」


(別にめでたくはないだろ。受かる奴は当然受かるだけのテストだったし)


「そんな馬鹿な! 僕が選考に漏れるはずがない!!」


 グロリアスの退屈そうな思念と、道長の大声が重なる。

 道長が机を両手で叩き、立ち上がった。そして練を指さし怒鳴る。


「そこのノウ無しが選ばれて、僕が選ばれないはずがない! 先生、採点が間違っている! 僕の答案は完璧だったはずだ!」

「ええと」シャーリーが困惑した顔で、手元のファイルに視線を落とす。


「……三条院くんは、わずかですが叙述内容に減点があったみたいですね。先の四人は全問、完全正解です。テスト用紙の返却を希望するのなら、後で職員室に来てください。他にも、テスト用紙の返却希望の人がいたら、職員室に来てくださいね」


「馬鹿な……減点、だと……この僕が……ありえない……」


 道長が愕然とした顔で椅子に座り込む。練の隣で、は、とアリスが短く笑った。


「単純なケアレスミスよ、たぶん。三条院は自分を信じすぎるから、ミスに気がつかないの。中等部の時からね――だから、万年次席。高等部でも同じことを繰り返すなんて馬鹿よね」


 練はルナリアに小声で訊ねる。


「ケアレスミスなら、合格にしてやれないか? 何か可哀相なくらい落ち込んでいるし」


「高等な魔法を扱うにおいて、ケアレスミスは許されません。ちょっとしたミスが魔法を暴走させ、場合によっては術者の命のみならず、周囲に甚大な被害が生じますので」


 ルナリアの言葉をグロリアスが肯定した。


(ま、それはその通りだ。高等な魔法ほど、使用魔力に対して効果が高くなるからな。場合によっては空間にある魔力そのものにまで連鎖反応が広がり、二乗、三乗と威力が加速する。それでミスったら目も当てられねえ結果になるぜ?)


「……なるほど」と練。


 魔力を失う前の頃の経験で、魔法記述光跡構築中にミスすると手痛いしっぺ返しが来ることを練も知っている。


「ということ。同情するだけ意味ないのよ。冷たいようだけどね」


 とアリス。教壇では困惑顔のままのシャーリーが、締めの挨拶をする。


「そういうことですから。本日のホームルームは、これで終わります。先ほど名を呼ばれた皆さん、寄り道などせずにカフェテリアに向かってくださいね。それではまた明日」


 シャーリーが教壇を降り、教室を出て行った。ほぼ同時に、アリスとルナリアが席を立つ。


「行きましょ、練。カフェテリアの場所は知らないでしょ? 案内してあげる」


「案内なら、私が。ジェンカ、行きますよ」

 練は座ったまま、二人を交互に見た。


(どっちと行くんだよ、おまえ。ここが運命の分岐点な気がするぜ?)


「え」――選ばないといけないのか?


 ルナリアとアリスが、じっと練を見下ろす。他のクラスメイトたちも注目し始めた。


「何か面白いことになってるぜ、黒陽の奴」

「あの二択かよ。超贅沢じゃね」

「普通なら王女一択?」

「それはそれで責任重大だろ」

「千羽の家も大金持ちだったよな」

「だね、どっかの会社社長だ」

「どっち選んでも逆タマじゃねーか」

「ってそこまでの話なのか?」

「さあ?」


 そんな言葉が聞こえてくる。練も重大な選択のような気がしてきた。


 ――選べって。選べるものか、こんなこと。


 滅多なことでは動揺しない練だが、さすがに困惑した。そこに、紫音がやってきた。


「さて、みんなで行こうか。目的の場所は一緒だしね。ね、練?」


「あ、ああ。皆で行こう。ありがとう、紫音」


「どういたしまして」


 練はようやく席を立った。くすりと紫音が笑う一方、アリスとルナリアが一瞬、険しい表情を紫音に向けた。

 余計なことを。

 アリスもルナリアも、明らかにそう言いたげな表情だが、紫音は意に介さないようだ。顔色一つ変えることなく、踵を返す。


「急ごう。講師はあの学院長なんだ、待たせたら怒るんじゃないかな。怖い怖い」


(おー。紫音もずいぶんと剛胆な奴だな。おっかねえ女二人に睨まれて余裕の表情とは)


「行くわよ」


「参りましょう」


 アリスとルナリアが笑顔を練に向けた。二人ともタイプは違うが美少女だ。どちらも笑顔はとても可愛らしく魅力的だが、練はぶるっと身を震わせた。


「あ、ああ」


 ――けっこう怖いのかもしれない。彼女たち。

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