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I☆LOVE魔法少女(原作:水原武人先生『魔法○○と僕』)

これは、カンコツ工房先生の、“換骨奪胎小説プロジェクト”の暖簾分け作品です。依頼を受けた作品を新たに作り直す……簡単に言うとリメイクしてみよう、という企画です。今回は水原武人先生から依頼を受けました『魔法○○と僕』をリメイクしてみました。水原武人先生の作品とあわせて、是非読んでみてくださいませ。

 俺は走る!

 ひたすら走る!

 学校から家への道をたどって。

 間に合え、間に合え〜!

 心はその祈りでいっぱいで。

 そして俺は今日という日を恨む。

 そう、あってないようなパソコン部、どうしてこういう日に限って活動があるのかと思わず心で毒づきながら。予想もしていなかった部の召集だったから、俺の命の、あのテレビの録画もしてなくて……。

 バタン!

 ようやくたどり着いた家、俺は焦る気持ちを抑えながら、くつを脱ぎ、テレビの前へと座る。

 そして、

「リモコン、リモコン」

 忙しなく手を動かしながらそれを取り、テレビの電源を入れる。すぐに動き出す画面、だがこれじゃないと、俺は慌ててチャンネルを変え……。

『ルカがいる限り、この世の悪は許しません!エンジェル☆フラッシュ!』

 長い髪を左右に分け、頭の高い位置で結わく、いわゆるツインテールをなびかせた美少女が、テレビの画面の中を縦横無尽に動き回る。手にはキラキラと輝くステッキ、そこからこれでもかという程の光の魔法を放ちながら。

 その画面に釘付けになって、俺は思う。

 ああ、間に合った。よかった……ルカちゃん。

 もう番組は終わりに近かったが、それでも画面の中の美少女、ルカちゃんに会えたことを幸せに思う俺。

 ううう、可愛い〜!ルカちゃん♪

 そう、俺はルカちゃんが好きだ!魔法少女ルカの主人公、ルカちゃんが!例え彼女がアニメでも、二次元世界の住人でも、その愛らしい目が、顔が、存在全てが!

 なんだ、文句あるか。そうさ、俺はオタクさ。

 中学生になった今でも、魔法少女が大好きな根っからのオタクさ!

『ううう!やられた〜!』

『ルカは悪に負けません。この世は正義が勝つのです!さあ皆さん、一緒に……』

 お決まりのように、敵を倒して、ハッピーエンドを迎える魔法少女ルカ。締めのポーズもしっかり決めて、エンディングテーマが流れる中……俺は画面をぼけっと見つめながら、ひたすらその余韻に浸っていた。

 そして、番組が終わると、俺はすぐさま自分の部屋へと駆け込む。目指すは財布が入っているカバン。迷いなく俺はそれを見つけると、手を差し入れ、しばし、財布、財布とガサゴソ中を引っかきまわす。すると、やがて目的のモノを見つけ……。

 そう、この中には、今年もらったお年玉と、こつこつ貯めたお小遣いが入っているのだ。そして、それを使うべきは!

 待っててね、ルカちゃん!

 そう、今日は魔法少女ルカ・シーズン1のDVDボックスが発売されるのだ!

 それも初回限定生産で、ルカちゃんのフィギュアまで付いてくる!

 これはもう買うしかないでしょうの、大特典!

 ああ、待ちに待ったこの一日。

 俺は一刻も早くその幸せを手に入れる為、財布を手に近所のCDショップへと向かって家を出た。そして、近道をしようと細い裏道へと入った時……。

 俺の足がふと止まった。そう、そこにいたとある人物を確認して。それは……

「おう、前木か。ちょうどいいところにきたな」

「だな、グッドタイミングとはこのこと」

 髪の毛を茶色に染め、制服を着崩した男子生徒何人かが、ニヤニヤと笑いながらそこに立っていたのだ。

 それを見て俺はつくづく思う。

 ああ、何でまたこんな時、そんでもってこの道に……と。 

 何故なら彼らは……そう、俺と同じ中学でクラスも一緒。更にまた、クラスの問題児でもあったから。どちらかというと大人しい俺を引っ張り出しては、なんやかんやとちょっかいを出してくる……まぁ、手っ取り早く言うと、いじめてくるのであった。

 剣呑な空気をかもし出しながら、俺に迫ってくる奴ら。それに俺は嫌な予感がして、先程の幸せな気持ちはしょぼしょぼとしぼみ、心細げに肩をすくめて後ずさる。

「俺ら、遊ぶ金欲しくてねー」

「おお、ちょうどいいことに、財布持ってんじゃん」

「ちょっと貸してくんないかなぁ〜」

 絶対、絶対、嫌だった。この日の為に、俺は欲しいものも我慢してお金を貯めてきたのだから。そのなけなしのお金が奪われたら……。

「嫌……だよ」

 勇気を振り絞って、そう言ってみる。だが、勿論そんなことですぐ引き下がるような奴らではなく、

「なあに、これから美少女グッツでも買いに行くのか?」

「そう、そう、オタクちゃん」

 知ってるぞとでも言わんばかりに、嘲りの色を含んで奴らがそう言ってくる。だが悔しいことに、それに俺は何も言い返せず……。

 ならばここから逃げよう、そう思って、俺は後ずさる足を早めてゆく。すると、それを察してか、奴らは、

「逃げたら、明日どうなるか、分かってんだろうなぁ」

「助けも呼ぶんじゃねぇぞ、金さえ出せば、ここは許してやっからよ」

 絶体絶命であった。これはもう大人しく財布を出すしかないのかと、このピンチに俺は泣きたい気持ちになる。そして、俺は思わず願った。

 神さま、神さま、どうか俺を助けてください!

 この世界にルカちゃんを遣わし、あの魔法のステッキで奴らを一網打尽にしてください!

 あほか?と思うか。

 だが、俺は本気だったんだ。

 切羽詰ったこの状態、俺は本気でルカちゃんの助けを願ったんだ。

 すると、いつまでたっても煮え切らない俺の態度に業を煮やしてか、奴らが更に迫ってきた。そして、力ずくでその手から財布を取り上げようとしたその時、

 がさり、と俺の背後で物音がした。そしてそれに続いて、

「てめーら、何やってんだよ」

 言葉遣いは悪いが、高めの可愛らしい声が、やはり俺の背後から聞こえてきたのだ。

 そう、それはまるであのルカちゃんのような。

 それに、もしかして神様が俺の願いを聞いてくれたのか、ルカちゃんを遣わしてくれたのかと、希望にこの胸がわき立ってくる。そして、すがるような気持ちで俺は後ろを振り返ると……、

 ゲッ、

 金髪に近いロングの茶髪、虎の刺繍の入った、ピンク色の長い特攻服を着た少女が竹刀を持ってそこに立っていたのである。それもその虎の横には、「喧嘩上等」という言葉も刺繍してあって……。そう、いわゆる、

 レディース。

 ルカちゃんとは似ても似つかない……レディース。

 それも今時……ってか、本物初めて見たぞ……。

 だが、考えてみればある意味彼女は奴らと同類項ともいえる存在で……。

 それを察して、これでもう終わったと、俺は落胆にがっくりと肩を落とす。

 そして、この状況に奴らはどうするのかと、俺はチラリそちらの方へ目を向けてゆくと……彼女のその奇異な存在にか、奴らは一瞬目を奪われたよう唖然としていた。だが、すぐに我に返り、

「なんだ、きさま。邪魔すんのか」

 やばいシーンを目撃されて、これはもう負けられないとでも思ったのか、奴らも喧嘩腰になってゆく。すると、それに彼女はフッと笑い、

「あたしは、弱いものいじめってぇのが嫌いないたちでね」

 そして一転、眼差しに鋭い光をたたえると、

「カツアゲなんて肝っ玉の小さいことをする奴、気にくわねーんだよ!」

 迫力のある、威勢のいい声。

 だが、どうやら奴らは彼女を侮っているようだった。まあ、服装は確かに脅しになるかもしれないが、彼女は女性、しかも一人、そう思ってしまうのも当然であろう。なので、奴らはどこか小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、

「なんだと、随分かっこいいこと言いやがるじゃねーか。なら、まずきさまから片付けてやるか?」

「おうおう、そうだ、やっちまえ」

「やっちまえ!」

 そう口々に言いながら、嬉々として彼らは彼女へと向かっていったのだった。それに、落ち着いた様子で竹刀を構える少女。そして大きく振りかぶり、

「ゲッ!」

 一人目に面と胴が思いっきり入る。更に、

「ウゲッ!」

 二人目には回し蹴りと手刀が入り、

「グワッ!」

 三人目の腹部には竹刀の付きが入る。

 そう、目にも留まらぬ早業で、少女はその体と竹刀で奴らをやっつけていったのだった。地面に叩きつけられ、意識を失う彼ら。

 それを見て俺は、

 ルカちゃん、やっぱり彼女はルカちゃんだ!

 いでたちこそ違うが、物腰も全く違うが、その竹刀は魔法のステッキ、その心は悪を憎む正義の心!

 よく見れば、顔立ちもなかなか可愛らしいもので……。

 ああ神様、この時程あなたに感謝したことはありません!まさか、本当に魔法少女を俺に遣わしてくださるとは!

 あまりの感激に俺は涙目になっていると、

「あんた、大丈夫かい。怪我はないかい」

「は、はいっ!どっこもまったく大丈夫です!」

 ぶっきらぼうながら、この気遣い、こう見えてもきっと性格も良いに違いない!

 どんどんふくらんでゆく俺の感激の気持ち。それと共に、思わずといったよう俺は妄想の翼も広げていって……。

 ああ、彼女にツインテールをさせて、ルカちゃんの格好をさせたらきっと……。

 そして、魔法のステッキを持たせ、その愛らしい声でエンジェル☆フラッシュ!と言ってもらうのだ。

 そう、まさしく彼女は俺にとっての魔法少女。

 この格好だって、実はコスプレとも……。

 ひたすら妄想に浸り続ける俺。すると、

「じゃあ、あたしは行くよ」

 そう言って背を向け、彼女はそこから立ち去ろうとしたのだ。だが、このまま素直に彼女を行かせる訳にはいかなかった。俺は慌てて、

「あ、あの、是非お礼を!」

「そんなの構わないよ」

「じゃ、じゃあ、せめてお名前を!」

 それに彼女はチラリと俺を振り返り、

河津留佳かわづるか、だ」

 その言葉に、俺は仰天した。

 な、なんとルカちゃんと同じ名前〜!

 これは運命に違いないと、俺は思った。住む世界は違う。それは重々分かっていたが、それでも、今を逃したら後はもうないと、俺は思わず、

「俺は前木耕一まえきこういちです!お、俺と、お友達になってください!」

 そんなことを言ってしまった。

 当然のことながら、それにキョトンとする彼女。そして、

「お友達?」

「はいっ!」

 それに彼女は一瞬言葉を止め、

「フレンド?」

「イエス!」

「アミーゴ?」

「シー!」

 そこでとうとう無言になる彼女。そして、どこか考え込むような表情になると、

「お友達……」

 それに、やはりさすがに性急だったかと、あまりにも突然すぎるお願いだったかと、俺は少し後悔する。そして、その思いを後押しするかのよう、彼女が、

「何でまた……」

 まさか……僕の魔法少女になって欲しいからなんて、口が裂けても言えなかった。だって、オタクは……オタクは……。

 蔑まされるべき存在。

 今までの経験から得た、俺の結論。

 でも、これを言わなければこの気持ちにどう説明をつければ、どう彼女を納得させればいいのか……。 

 俺は悩んだ。そしてとうとう決断した。そう、思い切って勇気を振り絞り、

「俺の、魔法少女ルカちゃんになって欲しいからです!」

 罵倒でも、笑うでも、何でもしろ。そうだ、もうどうにでもなれという、やけっぱちの気持ちだった。すると、それに彼女は、

「魔法少女ルカ?なんだ、それは」

 彼女のような人種からすれば、確かにそれは当然ともいえる答えだった。なので、俺は彼女に何とか理解してもらおうと、必死に、

「ルカちゃんという女の子が、魔法のステッキを使って、悪と戦うアニメーションです。すごく強くて、正義感も強くて、とても可愛い……まるで留佳さんのような女の子なんです!ルカちゃんの格好は……髪をこうツインテールっていう、左右二つに分けて高いところで結っていて、S女学園っていう学校の、臙脂のブレザーにチェックのミニスカートの制服を着ているんです。俺は、留佳さんには特攻服より、絶対こっちの方が似合うと思うんです!」

 渾身の説得。

 すると、そんな俺の迫力に気圧されてか、彼女は目を見開き、ちょっとのけぞったような格好をして、ひたすら唖然としていた。まあ、見ず知らずの男に、こんな突拍子もないお願いをされれば、それもそうなってしまうだろう。だが……唖然としながらも、彼女は俺を笑いはしなかった。そう、オタクと俺を馬鹿にはしなかったのだ!それどころか、ちょっと照れたような表情をして……、

「強くて、正義感も強い、あたしと同じ名前の魔法少女、か……あたしがその、魔法少女……」

 明らかにヤンキーな彼女。オタクとは縁の無いような彼女。返ってくるのは決して好意的なものではないと思っていたから、肯定ともいえるその反応に、俺は驚くと同時にじわじわと喜びが胸の底からわき上がってきた。そして、

「なって、なってくれますか!俺の魔法少女に!俺、あの番組大好きなんですよ!留佳さんなら、きっと似合うと思います!」

 俺はもう彼女に心底惚れていた。恋人なんていう恐れ多いところまではいかなくとも、同じ趣味を共有する仲のいい友達ぐらいにはせめてなりたいと思う程に。

 なので、俺は必死に懇願する。 

 すると、それに彼女は、相変わらず照れたような表情をしていて……。

 しばし続く、このもじもじ、もじもじととした時間。これは、魔法少女になることに照れてるからなのだろうか、それとも、もしかして……。

 ツンデレ?

 じゃなくって……、

 俺の言葉に照れている?実は少し脈があったりなんかしての、この態度?そう、お友達だけなんかじゃすまされないっていう、物語の定番コース!

 だが、

 いやいやいや、と俺はその考えを振り払う。

 お世辞にもかっこいいとはいえない俺、まさかそんな訳ないだろう、と。それに俺達は今会ったばっかり、そうすぐにそんな感情生まれる訳がない、と。

 そして、そのよこしまな考えを捨てて、俺は彼女に強い眼差しを向けると、

「恥ずかしがることないですよ。留佳さんならきっとできます!」

 その言葉に、更に戸惑ったように頬を染める彼女。それに思わず俺の胸はキュンとなる。そして、

 人は見かけじゃない、彼女、めちゃくちゃ可愛いじゃないか!

 それから、俺はドキドキしながら返ってくる言葉を待っていると……。

「たまになら……別に、構わないが……」

 信じられないその言葉に、俺は天にも昇りそうな気持ちになる。だがその一方で彼女は……何故だかふと表情を暗くし、「でも……」と言って少し顔をうつむけていた。そして、不意に決意を秘めたようまなじりを上げると、俺の手を取り、なんとその手を、

 む、む、む、胸!

 自分の胸へと導いていったのだった。

 その手に感じる、彼女の豊満なむ……ね……、

 そう、ほう……ま……、

 え?

 豊満?

 いや、そこにあるのは豊満な胸ではなかった。

 そう、全く何もないといっていい程まっ平らで……。 

 胸が小さいのかとも思ったが、それにしてはいくらなんでも……。否定できようのないその現実に、俺の心に嫌な予感が過ってゆく。そして、

「これでもよければ……」

 ダメ押しといったよう、ためらいがちに彼女の口からこぼれたのは、そんな言葉。

 それに俺は確信する。

 そう、彼女は……、

「お……男……」

 時が、止まった。

 そして、がらがらと崩れてゆく俺の妄想。そう、彼女に、魔法少女ルカちゃんのコスプレをさせるという俺の夢が。彼女と仲良しこよしになるという、俺の夢が!そして俺は思う。

 神よ、俺は恨みます!

 何故、何故にこんな可愛い少女……いや少女じゃないが、彼女……彼を男に生まれさせたのか!

 そして俺は落胆と共に、その場でがっくりとうなだれると、

 やっぱり俺の心の恋人は魔法少女ルカちゃん。早くお店へいってDVDボックス買ってこよう……。

 心で泣きながらそう思う俺だった。

                                          了


いかがだったでしょうか?

早いもので、リメイク作品ももう第四弾となります。

今回は、オタクが主人公。こうなったらとことんやってしまえと、原作よりも主人公のオタク度をちょっとあげて、色々性格をいじくってみました。

さて、それが吉とでるか、凶とでるか……。

第一弾再びのコメディーなので、前回の反省点が直されているといいのですが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませて頂きました。まぁ、なんと言いますか。あんなふざけた僕の作品をまともな作品にしてくださりありがとうございます。面白かったですね、色々と。 多大な時間を割いてくださり本当にありがとうござ…
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