ラストスパート!〜受験編〜
2月という真冬を迎えた。
透き通った白い空気。
ふぅーと吐けば、息が真っ白である。
厚手のコートを着て、手袋をし、多くの首には、マフラーが巻かれた。
そんな厳しい真冬の中、私達の中では、まだ、終わっていないバトルを繰り広げる者もいた。
もう、新たな道が決まっている者達は、8割くらいの状況である。
決まった者たちは、ほっとし、遊びに行こうだの、やっと、自由だ、と安心仕切る。
すると、今までの空気が少し和らげ、教室中が騒がしくなり始めた。
こないだまで、緊張感が強く漂っていたはずのに、その緊張感は、一気にどこかへと吹っ飛んでいったのだ。
決まった者たちの中でも、勉強をし続ける者もいたがほとんどが、あの緊張感から開放されていた。
私は、まだ、終わっていないバトルを繰り広げるために、必死になっていた。
焦ることばかりである。
夜も睡眠時間をどんどんと削り、部屋にある机に向かい、いくつもの参考書を開き、解き…やり直したり。
バトルまで、あと30日。
面接は、1度落ち、大きなショックを受けた。
たが、そんな時間を長くは無駄に出来ない。
すぐに、次に向けて、勉強し続けた。
5教科。
国語、数学、社会、理科、英語。
それは、2日間によって、行われる。
せかせかとし始める。
気持ちだけが激しく、焦る。
だんだんと嫌になっていく勉強。
早く解放されたいという思い。
様々な気持ちが重なり、緊張感が強い。
決まった人達にとっては、このバトルがそんな簡単に消えてしまうのだろう。
過ぎてしまえば、きっと、あんなこと、あったね、くらいなのだろう。
あー
数学は、苦手。
どんなに解いてみてもわからないものは、やはり、わからない。
解けない。
わからない。
頭をフル回転させる。
うーん…
はーぁ…
ため息しか、出ない。
下は、リビング。
テレビを笑いながら見ている家族達。
耳に笑い声とか、ちょっとした人が歩く足音とか、テレビの音が気になって仕方がない。
焦るだけ。
イヤホーンを耳にするが、よく、聞こえる。
どんな音でもうるさく聞こえてしまう。
音一つに敏感な耳。
集中力が一気になくなってしまう。
テレビを見たい。
テレビよ…
弱い私は、少し聞こえる辺りで耳をそっちに向けてしまう。
勿論、手からペンは、離され、転がったままである。
「ご飯だよ!」
そう呼びかけてくれたのは、母だった。
1度、呼ばれて、動いていいのか。
きっと、やっていないことがバレてしまうかもしれない。
言われるのだろう。
スマホが鳴る。
無視。
あー!
もうー!
誘惑だらけ。
ペンを持つ。
しかし、ペンが進まない。
ペンを持つことさえ、嫌になるくらい。
あー!
嫌になる。
ペンが手から再び、自然と離れてしまう。
ペンは、机の上で転がった。
やはり、集中出来ない。
家も学校も誘惑だらけ。
全てが私の敵だ。
はーぁ
2度目のため息を吐く。
「ご飯だよ!キリがついたらおいで!」
母の声が耳を通る。
キリか…
キリなんて着くのだろうか。
やればやるだけ、ますますと不安になるだけで、焦り、身になっているのかさえ、危うい。
ペンは、机の上に転がったまま、動かない。
思いっきり、参考書を閉じ、階段を降りる。
いい匂いが部屋中に漂っている。
ぐーぅと腹が自然と鳴る。
お腹すいた。
2度もなってしまった腹。
テーブルの上には、既に、食事が準備がされてあり、席に着き、食べ物たちを口に運び、夕食を済ませた。
ここからが、誘惑にハマりやすい。
テレビ。
一度、見てしまうとあと、ちょっとだけ、あとちょっと…
弱点。
一番の誘惑。
このまま、時間が止まってしまえばいいのに。
もっと、ゆっくりと…
はーぁ
ため息を着きながら、風呂に入り、机に再び向かった。
何度も出てしまうため息。
自分が本当に嫌になるほど。
はーぁ
勉強を再開するまで、10分以上も経った。
再開した。
参考書を開き、解こうと暫くやり続ける。
ペン回し。
だんだんと襲って来る、眠気。
眠い。眠い。
眼をこすりながら、参考書の問題を見る。
集中力が途絶えていく。
一度、机の上に顔を伏せてしまう。
ちょっとだけ…
ちょっと…
そして、目を瞑ってしまった。
気が付き、目を覚ますと、机で伏せて寝ていた。
毛布が掛けられていた。
参考書は、ぐちゃぐちゃに。
また、普通に、眠ってしまった。
はーぁ
ため息。
もう、嫌だ。
そんな無駄な20分を送り、今日も朝晩が始まった。
朝は、時間の流れが早い。
あっという間に2時間が経過してしまう。
そして、集中して、既に、3時間が経っていた。
スラスラと解けた。
誘惑もない朝は、私の味方。
はーぁ
大きな口を開き、欠伸が出る。
少し眠い。
少し、休憩した。
ペン回し。
目の体操。
再び、朝晩、再開。
カーテンとカーテンの少し空いた隙間から、日差しが顔を私に見せる。
時間を見る。
チクタクチクタク鳴らす秒針の音。
7時。
勉強を中断して、支度をし始めた。
朝の日差しは、優しい。
ふーぅ
息を吐く。
そして、学校へと出掛けた。
学校に着き、教室へと足を踏み入れる。
「今日、カラオケ、行かない?」
「いいね、いいね!」
「ここに美味しいパンケーキ屋さんが出来たんだって」
パンフレットを開きながら、話している。
「へー、そうなんだ!」
「今日、行ってみない?」
「おー、いいね!行こう、行こう!」
楽しく話しているクラスメイト達。
意気揚々としている。
嫌になるくらい、耳にはっきりと入って来る。
その中でも、私のように、必死になって、参考書に向かい、勉強をし続ける者達。
私は、机の上に、参考書を広げ、ペンを手に持ち、問題を解き始める。
学校は、比較的に誘惑は少ない。
耳栓をする。
問題を解く。
解く…
解く…
関係代名詞。
問題に引っ掛かる。
うーん…
頭を抱える。
すると、教室に先生が入って来た。
「皆んな、おはよう!」
元気な先生。
机に参考を広げたままである。
先生が話している間も勉強。
一分一秒が大事。
時間を一瞬も無駄には出来ない。
関係代名詞…
「The girl □ is studying English in schol likes English.」
…
わからない…
キンコンカンコンー!
キンコンカンコンー!
キンコンカンコンー!
キンコンカンコンー!
校舎中に響き渡る。
はーぁ
…
大きな息を吐いた。
そして、1時間目、2時間目、3時間目、4時間目…
お昼。
食べながらも参考書を開き、パンを口に加え、片手には、ペンを持ち…
10問くらい解き、食べ終え、掃除。
掃除中も片手に参考書を持ち、勉強。
そして、5時間目、6時間目…
いつの間にか、放課後になっていた。
はーぁ
息を吐いた。
放課後、図書館に行った。
やはり、参考書を開き、勉強。
「よし!」
気合いを入れ、解き始めた。
数学、英語…
はっと、目を覚ましたら、1時間くらい時間が経っていた。
はーぁ
ため息を吐く。
再び、再開した。
気が付いたら、時計は、6時を指していた。
…
そろそろ、追い出されそうな時間だ。
私は、机の上に広げた参考書をきれいに閉じ、片付け図書館から出た。
家に帰ると、テーブルの上に、食卓が並んでいた。
「おかえり」
そう呼びかけたのは、母である。
「ただいま…」
そのまま、部屋へと行き、荷物を置いて、下に降りた。
夕食中も片手には、参考書。
直ぐに2階へ行った。
しかし、また、駄目だ。
いつもと同じパターンが繰り返された。
………
言葉を失う。
はーぁ
ため息を吐いた。
受験まで、あと…
2週間。
カレンダーの日付は、だんだんと近づいて来る。
昨日の日にちに罰を付ける。
それを見て、はーぁとため息が出る。
あと…2週間か…
「よし!」
気合いを入れ直し、朝晩を始めた。
静かな朝は、やはり、誘惑がなく、頭の回転も優しく勉強がよく、捗る。
時間もあっという間に過ぎてしまい、バターとシナモンが塗ってある食パンを加え、家を出た。
そして、学校へ…
そんな学校に行く途中だった。
思わず、学校までの道のりを、遠回りをする。
私は、あるところに行った。
そこは…
予備校の前だった。
…
だけど、そこから、なかなか、足が動かなかった。
別に予備校に行きたい訳でも行きたかった訳でもない。
ただ…
予備校は、私のような者達を惹きつけるのだ。
それが商売なのだけれど。
その予備校を見るたび、私のやる気は、出て来るのだ。
ふーぅ
息を吐く。
「よし!」
そこから、離れ、学校へと行った。
学校に到着して、直ぐに、勉強を始めた。
数学。
関数の問題。
一番、苦手。
でも、基本的な情報を使い、頑張って解き続ける。
解く…解く…
答え合わせをして見た。
関数は、ほとんどが全敗。
しかし、私は、驚いた。
1問、答えが合っていた。
うれしい。
付けられた、◯
その◯を見て、少し、やる気のスイッチが付いた。
そして、受験まで、あと…
7日が迫った。
ふーぅ
朝晩。
遂に、日付は、近づいて来てしまった。
もう、本当に時間は、一秒も一瞬も無駄には出来ない。
無視出来ない。
国語、数学、英語、理科、社会…
その日は、学校で、卒業文集に載せる、作文みたいなのを、書く予定があった。
私は、受験のことで頭がいっぱいで、何について書こうか、なかなか、決められなかった。
修学旅行のことを書く人が多かったらしい。
友達も修学旅行について書いていた。
私も修学旅行について書こうとしていた。
しかし…
書けないのだ。
思ったように、書けない。
思い出しながらも書き続けてみる。
なんか、書けない。
私の頭の中には…
先生に一度、見せるが、書き直しを命じられた。
……
なんか、モヤモヤする。
結局、その日は、書き終わらないまま、放課後を迎えてしまった。
勉強…
しないと…
参考書を開き、ペンを持つ。
解き始めた。
そんな時、ふと、思った。
このことを書けばいいのではないかと。
この日々のことを。
書き留めておけば。
いつか、これを開いた時、なんて思うんだろう。
そして…
卒業文集は、無事に、仕上がりを見せ、提出した。
それから、やはり、勉強!
勉強だ。勉強!
土日は、全教科をまんべなく、やった。
解く…解く…
集中!
集中!
書き書き。
ペンが進む音。
書き書き。
一つ一つの問題を何とか、やり遂げた。
知らないうちに、手が真っ黒になっており、人差し指や中指にタコが出来ていた。
そして…
あと…
受験まで、3日が来てしまった。
それでも、やるしか、なかった。
解きまくった。
解く…解く….
書き書き。
書き書き。
紙の上でペンを走らせる。
ただ、解きまくる。解きまくる。
ボロボロになり掛けながらも、勉強が本当に嫌いになるくらい、私は、我武者羅になりながらも勉強をやった。
睡眠は、更に更に削った。
ラストスパート!
そして…
受験の当日…
2日間を迎えることとなった。
しかし、当日の朝。
空が真っ白であった。
雪である。
降っている。
おー…
時間が経つにつれて、だんだんと激しく降り出す雪。
2時間くらい、家を早く出た。
無事に2日間、試験には、間に合った。
今までやったことを出し切った。
2日目は、少し具合が悪かった。
でも、今を無駄には、出来ない。
集中力は、あった。
緊張感もあったからか、そんなに気にはならなかった。
何とか、2日間のバトルは、終えた。
それから…
バトルの結果発表の前に、卒業式が行われた。
まだ、私の中に緊張感が走っている。
気持ちが卒業と着いて行かない。
………
最後の最後に実感し、泣いている友達の涙につられて涙を流した。
遂に、バトルの結果発表!
結果を見るのが、怖かった。
数字を探すのが…
辿る…
辿る…
緊張感が走る。
どくどくとする心臓。
どくどく…
…
見つけた。
目を何度も疑う。
…
はーぁ
緊張感は、一気に全部、どこかへと吹っ飛んだ。
目から思わず、涙が溢れた。
私にもやっと、新たな道を歩く、春が来た瞬間だった。
桜の花の蕾が一つだけ、顔を出していた。
それから、6年、経って、初のバトルの繰り広げを書き留めた卒業アルバムを見つけた。
文集を読んだ。
微笑んだ。
こんなこともあったな。
今、思えば、ただの私の思い出だった。
桜が咲いた木を見つけると、私は、桜の花に微笑んだ。
そして、新たな道は、更に、新たな道へと私を引き連れて行ったのだった。
ラストスパート!