表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

ドラネコ・サーガ

お読み頂き、ありがとうございます。

長文になります。

吾輩は猫である。

名は…ノル。妖猫族のノル・ドラネコ。

故あって魔王に気に入られ、四天王に据えられた経緯もあって魔王から『アストデウム』の名も貰った。

ついでに二つ名と伯爵の地位まで。

なので、四天王として名乗るなら『幻惑の四天王アストデウム』となる訳だ。


ここまで言っといて吾輩…じゃなくて、俺は異世界転生を果たした日本人だ。


簡単に説明すると、俺に死なれると困るから地球の時間を止めて肉体を修復する、その間に傷付いた魂を癒すから記憶を保持したまま異なる世界で過ごして欲しい、と言われた。

で、故郷を忘れないように、と借りた能力がふたつ。


俺の記憶にある人物を一時的に創り出す「模倣体(アバター)

もうひとつ、俺の記憶にある景色を一時的に創り出す「幻想空間(ファンタズマ・ゴリア)


大した事ない、と思ったら大間違い。

模倣体の方はゲームやアニメ問わずにキャラクターやロボットすらも適用されて、身体能力からもってる技能まで完全再現。

どこまで出来るのかと思って伝説の巨神が現れた時は、銀河が切り裂かれる危機感を覚えたね?


幻想空間も模倣体同様にゲームやアニメ問わずに再現可能。

あとはアイテムボックス的な使い方、結界的な使い方、攻撃魔法的な使い方、と思った以上に幅広く使えた。

何より良かったのは、幻想空間内に存在する調味料が問題なく食べられて味がある事と、俺の部屋が再現出来る事だな。


とまあ、こんな感じで説明された時と実際に使ってみた能力の差異に戸惑いを感じてた頃に、知らずに魔王の子を助けていたらしく、ペット兼護衛として魔王軍に入る事を強制された。

嫌なら抜ければ?って思うじゃん?

魔王の子が人間とのハーフの美少女、しかも艶やかな黒髪は陽の光で輝き、黒真珠のような黒い瞳がくりっとして可愛い日本人ベースの顔の作り、なのにオッパイとお尻は西洋人並みに大きいのに腰は細くくびれてる。

信じられるか、これで10歳なんだぜ…?

で、俺はペット兼護衛だけじゃなく、毎晩彼女の抱き枕としてオッパイを堪能していた訳さ。

おっと、忘れてた。

悪魔としての部分は、耳の少し上から後ろに向かうようなちょびっと出た小さな角、背中にはコウモリのように小さな羽、お尻には牛のような尻尾があって、コスプレっぽい。

人間である母親の血が強いのかもな。

父親である魔王が如何にも魔王、な容姿だしな。

ハーフ故になのか知らないが、同じ魔王軍の誰かから執拗に命を狙われていたのが分かったから、抜けられなくなったともいえるかもな。

なにより、魔王の子煩悩っぷりを間近でみていて面白可笑しかったのもある。


「パパ大好き!」

「おう、俺も大好きだぞー、って、なにニヤついてんだ、ノル?」

「別にぃ?(ニヤニヤ)」

「テメ、コノヤロ!」(ガタッ!)

「…ノルをいじめるパパはキライ。」

「はい…」(しゅん…)


そんなやり取りが続く日常だ。

それと護衛と言っておきながら、俺自身は全く強くないぞ。

ゲームでいうなら、スライムとかゴブリンよりは強いけど、コボルトあたりとは同等といった感じだな。


模倣体と幻想空間を頼りに、地位を築いたと言っても過言じゃない。


数年が経った頃、魔王が勇者によって討たれた。

しばらくして彼女が魔王となる事を決意した時、俺は彼女の願いにより四天王となった。


『魔族が人間と一緒に生きられるように頑張るから、ノルにずっと側で見守ってて欲しい。』


愛してくれた父親を失った悲しみに涙を流してもいいのに、我慢して目を赤く腫らした女の子にそうお願いされたんだ、それを断ったら男が廃るってもんだろ。

まして、父親を討った人間との共存を掲げたんだからな。


さて、色々語った訳だけど、ここで冒頭に戻る訳だ。


勇者が再びやって来るとかで、四天王が魔王城城内にて迎え撃つのを待ってる訳なんだが、暇なんだよな。

というか俺が待機してる広間の入り口を少し開けて、チラチラと覗き見てるのって人間だよな?

勇者達かね?


いつまでも覗き見されても気分の良いもんじゃなし、入っていただこう。

扉前にメイド姿の模倣体を出現させて、扉を開けさせたら模倣体消し、と。


「うわっ?!」

「きゃあ!」

「いでっ」

「ぐえ」

「よっと。」


黒髪の少年少女が5人、突然開いた扉に反応出来ずに積み重なって倒れこんだ。

ひとり逃れたが、格好からして斥候とか狩人か?


「は、やく、どいてくれ…」

「おもいぃ〜!」


1番上が重装備だからな、重いだろうな。

なんというか、全員の顔立ちが日本人というか、日本人だよね?

勇者達は…立ち直ったみたいだね、よし。


「き…」


「今扉開けたの誰だ?」

「箱座りしてるニャンちゃん可愛いぃ♪」

「まさかアレが四天王とかねーだろ?」

「四天王の一人に『幻惑』の二つ名を持つ者がいると聞いた。つまり本物はどこかに…」

「あの、さ?…今あの猫を『鑑定』したら、『幻惑の四天王アストデウム』ってあるんだけど…?」


「「「「え?」」」」


喋ろうとして会話に遮られた。

でも鑑定とか気になるワードが出てきたな。

これはつまり、異世界転移とかでやってきた勇者って訳か。

俺は鑑定とか自分の能力が見られないから、素直に羨ましいぞ。

よし、改めて。


「き…」


「うわ、よっわ!」

「あ、ほんとだぁ…」

「魔導師の俺でも素手で余裕じゃね?」

「魔王軍は人材(?)不足のようですね。」

「猫の手も借りたい程に?」


爆笑する5人。


「やかましいっ!」


予め展開させてあった幻想空間を彼等の足元だけを解除する。

なぜかというと、この広間は魔王城には『存在しない』部屋であり幻想空間で創り出した広間だ。

元々は海まで吹き抜けの空間だから、解除されれば当然…


「「「「「あぁ〜〜〜っ!?」」」」」


海へと落ちていく。

数時間後、再びやってきた彼等はずぶ濡れで磯臭かった。


「し、死ぬかと思った…」

「うぇぇん…」

「ローブが重てぇ、くっせぇ…」

「なんなんだ、この部屋も道中の仕掛けも…」

「あ、アタシの探知も効かないとか…チート持ちかよ」


お、チートの単語出た!

よし、これで話しやすく…


「セイッ!」


なってないな!

勇者っぽい少年が勇者っぽい剣を抜いて俺の目前に迫って来たから、とっさに模倣体を出してしまったが…

その見た目は、国民的ロールプレイングゲームの三作目の勇者だ。

模倣体は勇者っぽい少年の剣を盾で滑らせ、その首に自身の剣を当てた。


「なっ!?」


突然現れた模倣体に驚いた勇者っぽい少年が、さらに驚きの声を上げた。


「なあ、アレって見た事あるビジュアルなんだが…」

「奇遇ね、アタシもよ。」


どうやら俺の模倣体の姿に思い当たるものがあったようだ。


「お前ら、アイツが誰か知ってんのか!」

「え、え、えっと…」


後の二人は知らない、と。

あ、このタイミングなら聞いてもらえるかな。


「君達に聞きたい事があるんだけど、少しは俺の話を聞いて貰えるかな?」


そう言った俺は広間の景色を東京に変えてみると、5人の表情は明らかに驚いている。

俺は模倣体を解除し、日本の国民的アニメキャラクターの模倣体を複数出現させると、5人は驚愕の表情を浮かべ無言で俺を見た。


「君らが異世界転移か召喚された日本人、で当たってるかな?」


コクコクと頷く5人。


「よかった。俺はいわゆる、異世界転生した日本人だ。

君らは魔王討伐を目指してやって来たと判断するけど、今の魔王が何を目指してるかを知ってほしいんだ。」


魔王の目指す人との共存、俺がその道を誤らないよう見守っている事を語った。

そして、この世界の人間を知る5人に協力を願うと


「俺は平和に導いて欲しい、と頼まれただけだ。」

「うん、私達も争いを望んでないから。」

「つーか、人間の方がメンドクセー事多いよな。」

「見え難いだけで、人にも善悪はある。」

「逆に魔族って分かりやすいよね。だから…」


全員が快く協力をしてくれた。

それからが本当に早く、俺と勇者達のチート能力を合わせて、僅か1年で全ての国が平和の為に席に着かせる事に成功したのだ。


まだ会議が始まるには早い時間。その会議場。

席に座っているのはまだ魔王だけであり、俺は彼女の腕に抱かれている。

ペット兼護衛なのは変わってない模様。


「ゴメンね、いつもノルばかりに任せちゃって…」


魔王が謝りながら俺を抱き締め、オッパイの感触がダイレクトに伝わってくる。

最近はますます大きくなってて柔らかいです、はい。


「いいや、魔王として配下を使うのは間違ってないし、俺は四天王アストデウムとして行動しただけだ。

むしろ僅か1年でここまで漕ぎ着けた君の手腕を誇りなよ。」

「ノル…ありがとう…」


涙を浮かべて魔王がお礼を言ってくれる。

俺は首に巻かれてるスカーフで魔王の涙を拭った。


「さて、そろそろ時間だから涙を拭いて、魔王らしくいこう。」

「うんっ!」


この日、各国代表は魔王率いる魔族もこの世界の一員であると同時に国として認め、お互いに平和を結ぶ事になった。

その数日後には勇者達が故郷へと帰る事になり、俺達は同じ故郷同士だけで別れの言葉を交わしていた。


「ノル、色々サンキューな。」

「ありがとう、ノルさん…」

「また会おうぜ、ノル!」

「再開を楽しみに待っています、日本で!」

「そうだ、ノル、日本人としての名前は?」


そう言えば名乗ってなかったな。


「俺の名前はな……」


この翌日、勇者達は送還されていった。

俺はノル・ドラネコとして、四天王アストデウムとしての寿命を全うしないと会えないから、再会はいつになるやら…




それから月日は流れた訳だが、途中何があったかを少し語ろうか。


世界が平和になってからの最初の10年は、魔族国家としての認知度を上げる事と流通にチカラを入れた。

魔王はもちろん初代女王として、代表に。


魔族国家が一般に知られるようになると、人間達の移民が徐々に…本当に少しづつだけど始まった。


50年過ぎた頃には、人種という壁はもう存在してなかった。

人も亜人も魔族も、慣れ親しんだ隣人や親友のように付き合っていた。

魔王…じゃなくて、女王の願いが叶った瞬間だった。


70年目が過ぎようとした頃、女王に結婚の話が持ち上がった。

相手は人間で、寿命の違いに悩んでいたが。

先代魔王は不自由な世界で母君に出会い、愛を貫いたからこそ女王が産まれた事を伝えると一瞬寂しそうな表情をしたが、人間との結婚を決意したようだ。


翌日には世界が平和になって100年の節目が訪れようとしている日。

つまり、今日だ。

40年ほどしか生きられない妖猫族としては、120歳というあり得ないほどの長命を誇った俺だが…ここ数年はベッドの上で身動き出来ずにいた。

そして、とうとうお迎えが来るらしい。

意識はハッキリしてるし、舌も回る。

でも、明日を知る事はない、と理解出来る。

傍らには女王だけ。

二児の母となり実年齢100歳は越えていても、その容姿と精神年齢は今だに20代足らず。

容姿は母君に似ていても、内面は先代魔王に似たようだ。


「ノル…」


女王が今にも泣きそうな声を出しながら、彼女は動かない俺の手を優しく包んだ。

毛皮で分かりづらいが、俺は今生きてるのが不思議なほど痩せ細っているし、辛うじて生を繋ぎ止めているのは奇跡としかいいようない。


「いよいよお別れか。」


俺の一言に反応して彼女が体を近づけ、ボロボロと涙を流した。


「やだ、そんな事言わないで!

お別れなんてヤダよ!!」

「無茶を言うね、まったく。」


魔王から女王となり、親となって凛とした姿を見せるようになっても、今見せている一面は、既に俺だけにしか見せていない。

そういう事なのだろうと解釈するとしよう。

いや、あの日彼女が魔王となることを決意した時からだろうな。

俺はゆっくりと息を吐き、


「君のあの日の誓いはこうして現実のものとなった。

俺は既にその役目は終えたんだ。」


だから、気付かないフリをしようと決めたのだ。

人の姿を持っていないから。

どんなに想っても、人間としての記憶が人とかけ離れた姿で苦しめるから。


「だから、笑ってくれ。

君とのお別れが君の泣き顔だと、俺が悲しい。」

「ぅ、うん…」


別れに、ほんの少しの本心を乗せて。

彼女は涙を拭いながら、必死に笑顔を作ろうとするが、後から溢れる涙がそれを許さない。


「え、笑顔でいたいのに…なみ、涙が、止まらない、ぅぐ、ぅう…」


俺はそれを見て静かに微笑むと、ゆっくりと瞼を閉じる。

もう、二度と開くことはない、と思いつつ。


「ノルゥゥゥゥゥゥッ!!」


自分を呼ぶ声を最後に、俺はノル・ドラネコとしての生涯を終えた。



◆◆◆



意識を取り戻せば、魂が集まる場所にいた。

そこから更に天へと導かれ、大いなる存在が集う場所に俺は招かれた。

目の前には光がある。

俺を転生させた存在と同一だろうと判断する。


『…もう一度、あの世界に行く事は』


光が俺の意識に直接語りかけてくる。

やっぱ無理か、分かってただけにツライな。


『分かってるよ、日本人として生きろと言うんだろ。

さっさと…』


光がさらに語り掛けてくる。


『は?俺があの世界で二つの問題を解決した?

…覚えないぞ?』


光が語る二つの問題、ひとつは俺がペット兼護衛となる前のこと。

自分の能力を試していた頃の話。


『俺があの場所にいなかったら彼女は死んでた…だと?』


もうひとつ、それにより魔王は討たれず、100年にも及ぶ泥沼の争いが起こったという。

俺は俺で小さな妖猫族の里で、比較的平和に暮らし生涯を終えてたらしい。


『…』


光はさらに語った。

礼として、残してきた彼女の幸せを成就させるという言葉に、俺は涙を流さずにはいられなかった。

そして、光の計らいに感謝するしかなかった。


『…ああ、彼女が幸せなら、それでいいさ。』


そこから俺の意識はホワイトアウトして…



◆◆◆



日本の身体に戻ってからは早いもんで、一年が過ぎて夏が訪れようとしている。

その間に異世界召喚から戻ってきた5人とも友人となり、退屈だけどそれなりに楽しい毎日を過ごしている。

さすがに異世界で起こったような刺激はいらないが。


夏休みにを前に俺と5人は遊びに行く計画を立て、ファミレスで夕食を済ませ、その場で解散する事になった帰り道。

夕暮れの中、ふと影が差したことで見上げると…


「…マジか。」


そうとしか言えなかった。

俺の記憶にある小さな角は大きく立派な角となり、コウモリのようだった羽もドラゴンの翼といってもいい程に立派で、短かった牛のような尻尾は長くなっているが、変わらないその姿。


「ノルッ!」


彼女だった。

俺は猫の姿ではないのに、彼女は俺の事を抱きしめて『ノル』と呼んだ。


「君は…それに、その姿…」


俺の疑問に答える為か、彼女は少し離れいまだ戸惑う俺の目を見て


「ノルに会えなくて、ずっとずっと、悲しくて…魔王として覚醒しちゃって…」


彼女は暗い表情を見せるが、すぐに満面の笑みを見せる。


「そしたら光がね、私が幸せになれるようにチカラを貸してくれるって!

だからね、こう願ったの!」


ああ、そうか。

言ってたな。

あの光は『彼女の幸せを成就させる』と。

そして彼女はゆっくりと顔を近づけ、



「ノルの側で生きていたい、って!」




◆◆◆



平和が訪れて200年目の式典が終わり、それに伴って魔族国家元首の城内の一角に巨大な石碑が置かれる事となった。

初代女王が残した書記を元に、2代目女王として引き継いだ彼女の娘が建てたものだ。

2代目女王も幼い頃、この石碑に記された人物に世話になり可愛がって貰っていた。

決して表舞台には出ず、100年もの間初代女王の傍に寄り添って護り続けた英雄譚であり、彼の存在なくしてこの国は存在しなかったと思うからこそ、2代目女王はこの石碑を建てたのだ。

その石碑の名は後世にてこう呼ばれている。



【ドラネコ・サーガ】ーーーと。




ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

都合上書ききれなかったことが心残りです…

もっとノルの能力を使ったり、召喚勇者達の能力も披露したかった…


ともかく、異世界転移、転生関係のショートストーリーは一旦離れて、少し違うものを考えていますのでお楽しみに…

というか、楽しみに待って下さる方がいるかどうかが不安ですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ