おいでませ!地蔵相談所 12
「タニシさん、発見しました!」
「うむ、見せてみろ」
「はい、これであります!」
そう言って優太は、持ってきた得物を高々と掲げる。
「うむ、それは何だ?」
「杵です。タニシさん!」
「立派な杵だな」
「はい、とても立派な杵です!」
「どうしてそれを持ってきた。理由を述べよ」
「はい、嫁との新婚生活に必要だと思ったからであります!」
「うむ、その心意気やヨシ。しかし今は関係ない。捨て置けっ」
「はい、すいません!」
現場監督を務めるタニシの言葉は絶対だ。優太は杵を蔵の隅へポイと放り投げ、次の捜索に取りかかる。
「タニシ、見つけましたわ!」
「うむ、見せてみろ」
「これですわ!」
そう言って凶華が掲げたのは、一振りの刀だ。
「うむ、それは何だ?」
「かの有名な鬼人大王ですわ!」
「有名なのか?」
「ご存知ありませんのっ?」
「そんなに驚かれても」
「かつて嫁目当てに一晩で鬼が打った九十九本の刀の一振り、それがコレなのです!」
「なるほど、それは立派な逸品だ」
「そうでしょう。まさかこんな場所に眠っているとは思いませんでしたわ!」
「うむ、大層なお宝だ。しかし今は関係ない。捨て置けっ」
「えー……」
「捨て置け!」
「……仕方ないですわね」
現場監督を務めるタニシの言葉は絶対だ。凶華は名刀鬼人大王を渋々隅に置いて、次なる探索に取りかかる。
「タニシさんタニシさん、今度こそ発見しました!」
「うむ、見せてみろ」
「はい、これであります!」
そう言って優太は、またもや得物を高々と掲げる。
「うむ、それは何だ?」
「木槌です。タニシさん」
「何か特別な木槌なのか?」
「もちろんですとも!」
「うむ、説明してみろ」
「将来僕と臼の間に子供が生まれるじゃないですかっ」
「え、うん、まぁ……」
「その新しい命に、普通の杵では大きすぎます!」
「それは……確かに」
「そこで、コレです!」
「……なるほど、杵としては特別だな」
「そうでしょう。僕は立派な父親になると心に決めているのです!」
「うむ、その志やヨシ。しかし今は関係ない。捨て置けっ」
「そんなっ!」
「捨て置け!」
「わかり……ました」
現場監督を務めるタニシの言葉は絶対だ。優太は不平をブツブツとこぼしながら木槌を隅に置くと、渋々探索に戻る。
「タニシ、ようやく見つけましたわ!」
「うむ、見せてみろ」
「これですわ!」
そう言って凶華が掲げたのは、やはり一振りの刀だった。
「また刀か」
「またとはご挨拶ですわね」
「まぁいい。一応聞こうか」
「これこそ稀代の逸品、世の中を牛耳る権力者を叩き落とす呪いの刀、妖刀村正ですわ!」
「とんでもないもの持ってきたな……」
「しかもコレ、正宗と一緒に川で実験したヤツです。木の葉が吸い込まれるように切れるヤツですわ!」
「ゴメン、今一つ凄さがわからないんだけど」
「この刀は、血を求めているのですわ!」
「怖いな」
「怖い刀なのです!」
「うむ、よくわかった。とりあえず捨て置けっ」
「えー……これもですかっ?」
「というかだな――」
さすがのタニシも我慢の限界である。
「お前ら、ここへ何を探しに来たのか、絶対に忘れてるだろ!」
「そんなことありません!」
「そんなハズありませんわ!」
「よし、言ってみろ」
「僕の将来を探しに来たんじゃありませんかっ」
「私の探したお宝の何が気に入らないんですのっ」
「違うだろっ。全然違うだろ!」
そもそも人選ミスというか、作戦からしてミスっていたのではなかろうか。
「いいか、お前たち」
タニシは呆れたような口ぶりで言い放つ。
「我々は交渉材料を探しに来たのだ。花咲か爺さんの秘密に近づく、そういうモノを探しているんだ。思い出したかっ?」
「……一ついいですか?」
「うむ、言ってみろ」
手を挙げた凶華を指名する。
「で、タニシはそこで何をしてますの?」
「そういえば、何もしてませんね」
「いやあのな、僕がこの広い蔵を移動したところで、そこに見える棚に行くにも時間がかかるワケで、そんな状態で探し物なんぞしたところで効率的な探索などできるハズもなく――」
「怠惰ですわね」
「怠慢ですね」
「うぐっ……いや、ちちち違う。これはえっと……役割分担というものだ!」
「タニシも何か一つくらい見つけるべきですわ!」
「そーだそーだ!」
「こいつらぁ……」
とはいえ、言い訳で二人を黙らせることはできそうもない。
「じゃあ、えっと……そこの箱!」
「え、どれですの?」
「その棚の中ほど、そうそう、その真ん中にある木箱、多分それだ。その中に朝廷との密約を記した書簡があるに違いない、うむ」
「……うちわが入ってますけど?」
優太が取り出したのは、ヤツデの葉を模した、大きなうちわだった。
「書簡どころか、文字一つ書いてありませんわね」
「うるさいぞ」
「タニシさん」
「何だ?」
「捨て置きますか?」
「ぐぬぬ……うむ、捨て置け!」
「楽しそうだな、お前さんたち」
予想外の方向、蔵の外から響いた声に、二人と一匹は慌てて振り返る。
「何か探し物かね?」
老人はニコニコと、奇妙なほどの笑みを浮かべながら、見た目の割にはしっかりした足取りで蔵の中へと歩み入る。
「お……お……おと……」
「迷子の犬が戻ってきたと聞いたから来てみたのだが――」
あたふたして言葉の出ない優太に呆れたような溜め息を吐きつつ、その周辺にいるタニシと凶華を順番に確認していく。
「なるほど、よくわかった」
一つ頷き、納得する。
「えっと、何がわかったので?」
タニシの問いに老人、花咲か爺さんは笑顔で答える。
「新しい嫁は、別嬪さんだな」




