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サヨナラ、テイトク  作者: 遠坂遥
提督、出撃
6/11

新任提督、着任 その三

3


 俺たちを見て、一人がこちらに近づく。


「あなた! いったいどこの部隊ですか!?」

「牧村隊の香月あおいと申します! 正式配属は明日なのですが、状況が状況なので助太刀に参りました!」


 あおいがそう言うと、「モーニング・グローリー」を装着していると思われる女性隊員が驚きをあらわにする。


「正気ですかあなた!? 今ここがどんな状態になっているか分からないのですか!?」


 女性隊員の話によると、現在3カ所で同時多発的にデルタに攻撃を仕掛けられ戦力を分散させられてしまい、援軍も期待できないのだそうだ。


「それは分かりますが、このままではじり貧です! 戦力は少しでも多い方が……きゃ!?」


 俺たちの眼前を敵の攻撃が横切る。あおいは女性隊員に気を取られていたため、俺が彼女の身体を動かし弾丸を回避した。


「危ない! いいからあなたは早く退避しなさい! 死んでしまいますよ!」


 彼女はそう言い残し、再びデルタへと向かう。


『あ、ありがとうございます、提督』

『お礼はいい。それより、こんなところでぼっとしてるとやられるぞ。彼女はああ言ってるが、君は退く気はないんだろ?』

『……はい』

『分かった。基本的な動きは任せるが、ピンチの時は使わせてもらうからな』

『はい!』


 そうして俺たちは、激戦区へと飛び込んでいった。


『おい、攻撃はどうするんだ? 武器は持っていないのか?』

『通常攻撃はウイングに意思を伝達することで武器を発生させます。今回もそれができるかやってみます!』


 あおいが目を瞑り、それに呼応するかのように背中の「AD-ウイング」が光り輝く。そして、彼女の腕に触手のように伸びたウイングの一部が巻き付いていき、彼女の手の中に巨大なアサルトライフルのようなものが2丁出現した。


『え、えらくごついのが出てきたな』

『ですが、威力はかなりありそうです』


 俺は単純に女の子には似つかわしくないと思っただけだったが、彼女にはその意思が伝わらなかったようだ。


『では、行きます!』

『おう』


 心を共有している俺には、彼女の心に火が付いたのが分かった。エンジンが再び火を吹き、敵目がけて飛んでいく。

 あおいが銃を構える。そして、


「はああ!」


 雄叫びと共に、銃口から弾丸が照射される。弾は一部が敵に命中した。だが、それだけでは致命傷にはならず、やつは彼女の視界から離脱を試みる。逃げる敵を追いあおいが旋回する。


『通常の弾丸だけでは威力が足りません。ここは「波動砲」を使います』

『頼むから俺に分かるように言ってくれ』

『す、すみません! えっと、簡単に言ってしまうと通常よりも威力の高い溜め攻撃といったところでしょうかね。魔力を収束させ、高濃度の弾丸を発射させるのです』

『なるほど、分かり易い』


 そうこう言っている内に、敵が再び視界に入った。周りの敵も今すぐこちらに襲いかかって来る様子はない。


『今だあおい。例の「波動砲」とやらを使おう』

『はい。魔力装填します。辺りの敵の監視をお願いします』


 彼女のアサルトライフルが光を帯びていく。原理はよく分からんが、どうやら魔力を溜めているのだろう。俺は彼女の言った通り辺りに気を配り、襲ってくる敵がいないか目を光らせる。


『装填完了です!』

『よし、狙いは定めておいた。とにかくぶっ放せ!』

『はい!』


 あおいが銃口に意識を集中させ、そして、


「食らいなさい!」


 強烈な閃光が放たれた。一直線に2つの「波動砲」は敵へと向かい、そして命中した。

 その瞬間、敵は一気に爆発四散した。


『す、凄い威力だな、波動砲っていうのは』

『自分で言うのもなんですが、私も驚きました。これほどの威力の波動砲は、今まで撃ったことがありません……』

『そうなのか? まあそれよりも敵はまだまだいるぞ。早い所片付けるぞ』

『は、はい!』


 敵の数はまだ20以上いる。休んでいる時間などない。俺たちは風を切って敵へと向かった。


 あおいの魔力素養はかなりのものだ。だが、彼女の射撃自体はそこまで高い精度を誇ってはいなかった。だから、敵を狙う時は俺が彼女の身体を借り、敵に狙いを定め、撃つ瞬間に入れ替わるという手法を採った。

 波動砲は威力はあるが溜めるのに時間がかかるのが難点だ。それでも彼女でなかったらもっと溜めるのが遅いだろうから充分戦力にはなっているのだが。


『だいぶ敵も減ったな。あおい、君は本当に今日が初実践なのか?』

『は、はい、間違いなく。私も驚いているんです。訓練の時だって、これほどの動きはできなかったのに……』

『日ごろの訓練が実を結んでいるんだろう』

『そ、そうだといいですが。もしかすると、提督が私の中に入っていることが影響しているのかもしれません』


 戦況は俺たちが来たことで好転の兆しを見せ始めた。しかしそれはまさにその時だった。デルタどもが奇妙な動きをし始めたのは。


『ど、どうしたんだ?』


 残っていた十数機が今まで以上の速さで動きだし、一瞬の内に俺たちの射程圏外へと脱出したのだ。


『我々には叶わないと悟って標的を変更した様です! 敵機が残りの3人の方へと向かっていきます!』


 拡散していた敵機が一気に結集する。そして、3人ではなく、その内の1人に狙いを定め、彼女を追い始めた。それを察知し、敵を追いかける2人。だが、なんとそこに、


『大変です提督! 上空に更なる敵機が!?』

『なに?』


 それは罠だった。彼女らの視界の外、直上から30機近くのデルタが来襲したのだ。

 一体これほどの敵がどこから現れたというのか? 少なくとも、俺にもあおいにもそれを捉えることはできていなかった。

 上空から降り注ぐ容赦ない熱線。彼女らは防御壁を展開させるも、それをことごとく打ち破る猛烈な攻撃に襲われる。


『こ、このままでは全滅です!! なんとか、なんとかしないと!!』

『馬鹿! このまま俺たちが突っ込んだところでどうにかなる数じゃない!』

『では、提督は彼女たちを見殺しにしろとおっしゃるのですか!? 私にはできません! このまま黙って手をこまねいていることは!!』


 実戦経験の少ないあおいには、もはや冷静な思考は残されていないようだった。かく言う俺は記憶すらない状態なのに、なぜか彼女よりは冷静にこの戦場を見つめいてた。

 もしかして、あおいの知っているという本当の俺は、バリバリの軍人で、このような戦いにはいつも参加していたのかもしれない。

 あおいの頭に血が昇っていることは、身体を共有している俺には良く分かった。俺には彼女をある程度制止することはできても、もはや完全に止めることは不可能だった。


 このまま突っ込んでしまっては、いくら強力な波動砲があってもその全てを撃滅することはできない。そうすれば、俺たちも無事でいられる保証はない。


『どうすることも、できないのか』


 しかし、そう俺が想った時だった。


『な、なんだ……?』


 何も覚えていないはずなのに。今の俺はデルタどころか、ウイングのことも何も知らないはずなのに……。


『このウイングは……』


 その瞬間、このウイングの真の力を、俺はなぜか”知っていた”。


『このウイングの名は……』


 そして更に、俺は俺がこの世界にいる理由さえも分かっていた。さっきまで、完全に靄が掛かっていたはずの思考が、この時は異常にクリアだったのだ。俺は彼女の口を借りて、こう口ずさんだ。


「俺はこのウイングの力を君たちに与えるために来た」


 この身体は変わらず、一直線にデルタの大群を目指す。それでも、尚俺は続けた。


「俺はデルタを滅ぼすためにこの世界に来たんだ。だから、ここに俺の真の力を示そう」


 そして、俺は身体の支配権を無理やりあおいから奪い、上空で急ブレーキを掛けた。


『て、提督!?』

『あおい、よく聞け。これがこのウイングの真名だ』


 この力の名前は、


「ラグナロック」


 ”神々の運命”を意味する「ラグナロック」だった。

 そして、俺の呼びかけに応じ、ラグナロックが更なる光を帯び始めた。


『あおい!』

『はい!?』

『いくぞ!』


 無茶な呼びかけだったと思う。あおいは大いに動揺していたが、俺は再び支配権を彼女に譲った。

 俺はあくまで力を与えるだけ。使うのは彼女だ。そして俺は教えた。このウイングの力を。


『……装填、完了です』


 絶望的な状況下でも3人が耐え忍んだ甲斐あって、敵はまだ俺たちに対して矛先を向けてはいなかった。だが事態は一刻を争う。俺たちは自分の役割を果たす。与えられた力をもってデルタを滅する。それだけだ。


『よし、いけ!』


 俺の合図とともに、あおいが紅い輝きを帯び始める。そして、デルタの大群に向かって直進する。


「デルタあああ! これ以上好きには、させない!」


 彼女のアサルトライフルが、さっきの波動砲とは比にならないほどの魔力を帯びる。

 彼女の接近を察知し、反応を見せるデルタ。だがもう遅い。ラグナロックを得たあおいを止める術は、もうありはしないのだから。


『いけ、あおい』

「はああああああああああああ!!」


 そしてあおいは、「ラグナロック」の真の力を解放したのだった。

勝負、決す。

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