不安だらけ
「とは言ってみたものの・・・・・」
「やっぱり不安すぎるよなぁ・・・・・^^;」
ぽつりとそう漏らしたのはキャプテン「安斎真琴」。
事務所でのあれこれが終わった後、
予定のないメンバーで食事でもしようということになり、橋本と秋月の2名を誘ってファミレスに来ているところである。
席に着くなり、
メニューを開く前に不安な思いが先立って出てきてしまった。
今日からアイドルになったわけで、もちろん店員に気付かれるわけもなく。
何も選ばずにため息をつく安斎を見かねて、秋月から声をかける。
「だ・・・大丈夫だよ真琴くん!僕らみんなこうしてオーディション切り抜けてきたわけだし・・・・」
「やっぱり意識変わるって!同期として励ましあってさ!ほら・・・」
健気な秋月の姿を見て安斎も優しい笑みをこぼす。
「キャプテンがこんなんじゃダメだよね・・・ありがとう^^」
「でもやっぱり大役だから不安になっちゃってさ・・・・あはは^^;」
「さっきはあんな張り切ってたじゃねーか」
横入りするように橋本が口を挟む。
先ほどあんなに胸を張って宣言していた安斎だったが、
彼も同じように昨日までは普通の男の子だったわけで。
「そ・・・・そうだけど・・・・なんかあの時は・・・・あは^^;;」
「ま、ネガティブは食欲でふっ飛ばそーぜ!すいませーん注文決まってまーす!!!」
橋本の勢いがあれば、乗っていけそうな気がする。
自分だけが一人で頑張らなくてはいけないような気分になっている安斎にとって、
橋本のこの向こう見ずな姿勢はある意味追い風になった。
呼び出しボタンがあるのに口で店員を呼ぼうとするのも、橋本の勢いならよくありそうなことだ。
一応注文を決めた安斎だったが、キャプテンのプレッシャーを背負いすぎてか要らぬ心配までする。
「アイドルになったから・・・あんまり食べちゃいけないかな・・・」
初日からここまで慎重になっている。
4品ほどを躊躇なく頼んだ橋本とは真逆である。
あまりにも繊細な安斎の姿を見て思わず笑いが出てきた秋月。
「真琴くんプロ意識高すぎ!!!なんか・・・本気だね!!☆」
「えっ?だってアイドル体型なら今よりもっと痩せなきゃいけないじゃない・・・?」
「カロリーとか糖質とか表記あればいいのになぁ・・・」
「僕オーディションまでにだいぶ絞ったつもりだったんだけどなぁ・・・まだ痩せなきゃいけないんだぁキッツイ・・・orz」
美味しそうなメニューの写真を眺めながら、
沸いて出てくる食欲をどうにか抑える秋月と安斎の2名。
それを尻目に橋本の注文した料理が次々運ばれてくる。
「お前らよーさすがに初日から気にしすぎじゃねー?まだ何の説明もされてねーじゃん?」
「あ~んっ・・・・んぅぅ~んめぇ~~//////」
「圭介は呑気そうでいいな。ずっとそんなだと痛い目見るからね。」
「な・・・・なんだよお前急に・・・・・そん時は・・・キャプテンとして叱ってくれんだろ・・・?」
「叱られるの待ってちゃダメだよー子供じゃないんだからー・・・」
初日から早速キャプテンのお叱りを受けた橋本。まるで親子のようだ。
橋本はアイドルになったという実感がまだ無いのかもしれない。
「はぁ・・・俺キャプテンだけどさ・・・・あんまり頼りないかもしれないし・・・・」
「圭介がもし太ったりしても、何も言えないかもしれないなぁ・・・・」
心配ばかりする安斎を見てモヤモヤとするものが湧いてきた秋月。
ここはガツンと励ましてやろうと、テーブルに身を乗り出したその時・・・
「真琴くん!!大丈夫!僕がついて(((ゴトッ
「・・・・・」
流れる無音。3人の目には、テーブルの上で倒れて飲み物をぶちまけたグラスの姿があった。
それも1本倒した拍子にドミノ倒しのようになって3人分全てのグラスが。
「ああああああああ何してんだよお前このバカァァァ!!!!」
「うわわわわっ!!!ご・・・ごめんなさぁぁぁい(´;ω;`)」
大慌てで店員を呼びに行く橋本とひたすらアワアワしている秋月。
そしてそれを呆れた顔で見つめている安斎。
気持ちとやる気だけはものすごくあるが、
正直今は不安だらけだ・・・・