71.三者三様について
巨大ロボは呪詛塊を粉砕したことで落下開始を伸ばし、僅かに浮遊した。
細かな噴射を行い姿勢を制御、
胸より生える砲身を、尖塔へ――
「この――!」
「おっと、そうはいきません」
突進を刈り取るような鋭い足払い、跳躍しながら剣を振るけど、こちらも避けられた。
地面が焦がすような音と、空気を切り裂く音は、ただ振り抜かれるだけで終わる。
着地し、距離を取りながらもその強さを理解する。
無視して横を通り抜けられるような相手じゃない。
全力をぶつけるべく『掴み』を行った、
両手の力が刃に乗る感覚、だけど同時に、目の前に敵が現れた。
――速ッ!?
こっちの混乱なんて知ったことは無いとばかりに、拳はコメカミを狙うフックとなって襲いかかった。
奥歯を噛みしめ剣を振る。拳と剣では殺傷力が違う、相打ち覚悟でもお釣りが来る!
風を纏わせ振り切った剣は、でも、なにも切断しなかった。
ぼやけて消える向こうでは、まったく同じニヤケ顔が立っていた。
気配のみを飛ばす術――最高レベルのそれは幻体まで見せた。
敵一人に足止めされている間に、上方で轟音が響いた。
聞き慣れた銃声と同質のものだとはとても思えない巨大な衝撃。
砲弾は標的へ――尖塔へとまっすぐ向かう。
僕が歯がしみして後悔をする合間にも、仲間は行動していた。
でも、この魔力がない世界に似つかわしくないくらいの魔導機械は、ペスが全力で制御を傾けなきゃいけないものだったし、委員長もまた全力で対処しなきゃいけないものだった。
どうしたって動作が遅れた。
そもそも音速で迫るものに対処するためには、先読みによる事前の行動が必要だった。
それができたのは、だから、この場では尖塔を駆け上がるヤマシタさんだけだった。
爪を立て、全身を可動させ、矢のようにまっすぐ向かう。
その英雄的な行動は、友人がやるとなると頭が煮えたぎるような焦りを生んだ。
でも、この場でできることはない。
本当になに一つとしてない。
声援を送ったところで集中力を乱すだけだ。
目の前の敵も手を止め、その姿を睨みつける。
誰も彼も見つめることしかできなかった。
真上から真下への砲撃と、真下から真上への跳躍。
生物としては異常なくらいの速度をたたき出していたけど、大砲速度には及ばない。
その絶望的とも思える差を埋めるべく――
「――!!!」
音にならない音、叫び声にならない叫び声を放った。
瞬間、ヤマシタさんの体が一回り膨らんだようにすら見えた。
叫び――生体魔力を残らず振りしぼったそれ。
斥力――鈴が放つ音波を残らず力へと変換したそれ。
二種の音を唱和させ、圧倒的な物理力へ激突させた。
永遠とも思える一瞬が過ぎ――砲弾の軌道がズレた。
尖塔を掠めて広場だけに着弾させた。
目的は達成した。でも、それだけだった。
わずかな角度の変化は、その途中にある生体を考慮しなかった。
吹き飛ばされて、酷く生々しい音をさせ、地面へと墜落した。
「あ……」
そのまま、動かない。
理解したくなかった。
どうしてなのかを、わかりたくない。
息を詰めていた委員長が叫んだ。彼女自身が殺されてもここまでじゃないと思える声だった。
受け止めようと途中まで伸ばされたリードロープは急速に萎んだ。まるでその先に伸ばすべき対象が消えてしまったかのように。地面が陥没し、黒々としたなにかが解き放たれた。
委員長をあのままにしちゃいけない、ヤマシタさんがどうなったのかを確かめないといけない――そう判断した僕はダメージ覚悟で通り抜けようとする。
けど、攻撃は来なかった。
代わりに男は無造作に何かを投げた。放物線を描くそれが僕らの中間地点に来るタイミングで正体を理解した。
手榴弾だった。
とっさに『掴んだ』。直後に起爆。手甲が弾け飛び、熱せられた破片が皮膚と肉を突き破り通り抜けた。
熱と衝撃は掴み制御したけど、それ以外は範囲外だった。燃える薪を掴み続けているような激痛。呻き声すら出ない。ボロ雑巾のようになった左手は使い物にならなくなった。
敵は、本当に時間ぎりぎりで投げた、下手をすれば相打ちにしかならない攻撃を躊躇なく行っていた。
「行かせませんよ? ワタクシ、かのエルメンヒルト殿下の活躍のためにこうして骨を負っているのですから」
殺してからでなければ通過できないと、わかった。
ペスは制御部分から手を離し、飛び立ち、呼びかけた。
並び来ようとしている者達へ、意志を込めて。
「来いッ!」
だけどそれは、二重に響いた。
ペスの声と同時に、アルフの声もしていた。呼びかける対象は、上級兵士を失い右往左往している兵士たち。
何人も合流し、時に飛行してペスの周りへと集まる怨霊達。
彼らは首謀者を睨みつけるけど、当のアルフは一顧だにせず、兵達が尖塔へ集まる様子だけを見ていた。
「てめえ――!」
「ええ、ええ、そうでした」
いまだ制御装置に手をめり込ませたまま目を閉じ、首を振る。
「民草を躾るには鞭が必要だ、敵を排除するには力が要る、それは決してあなた方が持つべきものではなく、我々こそが手にするべきものだ、我々の力は常に規律正しく、明るく、クリーンであり、有益だ。あなた方の暴力は常に乱雑であり、暗く汚く不潔であり、おぞましい――そう、排除せよ、排除せよ、排除せよ! 我らこそが正義! 我らこそが守護者ッ! 一切の外異排除のためならばこの命など惜しくはないッッ!」
集まっていた扶萄国兵士とアルフの体が崩れ落ちた。
同時に、尖塔の先から赤黒く人の形が現れる。崩れ落ちた人たちと、現れた数は同一。
通用しない武器、一方的な蹂躙、己自身の命。
それらを投げ捨てる代わりに、彼らもまた『怨霊』と化した。
人としての姿を持ちながら、人ではないとわかる姿。
銃器を手に、眼下に犇めく敵を睥睨する。
「我々こそが、守るのです。我々以外にそれはできない――!」
三つ巴の開始だった。




