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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
遠征
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54.戦闘参加について

「ははあ、そんなことあったのですか」


そう言ったのは委員長で、相変わらず馬車にて首輪をつけている。

僕らは、ある程度警戒しながら、それでも幾分か気楽に歩みを進めていた。


敵として現れて一番怖いのは、練度の高い集団による奇襲だ。

逆をいえば、あんまり訓練されてない集団に襲われても怖くないし、対処もできる。


だから、カッポカッポとのんびりと行っていた。


「まあ、一応は約束守るっぽい人だったから心配はいらないと思うよ?」

「いえ、そうした心配はしていません……」


ペスは簡単な説明ですぐに納得したけど、委員長がやけに食いついてきた。


珍しいくらい真剣な様子で腕を組み、やけに難しい顔をしていた。


「……たしかこの依頼は、後ろの魔法球を扶萄国へと届ければ最低限は達成なのですよね?」

「うん、それで前金分の仕事は終わり、そのままスタート地点に帰ってもゲートは開くけど……」


ボーナスというか追加報酬というか、「後払い」分を手に入れるには、魔法球を渡して手にする「代金」を、元の世界にまで運ばなきゃいけない。

こっちにとってあんまり価値のないものと、向こうにとってあんまり価値のないものを交換する。そうして互いに利益を得る。

つまるところ、これは交易だ。


「そうですよね――ですが、約束は私たちにとってのみ有利なものでした。それを向こうから提案してきたのは何故なのでしょう。最終的な目的が不透明である点が気になります。私たちと戦わないことを確約により得る利益が、どこかにあるということですか? これは戦闘の準備だけでは理由として不足だと思われます……」


正直、相手の変な言動に惑わされてそこまで考えていなかった。

いやでも、本当にそんな深い思惑みたいなものがあるのかな?


僕とヤマシタさんは、視線を交わして困惑を確認する。


「駄目です、上手く考えが纏まりません……ヤマシタさん、私にマーキングしてみてください」


手綱が大きく波打った。


「いきなり何を言い出すのであろうか!?」

「スプレー行為とも言いますね、気分を落ち着けて、ゆっくり考えるために必要なことです」

「何故にそれを当然のことのように言えるのか拙者は不思議で仕方ない!」

「ナワバリの主張は大切なことです、ヤマシタさん、ここは耐えてください……!」

「拙者は猫の形をしているが、必ずしもそのものではない! そもそもいつの間にかその行為がしなければならない必須行為にすり替わっていないだろうか!?」

「むずかしいこといわないでください」

「とつぜん童女のように拗ねないでもらいたい!」

「そう、ヤマシタさんから私への所有宣言はとても簡単です、けれど私がヤマシタさんを所有、その証はいったいどうすればいいのでしょうか、どうすれば内外にそれを一度に分かるようにするればいいのか、とても難しい問題です」


いつの間にか、真剣に考える方向が別のところへ行っていた。

しばらく悩んだ後に、とりあえずは「えへへ」と笑いながら抱きしめていた。


「ごゆっくり」

「拙者、たまには助けが欲しい日もある……」


聞こえなかったことにしてその場を去った。

だって、委員長が僕を見る目が「あなたもライバルですか?」みたいな視線だったし。



 + + +



馬車後方では、ペスが自分の体の様子を確かめていた。

ストレッチの要領で体の各所を動かしてる。

本来であれば筋肉とか筋とかを延ばす作業だけど、ペスに本来それは無い。


だけど、意外なくらいそれっぽい動作で、そしてかなり素早く体を動かしていた。

気軽に回転とかして跳ねてるし。


「なにしてるの?」

「ちょっと確かめ中だな」

「ええと、だからそれは――」

「ずっと戦いおまえらに任せっぱなしで、ただ見てるだけってのは、やっぱり性に合わねえ。おれも戦う」


目には真剣な光。

ペスの中では決定事項だってことが、それでわかった。


「……大丈夫なの?」

「魔力漏らさなきゃいいだけだ、なんとかなる」

「いくらなんでも無茶じゃないかなぁ」

「今回に限って言えば、そこまで無茶じゃないな」

「どういうこと?」

「まあ、聞け」

「うん」


包帯姿で、人差し指を立てながら。


「まず、おれとおまえが一緒に敵と戦う」

「う、うん」

「これでお互いが無事に戦闘が終了すれば万事おっけーだ」

「まあ、そうだね」

「おれがどっか怪我して、おまえが無事な場合はけっこう問題だ。魔力の気密ってやつが破れてるんだしな」


その場合であっても、包帯をまき直せば大丈夫なのかな、とは思う。

実際、それだけでかなり改善したし。


「だけどな、おれが怪我しておまえも怪我してる状態、あとはおれが無事でおまえが怪我してる状態なら、なんの問題もねえだろ?」

「ん?」

「つまりこれって四分の三の確率で、おれが戦ってもぜんぜん大丈夫ってことだ」

「待って、待った、それって僕の血を吸って補給するってことじゃないよね!?」

「え、だっておまえの血って、もう全部おれのだろ?」

「なにその致命的な契約!?」

「おまえの血は独占禁止法禁止でおれのモノだって今決めた」

「僕の生命与奪権を勝手に手にしたことにしないで欲しい!」

「なるほど、その手がありましたか……!」

「委員長殿っ!?」

「ほらなんか馬車前の方まで会話が飛び火してるし!」

「なんだよ、不満かよ?」

「不満だよ!」

「傷舐めるくらい別にいいだろうが」

「それはたしかに、いつもい――」


いつも樹さんに毎朝されてることだけど、この場でもしたいことじゃないよ――

そんな類の言葉を口にしようとして、直前で思いとどまった。


カチッ、って地雷を踏むような幻聴が聞こえたような気がした。


「おい――」


でも、遅かった。


「その続きは、なんだ?」

 

声は優しく、がっつり置かれた手はぎりぎりと僕の肩を握りしめていた。


「ぼ、僕の血は僕のもの!」

「だからそれは全部おれのものだっ!」

「横暴だ!」

「おまえだっておれと一緒に戦いたいだろ!」

「たしかにそれはあるけど、善意の強要よくない!」

「税金支払え!」

「血税ってそういう意味じゃないから! というかいつからペスは僕を統治してることになったの!?」

「昨日、おまえの血を飲んでからだ!」

「血迷いすぎだよ!」

「血に迷わせたおまえが悪いっ!」

「ペス、正気に戻ろう!」

「無理だ!」

「断言された!?」


本当に、僕の血はどういうことになっているんだろう――


困惑する僕を、ペスは黙って見ていた。

口元はへの字に締められ、不満そのものの表情だ。


「て、ていうか、だ……」


両手で僕の肩をつかまれていた。


「やっぱ、あの樹ってやつに、そんなにあの血、やってるのか?」


やけに力が入ってる。やけに痛いし、やけに迫力がある。


「ええと、そうしちゃダメなの?」


ペスの問いかけに素直に返答することもできず、僕は質問に質問で返した。

視線が泳いでいるのが自分でも分かる。


戸惑う様子を叱るように、頭突きが胸あたりに来た。

ごつん、と音がした。

心音がドクドクと速くなっていたことをようやく自覚する。


そのまま、ペスはじっとしていた。

なにを言えばいいのか分からない。


こういう感じのペスに、僕はどう相対していいのか不明だ。

どこかにあるであろう正解がすごく知りたい。


僕らは立ち止まり、馬車との距離は次第に離れた。

だんだんと、周囲が静かになる。


「お――」

「ん……」

「お、おれが止めてくれっていったら、それやめるか……?」

「それは――」


そのとき僕がなんて言おうとしていたのかは、わからない。

答えるより先に「ふひひお宝だぁ!」とか叫びながら、槍を構えて突進してくるのが、五人ばかりが森から来たからだった。


軍関係者じゃない。

動きも鈍ければ、攻撃のタイミングもズレまくっている。


「あー……」


殺意としても半端。

ただ勢いだけだとわかる。


つまりはただの山賊というか襲撃者だ。

それも専業じゃなくて、退屈を紛らわせるために他人を殺そうとする類の。


仕方ないなと剣に手をかけるけど、それより先にペスが無言のままそちらに向き直った。

ゆらりと、怒気にも似たものが立ち上る様子が見えた気がした。


全身の魔力が、包帯の下で脈動しているのが分かる。

俯いた姿勢のまま、無言でファイティングポーズを取り。


「すっげー真剣で大事な話してるときに邪魔すんんじゃねえよボケがあああ!!!!!」


瞬間移動かと思えるほどの踏み込みから、右ストレートを見舞った。


「おお……!」


思わず感嘆してしまうような、素晴らしい動きでペスは敵をボコボコにしていた。


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